中川 昌俊 2016/4/15 9:00

有名EC店は、バックヤードの人材に関する「採用」「評価」「育成」をどうやっているのか。ピー・ビー・アイの高木孝社長、ヤッホーブルーイングの井手直行社長、テラオの佐々木伸一EC部マネージャーらが、EC業界の有名店舗が取り組んでいること披露した「バックヤードカンファレンス2015」のトークセッション。有力EC店長たちのバックヤードに対する考え方などから、最適なバックヤード業務を実現するためのヒントを探ってみる。

ディスカッションのメンバー

モデレーター

  • 高木 孝 氏:株式会社ピー・ビー・アイ 代表取締役

パネリスト

  • 井手 直行 氏:株式会社ヤッホーブルーイング 代表取締役
  • 佐々木 伸一 氏:テラオ株式会社 EC部マネージャー
  • 三宅 幸子 氏:株式会社ミン 代表取締役
  • 久保 雅也 氏:株式会社イマリ 代表取締役

学歴は関係ない 採用したいのは一緒に頑張れる人

高木バックヤードの人の採用・育成・評価はすごく大事だと思うんです。井手さんのところの採用ってすごそうですよね。

井手6、7年前募集しても誰も来なくて、すごく困っていた時期でした。楽しい雰囲気のある会社にしようと心掛けて色々やってきて、今は人が一杯来てくれるようになっています。基本的には地元で募集の場合は、地元の就職情報に広告出して、メインはリクナビみたいなのに広告出して募集しています。

ただ我々の会社はとても個性的でとても熱くてこんなことがやりたいって決まった会社なので、会社説明会をちゃんとやって、「どういうことをやろうとしている会社なのか、どんな社風なのかということをちゃんと理解した人だけが来てくださいね」って、念を押した上で履歴書もらって採用面接を何回かやるなど、とても力を入れてやっています。

高木何人くらい応募ってきますか?

井手2015年の春の新卒9人をとるのに応募が1000人くらい。中途は10人採用しようと思って1000人来て。競争率が100倍くらいで、とてもありがたいですね。

高木どうやって絞り込むんですか?

ピー・ビー・アイの高木 孝 氏

高木 孝 氏

井手まず会社説明会やって「我々はこんなことをやってる会社で、10人くらいしかとらないんです」、というと自信が無い人は2、3割が辞退する。その後は書類選考の基準があって、学歴やPR文の評価基準があって、書類選考で半分くらいになって。あとは1次2次3次面接があって、1次2次面接では社内で定めた10項目くらいある評価基準による人事評価システムがあって、それにのっとって面接していく。この人は頑張ってないから達成思考性、5段階の下から2段目だとか、この人は短期間でこんなに頑張ったんだから5だとか、そういう感じでやって、3次面接では3年後売上3倍目指しているんだけどその戦略を営業面と製造面の希望職種に分かれてプレゼンしなさいと。

高木それで残った10人は素晴らしい訳ですね。

井手素晴らしいです。入ってきてやっぱり素晴らしいです。

高木違ったってないですか?

井手実力的に失敗したってないですね。ただ、こういう会社ですからって説明したつもりが受け取り方が違って、すごいんだけど会社への共感度が弱くて残念ながら2、3年で辞めていくのが一人とかいたりする、そんな状況です。

佐々木私の場合、前職では特に選びませんでした。僕の後を継いでこの前最年少でショップ・オブ・ザ・イヤー(SOY)とった人は高校の勉強がとてもできなくて。どこにも就職が決まらなくて学校の先生が「あさ開で引き取ってくれませんか?」と言いに来たほどでした。

ただ、一番大事にしているのはその人たちのマインドと方向性。あとは、わがままなんだけど私が一緒に働けるかどうか。結局一番しっくりくるところなんだけど、「相性」。タイプが違ってもいいんです。優先度が違ったりカチンとくる物言いがあっても構わない、ただこいつは俺の欠けてるこういう部分を思い切り発揮してくれるんだろなとか、人が育つところにすごく楽しみがあるんですね。18歳で何も分からないで入ってきて、5年たったらSOYのジャンル大賞に入っていたりするので。

あとは仕事に合わせて人をとらないことが多いですね。他の部署からEC部に転属になった女の子が「私は何の仕事をしたらよいですか?」って聞くから「何の仕事がやりたい?」って聞いたら「私が決めるんですか?」って言ってそれで話が終わって、そのまま1カ月くらい放置してました。他のスタッフが「指示を出してくれないから何をしていいか分からないみたいだから店長から指示出してくれないですか。悩んでます」と言ってきても、絶対指示出さなかった。今その子は商品管理で資材の手配などして滞りなくやるうちの心臓部になっています。

高木指示待ちにしなかったということだね。

佐々木しません。あとは「あさ開」のチームは大卒1人もいませんでした。学歴が高くなくたって人が育つ環境はきちんと作れるし、「いいカスタマーサポートやってるね」って言われるようなものを標準にすることが大事なのかなと。人間的にこいつとは働けないっていうの以外はどこかしら立つ瀬があるし成長の余地はあるのかなと。

高木三宅さんのところは採用どういう風にやってますか?

