配送コストを削減する方法は? 米国のデータや企業事例に学ぶ送料無料の実態&改善アプローチ
送料をEC事業者側が負担する「送料無料」は、オンライン通販利用者のニーズが高いサービスです。一方、配送料の高騰や収益性確保の観点から、事業者にとっては、送料無料はコストのやりくりに苦労するポイントです。送料無料を求める消費者のニーズに応えつつ、物流コストを少しでも抑えるために、各社はさまざまな施策を講じています。米国の小売事業者の、物流コスト削減の取り組みや成功事例を解説します。
送料の高騰、直面する配送コスト削減の課題
小売事業者は送料無料のニーズに応えるため、パッケージの変更、配送業者との交渉、配送スケジュールの変更、フルフィルメントのサードパーティー・ロジスティクス(3PL)への委託など、より収益性の高い配送方法を模索する必要があります。
送料は無料ではありません。誰かが送料を負担しているのです。多くの場合、送料を負担しているのは小売事業者です。米国のEC専門誌『Digital Commerce 360』が発行した「北米EC事業 トップ1000社データベース」によると、77.2%の小売事業者が、最低購入金額の設定などを条件に送料を事業者側で負担しています。
その理由は単純です。小売事業者は、「送料無料」を求める消費者のニーズを満たそうとしているからです。
しかし、コロナ禍とそれに続くサプライチェーンの危機で、小売企業は送料無料を提供することがいかにコストがかかることかを痛感。燃料費が高騰し、倉庫のスペースや配送ドライバーの確保も難しくなっています。こうした要因が配送料の高騰にもつながっているのです。
このような場合、多くの事業者は配送コストを減らすことに目を向けますが、具体的にはどのようにすれば削減できるのかという問題に直面します。
サードパーティやマーケットプレイスに配送を委託すべきなのでしょうか? それとも、配送を自社で行うことにメリットがあるのでしょうか? 出荷スケジュールや梱包の種類を変えることで、コストに違いが出るのでしょうか? 配送業者と交渉する余地はあるのでしょうか?
コスト削減策① 米国流のアプローチでコストカット+配送効率化
軽量な素材を使い、余分なスペースを設けず、効率的に箱詰めする
そんな課題に答える方法の1つが、物流のエキスパートを雇うことです。それが米国の小売事業者Steeped, Inc.のやり方でした。Steeped, Inc.は、袋ごと堆肥化できるコーヒーバッグ「Steeped Coffee」を販売する企業です。
Steeped, Inc.が消費者向けに直販サイトを運営するベンチャー企業だったころは、自社によるフルフィルメントで十分でした。しかし、2022年までには、米国の食品スーパーマーケットチェーンWhole Foods、Targetなどをクライアントとする卸売業、米国のAirbnb, Inc.が運営する宿泊サービス「Airbnb」のホスト、その他のホスピタリティプロバイダー向けのBtoBサービス、Amazonマーケットプレイスでの店舗運営、Shopifyによる消費者への直接販売事業も行うまでに拡大しました。
そんな事業拡大中の2022年7月にオペレーション担当副社長として入社したのがウェイド・ウィッカス氏でした。
直販と卸売の配送が複雑に絡み合うようになった時期に、ウィッカス氏は自身のポッドキャスト「Supply Chain Secret Sauce」で、「複雑さや顧客構成にかかわらず、コスト削減へのアプローチはほぼ同じである」と物流改善のアドバイスを提言していました。
そして、『Digital Commerce 360』の取材に対しては「まずは基本から始めるべき」と話します。
私が注目するのは、商品の梱包だけでなく、発送するときに使う箱です。パッケージの重量に対する占有面積を測る「DIM重量」を減らすことができれば、送料無料企画の実施など、価格戦略の観点からも有利になります。(ウィッカス氏)
米国の貨物運送事業者UPS、FedEx、米国郵便公社はいずれも、DIM重量と荷物の実重量を比較し、どちらか高い方を小売事業者に請求します。そのため、軽量な素材を使い、余分なスペースを設けず、できるだけ効率的に箱詰めすることが、一般的に輸送コストの削減につながります。
