「b8ta」日本上陸から5か月。日本市場における「体験型店舗」の可能性とは?
全米23店舗、ドバイに1店舗を展開してきた体験型店舗「b8ta」が日本に上陸してから5か月が経過した。日本では、東京・有楽町、新宿に1店舗ずつを構える。オープン初日は両店舗とも1,000人を超える来店客で賑わったが、現状はどうなのだろうか。「b8ta」のような販売を主目的にしないショールーミング形式の体験型店舗は、日本でも広がる可能性はあるだろうか。「ネットショップ担当者フォーラム2020秋」(2020年11月9日)に登壇したb8ta Japanカントリーマネージャーの北川卓司氏の講演スライドを交えながら、体験型店舗の可能性を探っていく。
RaaSモデルのパイオニア企業
「b8ta」は、有名テクノロジー企業の製品から、スタートアップ企業で誕生したばかりのβ(ベータ)テスト中の製品、D2Cブランドのコスメやファッションなど最先端の商品が並ぶ体験型店舗。特徴は「店頭での販売を主目的にしない」ところにある。
「b8ta」のビジネスモデルは、「Retail as a Service (RaaS)」と呼ばれ、①店頭での発見と製品体験を提供する“場所”②製品説明やデモを行う“接客“③来店客の“行動データ”の提供――の3つから構成される。
出品企業は、ダッシュボードから消費者のさまざまなマーケティングデータを閲覧することが可能。そのデータは、出品商品の入れ替え(最低契約期間6か月の場合は、最大3回まで入れ替え可能)、商品横に置いたタブレット内の商品紹介ページに手を加えたりといった「マーケティングデータ」として役立てている。
店内には複数のAI(人工知能)搭載カメラを設置し、これらをベースに来店者の行動データ(定量データ)を取得。店頭の販売員が接客時に取得した会話データ(定性データ)も出品企業にフィードバックする。従来ECサイトが行ってきた、「データを元にPDCAをまわす」行為を、実店舗でもできるところが「b8ta」の強みだ。
花王の「第二の皮膚」が体験できる最新美容機器が登場
東京・有楽町店は、ガラス張りの外観が目を引く路面店。店内面積は約256平方メートル(80坪)。出品商品を展示できる通常の区画に加え、ブランドが自社で壁面装飾や什器などを設置し、「ブランド独自の世界観」を演出できる中規模の区画に仕切られた半個室のスペース「エクスペリエンスルーム」を3箇所用意している。
有楽町店はビジネス街というエリアの特性から、来店客の男女比率では男性が過半数を超え、平均年齢は30代後半~50代となっている。平日は最新ガジェットを好むビジネスパーソンが多い一方、オープン以来多くのマスメディアで紹介されたこともあり、休日になるとファミリー層の来店も目立つ。
2020年12月現在、有楽町店の出品で注目を集めるのが、2019年11月に発売された花王の「エスト バイオミメシス ヴェール」だ。
花王の独自技術「第二の皮膚」を商品化した「エスト バイオミメシス ヴェール」を、就寝前に利用すると、寝ている間中、肌の潤湿を整えるというものだ。
花王が「b8ta」に期待するのは、認知と商品体験機会の創造だ。最新ガジェットが複数置かれた店舗に製品を置くことで、最新美容機器に関心がある女性客への認知が期待でき、実際に手にとって体験してもらえる。
有楽町店の近くには、花王の直営店舗「BEAUTY BASE by Kao」がある。一度「b8ta」で体験した客が、その場で購入を検討するだけではなく、その後ショールームを来訪し、より専門性の高いスタッフからより効果的な使い方について指導を受け、具体的に検討、購入(もしくはレンタル)するなど、認知・体験できる場所を広げ、購入への導線を作っていくことが理想だ。
また接客をしていく中で、「なぜ購入(もしくはレンタル)や、ショールーム来訪が検討されなかったか」「なぜ購入に至ったか」「ギフト用か、自身用か」などの定性的なデータ共有も期待するポイント。店頭では、30~40代の女性を中心に興味を示しているという。
「店の中心にあると試しにくい」声をヒントに、コスメの設置場所を変更
マルイ新宿店の1階に入居する東京・新宿店。店舗面積は約122平方メートル(40坪)で、出品商品を展示できる通常の区画に加え、エクスペリエンスルームを1か所設けている。有楽町店とは対照的に、マルイへの入居のため来店客の男女比は、女性が過半数を超え、平均年齢は20代後半~30代となっている。
2020年12月時点では、ロート製薬のD2Cコスメ「SKIO」、美容関連品、フェムテック製品(妊娠・出産など女性が抱えるさまざまな課題解決を試みるテクノロジー製品)が多く置かれているのが特徴だ。
新宿店は店内の中心にコスメを置く設計だったが、商品は手には取るものの、蓋を開けるなどの具体的なアクションをしていく客が少ないことに気づいたという。
そこで、「店の中心にあると、スタッフや他の客の目を気にして試しにくい」という来店客の声をヒントに、設置場所を壁際にするなど配置換えを実施。その結果、手に取り試す客が増えたのだという。
客の声をヒントに、柔軟にレイアウト変えができるところも「b8ta」の特徴といえるだろう。
米国のクラファンサービス利用も、日本人の支援者が7割
「ネットショップ担当者フォーラム2020秋」では、b8ta Japanカントリーマネージャーの北川卓司氏が、「b8ta」活用による国内の成功事例としてAIペット型ロボット「MOFLIN」を紹介した。
AIペット型ロボット「MOFLIN」は、米国のクラウドファンディングサービス「Kickstarter」に出品していたことから、国内ユーザーへの認知拡大、実際に触ってもらえる体験の場の提供、試した客の声などのデータ収集を目的に有楽町店に出品した。
b8ta Japanカントリーマネージャーの北川氏によると、「Kickstarter」に出品したロボット製品は、通常7-8割が欧米からの支援者になることが多いが、「MOFLIN」の場合は、日本の「b8ta」に出品したことで複数のメディアに露出。その後の「b8ta」来店につながる相乗効果により、約1,400名の支援者のうち、日本からの支援者が7割になったという。
クラウドファンディング掲載期間中、「MOFLIN」は日本円にして6,400万円以上の資金調達に成功。掲載期間終了後も「b8ta」への出品を続けていることから、認知拡大が続いており、2020年11月時点で約600人が申し込みの予約をしているという。
「マスク」で性別判断が難しくなったコロナ禍、AIカメラを入れ替え
コロナ禍での興味深い動きとしては、AIカメラの入れ替えだ。有楽町店では入店時にAIカメラで来店客の年齢や性別を判定し、その後、それらの客が店内を回る際の行動データとひも付けているが、コロナ禍で大半がマスクを着用していることから、性別の判断が難しくなったという。
そのため、マスクを着用していても性別の判定が可能なAIカメラへと切り替えたという。
米国ではクルマ(MINI最初のEV、MINI SE)が「b8ta」に出品するといった事例も出てきている。日本でも電動バイクなどの出品が目立つが、今後どのような商品が出品されるのか。また「MOFLIN」に続く成功事例が誕生するか、体験型店舗の可能性に引き続き注目したい。