三宅うちは私があまり器が大きくないので、採用自体もできるだけ私の会社ではしないという方向で、欠員がでたときだけ採用します。

高木面接の時、どういう質問するんですか?

三宅質問するより、「うちはこういう風にここ目指しているよ」というのを伝えて、同じ気持ちで頑張れるのなら来てくださいと。それで入って合わなかったら向こうから抜けてもらえますし、うちで頑張るという気持ちがあれば続けてもらえるのでそうやっています。

あとは自分の下に人を作るよりも、他のパートナーと一緒にチームを作っていくのが向いているようなので、他のスペシャリストのチームを作って、「マリリンイズムってこういうものだよ」と伝えて、「良かったら一緒に頑張ろうよ」、「一緒にWINWINになろうよ」と。

高木パートナーさんが多いというニュアンスですか?

三宅社員がいなくてやれるものでもないですし、目の前で伝えて目の前ですぐに動きたいこともあるので最低限のスタッフは必要ですが、それ以外はできるだけパートナーさんと組んでいくというスタンスでやっています。

ミンの三宅 幸子 氏

三宅 幸子 氏

高木久保さんのところの佐賀の採用ってどうなの?

久保パソコンできませんけど、エクセルできます、みたいな人もいる。ECに必要なスキルってそもそもそこじゃないっていうのを僕が一番身をもって勉強しているので、うちの会社の社員10名くらいで、大卒1人であと高卒、役員は中卒です。

あまり学歴は重要視していなくて、面接に来てもらった時、面接シート書いてもらって、よくある「なんで我が社に入りたいのですか?」みたいなのが書いてあったり、「うちの会社に聞きたいことはなんですか?」と聞いた時にお休みのこととか給与面とかベクトルが内向きの方は×。「私が入ったらどんなことができますか」、「御社はどんなところを目指しているんですか」、とベクトルが外に向いている人が見つかると、そこで僕らも本気を出して面接します。面接時言っているのは、「3カ月間採用期間があるんですけど、3カ月後に本当の試験やります」ということ。

3か月後に全スタッフの前で、イマリとはっていうのを語り、分かっていないなと思われると正社員としては入れない。イマリイズムを理解できてるなと思われるまでは入れない。情報は自分で取りに来なさいという考えなので聞いてくれたら教えるというスタンスです。

イマリの久保 雅也 氏

久保 雅也 氏

成果を評価するのではなく行動を評価する基準を採用

高木こうやって皆さん苦労して採用するじゃないですか。「頑張ったんだから評価してくれ」って人がいて、「評価してくれたら頑張りますよ」と言う人も、「認めてくれたら頑張りますよ」と言う人も、最近多い。バックヤードに従事しているスタッフの評価ってどうやっていますか?

井手僕たちは製造・品質管理・営業など部門が分かれているが、みんな同じ評価基準なんですね、バックヤード関係なく。売上1億とってきます、みたいな成果主義ではなく、「行動評価」という軸なんです。

成果主義って因数分解すると「成果=行動+運・不運」なんですよ。営業だと、成果1億円売りました、行動はそれなりにやりました、運は、ビール屋だと天気が良い日が続くと売れるんですよね。寒い日は売れない。運不運に左右されるから、行動をちゃんと見ていると、その行動が納得いくものになっているか、芯の通った行動だったら評価に値するということで、行動を見て全て評価しています。評価基準が10項目あって、達成思考性、顧客思考、スピード、戦略的行動とか、それに従って全員を評価する。バックヤードもいたるとことで行動を発揮できていて、あまり僕は悩んでなくて。従業員の満足度評価を見る限り、評価に対しては大方みんな満足しています。

高木公平に見てくれているということですか?

井手全員と言わないがほとんど満足してくれている。

高木その評価基準は作ったのですか?

井手親会社が星野リゾートで、その評価基準がベースにあって、関係会社なのでそれをもとにアレンジして使っているので、彼らがかなり練って作ったやつなので結構すごいですね。

高木佐々木さんのところはどうですか?

佐々木うちは個人評価がないんですよ。特別講演で大西さんが京セラのアメーバ経営の話なさっていましたが、あれを導入しています。

「あさ開きフィロソフィー」というのがあって、「月次報告」「ガラス張り」「速報性」、月次は請求書が来る前にそれを把握している、とか。人事考課の部分ってチーム全体の評価がそれぞれの役割に応じて配分率が変わる。よく言えば運命共同体、悪くいえば共産主義ですよね。それによって、モノが言えるようになる。

よなよなさんのところは各部門の垣根がないと思いますが、酒屋って蔵のことには口を出しちゃいけなくて、製品の人たちがダンボールをいくらの単価で買っているなど、まず見えないし言えない。アメーバ経営でガラス張りになると、見えて、「資材費なんでこんなに上がっているの?他、相見積取ってこの値段?」とか、相互の仕事をより改善する提案ができるようになるんですよ。そんな感じで相互で見ているので結果としてグループとして見る形になります。

高木パフォーマンスを見て上がっていれば、それを配分していく?

