小林 義法[執筆] 8/26 8:00

「ネットショップ担当者フォーラム」は2024年7月29日で創刊10周年を迎えました。創刊当時から連載「ネットショップ担当者が知っておくべきニュースのまとめ」など、さまざまな記事に携わり続けてきた運営堂 森野誠之氏にインタビュー。「GA」関連、Web制作支援・運用業務などで豊富な経験を持つ森野氏が、自身の10年間をビジネス面、パーソナル面それぞれから振り返りました。

「ネットショップ担当者フォーラム」と共に歩んだ10年間。行ってきたこと、苦労したこととは?

――まずは、この10年の仕事の振り返りをお聞かせください。

森野誠之氏(以下、森野氏):10年前は運営堂のメールマガジン「毎日堂」、「ネットショップ担当者フォーラム」での連載が始まりました。当時は「Googleアナリティクス(GA)」関連の仕事が多かったですが、現在は幅広くウェブ・EC全般を支援する仕事が増えてきて、10年で仕事の幅が広がりましたね。

今は「GA」関連は1割程で、6~7割くらいは中小企業のウェブマーケティング全般の相談・支援案件です。ウェブ担当者に話を聞いて「こういうことを行った方が良い」「こういう順番でやりましょう」「記事を書くならこういうものにしましょう」など、企業の問題を解決して売り上げアップにつながるよう支援しています。

――支援企業の業種や規模に傾向はありますか。

森野氏:支援企業の業種・業態に偏りはありませんが、飲食、美容、医療関係は行わないと決めています。飲食と医療は“腕”に左右されるもので、ウェブでどうにかする領域ではないと思っていますし、美容は私の専門外だからです。

支援企業の規模は10~20人規模が多いですね。地方や都市部など、地域の偏りはありません。

――10年間、ウェブ・EC関連の仕事に従事してきて大変だったこと、苦しかったことを教えて下さい。

森野氏:一番大変だったのは「ネットショップ担当者フォーラム」の連載です(笑)。3年くらいは毎週締め切りがあることが本当に苦しかった。当時、大学の非常勤講師も務めており、そちらも毎週発生する仕事だったのできつかったですね。ただ、大学は夏休み・冬休みがあったのでまだ良かったのですが、「ネッ担」の連載はお盆、年末年始、GWくらいしか休みがなかったので......我ながらよく両立できていたなと感じます(笑)。

ネッ担創刊10周年記念インタビュー 運営堂 森野誠之氏 創刊時から10年続いた連載
「ネッ担」創刊時から10年続いた連載

「ここまできたなら続けた方が良い」――「GA」関連を10年取り組み続ける理由とは

――当時、「GA」関連で大変だったことは何でしょうか。

森野氏:取り組み始めたときは大変でしたね。知っているつもりでも知らないことだらけで、やればやるほどわからないことが増えてきて……。実践と勉強の繰り返しでした。

バージョンアップによる仕様変更が幾度も発生し、そのタイミングで「GA」から手を引こうと考えたことはありました。けれど「『GA』の変化についていければ」という気持ちで続けてきました

――大変でも「変化についていこう」と思えた要因は何でしょうか。

森野氏「ここまでやったなら続けた方が良い、もったいないかな」と思えたことですね。取り組んでいる最中は辛いですが、新しいことをゼロから考えて勉強していろいろやるのはもっと厳しい。

けれど、続けてきてすでに土台ができ上がっていることなら、変更などがあっても新たに覚えることはそれほど多くない。たとえば「GA」で覚えることが100あるとしても、80~90くらい知っていれば事足りることが多いです。あと、100が110、120になっても絶対量は倍になるわけではなく、ある程度のところまで理解していれば、新たに覚えることは少しずつしか増えません。

「ここまでできるようになったから、ちょっと頑張れば良いだけだ」と思って続けています。取り組んでいることを徐々に変える、少しずつバージョンアップして継続していく方が性格的にも向いていますね。個人的に続けることが一番楽だと思っていますし、1つの物事に長期で取り組む方が合っている。新しいことを短期間で進めようとすると、無理が生じるのではないでしょうか。

ネッ担創刊10周年記念インタビュー 運営堂 森野誠之氏
運営堂 森野誠之氏

自身が成長を続けられた秘訣は、「前向きに考えるマインド」

――この10年、成長し続けられた秘訣は何でしょうか。

森野氏:「上手くいかないことがあれば、都度それを修正してきたこと」でしょうか。上手くいかないことがあるのは仕方がないので、そこで「何が良くなかったのか」「どうすれば良かったのか」と振り返りを行ってきました。それを受けて、支援企業に対しては「ここは良くなかったので、今度からこうします」と提案していきます。

努力していても上手くいかないことは多々ありますが、凹んでいる時間は勿体ないです。それよりも、「次にどうするべきか」を常に考えて仕事に取り組んでいます

――先日、「上手くいった時も、なぜ上手くいったのかを考えることも大事」と書かれている記事を読みました。森野さんは上手くいった時も振り返りをしますか。

森野氏:「これで良かったんだな」と振り返ります。「この方法で上手くいったのなら、他のことも似たようにできるかな」と考えて進めています。

なので、上手くいくこと・いかないことをずっと考え続けていますね。仕事モードの時は歩いている時、電車に乗っている時など常に考えています。「何も考えない」ことの方が難しいかもしれません。