トラック運送会社に荷物を預ける「ゾーンスキッピング」の活用
配送業者の料金は荷物を運ぶ地域によって異なります。
発送するときの箱を最適化することが第一。その後、配送料金を最適化する必要があります。通常、配送料金は特定の地域、サービス、配送方法に対して設定されているからです。(ウィッカス氏)
物量が多い事業者は、同じ地域に向かう荷物がトラック1台分になるまで、小売事業者がトラック運送会社に荷物を預けておく「Zone-Skipping(ゾーンスキッピング)」を活用することでレートを最適化できます。
「ゾーンスキッピング」で小売事業者が荷物を預けたトラックは、運送会社の地域別仕分けセンターを迂回しながら長距離移動します。トラックが目的地の「ゾーン」に到着すると、荷物は降ろされ、ラストマイル配送のために仕分けされます。その結果、荷物1個あたりの輸送コストを下げることができるのです。
ウィッカス氏は、自社の荷物の何割がゾーンスキッピングを利用しているのか、また、ゾーンスキッピングを利用することでどれだけのコスト削減ができるのかについて詳細を明かしていません。
しかし、すべての小売事業者に対して、利用可能なオプションについて配送事業者と話し合うことを強く勧めています。
割引サービスの積極的な利用
ウィッカス氏は「配送業者と話し合うことが、送料を下げる最も簡単な方法であることが多い」と指摘します。ただ、大手配送会社はEコマース向けの出荷に割引価格を提供しているものの、すべての配送業者が割引価格での配送に積極的なわけではありません。
Eコマース用の割引レートを、そのまま教えてくれることはあまりないので、必ず自社からお願いする必要があります。(ウィッカス氏)
同様に、米国郵便公社がEコマース向けに提供している価格割引に気づいていない小売事業者は少なくありません。
米国郵便公社は2022年5月、「USPS Connect eCommerce」サービスを全米の事業者に開放しました。オンラインマーケットプレイスや配送プラットフォームが米国郵便公社と直接連携することで、EC事業者が配送を割引価格で利用できるサービスです。このサービスは、従来はテキサス州の事業者のみが利用可能でした。
しかし、「USPS Connect eCommerce」を利用することを事業者側から言い出さない限り、そのような割引を受けることはできません。(ウィッカス氏)
コスト削減策② 発送日時を固定、在庫を最適化
物流の基本的な部分をコストダウンするには、倉庫そのものを改善しなければなりません。
1970年代、ある自動車メーカーはジャストインタイム(編注:「必要なものを」「必要なときに」「必要なだけ」生産することで経費を減らして効率化すること)の生産方式を採用し、倉庫に商品(=自動車)を保管する時間を短縮することで、保管にかかる人件費や倉庫の利用コストを削減しました。
小売業では、無駄を少なくできるジャストインタイムでの生産方式は、配送コストを削減する斬新な方法と言えます。
たとえば、オンラインで腕時計を定期販売している米国の小売事業者Wrist Mafia。定期購入は毎月、3か月ごと、2年ごと、1年ごとの4種類を展開しており、ジョニー・ブラウン創業者兼CEOは『Digital Commerce 360』のインタビューで、「請求と発送は、基本的にすべての顧客に対して毎月15日に実施している」と、発送日を固定していることを明らかにしました。「そのため、在庫を抱える心配がなく、倉庫の保管料もかからない」とブラウン氏は言います。
商品は発送日の1週間以内に入荷し、すぐに出荷します。同時に、商品の請求に関する問題があるユーザー、新たな顧客による注文などに備えて、一定数の在庫を用意しています。だからと言って、倉庫に時計の在庫がたくさんある状態ではないので、余分なコストを抑えることができるのです。(ブラウン氏)
コスト削減策③ アウトソーシングと物流ロボットの活用
UPSがEコマース事業者500社を対象に実施した調査によると、 「複数のマーケットプレイスや配送業者の出荷を管理し、一貫したポジティブな出荷体験を確保するのは難しい 」と27%が回答しています。
