位置情報の活用で変わる小売り&ECビジネス。「ロケーション・インテリジェンス」の影響と活用法を事例で解説
小売業で最も重要な要素は、一にも二にも「ロケーション」(位置情報)であることは周知の事実です。ただ、小売業が勢いを増すためには、コロナ禍の「ニューノーマル」においてロケーションの意味が変わってきていることを理解しなければいけません。小売業によるロケーションの生かし方、「ロケーション・インテリジェンス」を解説します。
コロナ禍で意味が変化してきた「ロケーション」
多くの小売店やブランドが消滅するかもしれない非常事態のなかで生き残った店舗は、コロナ禍の影響でロケーションに対する理解を深めているため、これまでとは全く異なる運営を行うことになるでしょう。小売業の成功は、単に“デジタル化”だけにかかっているのではないのです。
もはや、ロケーションに関する知識なしで成功することはできません。「ロケーション・インテリジェンス」は顧客をよりよく理解する手段として、また、効果的なオンライン注文やカーブサイドピックアップ(車中受け取り)、サプライチェーン、製造、在庫管理に必要とされています。
最大のメリットは、顧客との距離を縮める
「ロケーション・インテリジェンス」が小売事業者に提供する最大のメリットは、顧客との距離を縮めるのに役立つことです。膨大な量のデータとハイパーローカル(編注:超地域密着型)分析を用いて、ロケーションを番地レベルまで分解し、ロイヤルティプログラムを構築することができます。
たとえば、日本でも展開する米国発のアパレルブランド「Fruit of the Loom」には実店舗がありません。しかし、自社にとって最高の顧客は誰かを把握する必要があります。「Fruit of the Loom」は、地理情報システムをベースにしたスマートマップ(編注:「Fruit of the Loom」が導入しているEsri社提供のロケーションデータ活用機能)とシミュレーションを使用して、顧客分析を行っています。
「Fruit of the Loom」は、価格設定のシナリオ、サプライチェーンのトレーサビリティ、各種商品のリードタイム、ロケーションや人口統計における市場の可能性を分析できるようになりました。これらの分析は、POSデータ、出荷情報や製造情報からのインサイト、ショールームの評価指標、人口統計や市場などの外部情報源を活用して行われます。
経営者は、人々が冬服を求めて店舗やオンラインで検索するには、気温が何度まで下がる必要があるか判断することもできます(そして、それが地域によってどのように変化するかを判断します)。
全店舗の販売状況をリアルタイムで把握する「Chick-fil-A」
別の事例としては、米国で最も業績の良いファーストフードのフランチャイズである「Chick-fil-A(チックフィレイ)」があげられます。
ロケーション・サービス部門が管理する「ロケーション・インテリジェンス」の普及により、店舗の業績を競合他社の2倍に伸ばしています。リアルタイムかつピンポイントで作動するアプリが、4回のクリックと5秒で位置情報に関する複雑なレポートを生成します。
「Chick-fil-A」はこのアプリを使用して、供給トラックを個々の店舗に誘導。すべてのトラックの状態を管理し(必要であれば停止指示を出し)、全店舗で売られているすべての商品をリアルタイムで把握しています。スマートマップを使えば、誰もがすべての店舗を俯瞰的に見ることができると同時に、顧客の移動距離などに関する分析ツールも利用できるようになります。
ロケーションデータなどからCXをパーソナライズする「スターバックス」
「STARBUCKS(スターバックス)」も現代の小売業において、いかに人と人とのつながり、移動にひも付いたカスタマーエクスペリエンスが重要かを理解しています。スターバックスのモバイルアプリのユーザー数は1,700万人を超えています。
スターバックスの「リワードプログラム」には1,300万人のアクティブなユーザーがおり、顧客がいつ、どこで、どんなコーヒーや付属商品を購入したかに関する豊富なデータが蓄積されています。
スターバックスはこの顧客データを、天候、休日、特別プロモーションなど他のデータに重ね合わせて、カスタマーエクスペリエンスをパーソナライズしているのです。
スターバックスの新しい店舗を訪れると、その店舗のPOSシステムがスマートフォンを通じて顧客を識別します(この新しい店舗自体も、Esri社の位置分析ツール「Atlas」を使ってオススメされたもの)。
このシステムは、バリスタに顧客の好みの注文を伝え、その店舗で利用可能な8万7,000種類のドリンクの組み合わせ(システムによって選択された特定の商品)のなかから、新しい商品やおやつを提案します。パンプキンスパイスカフェラテのKカップから、ミルクやフレーバーを加えないアイスコーヒーまで、スターバックスのデータ主導でロケーションに焦点を当てたビジネス拡大のアプローチは、大変スマートなビジネスなのです。
「ニューノーマル」に必要な「ロケーション・インテリジェンス」
新型コロナウイルスが流行する前、小売業や消費財・サービス業は、既存のショッピング形態(実店舗)を別のもの(デジタル)に置き換えるのではなく、それらを統合してきました。過去の経験ではなくリアルタイムのデータに頼り、高度な分析を用いて各顧客に関する総合的なデータを構築することで、収益と利益を増加させてきたのです。
しかし、「ニューノーマル」におけるビジネスで成功するためには、企業は「ロケーション・インテリジェンス」を適用して、各地のビジネスの可能性を把握しなければなりません。
成功するために、小売事業者は以下に取り組んでみましょう。
- 洗練されたデータ分析の適用:人の移動データ、オンラインでの顧客行動、各店舗、レストラン、ショッピングセンターの周辺の地域状況(新型コロナウイルスの発生状況を含む)の高度な分析を適用する。たとえば、以前は毎週、食料品補充のために5つの店舗で買い物をしていた人々が、今では外出を減らすために1つの店舗に絞っているかもしれません。
- 店舗、トレーニング、オペレーションの再設計:ソーシャルディスタンス、検温などのテスト、密度分析、頻繁な消毒を行うため、スタッフのトレーニング、仕事のルーティーンを再設計しましょう。小売業は常に、店舗内での滞在時間を延長し、商品に触れる機会を最大限に提供することを目的としてきました。しかし、今は状況が違います。
- ジャストインタイム在庫からフレキシブルなサプライチェーン計画へのシフト:輸出やグローバルな供給の変動によって、地域的によっては多くの在庫を必要とします。とはいえ、消費者を基盤とするすべてのビジネスが、たとえば「ZARA」のようなオンデマンドのイノベーターから、臨機応変な対応を学ぶことができるでしょう。
- 宅配、オンライン購入後店舗でのピックアップ(BOPIS)、またはカーブサイドピックアップへのシフト:BOPISサービスは、今年の4月上旬に米国で208%増加しており、消費者の56%がコロナ禍後も継続して利用する予定だと回答しています。美容品販売大手の「Ulta Beauty」は、オンラインとカーブスサイドピックアップへシームレスに移行し、2020年第2四半期の収益は、2019年第2四半期のほぼ横ばいを維持したそうです。没入体験を提供する店舗型のショッピングが今、少なくとも停滞中であることは間違いありません。
◇ ◇ ◇
「ロケーション」の理解が進化する中で、ホリデーシーズン中も成功するためには、小売事業者は明確な「ロケーション」の感覚を磨かなければいけないのです。