――常に何かを考えていると、失敗してしまったこと、嫌なことを思い出しませんか。

森野氏:一瞬なることはあります。ただ、嫌な気持ちになったとしても、過去のことはどうしようもない。先のことは「やるか・やらないか」を決めるだけですし、やらなければいけないことはきちんとやる。過去のことや細かいことを気にし過ぎると、仕事以外にも良くない影響が出ます。

1人で仕事をしているとマイナス思考になりがちなので、前向きに考えるようにしています。不安なことを考え始めるとキリがありませんので。

独立したばかりの時は不安なことも考えていましたが、徐々に「誰のせいにもできない」「自分がサボっているからそうなってしまう」と思えるようになりました。すべて自分の責任なので自分が頑張るしかない。行っていることは「すべて自分」というところに帰結します

「後ろを向いても意味がない」「自己責任」と思えるマインドを持てるようになったことも、成長につながっているかもしれません。

ECにも大きな影響を与えたコロナ禍と未来の話

――EC業界の10年を振り返って、特に印象に残っていることを教えて下さい。

森野氏:やはりコロナ禍でしょう。一気にEC化が進み、インターネットリテラシーも高まってネットでやりとりをする人たちは楽になったと感じます。電話やFAX、対面でのやりとりが減り、メールやオンライン会議が増えたことで効率的になりました。

――「楽になった」と感じる部分はどこでしょうか。

森野氏:事業者さんを支援していくなかで、これまでは本来支援する内容よりも相当手前の部分から説明する必要がありましたが、皆さんある程度知識を持たれていて、もう一歩進んだところから話が始められるようになりました。

さらに、皆さん「いつかECをやりたい」から「やらなきゃいけないからどうすれば良いのか」と主体的に進めるようになりましたね。もちろん、コロナ禍は「なんとなく売れたら良いね」ではなく「売れないと困る」という厳しい状況ではありましたが。

ECを利用する人が増えたことで、「インターネットでモノを買うのが怖い」という人はかなり少なくなったと思います。昔は「クレジットカード情報を登録するのが怖い」「本当に届くのか不安」と思う人が圧倒的でしたが、今は逆に「このお店はECがないのか」と思われることが増えましたね。

たとえば、観光で訪れたお店で「この商品が欲しい」と思っても、通販がなくて後から購入できないとわかると、機会損失につながってしまいます。こういったケースが増えたことは、ECの浸透による変化ではないでしょうか

――いわゆる“コロナバブル”が落ち着いて、コロナ禍を機にECを始めた企業の状況はどうでしょう。

森野氏:元々実店舗がある事業者さんに聞くと、店舗にお客さんが戻ってきていますね。ECは、実店舗で買った人がリピート買いする手段になっていることも多いです。今はコロナ禍の時期ほど注力しないわけではないですが、「店舗とEC、両方合わせてどう運用していくか」というフェーズになっています。

それから、「実店舗で生の声を聞かないと厳しい」とも聞きます。リアル接点でお客さんの声を聞かないと、商品やサービス改善のヒントを得るのは難しいそうです。

店舗には「SNSで知った」「口コミのある『Googleマップ』で見た」など、さまざまな接点からお客さんが訪れますし、そういったお客さんから多様でリアルな情報がどんどん入ってきます。こればかりは検索しても調べられない情報なんです。

今後、越境ECがポイントになる

――未来の話はどうでしょうか。10年先もEC事業者さんが生き残っていくためのポイントをお聞かせください。

森野氏:国内で狭い分野で頑張るか、海外に出るかでしょうね。国内市場は人口も減って縮小していくので、国内でこれから広げるのは大手以外だと難しいのではないでしょうか。もしかしたら事業者の買収が増加していくかもしれません。

越境ECは、まだ積極的ではないものの取り組んでいる支援企業もいます。Instagramなどを運用していると海外からの問い合わせが自然と来ますし、商品によっては検索から直接来たりもします。今は翻訳で手軽に質問や購入ができますからね。

商品については、特殊な商品ではなく、日本人が欲しいと思うものが海外の人にも売れています。逆に日本刀など特別なものを売る方が難しいようです。

愛読書は『銀河英雄伝説』。買い物は「Amazon」一択。休日は徳島でサッカー観戦

――続いては、10年間の森野さんのパーソナルなお話を伺います。

森野氏:プライベートで印象に残っていることは、10年前に家を購入したことです。当時、良い中古物件があっても妻は首を縦に振らなかったのですが、突然新築物件が建つという情報を得て「ここにする」と言われました。まだ更地の状態で「買うから」と言われて……。建て売りが立つ予定だったのですが、不動産会社からは「(家を見ずに)本当に買いますか?」と聞かれました(笑)。

