Digital Commerce 360[転載元] 2022/9/1 7:00

値引き販売は小売企業の収益悪化に直結します。2022年以降、多くの企業が値引き販売を実施、売上高と収益の計画を縮小させる要因となりました。

サプライチェーンの不確実性により、通常より長いリードタイムが小売事業者の予測能力を悪化させ、在庫の決定を早めることを余儀なくされました

過剰在庫が進んだ2022年

数か月前まで、空の棚や品切れの商品が蔓延し、消費者を困らせていました。それが一変、小売事業者は現在、在庫をたくさん抱えてしまい、その多くはもう需要が高くないそうです

2022年第2四半期(1-6月期)の業績報告によると、国内最大手の小売事業者のなかには、動きが鈍い在庫を売り切るために、キャンペーンを行うという手段に出たところがあります。このような値引きによって小売事業者の収益は悪化。2022年までの売上高と収益の見通しを縮小させることになりました

在庫過剰の背景には、インフレがもたらす消費者購買行動の大きな変化があります。専門家によると、食料品やエネルギー価格の上昇により、消費者は衣料品や家庭用品などの品目を購入するための資金が減少しました。その他の要因としては、アスレジャー・アパレルなど、コロナ禍で流行したアイテムの需要予測を小売事業者が誤ったことがあげられます

また、サプライチェーンの不確実性により、通常より長いリードタイムが小売事業者の予測能力を悪化させ、在庫の決定を早めることを余儀なくされました

小売事業者や業界関係者は、すべてを整理するには時間がかかると言います。

消費は基本的な商品へシフト

Walmart(北米EC事業 トップ1000社データベース 2022年版 第2位)は、消費者需要の変化により、2021年後半にサプライヤーからの数十億ドル相当の注文をキャンセルしました。それでも2022年度の第1四半期と第2四半期には在庫を過剰に抱えてしまったと報告しています。

8月16日の業績発表会でWalmartのダグラス・マクミロンCEOは、インフレに苦しむ消費者が最近、食品や消耗品に支出をシフトしていると説明。そのため、Walmartでは、他の種類の在庫が過剰な状態になっているそうです。

3月に入り、いくつかのカテゴリーで迅速かつ積極的に行動する必要があることを認識し、実行してきました。在庫削減は順調に進んでいる。(マクミロンン氏)

アパレル部門の値下げは特に積極的で、コストもかかったと言います。しかし、他の企業とは異なり、Walmartは第3四半期と残りの会計年度の見通しについて、前回発表した見通しを維持しました。

Targetは在庫を削減

Target(トップ1000社データベースで5位)も同様の問題に直面しています。第2四半期は、売上高は増加したものの、純利益は前年同期比89.9%減の1億8300万ドルに。過剰在庫を削減する大規模計画に関するコストを計上したため、純利益が激減しました。

Targetは6月、小売業界全体のサプライチェーン問題により売れ残りが急増したため、価格を引き下げ、在庫を大幅に削減すると発表しています。

過剰在庫を抱え込み、複数の四半期、あるいは数年かけてゆっくりと対処することも可能でした。しかし、それでは売り場が散らかってしまい、新しく新鮮な商品を提供する妨げになります。(ブライアン・コーネルCEO)

Targetの配送センターは6月までに、キャパシティが90%以上に達しました。第2四半期の終わりまでに、キャパシティは80%まで引き下げることに成功しています。

消費者の裁量支出悪化が要因

Macy's 、Kohl's、Nordstromといった他の上場小売企業も、第2四半期の決算報告やアナリスト向け説明化でで同様の話を語っています。

Macy’sのジェフリー・ジェネットCEOは、「消費者の裁量支出の継続的な悪化」と「高い在庫水準」を理由に、2022年の売上高と利益の計画を引き下げると説明。新しい見通しは、「古い在庫」を整理するためのマークダウンやプロモーションを見込んでいると話しています。

Nordstromは、余剰在庫の売却費用により、2022年下半期に約2億ドルの粗利益が減少すると見込んでいます。

この追加的な値下げ圧力の約半分は、品ぞろえを改善するために行っている行動を反映したものと推定しています。残りの半分は、需要の軟化などの外部要因と、小売のプロモーション環境が2022年後半に競争力を増すという我々の予想に関連するものです。(Nordstromのピート・ノードストロームCEO)

前代未聞の時代に突入

小売業は売り上げが伸びると、在庫を過剰に抱える傾向があります。全米小売業協会のマーク・マシューズ氏(研究開発・業界分析担当副社長)は、消費者の優先順位の変化がミスマッチを生み、一部の商品が店の棚や倉庫に売れ残る原因になっていると話します。

