アパレルECの今を乗り切る戦略とは[繊研新聞×AMS対談]
コロナ禍で変貌を余儀なくされたアパレル業界。なかでも実店舗とECを運営する事業者にとって、ここ数年のテクノロジーや消費行動の変化はめまぐるしいものだったのではないだろうか。繊維・ファッション業界紙『繊研新聞』で30年以上にわたってアパレル業界を取材してきた窪田勉氏と、100サイト以上のアパレルECビジネスの支援に携わるAMSの古田俊雄常務取締役が、アパレル業界の現在地、アパレル事業者が抱えているECの課題について語り合った。
2024年のアパレルECは何が変わっているのか
AMS 古田俊雄氏(以下、古田):2024年2月21日に発行された『繊研新聞』の「ネットコミュニケーション特集号」の内容を中心に、アパレルECの課題を深掘りしていきます。最近よく耳にする課題は何ですか?
繊研新聞 窪田勉氏(以下、窪田):2024年にアパレルEC業界で顕著になってきた課題は2つあります。1つはECを含めたオペレーションの課題です。コロナ禍で店舗のスタッフをかなりECにシフトした企業でも2024年、実店舗への来店数がかなり戻ってきており、店頭業務が増加しています。そのなかで、人材の配置をどうすべきかという課題があがっています。
もう1つはデータ活用。顧客データをどう捉え、施策に生かしていくのかを考えていく必要があります。ロイヤルティ顧客育成に向けたCRM活用といったデータ活用などに向けた基幹システムへの投資や仕組み作りが課題となっています。
導入から20年以上経つような古い基幹システムを使っている場合、新しいシステムに移行する場合、改修が必要になることがあります。その場合、ミドルウェアを挟むといった活用なのか、それともフルリニューアルかという判断をしなければなりません。しかし、リニューアルには億単位の投資が必要になることがあり、なかなか踏み切れないという話をよく耳にします。ここで投資できるか、できないかは大きなターニングポイントになるでしょう。
古田: 2023年と比較して明らかに変化が感じられる課題はありますか。
窪田:以前は新規顧客の獲得に重きを置いていた企業も、最近は既存顧客のF2転換(2回目購入)、F3転換(3回目購入)に力を入れています。そのために、「誰が」「いつ」「何を」買ったかなどのデータを分析して、活用していかなければならない――このような、顧客のLTV(顧客生涯価値)を上げるという話が増えた気がします。
課題のトップはCRMや個客マーケティング
古田:「ネットコミュニケーション特集」のアンケート結果をもとに、アパレルECの課題トップ3にフォーカスしていきます。まずは1位の「CRMや個客マーケティング」ですが、実際コロナ以降でMAツールの導入や活用をしたいという声を、多くの事業者さまから聞くようになりました。ただ、MA(マーケティングオートメーション)については「入れたい」という話と共に、「入れたけど上手く活用できていない」という話もよく聞きます。CRMや個客マーケティングについて、窪田さんのご意見を教えてください。
窪田:多くの企業がすでに取り組んでいますが、それが正しい方向なのか、もっと良い方法があるのかで悩み、試行錯誤している企業が多いですね。分析するために、どの数字を、どのように抽出していけばいいのか悩んでいるケースをよく耳にします。また、ライブ配信やOMO施策のように、ECサイト運営の現場だけでなく、店舗スタッフも基本的なデジタルの知識を身につける必要性が求められるようになりました。こうした状況を踏まえ、経営側がデジタルへの理解や知識を持って経営判断ができなければという課題感を持つ企業も増えてきました。
古田:ライブ配信についてはどうですか。
窪田:ライブ配信やライブコマース、スタイリング投稿は、顧客との接点も生まれやすく、大きな売り上げになる可能性があるコンテンツです。そのため、企業はもちろん、社会的にも注目を集めていますよね。ただ、売れる店舗の人材をライブ配信にアサインしようとすると、撮影場所の選定・確保、撮影時間が限られてしまうといった勤務地やシフトの問題などがあがり、調整だけでも大きなリソースと労力がかかるケースがあります。
「Apuweiser-riche(アプワイザー・リッシェ)」などレディースアパレル6ブランドを展開するアルページュでは、ライブ配信ができるスタジオ付きの店舗を2023年に設置し、営業時間内でもライブ配信をできるようにしました。スタジオ付き実店舗によりオペレーション上の課題が解決。週30本以上ものライブ配信を行えるようになるなど、積極的なライブ発信体制を整えています。
古田:アパレル大手がロイヤリティプログラムを刷新するなど、ロイヤリティプログラムへの注目が集まっています。
窪田:ここ1年で、大手アパレル企業がロイヤリティプログラムを次々と刷新しましたよね。ロイヤリティプログラムの目的は、「2回目、3回目の購入をどうやって増やしていくか」。それを実現するため、購入金額に応じたポイント付与だけではなく、来店ごとにマイルを付与するといった特典を提供するようなプログラムを設計する企業が増えましたよね。体験でポイントが付くようなロイヤリティプログラムは注目したいところです。
たとえばアダストリアでは、店頭に足を運びQRコードを読み込むことでポイントを付与しています。レビュー投稿やイベント参加でポイントを付与する企業もあります。
古田:購買以外のアクションに対しても、ロイヤリティプログラムを用意しているのですね。そのインセンティブとしてポイントではなく、より充実した顧客体験を提供している企業のお話も聞きます。
