21社の通販・EC会社が語る新卒採用のいま。優秀な学生を獲得するためのポイントは?
本紙が調査した「主要通販各社の新卒採用状況」によると、今春の新卒採用者数が前年比で増加したところは少なく、前年割れや横ばいの企業が多数を占めた。採用市場については学生側が有利とする「売り手市場」との見方が大半を占め、前年に引き続き優秀な人材を獲得することの難しさが伺えた。また、今春から政府指針による採用スケジュールの変更を受けたこともあり、混乱が生じた現場も少なからずあったもよう。主要通販各社の新卒採用の詳しい状況を見てみる。
人材争奪戦は今年も加熱
本紙が主要な通販実施企業約30社を対象に調査を行ない、有効回答を得られた各社の今春の新卒採用状況は表の通り。採用人数の前年比較については「減少」との回答が多い結果になった。増減幅を見てみると、12人減と最も減少幅の大きかったスタートトゥデイは「目標数が少なかったため」と説明。10人減だったファンケルは、中期経営計画や第二研究所設立のための増員など即戦力を求める中途採用を強化したことを理由に挙げている。そのほかQVCジャパンが9人減だった。
増加幅の大きかったのがベルーナで60人増。ユーグレナは事業拡大を理由に8人増。ジュピターショップチャンネルは新卒社員の戦力化の評価とニーズの高まりを受けて4人増、ケンコーコムでも4人増となった。
エントリー数については数百から数千規模との回答が目立った。多かったところではファンケルが約1万5000(前年比150%)、ジュピターショップチャンネルが約9000(同120%)、オルビスが約7000となった。
また、採用告知のために利用したものでは、合同説明会・学内セミナーなどのイベントを活用したケースが最も多く、次いで自社サイトとなった。前年に引き続き大手就活サイトやSNSの利用もあったが、近年は人材紹介サービスを活用する企業も目立っている。なお、採用コストの総額については回答企業中、最も高額だったのが750万円。おおむね500万円という回答が多く見られた。例年よりも増額したケースでは、説明会への参加回数や人材紹介サービスの利用を増やしていることなどが理由にあった。
次にエントリー後の選考過程について見てみる。ほぼすべての企業が書類選考、筆記試験、適性検査、面接の組み合わせによるスタンダードな形式を採用。面接は2~3回に設定しているところが多かった。選考過程での特徴的な取り組みとしては、ファンケルが今回は総合職について「No.1採用」、「ファンケル大好き採用」を実施したほか、募集職種により各職種に求められる資質を見極める選考方法も行った。また、ルクサでは企画の疑似体験として「グループワーク」を実施。EC業界への理解を深めるとともに、若くして自分独自の企画が世の中に出るというやりがいを疑似体験させている。
“後ろ倒し”で選考が長期化
政府の要請などにより就職・採用活動の開始時期が後ろ倒しされたことで、各社とも選考スケジュールに大幅な変更が生じている。
ディノス・セシールでは、会社説明会・選考を前年の2~3カ月遅れで実施したことで選考が9月までかかるなど長期化を余儀なくされた。会社説明会や選考の時期が特定できず、母数形成には時間と労力を要したという。結果的には早期に動く学生が多かった印象で17年度についてはさらに学生の動きが早まることを予想し、早期の直接接触を行う方針。3月から採用広報を始めたファンケルでは、母集団形成~面接までは例年以上に多く集まり学生の質も高く感じたとする一方で、辞退者が例年よりも多く出るなどのデメリットがあったという。これを受けて17年度の採用セミナーなどでは採用担当のみならず、先輩社員も参加して社内での活躍・仕事のイメージを発信し、応募意欲・入社意欲を醸成。内定後のフォローも強化していく考え。ケンコーコムでも選考スケジュールを8月からにしていたが、終盤まで学生の動きが読み切れなかったという。「学生も手探りだったかもしれないが企業も手探りだった。後倒しが良かったかどうかは分からない」とした。アスクルでは採用広報活動を3月から開始。「学生との接触期間が短くなった。辞退率増加が予想されるため、内定者フォローに力を入れることが17年度のポイント」とした。山田養蜂場ではインターンシップの開催が出来るメリットがあった一方、年度替わりの多忙期と採用活動が完全に重なったことなどがデメリットに感じたとしている。