物流量が小売事業者の社内スタッフのキャパシティを超え、運用チームが梱包を最適化や配送料金の交渉に乗り出し、商品が倉庫に留まる時間が短くなったときが、専門知識の追加を検討するタイミングになるでしょう。
前出のSteeped, Inc.にとって、2023年1月がそのタイミングでした。
私たちの事業規模、めざす方向性、成長スピードを考えると、物流を外部に委託する必要がありました。(ウィッカス氏)
ウィッカス氏は、ケースピッキングや箱詰めなどが可能な高度なロボット技術を持ち、Steeped, Inc.が保有する顧客全体を対象に最大限のコストカットを実現できる3PLを見つけることを目的に、提案依頼書(RFP)を作成。同時に、ロボットを効率的に使った時の効率化の最大値も調べました。
というのも、ロボットを使えば使うほど、フルフィルメントにかかるコストが改善するからです。(ウィッカス氏)
最終的に、Steeped, Inc.は「完全自律型フルフィルメント」と呼ばれるサービスを提供する米国の3PL事業者Nimble.aiと契約を結びました。
ウィッカス氏は、Steeped, Inc.がNimble.aiのサービスに対して支払う金額については明らかにしていませんが、この変更によってフルフィルメントコストを従来比でおよそ30%削減できると見込んでいます。
物流・配送コストを削減するアプローチ方法
フルフィルメントをアウトソーシングする
フルフィルメントサービスをアウトソーシングする理由はさまざまです。まず第1に、3PLやその他の物流ベンダーが、アウトソーシングによってコスト削減効果があると約束していることがあげられます。しかし、特に小規模な小売事業者にとっては、考慮すべき点があります。
たとえば、中小規模の加盟店において、少人数のスタッフでフルフィルメントを行うことはハイリスクです。販売、梱包、発送など、すべての作業を少人数のスタッフで行っている場合、1人の作業員が体調を崩すだけで、配送スケジュールが狂ってしまうからです。
主要都市、高速道路、空港の近くにある複数の倉庫に商品を保管でき、拠点を多く持つマーケットプレイスや3PLを利用すれば、迅速な配送が可能になります。フルフィルメントを自社で行う小規模な小売事業者では、このようなマーケットプレイスや3PLによる配送スピードには到底かないません。
マーケットプレイスのフルフィルを使わないという選択肢
一部の小売事業者は、配送コスト削減に向けてマーケットプレイスが提供するフルフィルメントサービスを利用しないという選択をしました。
米Amazonで「Kawach」というブランド名の充電式ヘッドランプを販売しているロハン・タンブラハリ氏は、「フルフィルメントコストを削減する1つの方法として、マーケットプレイスのフルフィルメントを利用しないという選択をしている」と『Digital Commerce 360』のインタビューで話しています。
Amazonを利用するタンブラハリ氏は、Amazonの物流代行サービス「フルフィルメントby Amazon(FBA)」を利用しないことを選択したそうです。
商品を小売事業者の倉庫からAmazonの倉庫へ配送し、消費者の手元へ運ぶための手間やコストをかける必要がありません。結果として、その方がコストがかからないのです。(タンブラハリ氏)
Amazonの会計ミスで失ったお金を販売店が回収するサービスを提供するDimeTydの創業者兼社長でもあるタンブラハリ氏。フルフィルメントと売り場をを切り離すことで、商品破損のリスクも下がると言います。
ちなみに、自社倉庫から直接消費者に発送すれば、注文に対する利益率が6~10%アップします。(タンブラハリ氏)
もちろん、FBAを利用しないリスクは発生します。FBAを利用する事業者は競合他社と差別化でき、「Buy Box」(Amazonの商品詳細ページの右側にある、消費者が「今すぐ購入」と書かれた明るい黄色のボックスをクリックするだけで商品をカートに追加できるセクション)を獲得できる可能性が高まります。
