森田 秀一[執筆] 2023/3/1 8:00
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ECビジネスはコロナ禍を経てもなお堅調だ。しかし課題はある。特に実務者レベルで常に話題になるのが、会員登録の煩雑さによるカゴ落ちだ。せっかく購入を決めた消費者が名前や住所、クレジットカード番号の入力でつまずき、買い物を諦めてしまう。店側は最低限の情報は入力してもらう必要があり、単純に簡略化はできない。どうすればスムーズに買い物を楽しんでくれるだろうか。

福岡名物の辛子明太子の製造販売で知られるふくやが、解決策として選んだのが「Amazon Pay(アマゾン ペイ)」だ。「Amazon Pay」は「Amazonアカウント」に登録した情報を外部ECサイトでもそのまま利用できる決済手段で、その利便性の高さから利用者が増えている。

ふくやの瀨﨑拓也氏(営業第一部 ネット通販課 マネージャー)とアマゾンジャパンの井野川拓也氏(Amazon Pay事業部 カントリーマネージャー)が決済手段の多様化、そしてマーケティングツールとしての「Amazon Pay」の魅力を語った。聞き手・進行役は「ネットショップ担当者フォーラム」編集長の瀧川正実が務めた。

通販の歴史も長い明太子の「ふくや」

ふくやの創業は1948年(昭和23年)。創業者の川原俊夫氏が、戦時中の幼少期に韓国・釜山で味わった「たらこのキムチ漬け」の味を再現しようと、引き揚げ先の博多でチャレンジを繰り返した。そこから誕生したのが「味の明太子」だという。

いまや70年超の歴史を誇る企業だが、通販の参入はかなり早かった。1970年には航空便を利用した全国配送を開始、1985年には受注センターを開設した。また1997年1月に自社ホームページを開設。同年12月にはネット通販システムを導入し、1999年7月には「楽天市場」へ出店した。現在も「Yahoo!ショッピング」へ出店するなどECに注力している。

2005年6月、ネット通販システムをリニューアルし、自動受注を開始。2016年から2017年の自社サイトの再リニューアルに合わせて現行の自社ECシステムを開発。ページのスマートフォン対応も行われた。

コールセンター経由の受注の約8割が60代~80代なのに対して、EC経由では約7割が40代~60代となっているなど、販売チャネルで年齢層が大きく違っている。若い層については、外部企業とのコラボレーション企画が奏功しているという。

地元サッカーチームやアニメとのコラボ缶詰などを展開することで、今までリーチできていなかったお客さまに商品を届けられることがわかった。通常は30代の割合が15%ほどだが、コラボ商品となると約2倍の30%の利用率になることもある。(瀨﨑氏)

ふくやの瀨﨑拓也氏(営業第一部 ネット通販課 マネージャー)
ふくやの瀨﨑拓也氏(営業第一部 ネット通販課 マネージャー)

サイトリニューアルに合わせて「Amazon Pay」を導入

2016年のサイト再リニューアルまでは、特にモバイルECの領域での課題が多かったと瀨﨑氏は振り返る。

リニューアル前は会員登録をしないと買い物ができなかったため、初回購入のハードルを下げる必要があった。具体的にはゲスト購入機能を追加しなければならないと考えていて、このタイミングで「Amazon Pay」を導入した。(瀨﨑氏)

「Amazon Pay」は、「Amazonアカウント」に登録されている配送先住所や支払い方法情報を使って、「Amazon」以外のECサイトでも決済を行えるサービスで、ふくやのような自社ECサイトでの導入が広がっている。

ふくやの場合、ECサイトに訪問してから注文最終確認画面にたどり着くまで、6ページ分の画面移動が必要だった。新規顧客の場合は、それ以外に会員登録手続きも加わる。

通常の画面移動
通常の画面移動

ところが、「Amazon Pay」を導入した場合は4ページ分の移動で済む。また、氏名やクレジットカード情報などを改めて入力し直す必要もないため、一般的なゲスト購入機能よりさらに利便性が高い

「Amazon Pay」の導入によるユーザビリティの向上
「Amazon Pay」の導入によるユーザビリティの向上

エントリーフォームで3割~5割が離脱? 「Amazon Pay」が何を変える

ユーザーは入力の手間を削減でき、店側はユーザーに登録の一手間という心理的ハードルを下げさせて売り上げの拡大が期待できる。双方にメリットがあるのが「Amazon Pay」だ。日本では2015年にサービスを開始したが、井野川氏はそのサービス立ち上げに携わったメンバーの1人だ。井野川氏はEC事業者と面談する機会が多いが、会員登録に関する悩みは非常によく聞くという。

名前や住所を入力するフォーム画面でサイトから離脱してしまうユーザーが3割~5割に達するという声もある。その点「Amazon Pay」は、Amazonアカウントに保存されている情報をそのまま使うので、カゴ落ちを防ぐ効果がとても大きい。(井野川氏)

アマゾンジャパン合同会社の井野川拓也氏(Amazon Pay事業部 カントリーマネージャー)
アマゾンジャパン合同会社の井野川拓也氏(Amazon Pay事業部 カントリーマネージャー)
「Amazon Pay」の概要
「Amazon Pay」の概要

ふくやでは、2017年に「Amazon Pay」の導入が完了した。当初の利用率は7%ほどだったが、2021年度は約15%に伸長。前述のコラボ缶詰の販売などにあたっては、44%前後に達することもあった。コラボ商品が想定する客層、ふくやの通常送品の客層を考慮すると、新規顧客獲得に「Amazon Pay」が大きく貢献したと言えそうだ。