マシューズ氏は、2021年の予測不能なサプライチェーンと品不足が、2022年の在庫のミスマッチの一因であると説明。商品の在庫確保に苦労したため、小売事業者は「ジャストインタイム発注(必要になる直前に在庫を受け取る)」から「ジャストインケース(念のため)発注」にシフトしたと言います。そのため、一部の小売企業は、商品を確保するために過剰な買い付けをするようになりました。

マシューズ氏は、小売企業にとって需要を正確に予測することは常に困難であると指摘。そして、過去6~9か月の消費者行動の急速な変化に対応する「テンプレート」はどこにもないと言います。

今は前例のない時代です」。マシューズ氏は、現在の在庫過剰は理解できるものであり、一時的な問題であると考えています。

小売テクノロジー企業Aptosのニッキー・ベアード氏(戦略担当副社長)は、新型コロナウイルスの脅威が緩和された時点で、小売事業者は消費者の購買パターンに多くの変化が生じることを予期しておくべきだったと言います。

事態が回復したとき、たとえば自分でパンを作ることが減り、レストランでパンを食べることが増えることは容易に予測できました。しかし、小売事業者は、消費者の行動が変化していることを示す証拠が現れるまで、コロナ禍対策に全力を挙げるというアプローチをとっていたように思われます。(ベアード氏)

数字は語る

米国国勢調査局が発表した、月末の在庫額と月次売上高の関係を示す指標「売上高在庫比率」は、6月には1.21となりました。小売事業者は売上高の1.21か月分を満たすだけの在庫を抱えていることになります。

これは、コロナ禍前の2019年6月の比率1.48より約18%低い数字。絶好調で変動の激しい自動車・部品販売店部門を除くと、6月の比率は1.16です。これでも2019年6月の比率1.22より5%ほど低いです。

しかし、すべての小売事業者が同じ状況にあるわけではないとマシューズ氏は言います。一般商品、百貨店、建材のカテゴリーの比率は20年平均を上回っていおり、いくつかのカテゴリーでは比率も2019年を超えています。

米国小売業の売上高在庫比率(売上高在庫比率は月末の棚卸資産と月間の売上高の関係を示してもの。たとえば、この比率が2.5であれば、小売店は2.5か月分の売り上げをまかなう商品を抱えていることになります。出典 米国国勢調査局)
米国小売業の売上高在庫比率(売上高在庫比率は月末の棚卸資産と月間の売上高の関係を示してもの。たとえば、この比率が2.5であれば、小売店は2.5か月分の売り上げをまかなう商品を抱えていることになります。出典 米国国勢調査局)
在庫はコロナ禍前の水準よりも縮小している(売上高在庫比率は2022年6月と2019年6月を比較、米国全小売業、季節調整済。出典 米国国勢調査局)
在庫はコロナ禍前の水準よりも縮小している(売上高在庫比率は2022年6月と2019年6月を比較、米国全小売業、季節調整済。出典 米国国勢調査局)

国勢調査局のデータでも、一部のカテゴリーの在庫が昨年から大きく伸びていることがわかり、一部は2019年の時点よりもさらに高くなっています。6月に比率が最も高かったカテゴリーは、百貨店(2.24)、アパレル・アクセサリー(2.22)、建築・園芸資材(1.93)でした。

マシューズ氏は、在庫過剰は小売企業にとって目新しいことではなく、小売企業はクリアランスセールによる商品整理には慣れている言います。

また、家計の豊かさ、収入、支出に関するデータは、米国の消費者が年末年始に買い物をする余力を持っていることを示していると指摘します。

2022年の小売売上高は、すべての月が前年同月を上回っています。(マシューズ氏)

小売業界も同様に楽観的です。

Walmartのマクミロン氏は、「新学期の需要で盛り返し、ホリデーシーズンに素早く移行していきます。新商品もたくさんありますし、カテゴリーを超えた価格帯の開拓で強いポジションを獲得しています」と言います。

Targetのコーネル氏は、顧客調査から2022年の残りに希望が持てると話しています。

(顧客は)感謝祭を楽しみにしており、クリスマス休暇を祝うのを楽しみにしていることが分かっています。そして、それは毎週、消費者を調査し、お客様と話をするたびに明らかになります。だから、これらの重要なホリデーシーズンに業績を上げることができると、私たちは大いに楽観しているのです。(コーネル氏)

この記事は今西由加さんが翻訳。世界最大級のEC専門メディア『Digital Commerce 360』(旧『Internet RETAILER』)の記事をネットショップ担当者フォーラムが、天井秀和さん白川久美さん中島郁さんの協力を得て、日本向けに編集したものです。

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