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新型コロナウイルス感染症拡大、SDGsの浸透、デジタルテクノロジーの進化などで、消費者の行動やニーズは急速に変わっている。こうした変化へ企業はどのように対応していけばいいのか。消費者ニーズの変化を踏まえた企業の取り組み例として、Nike(ナイキ)やBURTON(バートン)の事例などを解説する。

消費者は企業に「パーパス」を求めている

パーパス(企業・ブランドの存在理由)が重要だという話は、2020年に続き、2021年のNRF(全米小売業協会主催のリテール展示会「NRF Retail's Big Show」)でも多くのセッションで語られた。

NRF2020で行われたIBMのセッションでは、消費財ブランドが選ばれる理由として、「パーパスドリブンコンシュマー(企業やブランドの存在理由で判断)」が40%、「バリュードリブンコンシュマー(価値と価格で判断)」が41%と紹介された。

2021年のNRFでは、Microsoftのセッション内で次のような調査データが開示された。

  • 85%の消費者は、信頼するブランドからのみ検討する
  • 63%は、ブランドに対する信頼が無くなったため購買をやめた
  • 上記のうち69%は、2度とそのブランドを購入しない

特筆すべきは、欧米のミレニアル世代とZ世代の60%が、「製品そのものよりも、ブランドが果たす“社会的問題の解決”で購買を判断する」という結果だ。SDGsを含めた企業の姿勢を明確にし、ユーザーに伝える重要性を示したと言える。

一方の日本はどうだろう? 企業の姿勢という観点では他の先進国に比べて遅れを取っている。世界を見渡せば、すでに企業がSDGsに取り組んでいることは当たり前だ。この先、SDGsに取り組んでいないことは競争劣位になる。もはや、“取り組んでいるだけ”では競争優位にならないほど、SDGsへの取り組みは普遍的になっていると言えるだろう。

これは、パーパスを上段に掲げるD2Cにも言えることだ。「サスティナブルなモノを作りました」というメッセージだけでモノが売れるわけではないのだが、残念ながらこうした訴求をするブランドが国内外で増えてきていると感じている。

こうしたブランドの多くは、流行に乗って“モノを売るためのストーリー”しか作らず、継続的に利用してファンになってもらう仕組み作りが弱い。その結果、一度は買ってもらえるものの、ファンを醸成できていない。

D2Cの本質は、顧客と直接つながることでブランド力を高め続けられるところにある。そこには明確なターゲットと、強烈な差別化要素が必要だ。そうした差別化戦略で急成長してきたはずのD2Cでさえも、昨今はコモディティ化が進んでしまっているようにも感じる。

「バリュードリブン」の企業が、「パーパスドリブン」の消費者にも支持され始めている

購買パターンを「パーパスドリブン」(〇〇だからこのブランドが欲しい)、「バリュードリブン」(比較検討したらこのブランドが良い)にわけた場合の企業戦略の事例を紹介したい。

オプトの伴氏が考える、「バリュードリブン」コンシュマーと、「パーパスドリブン」コンシュマーに対する企業戦略
伴氏が考える「バリュードリブン」コンシュマーと「パーパスドリブン」コンシュマーに対する企業戦略(画像:筆者作成)

店舗数、サイトのPV数、会員数、品ぞろえなど、規模の経済が効果的な「バリュードリブン」を強みにする企業(Amazon、ウォルマート、コストコなど)は、既存の会員組織を活用しながら顧客のメリットを増やしている。そして、取り組みはそれだけにとどまらない。デジタルへの投資も強化しながら、レビューやレコメンドなどを積極的に活用。企業として伝えたい情報を接客的に発信し、顧客に届けている。

こうした情報発信で、「ウォルマートはSDGsに積極的だから」「コストコのPB(プライベートブランド)商品は安全だから」のように、「バリュードリブン」を強みにする企業が「パーパスドリブン」の消費者にも支持される好循環が生まれている

対して、「パーパスドリブン」を強みにする有力D2Cブランドの戦い方は、靴の「Allbirds」や、コスメの「Glossier」のようにSNSを軸に独自のストーリーでパーパスと明確な差別化要素を伝えている。

「Glossier」のサイトトップページ
「Glossier」のサイトトップページ(画像:サイトよりキャプチャ)

「Allbirds」であれば「素材に、サスティナブルなメリノウールや竹を使用」「洗濯機で洗える」といった情報発信だ。

こうした情報発信からリアル店舗を含めてコミュニティを形成し、継続購買につなげる。この第1段階を経て、規模を拡大するために卸を含めた流通やプラットフォームへ進出している。ただ、この戦略によって成功している企業はまだ多いとは言えない。

ハイブリッド戦略で成果を出すNike

今注目したいのが、既存メーカーによる一般流通とD2C(EC×直営店)を掛け合わせたハイブリッド戦略だ。

このハイブリッドで成功している企業はナイキだろう。トップアスリートの支援やハイブランドとのコラボなど、スポーツとファッションの両面でファンを獲得。スマホアプリを軸にした積極的な情報発信、スニーカー情報に特化したアプリ「SNKRS」で行われる限定商品の販売など、デジタルをうまく活用することでD2Cビジネスを成功に導いている。

ナイキの「SNKRS」紹介ページ
ナイキの「SNKRS」紹介ページ(画像:サイトよりキャプチャ)

既存の大手メーカーであるナイキがD2Cビジネスを成功させた背景にあるのは、限定モデルを抽選販売するなど「なんとかして手に入れたい」「手に入ったことをSNSでアピールしたい」といった消費者心理を巧みについた販売戦略だけではない。