また、今回は例年通り12月からのスケジュールで行ったスタートトゥデイは、他社の多くが3月から行っていたため就職活動への意欲が上がり切っていない学生が多く来るなど選考が難航。17年度は後ろ倒しに合わせるという。同じくスケジュールなどで変更の無かったHameeでは大手の採用開始を学生が待つため、内定を出すタイミングが難しいとしている。ランクアップも「大手が採用を始める前に先手を打つことができる」と回答した一方で、内定後に大手の採用が始まるため辞退につながらないよう内定者フォローを強化していくという。
【新卒採用市場各社の見方】8割以上が「売り手」実感
今春の新卒採用市場について通販企業の受け止め方はどうか。アンケートでは実に8割以上が学生有利の「売り手市場」であると回答。「どちらでもない」、「買い手市場(企業側有利)だった」との認識は少数にとどまった。景気回復に伴い、他業種を含めて企業の採用数が拡大していることから学生側の選択肢が広がっていることが伺える。
「売り手市場」とした主な回答では、「学生の最終就職先を決めきれない様子を見て」(オルビス)、「当社で内定を出したすべての学生が複数の内定を取得。当社の内定承諾後に他社から誘われたという相談を多々受けた」(ルクサ)、「内定を複数社から受けている学生が多数おり、学生側に選択権があった」(スクロール)、「エントリー数、説明会出席率などから学生側が企業を選んでいる印象が例年に比べ非常に強かった。また経団連の採用解禁時期の変更に伴い、中小企業は内定辞退の懸念から、また大手企業はリクルーターなどを駆使することで、多くの企業が優秀な学生に内定を出していたと感じる(実際に選考解禁前から、複数内定を保有している学生が多かった)」(ディノス・セシール)、「学生側の危機感が薄かった。2次募集を設ける会社や内定承諾までに時間の猶予を設けるやり方で学生を引き止める動きが他社に多く見られた」(スタートトゥデイ)、「エンジニア職は売り手。開発経験がある学生を採用したい企業が増えているにも関わらず、学生の量が少ないため」(Hamee)といった声があった。
一方、「買い手市場」との回答では「多くの優秀な学生たちに応募してもらえた」(オークローンマーケティング)という意見。また、「他社との情報交換では売り手市場との声が聞かれたが、当社においては影響はごく軽微だった」(フェリシモ)という意見もあった。
その上で、求める学生を獲得できた自社のアピールポイントとしては、「若いうちから様々な仕事を体験できる点」(世田谷自然食品)、「成長市場の通販業界で自社に幅広いフィールドがある。若手時代から裁量権を持って仕事に取り組める」(ディノス・セシール)、「ジョブローテーションにより多彩な職種を経験できる可能性がある」(ジュピターショップチャンネル)、「メディア業界と小売業界が重なったところに当社のビジネスがあるため、経験可能な職種が多岐に渡る」(QVCジャパン)など、社内で多く職種の中から選択できるメリットを押し出したところが数多く見られた。そのほかにも、「オムニチャネルや広報戦略でメディア露出の機会が多くあり、ビジネスにおける成長とダイバーシティ推進企業としての認知ができた」(オークローンマーケティング)、「『ZOZOTOWN』の知名度、社風」(スタートトゥデイ)のように会社やサービスの社会的な知名度を武器にしているところもある。
また、「説明会ではトップが事業や自身の経験について語るので、学生がフラットな組織に魅力を持ち、裁量を持って仕事ができる環境だと感じられる」(ロコンド)、「不の解消という経営理念が学生にも分かりやすく、全従業員に浸透し事業展開に直結していること」(ファンケル)、「説明会や選考を通じて、人事だけでなく先輩社員との関わりの中で会社理解促進と入社への動機付けができた」(アスクル)という回答もあった。
通販新聞」掲載のオリジナル版はこちら:
【主要通販各社の2016年新卒採用】 採用数「前年割れ」が多数(2016/02/25)
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