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EC事業を立ち上げてはみたものの上手くいかず、悩まれる方は多いと思います。私はこれまで雑誌定期購読、通販、EC事業に関係し、事業の立ち上げや見直し改善などを行ってきました。今でこそ担当事業は収益化を果たし、前向きに成長を続けていますが、もちろん失敗もありました。今回は、これまでの過程で考えたことをお伝えしたいと思います。少しでも同じ境遇にいる方の参考になれば幸いです。

事業が上手くいかない理由は挙げきれないほどありますが、「競合企業が強い」「市況が悪い」などと外部要因に行き着くのであれば議論は終了となるし、「スタッフの工夫が足りない」「自分の努力が足りない」などと量的な分析をすると、対策は「もっともっと」にしかならず、組織が疲弊し、収益はますます悪化します。

ほぼ間違いなく、大きな根本原因は、事業責任者がマネタイズのモデルを明確に描いていない、描いても実行する環境が整っていないことから派生します。その2つの問題を解決し、EC事業で成果を出すための5つのポイントをご説明します。

ポイント1 お客さまがなぜ私たちのサイトに来るのかを考える

ともすれば「良い商品を良い価格で並べれば売れる」と錯覚しがちですが、まず自社サイトに必要な来場者数を確保するのは至難の技です。

集客のためのさまざまな施策、さまざまな便利なツールが開発されていますが、そこに目を向ける前に、「お客さまはなぜ私たちのサイトに来るのだろう?」を明確に説明できるか確認します。そして、その理由に厳しく自分にツッコミを入れながら、サービスの意味を見い出します。

「安いから?」→ 他にもっと安いところがある!

「商品が良いから?」→ 同じ商品は他でも買える!

「サイトが美しいから?」→ 本当か??

これをせずに競争の激しいEC事業に乗り出しても、まず精神的に乗り切ることが困難です。少なくとも自分だけでも心から納得できる答えが出るまで考え抜きます。

ポイント2 施策はゼロから考える

時間と資金は無限ではありませんので、コストの積み上げで予算を立てることはできません。「必要!」と言い切ってしまったら、何でも必要になりますので、「すべて不要!」から入るのが正解です。

企業内の一事業だと上司の意向や、他部署との兼ね合いなどがあり、すべて根本から見直すとはいかない部分もありますが、EC専業会社なら本当に「すべて不要!」から見直します

「このパッケージは必要か」「このコンテンツはお客さまを惹きつけているか」「モバイルとPCの出し分けはお客さまに喜ばれているか」「そもそもPCサイトは必要なのか」「メルマガは必要か」「倉庫・カスタマーセンターは本当に自前にする意味があるのか」……など、1つずつ棚卸ししていきます。

過去にやってきたことをやめると売上が下がることもあります。それゆえに、現場は絶対に停止を判断できません。足し算だけで経営をしていくと組織が伸びきったゴムのように柔軟性を欠いた状態になりますから、業務量は足し引きをしっかり管理します。効果が高いと思うその施策は、効果が低いあの施策を停止してから現場に投入しましょう。

ポイント3 価値観を共有できるチームを作る

まず既存スタッフも含め、採用は価値観を明確にして実施します。「腕利きのアクの強い人たちが、強力なリーダーの元で活躍する伝説のチーム」というストーリーは誰しも憧れるものですが、事業を成功させたいのであれば、きちんと価値観を共有して安定運営できるスタッフをそろえます。事業ドメイン、環境によって変わるとしても、チーム全体で共有されている暗黙の価値観は絶対に存在し、大きなインパクトをもたらします。

ちなみに、私の職場の場合は「真面目で誠実・個人技より組織戦略優先」が最初に挙げられます。経験豊かで優秀なスタッフに、例外なくこの価値観を共有することを求めますので、人の出入りも避けられませんでしたが、現在は落ち着いた体制になりました。

また忘れがちなことですが、外部の取引先も同じ仲間です。当社は本来出版社ですので、EC事業については多くの外部取引先のみなさんに支えていただいています。一緒に組む相手を選ぶ際にも同様の価値観を共有できることを最優先しています。コストはその次です。

価値観を共有できる仲間を獲得できたら、次は「全員が自らのキャリアの将来像に納得しているか」に配慮することが必要です。役割や立ち場が違えば、将来に対しての思いは異なります。「本人が考えることだから、納得しているから良い」と思考停止せず、しっかり話し合って、自分を含め全員が「ここでいまこの仕事をしているのはこういう意味があり、将来このように役に立つ」と合意することが必要です。そうでなければ、場合によって指示しなればならない残業や休日出勤も命じられません。「俺も頑張るからお前も頑張れ」は、双方納得して目的を共有してこそ伝わるものなのです。