また、FBAに参加することで、Amazonの「プライム会員」向けの配送を提供することもできます。FBAを利用しないと、こうした特典を受けることができなくなるのです。
「送料無料」をやめる
小売事業者が送料を削減する最もわかりやすい方法は、一番選びにくい方法でもあります。それは、送料無料の提供をやめることです。
Amazonは、有料のプライム会員に対して、会員特典として無料かつ迅速な配送を提供することで、消費者が「プライム会員になればどこでも配送料が無料になる」と思うように仕向けました。そして、多くの小売事業者は、Amazonに追随する以外に選択肢はないと判断しました。
そう判断するには、十分な理由があります。2022年1月に『Digital Commerce 360』が実施した調査(オンライン通販利用者1108人が対象)によると、「送料無料なら消費者がオンラインで購入する可能性が高くなる」と76%が回答しました。送料無料は、オンライン通販を利用する動機に最も多くあげられた要因でした。
さらに、『Digital Commerce 360』と調査会社Bizrate Insightsが2022年8月に行った調査(オンライン通販利用者1116人が対象)では、オンライン小売事業者を選ぶ理由の上位3つのうちの1つとして、70%が「送料無料の有無」をあげています。また、女性は男性よりも「送料無料であることが購入につながった」と回答する割合が高くなりました。
『Digital Commerce 360』によると、トップ1000社データベース内の企業において、期間限定企画などを含めて送料を実施している企業の割合は、2021年の73.8%から2022年には77.2%に上昇しました。本格的なコロナ禍になる直前の年だった2019年は70.1%でした。
視点を変えれば、上位の小売企業のうち、送料を消費者に請求する企業の割合は4分の1以下です。
無料ラインの金額、中央値、実施割合などデータで見る送料無料の実態
送料無料は、商品が比較的高価、かつ軽量で、輸送コストがかからないカテゴリーで多く実施されています。
たとえば、ジュエリーカテゴリーでは、EC売上トップ1000社の小売事業者の97.6%が送料無料を提供しています。
しかし、送料無料ラインとする最低購入金額の中央値は99ドルで、送料無料の閾(しきい)値のなかではトップクラスに位置します。また、ジュエリーカテゴリーの小売事業者は、顧客が返品する送料を無料にしている割合が最も高く59.5%です。
アパレル・アクセサリーのカテゴリーでは、84.7%が送料無料、39.7%が返品時の送料を無料としています。送料無料ラインの購入金額は、花/ギフトのカテゴリーが最も低く30ドル、次いで健康/美容カテゴリーで45ドルです。
トップ1000社の小売事業者の47.3%が送料無料にするための最低購入金額を定めています。その最低額は近年、顕著に上がってきています。送料無料とするために必要な購入額の中央値は、2019年は50ドルだったのに対し、2021年には75ドルに上がりました。
大手だけでなく中堅も送料無料を意識
『Digital Commerce 360』の2022年度版「Next 1000データベース」(オンライン売上高ランキング1001位から2000位までの小売事業者をリストアップしたもの)によると、送料無料を提供している中堅規模の小売事業者の割合は73.6%で、送料無料を提供しているトップ1000社の割合よりもわずかに下回っただけでした。
送料無料は小売事業者にとってコスト負担が大きいサービス。しかし、多くの事業者は消費者ニーズに応えて送料無料をうたうしかないと考えています。そのため、小売事業者にとって、少しでも配送費用を削減する方法を見つけることは非常に重要なのです。 Steeped, Inc.は、米国内で49ドル以上の注文をした顧客に対して送料を無料としており、この試みは今後も続ける予定です。
送料無料を継続することで私たちは顧客に認知され、愛されるブランドを育てています。顧客にブランドを知ってもらうために、この簡単でシンプルなサービスを続けるつもりです。一方で、フルフィルメント側のコストは削減しています。そうすることでコスト面のバランスが取れていくでしょう。(ウィッカス氏)