リアルの“場”を通じてファン作り&ビジネスを拡大する方法は? 米国のD2Cブランド「Allbirds」「Casper」「Glossier」に学ぶ
マーケターの伴大二郎氏(株式会社オプト エグゼクティブ・スペシャリスト パートナー 兼 オムニチャネルイノベーションセンターセンター長)が解説する国内外の小売業界におけるトレンド、テクノロジー活用事例。前回のコラムで解説した「物」×「人」をつなぐ「場」の3つの効果。実際に「場」をうまく作り上げている海外企業を例にとって解説していく。
リアル進出で躍進する米国D2C企業
「場」を活かしたビジネス拡大・ファン獲得方法
前回、オンラインビジネスの強みを活かしてオフラインに進出しているAmazonやアリババについて書きました。
デジタルの「情報流」をうまく使い、熱狂的ファンを増やすD2C企業やDNVB(デジタルネイティブバーティカルブランド)も、リアルの「場」を上手く活用しビジネスの拡大とファンの獲得をしています。
その代表的な例がユニコーン企業となった、靴のD2C「Allbirds(オールバーズ)」、化粧品の「Glossier(グロッシエー)」、マットレスの「Casper(キャスパー)」、メガネの「Warby Parker(ワービーパーカー)」です。
私も大ファンである「Allbirds」は、米TIME 誌が「世界一快適なシューズ」と紹介したシューズブランドです。履きごごちの良さと、環境に配慮したメリノウールやユーカリ素材で一気にファンを増やしました。合成素材のシューズに対するアンチテーゼを含む、ブランドの背後にあるストーリーへの共感もDNVBの得意とする所です。
「Allbirds知ってる?」から始まる店内コミュニケーション
リアル店舗での接客体験も素晴らしい。サンフランシスコでもニューヨークでも上海でも、はじめににこやかにかけられる言葉は「Allbirdsを知ってる?」です。
店舗スタッフは「物流」の成約率を上げる販売員では無く、「情報流」の体験性を上げるアンバサダーであると思い知らされます。こうしてAllbirdsの強い推奨者となった私は、ここ1年で10人以上の日本人を連れて行っては、(無償で!)新規顧客を増やしているほどです。
また、オフラインの購買体験後すぐに、オンラインビジネスベースだった事を再認識させられます。電子レシートを貰うために伝えたメールアドレスには直ぐにサーベイが届くのです。私の場合は、1時間後でした。
その3時間後には顧客リストに加えて良いかを尋ねるメールが届き、OKをした直後にブランドのストーリーやコンセプトのメールが届く。
オフラインの「場」でブランドのファンになってもらえれば、履き心地の良さもサイズも解っているので、次の購買はオンラインでも構わないのです。
こうしたオフラインの強みである、体験の「場」作りは、リカーリング(継続購買)の仕組みと組み合わせる事で、強い「情報流」を持つ”メディア”としての店舗が成り立っているのです。
リアルの場からリカーリングにつなげる「Glossier」の事例
このリアルの「場」を「情報流」のポイントとし、リカーリングにつなげる仕組みは、アメリカのミレニアル世代に絶大な人気を誇る、NY発のコスメブランド「Glossier(グロッシエー)」でも見られます。
インスタ映えする店舗は若い女性の憧れであり、顧客は店舗に行くと本当に嬉しそうにコスメを試し、写真を撮り、商品を受け取っては満面の笑顔を浮かべています。
店舗にある商品は全て試供品。レジはなく、決済は店員が携帯するiPadを使いその場で行われます。これも当然ECシステムで、電子レシートを受け取る為にメールアドレスを入れます。その後、商品受け渡しスペースで商品を受け取る仕組みで、袋には購入者の名前とハートマークが手書きで書かれていました。
「昼寝スペース」で体験機会を提供するCasper
リアルの「場」の強みは体験性であり、デジタルでは出来ないことです。手に取って試す事こそがリアルで行うべき事で、いかにその「情報流」を作るかが重要です。そして、この使い方が最も秀逸なのはマットレスの「Casper(キャスパー)」です。
「Casper」は2018年、ニューヨークに昼寝ラウンジとして「The Dreamery(ドリーマリー)」をオープンしました。ここでは、実際に寝てもらう「場」を提供しており、Casperのマットレスやシーツ、枕、ブランケット、スリープマスクがセットされたスリープポッドの中で、25ドル(約2,800円)で45分間の仮眠を取ることができます。
元々「Casper」は「100日トライアル」を行っているため、100日以内なら返品可能としていますが、「The Dreamery」はオンラインで購入検討する人と、リアルに見て購入検討する人、それぞれに合わせた仕掛けになっています。
また、コンセプトショップの「The Dreeamry」や直営店での販売に加え、出資を受けている大手ディスカウントチェーンの「Target(ターゲット) 」でも商品販売するなど、リアル進出に最も成功したD2Cブランドの一つと言えるでしょう。
紹介した「Allbirds」、「Glossier」、「Casper」などユニコーン企業の他にも、店舗にサーモグラフを置く事で商品の機能性を可視化しているファッションブランドの「Ministry of Supply(ミニストリー オブ サプライ)」や、機能性とダイバーシティなマインドセットでブランディングしているフィットネスファッションの「Outdoor Voices(アウトドア ヴォイシズ)」など、多くの企業がリアルでの「情報流」の強さをビジネスに取り入れています。
「場」が生み出すブランディングとリカーリングで顧客と関係構築する
コンセプトショップ、期間限定のPOP-UPストアなど、リアルの「場」を持たないオンライン企業が出店する手法は増えています。彼らは、オフラインとオンラインをマージさせ「場」の「情報流」使う事でブランディング×リカーリングによる顧客関係を作っています。
苦境に立たされているトラディショナルな小売企業は、人が集まる「場」を持っていながら、従来型の大量生産、大量販売、そしてそれに伴う大量破棄、コモディティ化、価格競争が起きており、徐々に顧客の支持を失っているのではないでしょうか。
小売りは「物」と「人」を引き合わせる「場」である以上、OMO化される事で「情報」の本質が問われ、顧客は今まで以上に良い物を見つけやすくなります。
それは成功しているD2C企業の様に、表面的なイメージではなくブランドの想いやストーリーが乗っかった顧客に支持される物になるのではないでしょうか。
良いモノを正しい情報と共に顧客に届けるという小売の役割は変わりませんが、その手法は変化し、顧客にとってより良い物にならなければなりません。その為には馴れ親しんだ従来のやり方を根本から見直し、「場」や「情報」を再定義する必要があるでしょう。
この記事は、株式会社オプト エグゼクティブ・スペシャリスト パートナー 兼 オムニチャネルイノベーションセンターセンター長 伴大二郎氏が執筆しました。
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