佐々木チームというより全社という単位ですね。

高木利益の何%とか?

佐々木総粗利の40%を人件費に充てると明言されているので、製造部門はコストを抑えて、俺らはより高く売れば儲かるというのが明確なんで。

高木総粗利の40%って、去年はこうで今年はこうって大きく変動した場合もそれに準じちゃうの?

佐々木準じます。SOY連続で取っていても3年間くらい他が足を引っ張って賞与無しでした。意地でもボーナス出させてやると思って。ECやらないとこの会社潰れちゃうと頑張るきっかけになりました

テラオの佐々木 伸一 氏

佐々木 伸一 氏

高木三宅さんのところはどうやってバックヤードの評価をしていますか?

三宅うちはワンフロアで人数もパートさん含めて15名なので、私が目の前で起きていることを全部見れている。具体的にこの人こういう風に頑張っているなとか全部見えるのでそれで評価をしています。だけど、井手さんの10項目を聞いて帰ってやりたい。前に「社長の好き嫌いですよね」って陰で言われたことがあって、そんなこと絶対ないって自信ありますけど、でも見る側からはそう見えるので、そういうものを明確化して出していけたらいいなと思います。

高木客観的な何かは必要かもしれないですよね。三宅さんの顔色伺う人がいたら評価が高くなってしまうかもしれないってことですよね。

三宅そう思われてそういう動きをして、お客様の方でなくてこちらを見てしまったら終わりですので。井手さんに質問で、会社100人くらいで10人採用すると、新卒割合が高くなりますが、それでも伸びていけるのは、評価基準のおかげですか?

チームビルディングに力を入れることで、会社の考え方を共有

井手中途10人、新卒10人採用だと100人ちょっとの会社で去年・一昨年と20人ずつぐらい入っていて、3人に1人は1、2年以内に入った人間なんです。自分では上手くいっていると思わないが、まわりからすごく良い会社って言われる。それは僕がチームワークを一番大事にしているからだと思います。

ビールの品質・戦略・営業力も大事ですが、経営で何を一番大事にしているかというとチームワーク。チームビルディングを一番大事にしています。今も毎年有志を募ってチームビルディングプログラムをやっているんです。丸1日のチームビルディング研修を5日間、それを3カ月やる。その期間、日常業務も支障をきたすくらいやるんです。全部業務扱いにするから膨大な人件費がかかるんですけど。しかも僕も忙しくなる中でチームビルディングの時は夜の飲み会も全部出ています。それくらいチーム力を大事にしているので良いチームにならないはずがないと思っている。そうするとさっきのカスタマースタッフのように自分たちで考えてお客さんの為に対応したり、他のスタッフを助けたりが自然とできるようになる。トップがこれだけチームビルディングに力を入れている会社は見たことないので、そういうことが上手くいっているということかなと思っています。

ヤッホーブルーイングの井手 直行 氏

井手 直行 氏

久保僕らもチームビルディングやっていて、2日間合宿でやったりする。評価のところでいうと、社員に話すのは、評価と査定は違うと。評価は頑張っているね、ということで、それが貯まっていくと査定基準にもなるんでしょうが、そもそも評価というのは金じゃないと話しています。

僕らは孫正義さんがやっている日次決算というのをやっていて、毎日決算。毎日、黒字なのか、赤字なのか、月末どうなるのかを月次、日次で管理して、15日の中間決算もやってこのままだとやばいとなったら社員も動くし、計算しながらやっている。稲盛さんのいう全員経営を目指して、儲かったらもちろん社員にも還元する。評価をしたから給与が上がるとは違ってて、全体の粗利が経費を超えていけたら還元していけるし、年1回の昇給や年2回のボーナスも払っていけます。

高木これは、今自分たちがこの時点でどういう状態かってことが見えるということでしょうか。

久保全員の見える化ですね。社員が意思決定をできるように、今どうなのか、今日は残業してでもやらないといけないのか、メルマガを今日中にださないといけないのか、とか。

高木会社としての客観的データがあるからそれに基づいて社員が考えられるような環境になるということですね。

久保そういう社員研修を僕らも年に5回全スタッフ参加で、経営合宿に全員入って僕が教えています。

トークセッションの様子
◇◇◇

Part3は4月18日掲載予定です。

【アイルからのお知らせ】

「バックヤードフェス2016」を4月23日に開催

昨年実施した「バックヤードカンファレンス」をさらに拡大。今回は有力ECショップの対談だけでなく、壁紙の貼り方や着物の着方などのワークショップ、物流倉庫体験ができるゾーンを設けたほか、ECショップで販売している人気商品をその場で購入できるようにするなど、まさにお祭りのような雰囲気で実施する。

昨年実施した、バックヤードの優れたショップを表彰するバックヤードアワードも合わせて開催する。参加はECサイトにかかわる人のみならず、一般の参加も可能となっている。

  • 日時:4月23日(土)開場:11:00~閉場:21:00
  • 会場:COMMUNE246(コミューン ニーヨンロク)
    • 東京都港区南青山3-13​
    • 地下鉄「表参道」駅「A4」出口から国道246号を外苑方面に徒歩2分
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