窪田:たとえば、アパレルブランド「アクシーズファム」を展開するIGAは、創業の地である福井県を巡るツアーを実施しています。同様なアクションとして、自社の拠点をリゾート地に作り、そこへ顧客を招く取り組みをしている企業もあります。ブランドの世界観を作り、ロイヤリティを上げながら顧客体験を創出する動きは大企業だけではなく、中小企業にも広がっています。
地味で重要で終わりがないECサイトの導線改善
古田:2位の「ECサイトの設計・導線改善」はどう捉えていますか。
窪田:地味に作業に捉えられてしまいますが、企業にとっては重要な課題です。ユーザーのニーズや行動などを踏まえて日々、施策などを地道に考え、改善を積み上げていく必要があります。さらに、その結果が正しいのか判断しなければなりません。問題があった場合は社内だけでは解決できないことも少なくありません。
たとえば、ECサイトで動画コンテンツを掲載するケースが増えており、動画から購入への導線をどうするか、コンテンツが重たくなりサイトの表示速度が遅くなるといった課題があがっています。特に後者は大きな問題。サイトの表示が1秒遅くなるだけでCVRが約20%下がるといった調査結果もあるのですから。
こうした課題・問題は、内製で運用している企業以外、自社だけで解決できません。パートナー企業との協力が必要となるので、日々のパートナーシップが重要になってきます。UI、UXの改善は終わりがありません。だからこそ、自社に適したECサイトの設計や導線改善を手がけるパートナーの選定は、非常に重要な判断になります。
古田:動画は多くの通信容量を必要とするので、自動再生は顧客体験としてマイナスだと以前までは指摘されていました。最近は、自動再生の動画は良い顧客体験だと言われるようになり、仕様を変更するECサイトも増えています。こういったトレンドや顧客のニーズの変化に対応し、スピーディかつ継続的な改善が必要だということですね。
利益に直結する物流と配送
古田:アンケート結果を2024年と2023年で比較すると、「在庫の補充手当」という課題が大きく減り、「物流配送の整備」の課題が2倍以上に上昇しています。どのような背景があるのでしょうか。
窪田:「在庫の補充手当」は、サステナブルという観点から大きく下がりました。「どんどん作って、売って、在庫を減らす」というトレンドから、現在は生産量をある程度絞って適時適品を投入するという戦略に変化しています。そして、「何をどれだけ作るのか」といった需要予測は、今後AIを活用する方向にシフトしていくのではないでしょうか。
「物流配送の整備」の課題が大きくなっているのは、効率化を必要としているためです。この1年、主なアパレル企業が次々と物流倉庫を変えています。物流の改善に着手する理由の1つは、配送費が上昇するなかで、コストをどれだけ下げられるかが利益に直結するから。この課題を解決するために、倉庫でのロボットの導入、BtoBとBtoCの集約などの取り組みが進んでいます。
古田:大手以外の取り組みはいかがでしょうか。
窪田:中小事業者でもデータ連携の柔軟性が増せば、さまざまな施策を実行できるようになるでしょう。たとえば、大きな専用倉庫を借りるのではなく、棚貸しやスペース貸しを利用する、商業施設のなかで館内物流を導入するといった流れが出てきています。
人材育成と採用の悩みが3倍に、課題解決の一歩はパートナー選びから
古田:アンケート結果で3位にあがっている「EC関連の人材育成と採用」については、2023年のアンケートと比較し、2024年は3倍以上の企業が課題に感じていると回答しています。そのため、運営体制についても外注するという選択肢も増えているようです。
窪田:ECビジネスで取り組まなければならない施策が増えてきています。デジタル施策ができる人材の確保、OMOに向けた施策による組織変更など、多くの企業が課題解決に向けたアクションを起こしています。人材確保の面では、人材不足を補うため外注を増やす企業も多くなっていると聞きます。
ただ、デジタルやデータに強いだけのコンサルタントではECビジネスへの理解が不足していることがあるため、注意が必要でしょう。また、EC担当者は多くの業務を抱えており、相談相手がいないことが多いのも課題です。そのため、適切な人材を確保すると同時に、伴走して取り組んでくれるパートナー、専門知識を持つパートナーを選ぶことが重要です。
古田: 2024年、今後のキーワードは何になるとお考えですか?
窪田:OMOは前提としてやらなければならない施策です。顧客体験の観点から、会員データの統合などへの投資は増えていくでしょう。物流やAI活用といった課題も含めて、自社がどこをめざすのかを考える必要があるでしょう。そして、パートナー選び。すべての業務・システム化・デジタル化は自社だけで内製化できないので、パートナーをうまく選んで一緒に成長していくことが必要ですね。
古田:最後にAMSの支援内容についてお話させてください。AMSは2007年の創業以来、EC事業の支援を手がけており、ECサイトの構築からOMOソリューション、WMSシステムのほか、物流、運用支援、カスタマーサービス、制作、デジタルマーケティング、広告運用、コンサルティングなど、幅広いサービスを提供しています。
ECビジネスはECサイトを作ることがゴールではありません。AMSは、これまで350超のアパレルブランドさまへのEC支援実績で培った経験と知見から、システム納品後の事業成長と売上貢献に向けてさまざまな課題に真摯に対応し、解決に向けて伴走支援を手がけています。ここで説明した課題だけではなく、ECビジネス全般に関するお悩みやお困りごとがありましたら、ぜひAMSにご相談ください。