通販新聞[転載元] 2023/5/16 7:00

家具ネット販売のタンスのゲンでは4月1日付で、橋爪福寿代表取締役が取締役会長となり、常務取締役の橋爪裕和氏が代表取締役に就任した。同社は2002年にECへと参入して以降、売り上げが右肩上がりとなっており、22年7月期の売上高は243億9000万円に達した。

一代で同社を家具ECのトッププレーヤーに育てた橋爪福寿氏からバトンを受け継ぐ形となる、橋爪裕和氏に今後の成長戦略を聞いた。

タンスのゲン 代表取締役 橋爪裕和氏 
タンスのゲン 代表取締役 橋爪裕和氏 

小型家具への切り替えで再成長

――会社の歴史は。

当社は1964年に婚礼家具メーカーとして福岡県大川市に九州工芸としてスタートした。ただ、嫁入り時に家具を一式用意するという風習がなくなってきたこともあり、11年には大川市と福岡県筑後市に店舗を設け、小売りとオーダー家具中心にシフトした。その後、02年に「楽天市場」に出店、ECへと進出した。

――ECをはじめたきっかけは。

現会長の橋爪福寿が、ルートで回ってくる営業マンから「ネットで月500万円売ってる会社がある」という話を聞いて、いろいろ調べたら「面白そうだし俺でもできるんじゃないか」と思って始めたと聞いている。

「タンスのゲン」公式通販サイトのトップページ(画像は編集部が同サイトからキャプチャ)
「タンスのゲン」公式通販サイトのトップページ(画像は編集部が同サイトからキャプチャ)

――参入以降、右肩上がりに売り上げが伸びているが、停滞した時期はないのか。

東日本大震災後に運賃が高騰し、売上高が減った年がある。大型商品を運ぶ配送事業者から、ファクス1枚で運賃が2倍になる旨を告げられるなど、「このままではネットでの商売が成り立たない」という事態に陥った。そこで、商材を大型家具メインから、小型家具へと切り替えた

以前は2段ベッドや3Pソファなど、大型の家具ばかり取り扱っていたが、布団や寝具、オフィス関連など、なるべくコンパクトな商品を開発するようにした。海外の協力工場にお願いして、オリジナルの商品企画をどんどん直輸入する体制に変えた。それが当たり、再成長を遂げることができた。

布団や寝具などコンパクトな商品の開発にかじを切った(画像は「タンスのゲン」公式通販サイトから編集部がキャプチャ)
布団や寝具などコンパクトな商品の開発にかじを切った(画像は「タンスのゲン」公式通販サイトから編集部がキャプチャ)

家具ECトッププレーヤーの理由は【商品力+顧客対応】

――タンスのゲンが家具やインテリアのECでトッププレーヤーになれた理由をどう分析しているか。

一つは商品力。顧客のニーズを満たすためにさまざまな商品を販売してきたし、商品開発のスピードが速かったことも大きい。日本のマーケットを注視していることはもちろん、海外の展示会でまだ日本にはない技術や特徴を持った商品があれば、いち早く取り入れてきた。もう一つ、顧客対応に力を入れ続けてきたことも他社との差別化ポイントになっている。

タンスのゲンが自社の強みとしている項目の一例(画像は編集部が「タンスのゲン」公式通販サイトからキャプチャ)
タンスのゲンが自社の強みとしている項目の一例(画像は編集部が「タンスのゲン」公式通販サイトからキャプチャ)

――顧客対応ではどんな取り組みをしてきたのか。

今年3月に営業時間を朝10時から夜10時とし、電話とメール、チャットで対応している。実は夜12時まで対応していた時期もあったが、コロナ禍を受けて夜8時までの対応としていた。やはり、夜の時間帯が一番アクセスされ、売り上げも多いわけで、夜10時近くでも購買意欲の高い顧客からの問い合わせに返信しているが、購入の後押しになっているようだ。

――顧客対応は内製とのことだが、コールセンター業界は近年、人員集めに悩まされている。人手不足にはなっていないのか。

人集めには苦労している。人海戦術には限度があるので、システムに投資をして、機械ができることはそちらに任せている。注文管理の部分で、在庫があって決済に問題がない商品なら、クリックするだけで配送伝票が出るような仕組みを導入している。

顧客対応やシステムでカバーしきれない部分に人員を割くようにしている。

長期目標は売上高1000億円

――代表取締役就任にあたり、まずどんなことに取り組みたいと考えているのか。

一代でEC事業を大きくした現会長の色が強い会社なので、今後はトップダウンからボトムアップ型の組織に変えていきたいと思っている。スタッフからいろいろな提案が上がってくるような組織にしたい。

