ECの雄「ナチュラム」創業者の中島さん、これからの「EC」と「自身の活動」を語る
“ECの雄”と呼ばれるフィッシング・アウトドア用品のECサイト「ナチュラム」を立ち上げた中島成浩さん。家業の釣具店でECをスタートしたのが1996年。その後、店舗を閉鎖してECに注力、そして株式を上場。「ナチュラム」運営のナチュラム・イーコマースなどを傘下に持つミネルヴァ・ホールディングスの会長兼社長CEOとして、2018年1月まで“ECの雄”のかじ取りを担ってきました。
EC黎明(れいめい)期の1996年からネット通販をスタートし足かけ約22年。「ナチュラム」の運営・経営から退いた中島さんは今のEC業界をどう見ているのでしょうか? 今後どんなことをするのでしょうか? 「新しいことに取りかかっている」という中島さんにインタビューしてきました。
競争はさらに厳しくなる。だから「価値創造」「顧客創造」を
――「ナチュラム」のスタートから約22年間、お疲れさまでした。
ECが急激に成長して2000年に独立(釣り具の製造販売を手がける家業のナカジマからEC部門を分離し、株式会社ナチュラムを設立)。ベンチャーキャピタルから資金を集め、システム投資も本格化。株式を上場した2007年まではあっという間でしたね。
2015年に上場を廃止したけど、2016年から2017年までの2年間が一番平和でした。それまでは、赤字が続いたりずっと“お祭り状態”。アウトドア・フィッシングECのシェアNo.1を維持してきたけど、今振り返ると高をくくっていたなと感じますね。
ここ数年で、Amazonのアウトドア・フィッシングの取り扱い点数が急増し、シェアNo.1を取られてしまった。僕自身は2012年頃、このままではAmazonにやられるなぁと思っていた。シェアが逆転されたのはそれから3年後。
そんな中、「ナチュラム」は黒字に転換(ナチュラム・イーコマース単体での黒字)。売り上げも再び拡大傾向にある。道筋をつけて「ナチュラム」を含めた会社の売却(2018年1月、スクロールに売却)に至りました。
――最近のEC業界をどう見ますか?
過去、「ナチュラム」もそうだったように、仕入れ販売しているEC企業は構造的に厳しくなりそうですよね。Amazonがどんどん品ぞろえを増やしている今、消費者から見れば「買うのはAmazonでいいでしょ」となりますよね。
じゃ、他の販売チャネルはどう? となる。「楽天市場」は利益度外視で売る出店者が増えて、価格競争が激化。ECビジネス全体の構造が“Amazon化”“採算度外視の販売”に移っていると思っている。そんな中、どこで儲けるの? こんな状況ですよね。
僕は商品を右から左に流す小売ビジネスは今後、存在意義がなくなると思っていました。だから「ナチュラム」ではPB(プライベートブランド)の取り扱いを始めるために、フランス最大のスポーツショップ「デカトロン」など運営のオキシレングループの傘下に入った。
この現状を打破するための1つの策は、商品を売るのではなく、市場や顧客を創造していくことですよね。フィッシング・アウトドアのジャンルであれば、「楽しさを伝える」ことで、これまでそのジャンルに触れたことがなかったユーザーを増やしていける可能性がある。つまり、違った切り口で新しいユーザーを作っていくこと。「ナチュラム」では、2012年から「市場創造」「顧客創造」を切り口にしたビジネスを進めてきましたよ。
――EC実施企業がこれからどう戦っていけばいいと考えますか。
生き残るのは2通りでしょう。1つは「価値を創造する」ところに特化するビジネス。顧客や市場を創造していかなければ、生き残って成長していくのは難しくなる。極端な言い方だと、「顧客創造」「価値創造」に特化することに存在意義があるのではないでしょうか。残りの1つはインフラ化。Amazonや楽天のようなインフラになるのには資本が必要。かつ、価格競争に勝たなければいけない。でも、それは幸せになれないような気がしますよね。
厳しい環境と言えば物流コストの問題。2018年、2019年は一気に送料の値上げの波が訪れるでしょう。そうなった時、その先はどうしますか? どこもさらに厳しくなりますよね。だから、顧客や価値を創造していかなければならないんです。
――株式会社ネオ・イーコマース総合研究所を立ち上げて、代表取締役に就任しました。どんなことをされるのですか?