メインアプリとの連携も含めた直営店×EC(オムニチャネル)で、定価購買する仕組みを作ったことがある。この戦略に寄与しているのが、LGBTQやBlack Lives Matterなど人権問題を扱う社会派メッセージ、リサイクルポリエステル素材を使用したサスティナブル製品の「スペースヒッピーシリーズ」の販売など、デジタルが得意な「情報更新頻度」「多くのプロダクトを主人公にするストーリー」の掛け合わせである。

反響を呼んだナイキの広告動画

セールやアウトレットに行くユーザーもいるため、ナイキはユーザーの消費行動に合わせて選択肢を用意している。

D2Cビジネスを築く上で重要なのは、まずメーカーが自社で売り切る仕組みを持つこと。そして、ユーザーニーズに合わせて、シューズ専門店やスポーツ量販店でも販売するという多様なチャネルを持つことだ。

プロダクトの共通点は、全てナイキのロゴである「スオッシュマーク」のついた靴であること。5000円程で購入できるものもあれば、2~3万円とやや高額なモデルもある。さらには数百万円という超レア商品も存在する。

それぞれの価格帯やモデルによってユーザー層は異なるが、どのレイヤーにおいても「ナイキの商品が欲しい」と思える消費者を生み出しているナイキのハイブリット型コミュニケーション戦略は、メーカーがD2Cビジネスに参入する上での理想形の1つと言えるだろう。

バートン、DX最大の改善ポイントは「物流のデジタル化」

D2Cと卸売りのハイブリット戦略を進めているスノーボードブランド「バートン」のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進にも触れておきたい。

バートンの売上構成比はD2Cが25%、卸売りが75%で、D2Cの強化を進めている。スノーボード用品自体はシーズンもののため値崩れが大きく、定価での販売は難しい。20~30%割引が当たり前で、1シーズン過ぎれば、50%以上の割引になるのが慣習である。筆者も前職でスポーツ用品店のゼビオ/ヴィクトリアで働いていたが、その時はよく値札シールを張り替えたものである。

スノーボードブランドのなかでもトップの人気を誇るバートン。NRF2021に登壇したバートンが明かしたDX推進における最大の改善ポイントは、物流のデジタル化だったという。

バートンのECサイトトップページ
バートンのECサイトトップページ(画像:サイトよりキャプチャ)

スノーボードは板、ブーツ、ウェアなどすべてにモデルとサイズが細い。そのため、欲しかった商品が見つからないといった体験をしている消費者も多い。

こうした問題を解決するためにバートンはInfor社のERPを導入、基幹システムのクラウド化に取り組んだ。さらにSCM(サプライチェーンマネジメント)の整備により、物流をデジタル化。New Store社のOmniChannel PlatformとSalesforce社の Commerce Cloudにより、顧客と従業員の接点をデジタル化したという。

これで何が変わったのか? 直営店と一部のインショップ(デパートやスーパーなど大型店舗の一角にある顧客層・品ぞろえを絞った売り場)にモバイルPOSを配り、顧客情報・製品、在庫データを従業員に開放。商品がどこにあっても、リアルタイムに把握できるようにした。

このシステムはECとも連携しているので、顧客も従業員と同じようにECサイトから在庫を探せ、自宅配送でも店舗引き取りでも、好きな方法で商品を受け取れるようになった。

これは決して先進的な技術でもなければ、目新しいものでもないかもしれない。ただ、顧客を中心に店舗・EC・物流・システムが連動したプロジェクトとして、課題解決の優先順位づけとスピードが素晴らしい事例であると言える。

バートンのD2Cは、2019年に亡くなった創業者でスノーボードの父とも言われるジェイク・バートン氏のシグネチャーコレクションである「MINE 77」を中心に展開。デジタル化された顧客接点でパーパスドリブンのファンとコミュニケーションを取り続けている。

ジェイク・バートン氏にフィーチャーしたバートン内の特設ページ
ジェイク・バートン氏にフィーチャーした特設ページ(画像:サイトよりキャプチャ)

◇   ◇   ◇

D2CやRaaS(Retail as a Service)が過剰にフォーカスされる時代は、終わったのかもしれない。全ての企業は顧客と直接つながりブランド力を高めるべきで、オムニチャネルの購買体験は快適であるべきなのだ。

D2Cの流行で、多くの小売り・メーカーが顧客とつながることの重要性を再認識し、デジタルがそれを可能にしてくれることも理解した。すでにナイキやバートンのようにD2Cを上手く取り入れ、ハイブリットへ変化することに成功した企業もある。

新しい価値観のD2Cが生まれることへの期待も大きいが、既存企業が新型コロナを乗り越えるためにも、D2Cという顧客とのつながり方をビジネスに取り込み新しい価値が生まれることを期待し、取り組んでいきたいと強く感じている。

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伴大二郎

株式会社オプト(エグゼクティブ・スペシャリスト パートナー 兼 オムニチャネルイノベーションセンターセンター長)/株式会社顧客時間(プロジェクトマネージャー)

株式会社オプト エグゼクティブ・スペシャリスト パートナー 兼 オムニチャネルイノベーションセンターセンター長/株式会社顧客時間 プロジェクトマネージャー

小売業界においてCRMの重要性に着目。一貫してデータ活用の戦略立案やサービス開発に従事した後、2011年にオプト入社。マーケティングコンサルタントを経て、2015年よりマーケティング事業部長として事業拡大に向けた組織作りに着手。マーケティングマネジメント部やOMO関連部門等を立ち上げ、統括しながらエグゼクティブ・スペシャリストという立場から社内外への発信活動も担務。​​​​​2021年2月より、プロジェクトマネージャーとして株式会社顧客時間に参画。

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