今いるスタッフの成長を促しながら、新規事業の立ち上げにもつなげていく長期的なビジョンとしては、2040年に売上高1000億円という目標を掲げている。

ただ、今のままでは達成は難しいので、新しいアイデアをどんどん取り入れていきたい。

海外事業の目標は売上比率30%

――売上高1000億円に向けた道筋は立っているのか。

商品の取り扱いを増やしていくほか、海外売り上げの比率を高めていく予定だ。現在は1%程度の海外売り上げの比率を2040年までには30%にしたい

――海外事業は中国が中心なのか。

今のところは中国、あとは最近開始した米国向けだ。現地の仮想モールに出店し、商品を販売する形となる。中国では、現地で生産した商品を販売しているほか、日本から羽毛布団などの日本製商品を輸入して売っている。

――販売する国は増やしていくのか。

国ごとにマーケットやGDPを見ながら、チャンスがありそうな国に進出していく。

中国向けの手応えは「ベースができてきた」

――海外で家具ECを成功させるためのコツは。

試行錯誤している段階だ。中国には5~6年前に進出したが、日本と同じような売り方では全然結果が出なかった現地のマーケットや商流をしっかりと調べないと通用しないことがわかった。中国はようやくベースができてきた感じで、何となくではあるが、効果的な販売方法がわかってきた。

――家具やインテリア以外の新たな商品ジャンルへの参入は。

適宜、良さそうなジャンルがあれば取り組みたいと思っている。

顧客対応は自動化促進。物流拠点は拡大予定

――カスタマサポートや物流での新たな取り組みは。

カスタマサポートに関しては、顧客との時間を多く保てるように、システム部分での自動化をさらに進めていきたい。物流は、注文があってからできるだけ早く届けられるように、拠点を増やしていく

顧客対応は自動化を促進(画像は編集部が「タンスのゲン」公式通販サイトからキャプチャ)
顧客対応は自動化を促進(画像は編集部が「タンスのゲン」公式通販サイトからキャプチャ)

――現在は大川市から出荷しているのか。

半分くらいは大川市から出荷しており、関東にも3PL会社に委託して2拠点から出荷している。関西にも拠点を持つ必要が出てくるかもしれないので、顧客のニーズにあわせて柔軟に対応していきたい。

――「大川を、世界のインテリアバレーに」というコーポレートメッセージを掲げている。

大川市で創業して約60年が経つが、大川市は当社が婚礼家具メーカーだった時期が最も賑わっていた。その頃は人口が5~6万人いたものが、現在は4万人を切るまでになってしまい、若い人も少なくなっている。行政とタッグを組みながら、地方活性化につながる事業にも取り組んでいる。

商品のストーリーに“共感して買ってもらう”仕組みを展開

――SNSを活用した販促には取り組んでいるのか。

さまざまな分野で知識やセンスを持っている有名人のパートナーと組んで商品を開発する「タンスのゲン公式アンバサダー」制度を設けている。商品開発にストーリー性を持たせ、インフルエンサーにそのストーリーを語ってもらいながら、共感を持って買ってもらうのが狙いだ。

「タンスのゲン」公式アンバサダー(画像は編集部が「タンスのゲン」公式通販サイトからキャプチャ)
「タンスのゲン」公式アンバサダー(画像は編集部が「タンスのゲン」公式通販サイトからキャプチャ)

コロナ禍の揺り戻しで苦戦も、今期着地は前年並みを予想

――将来の株式上場は考えているのか。

全く考えていない。

――2023年7月期の業績予想は。また、アフターコロナの戦略についても教えてほしい。

コロナ禍で売り上げが大きく伸びたときの数字と戦っていることもあり、足元の数字は厳しい。前期比でいうとトントンというところ。

アフターコロナといっても、商品展開を大きく転換することはなく、インフルエンサーを使った販促などで、今まで当社を知らなかった消費者にリーチし、売り上げにつなげていく

ECを地盤にしつつ「チャンスがあれば他の販路にも」意欲

――その他、今後の目標などは。

まずは人材育成に注力しながら、国内売り上げに関して、販路を拡大しながら増やしていき、海外販売に注力していくのが今後の取り組みになる。国内はECが基本となるが、チャンスがあれば他の販路にも取り組みたい

――近年はO2OやOMOが脚光を浴びている。実店舗を設ける予定はあるか。

婚礼家具メーカーから転換を図った際に、店舗を設けていた時期もあったが、問題になったのは固定費ECは販売効率が良いので、O2O的なことをやる予定はない

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