経営、サイト運営、上場準備、フルフィルメント、BPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)など、いろんなことのお手伝いをしたいと思っています。「ナチュラム」の立ち上げから得てきたものを、業界や企業にフィードバックしようかなと。
今後、AI(人工知能)が発達し、バックヤード業務も物流業務、アウトソーシング業務もさまざまな業務がAIに移り変わっていく。人間は何をすべきでしょうか? やっぱり創造するということをやるべきなんですよね。僕はそう結論づけました。そのための新しい価値をさまざまな企業、そしてEC業界に提供していきたいですね。
- 株式会社ネオ・イーコマース総合研究所
http://neo-ecommerce.jp/
日本初のEC学術団体を設立、産学連携でEC企業に「新しい価値を」
――早稲田大学など研究機関を巻き込んだECの学術機関として一般社団法人日本イーコマース学会(JASEC)の立ち上げに参画し、副理事長に就任しました。なぜ学術的な団体を作ったのですか?
先端のテクノロジーなどを研究して、それをECビジネスに生かしていくためです。僕の経験も踏まえると、ネット通販などの小売業の人が独創的な商品を作るのは難しいと思っているんです。それは“商売”という観点があるからでしょうね。
日本イーコマース学会を立ち上げるきっかけになったのが、早稲田大学メディア研究所と一緒にAI活用技術の共同研究を行う「AIコンソーシアム」の活動です。ネット通販に携わる人たちが活動に参加したのですが、これがすごくよかった。「この技術は商売にこうすれば活用できる」――といった声がたくさんあがるんですよね。ビジネスマンがディスカッションすることで商売への応用方法を見つけることができるということで、大学側もすごい新鮮だったようなんです。
アカデミック側、ビジネス側の交流が1年ほど続き、コンソーシアムも終了。その後、どうしましょうか? となって、今回の学会設立に至ったわけです。
日本イーコマース学会の活動の柱は「商品開発」「学術検証」「人材育成」
――日本イーコマース学会は参加企業にどんな価値を提供しますか?
アカデミックな研究成果と、ビジネスのアイデアを合体することで、これまでにないモノやサービスが世の中に出ていくことをお手伝いしたり、その活動を学術観点でサポートできること。企業、研究者の双方が認められる機会にもなります。
また、活動に参加することで、企業は最先端技術などの研究に触れることができる。それは、新たなビジネスチャンスが広がる可能性が生まれるということ。企業は他にはない独創的なサービスやモノを生み出していかなければ生き残っていくのはとても難しい。そんな環境下での経済活動を支援できると考えています。
世の中の勉強会はインプットで終わることが多く、実践的なアウトプットを実現するにはなかなか難しい環境。日本イーコマース学会はインプットよりも、研究をベースに製品の開発、新サービスを世に出すといった形でのアウトプットを重視したいですね。
日本イーコマース学会は早稲田大学などとの産学が共同で取り組む学術団体です。教育の側面があるで、将来的には大学のカリキュラムにネット通販の授業を組み込んだり、業界をめざす大学院生などとの交流の場にもしていきたい。そうすることで、EC業界に即戦力となるような人材も送ることができるようになるのではないでしょうか。
――全国の各会員を束ねる支部長には、名だたるEC事業者たちが名を連ねています。入会条件は。
ECに興味があるのは必須で、個人でも法人での入会は可能です。ただ基本は個人。学会としての本格スタートは4月14日です。北海道、東北、関東、東海、関西、四国・中国、九州に各支部長を任命しました。各支部ベースでの活動が中心となります。
当面は月1回ペース、各支部ベースで集まり、勉強会・発表会を開いてもらいますが、情報の発信は東京からが多くなるでしょうね。動画の生配信などを用いて、支部が参加できる体制を整えたいと思っています。
研究部会員は月額1000円で、法人賛助会員などを設けています。
――4/14の第1回シンポジウム「そのうちamazonに駆逐されて終わってしまう」は刺激的なタイトルですね。
これは差し迫った問題なんです。EC事業者は変わらなければならない。お笑いコンビ「キングコング」の西野亮廣氏、世界屈指のジャーナリストである湯川鶴章氏の2講演を用意しました。何か変わるためのきっかけ作りにしてほしいと考えています。
第1回シンポジウム概要
- イベント名:
お笑いコンビ「キングコング」の西野亮廣氏、湯川鶴章氏が登壇する
「そのうちamazonに駆逐されて終わってしまう」
第1回日本イーコマース学会シンポジウム - 日時:4月14日(土)15:00~
- 会場:早稲田大学井深大記念ホール(東京都新宿区西早稲田1-20-14)
- 料金:3,000円(税込)
- 主催:一般社団法人日本イーコマース学会
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