伴大二郎 2021/3/29 8:00

米国では近年、ヘルステック領域に注目が集まっている。世界最大のテクノロジー展示会「CES 2021」の「Key Trends」では、「デジタルヘルス」があがった。グローバルでは多くの企業が、デジタル活用を通じた消費者生活づくり、新しい未来を創っていくことへシフトしている。「CES 2021」での話題を踏まえ、健康関連のデータを活用したマーケティング活動について解説する。

成長市場の「デジタルフィットネス」、サムスンも参入

サムスン(SAMSUNG)は「CES 2021」で、スマートテレビ専用サービス「Smart Trainer(スマート トレイナー)」を発表した。スマートテレビに取り付けたWebカメラを通じ、エクササイズの状況をトラッキングしながら、画面越しにインストラクターの指導を受けられるというものだ。有名インストラクターのJillian Michaels(ジリアン・マイケルズ)氏をパーソナルトレーナーに起用し、話題を呼んでいる。

サムスンがCES2021で発表した「スマート トレイナー」のもよう
サムスンが発表した「スマート トレイナー」(画像:CESサイトからキャプチャ)

CESを主催するCTA(Consumer Technology Association)によると、サムスンが本格的に参入してきたデジタルフィットネス業界の市場規模は、新型コロナ感染拡大以前と比較し、30~35%増になっているといい、今後も伸び続ける見込みだ。

「Smart Trainer」のイメージ動画

デジタルフィットネスで成功の「PELOTON」

注目が集まる「SaaS+a Box」モデルとは?

デジタルフィットネス業界をけん引しているのが、自宅用フィットネスバイクの「PELOTON」。そのビジネスモデルである、ハードウェアと継続課金の両方を販売する「SaaS+a Box」モデルが注目を集めている。

「SaaS+a Box」モデルの概要(伴大二郎氏作成)
「SaaS+a Box」モデルの概要(画像:筆者作成)

「PELOTON」は、バイク(ハードウェア)とライブレッスン(継続課金)が主な収益源。「PELOTON+」(最新のエクササイズバイク)の場合、2,495ドルで一括購入、または64ドル×39か月の分割払いでバイクを購入する。併せて、月々39ドルを支払い、ライブレッスン(収録済みのレッスンを後から受講することも可能)を受講する。

「PELOTON」のレッスンで使用する専用バイクはIoT化されているため、ペダルの回転数や重さなどの負荷情報が、リアルタイムにインストラクターのモニターに反映される。インストラクターはその情報を見ながら、レッスンを受講している生徒の名前を叫んだり、成果を称えるなどして、ユーザーのモチベーションを高める。

また「PELOTON」にはコミュニティ機能もあり、インストラクターや全世界のユーザーとオンラインでつながることもできる。

「Peloton」のイメージ動画

「PELOTON」は「バイク」というハードウェアの販売だけではなく、ライブレッスンの継続課金も提供することで、以下のような価値を提供しているのだ。

  1. ユーザーの継続・習慣化につながり、高いスイッチングコストを築くことができる
  2. インストラクターや他のユーザーとつながるコミュニティにより、ユーザーのエンゲージメントが高まる
  3. バイクや専用アプリを通じてユーザーデータを取得することで、1人ひとりにカスタマイズされたエンターテインメント性の高いサービスを提供できる

データが集まる循環を作り、横展開で事業を拡大

「PELOTON」は関連商品としてアパレル(スポーツウエア)を販売しているが、こちらも好調だ。

2021年にはadidasとのコラボレーションも発表した。「PELOTON」というブランドに対し、ユーザーが高いエンゲージメントを持っていることの証左と言える。エンゲージメントが高いからこそ、ユーザーは「PELOTON」にアクティブデータを預けるのだろう。日々のレッスンを通じて預けたデータが向上すると、フィットネスの効果を感じることができるからだ。

adidasとのコラボレーションを2021年3月に発表した

「PELOTON」がフィットネスデータを活用して、今後アパレル以外のビジネスも展開していくことは容易に想像できる。サプリメントや基礎化粧品など、関連性の高い商品を展開するとしたら、大きなインパクトになるのではないだろうか。

Amazonも商品投入。「健康データ」に注目すべき理由

ヘルステック領域への注目は、今に始まったわけではない。Apple Watch、Googleが買収した「Fitbit」、Amazonのフィットネスバンド「Amazon Halo」などがある。ウェアラブルデバイスを筆頭に、ヘルステックがもたらす健康やアクティビティデータの活用に多くの企業が注目しているのだ。

Amazonのフィットネスバンド「Amazon Halo」
Amazonのフィットネスバンド「Amazon Halo」(画像:サイトよりキャプチャ)

WebサイトのCookieや「IDFA」取得のオプトイン化(※)などのプライバシー問題に対し、顧客の信頼を得ることでデータを取得できるこのモデルは、そのデータに応じたサービスをユーザーに還元でき、さらにはそれをビジネスにつなげられるという利点がある。

(※)IDFAは、Appleがユーザーの端末にランダムに割り当てるデバイスID。 広告主はこのIDを使いユーザーの広告エンゲージメントや、アプリ内のユーザー行動を計測、ユーザーごとにカスタマイズした広告を配信できたが、オプトイン化により許可制へと変更になる

コロナ禍での健康不安が、こうした流れを後押しするのは間違いない。

ユーザー自身もヘルステックに価値を見出し、どのようなメリットが自身に還元されるかによって、ブランドや商品の選び方・買い方が変わる可能性がある。そうした状況下で、予想もしなかった競合他社や、代替え品が現れてからの市場参入では手遅れとなる。

Appleの「HealthKit」や、Androidの「Google Fit」を通じて取得しているヘルスケアデータはAPI連携することができる。それを利用するのも1つの手だ。いずれにしても、健康データを活用したマーケティングの変化と対応策を考えておくべきだろう

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