また、ふくやECサイトへの「Amazon Pay」導入にあたっては、Amazon側のエンジニアによるサポートが充実しており非常にスムーズだったという。

「Amazon Pay」の4つのメリット

「Amazon Pay」には多くのメリットがあるが、消費者には4つのメリットがあると井野川氏は改めて説明する。

① 利便性

「Amazonアカウント」を使ってそのままログイン・決済できるため、メールアドレスを登録したりパスワードを考えたりする手間が不要。また個別のECサイトごとのパスワードを覚えておく必要もない。「Amazon Pay」を使えば「Amazonアカウント」のID(メールアドレスまたは携帯電話番号)とパスワードさえしっかり覚えておけばよい。

② スピード

情報入力の手間が減るので、買い物すると決めてから購入完了するまでのスピードが速くなる

③ 安心感

クレジットカード番号の漏えいリスクを考慮して、ECサイトにクレジットカードを登録したくないと考える層は一定数いる。「Amazon Pay」では、Amazonアカウントに登録されたクレジットカード情報は購入するECサイトに共有されないため、漏えいの懸念は相対的に減らせる。また「Amazonマーケットプレイス保証」の対象になるのもメリットだ。

Amazonマーケットプレイス保証:Amazon Payでの商品の購入において、購入者を保護するためにAmazonが提供している保証。詳しくはこちら

④ お得

「Amazon Pay」では現在、キャンペーン対象となるECサイトで「Amazonギフトカード」の残高分で決済すると、購入額の0.5%~1%をポイントとして還元するキャンペーンを実施している。

ユーザーにとっての「Amazon Pay」のメリット

不正受注の防止にも威力を発揮

一方、ECサイト運営者側が「Amazon Pay」を導入するメリットとはなにか。瀨﨑氏、井野川氏がここまで話してきたように、住所・クレジットカード情報の入力や、会員登録にかかる手間が軽減されることで、新規顧客の獲得、コンバージョン率(CVR)が高まることが期待できる

それに加えてあげられるのが不正取引対策だ。「Amazon Pay」では、世界各国のAmazonで利用している不正検知システムがそのまま利用されているため、信頼度は高い。越境型のEC詐欺への対応もよりスピーディに行われており、ECサイト側が不正注文を受ける心配も減るという訳だ。

導入企業にとっての「Amazon Pay」のメリット

一般的に、家電などの型番商品は転売されやすく、不正注文に悩む事業者は多い。ふくやにおいても、代金引換で注文された商品を配送したところ、該当住所が存在しないようなケースもあるという。だが「Amazon Pay」は、日ごろ使っているAmazonアカウントに登録された配送先住所やお支払い方法を利用するため、そうしたトラブルが起こりにくいと瀨﨑氏は指摘する。

たとえばブランド品のECサイトでは、いたずら注文への備えとして入力された住所をGoogleで検索して調べたり、電話したり(有人でコストをかけて)対応しているとも聞く。「Amazon Pay」では、不正注文が起こりにくく、不正取引に対する工数が削減できたという声はよくいただく。(井野川氏)

「Amazon Pay」利用は着実に増加

ふくやでは「Amazon Pay」導入の前年、2016年はスマートフォンからの購入比率が25%だったが、導入後の2017年は29%へと増加。そして直近の2022年には51%を記録するなど、PCからの購入比を超えるレベルとなった。CVRも着実に伸びているという。

加えて、「Amazon Pay」の利用キャンペーンを実施したところ、新規顧客の獲得数が目標の3倍に達するケースもあった。「多くのお客さまの間に『Amazon Pay』なら簡単に買えるというイメージがしっかり浸透しているのではないか」と瀨﨑氏は分析する。

また「ログインIDを忘れた」という問い合わせも減少した。こうした問い合わせは年に1度だけ、ギフトでふくや商品を購入している顧客に多いと想像できるが、これも「Amazon Pay」によって緩和されている可能性がある。

ただECサイト運営者としては、「Amazon Pay」で新規顧客を獲得しつつ、最終的にサイトでも会員登録をしてくれるのが理想だろう。

井野川氏からは、「Amazon Pay」を使ってお客様が初めてECサイトで購入されるのと同時に、自動的に入力された氏名やメールアドレス情報を使って会員登録を行っている事業者の事例が紹介された。つまり、顧客が許諾して初回購入と同時に会員登録すれば、メールアドレス情報を使ってマーケティングメールを送ることが可能となる。Amazon Payを使って購入ハードルを下げると同時に、会員登録促進も可能となるのだ。

「Amazon Pay」は決済手段でありマーケティングツールでもある

「Amazon Pay」が立ち上げ期から大きく変わったのは、購入額や利用額に対してポイントを還元する制度だ。前述の通り、Amazonギフトカードの利用額に対して、Amazonプライム会員には1%、通常会員には0.5%がAmazonギフトカードで還元されるプログラムだ。

つまりコード決済サービスやクレジットカードと同様、決済事業者がキャンペーンを主導し、加盟店がその恩恵を受けられるというサイクルが「Amazon Pay」にも持ち込まれているのだ。瀧川編集長も「『Amazon Pay』はもはやマーケティングツールになってきた」と評する。

セールをやった分だけ、お客さまに多く買っていただくことはできるが、そこで獲得したお客さまにどうすれば2回目、3回目と買い続けていただけるかが、EC事業者にとっての悩み。ギフトカード還元プログラムや、(許諾したアカウントに対する)プロモーションメールも、継続的な購入につながる仕組みになっている。(井野川氏)

瀨﨑氏も、サイトで「Amazon Pay」に対応しているというロゴを掲出すること自体が一定の信用となり、ひいてはユーザーの安心感につながり、マーケティング効果も生み出せるのではないかと分析。「Amazon Pay」導入の波及効果は大きいと語った。

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