外部取引先も同様です。自社と取引をして損をさせては関係は長続きしません。厳しい要求を出す代わりに、相手事業を理解し、ユーザー視点からのアドバイスをするなど、相手事業への貢献を心がけます。

ポイント4 外部取引先と信頼関係を結ぶ

前項でもふれましたが、取引先は内部スタッフと変わらないレベルで仲間です。社内であれば「会社に入る利益を増やせば、自分の待遇も良くなる」という最低限の共通目標がありますが、社外はそうならないケースもあります。このため、相手の事業を深く理解し、自社の成長が相手の利益にもつながるように契約を結ぶことが極めて大切です。

取引先の事業責任者、できれば社長ともお会いして、肝胆相照らす会話ができるかどうか確認します。プライベートでまで仲良くならなくても、一緒に事業を進める上での信頼関係が結ぶことができれば十分です。その上で「裏切らない方がトクな関係」を継続することで、後背を気にせず事業に専念できます。

また日進月歩の業界ですから、昨日と同じことをしていると相対的地位が下がりますが、新しいサービスを検討するときは、利害の仕掛けがわからない相手とは付き合わないことは守ります。ある一定水準に達したビジネスマンであれば(そうでなければ一緒に仕事をする価値がないのですが)、必ず何か狙いを持って動いています。その狙いがきちんと理解でき、自らの事業の成長と矛盾しないことが確認できる相手とのみ取引をします。

利害の仕掛けがわからない相手と組むと、後から想定していた条件と違ったり、そもそも相手が事業を継続できなかったりという手間がかかることがあります。どれだけ良さそうな仕組みであっても、そういう相手とは私は組みません。事業責任者は自分の知見を広げる努力は必要ですが、知見以上のことは判断すべきではないと考えています。

ポイント5 お金をいただく相手、つまりお客さまときちんと向き合う

目的が適切に決まり、環境が整備されれば概ねうまく行く確率は高くなりますが、EC事業は常に改善、常に改革です。どうすればお客さまにたくさん来ていただけるか、どうすれば好きになっていただけるか、どうすれば買っていただけるか、改善のヒントはすべてお客さまからの問い合わせの中にあります。

お客さま第一主義で上手くいっている事業には、例外なく「お客さまの声は私がすべて全責任を持って対応するぞ」という気概の責任者が存在するようです。それが社長であれば理想的です。ちなみに私の職場では、週に一度、私がすべてのお問い合せとそれに対する回答に目を通し、適切でない文章はすべて私が修正を入れています(最近は直すところがほとんどなくなりましたが)。

一方で、お客さまからの問い合わせが多いことは決して良いことではありません。お客さまからのお問い合せをゼロにする。つまりは何の説明がなくてもサイトだけを見ればすべて自己完結で注文までできる、そんなサービスを目指します

また、お客さまの声の中から改善のヒントが見つかると、すぐに「システム開発しよう」「ツールを導入しよう」といった大げさな方向に行きがちですが、面倒でもまずは自分自身を含むスタッフで対応し、次に外部に委託し、最後にシステム化するのが正しい道筋です。もし「自分がやってでも実現したい」と思わないようなことは、そもそも実行しないほうが良いのではないでしょうか? 足し算経営は避けましょう。

◇◇◇

概論となりましたが、どのように事業運営をするのかを決め、環境を整え、お客さまの声に耳を傾けながら、サービス、仕組みを改善していくというのが大きな流れです。何度も試行錯誤を経て、今は上記の考え方で、昔よりは短期間で成果を出せるようになりました。

易きに流れず、考え方を間違えずに進めば必ず先は開けると思います。せっかくの巡り合わせでこの業界にいるのですから、EC事業を通じ、スタッフを、取引先を、世の中を、ついでに自分をハッピーにしていきましょう!

このコーナーはインプレスビジネスメディア主催のイベント「ネットショップ担当者フォーラム」のプログラム委員によるリレーコラムのコーナーです。

プログラム委員会は、ネットショップ事業者や周辺の支援ベンダーなど、業界事情を熟知したスペシャリスト12名で構成されており、イベントのテーマや構成、講演していただく方々の選定や調整などをしています。

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田能 哲

株式会社ハースト婦人画報社

田能 哲(たのう・てつ)

ハースト婦人画報社 コマース本部 副本部長

大阪大学基礎工学部制御工学科を卒業後、総合商社、メーカー勤務を経て、2008年スタイライフ社に入社。雑誌定期購読、雑誌通販、EC通販それぞれのシステム立ち上げ、倉庫設営、運用設計等に従事。2011年ハースト婦人画報社に入社し、雑誌「ELLE」のエディターがプロディースするオンラインセレクトショップ「ELLE SHOP」責任者に就任。マーチャンダイジング、システム、マーケティングなど事業全体を統括する。今年は同サイト開設5周年にあたり、記念企画を秋口に予定。

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