それから6年ほど前に犬を迎えました。これも妻が急に「飼うから」と言って迎えることになりましたね。

子どもがいたのであっという間の10年でした。子どもたちは成長して、2024年春に中学三年生と高校三年生になり、高校受験と大学受験を同時に迎えます。

オススメ書籍は人間のすべてが描かれた『銀河英雄伝説』と北方謙三氏の『水滸伝』

――森野さんというと、たくさん本を読んでいる印象です。そんな森野さんが今まで読んだ本のなかでオススメの書籍とその理由を教えて下さい。

森野氏:田中芳樹さんの『銀河英雄伝説』でしょう。「人間のすべてが書かれている」と言っても過言ではない。宇宙の二大勢力の政治的・軍事的な争いを描いたSF小説ですが、本当に登場人物が多いのです。真面目な人も、いい加減な人も、ずるい人も登場します。民主主義のような“体制”の嫌なところもわかるようになっています。人生のすべてが凝縮されていて、一度読んでおくと生きるのが楽になるので、本当にオススメです。

コミカライズもありますし、過去にはアニメ化もされて最近リメイク版が放送されています。昔のものはVHSで売っていたのですが、とても長くてなかなか進まない。“タイパ”を重視する今の時代に逆行していますね。

ネッ担創刊10周年記念インタビュー 運営堂 森野誠之氏 銀河英雄伝説
森野氏オススメの一冊『銀河英雄伝説』(画像提供:森野氏)

もう1つは北方謙三さんの『水滸伝』。まず、ご存じない人に説明すると北方さんはハードボイルドな作家さんで、“男の渋さ”というイメージを持つ方です。

『水滸伝』をオススメする理由を説明するのが難しいのですが……。「仕事に役立つか・役立たないか」という観点では、特に役立たない。けれど、特に男性が読んだらきっと面白いと感じる部分が多いと思います。あと、ある程度年齢を重ねていると共感できるポイントが多くなると感じます。

ちなみに、『楊令伝』『岳飛伝』と続いて、水滸伝三部作となっていますので、興味がある方は全巻読んでほしいですね。

ネッ担創刊10周年記念インタビュー 運営堂 森野誠之氏 北方謙三氏の水滸伝
北方謙三氏が執筆した『水滸伝』(画像提供:森野氏)

手軽ですぐに商品が届く「Amazon」を愛用

――ECにも携わる森野さんがよく使う通販サイトを教えて下さい。

森野氏:「Amazon」ですね。手軽さが好きです。私は、買い物はそんなに悩んで選ばないし「買い物を楽しむ」ことにも興味がなくて。だから、自分が欲しいタイミングでさくっと買えてすぐ手元に届いてほしい。クーポンやポイントにも惹かれないですね。そういったことに頭を使う時間がもったいないと思ってしまうので。

――なるほど。そんな森野さんがECでこれまでに購入した「これは人にオススメしたいモノ」は何でしょうか。

森野氏:折りたたみ式のエアロバイクです。コロナ禍に運動不足になってしまったので、健康のために当時1万円くらいで購入しました。サイズと値段の安さが決め手です。収納時に折りたたむとスティック型掃除機より少し大きいくらいで、広げても0.8畳くらい。スマートフォンスタンドも購入したので、エアロバイクの前にスマホを置いて音楽や動画を楽しみながら運動できます。

エアロバイクをオススメするのは、漕ぎながら他の作業ができるからですね。私は主にアニメを視聴しながら漕いでいます。アニメは1話25分で運動にちょうど良い時間なので。「今日はもう少し頑張ろう」と思ったら何話か続けて見ればいい。黙々と漕ぐだけ、歩くだけだともったいない気がしてしまって。個人的には何かをしながら運動もできる、エアロバイクが一番続けられますね。

ネッ担創刊10周年記念インタビュー 運営堂 森野誠之氏 運動不足解消のためにコロナ禍で購入したエアロバイク
運動不足解消のためにコロナ禍で購入したというエアロバイク(画像提供:森野氏)
運動不足解消のためにコロナ禍で購入したというエアロバイク(画像提供:森野氏)
折りたたむとスティック型掃除機ほどの大きさになる(画像提供:森野氏)

――休日はどのように過ごしているのでしょうか。

森野氏:名古屋と徳島の2拠点で仕事をしているのですが、名古屋にいるときは、朝から犬の散歩に行き、その後モーニングを食べながら少し仕事をします。帰宅してからは昼まで仕事の続きをする、というのがルーティンです。昼食後はやることがなければ夕食までずっとゲームをするという生活です。サッカー観戦がないときは外に出なくても平気ですね。

サッカー観戦ですが、2017年頃から「徳島ヴォルティス」を応援しています。以前からスペインというかバルセロナのようなサッカーが好きで、そのスペインからリカルド・ロドリゲス氏という監督が来日し、魅力的なサッカーを展開していたんです。

それまでJリーグにはあまり興味がなかったのですが、スペイン人の監督が就任したというので見てみたら面白くてハマりました。徳島のホームで試合があるときはほとんど現地で観戦しています

なので、同業の人は「休日にテーマパークへ行って研究する」とか「映画を見に行く」「イベントに参加」するといったことや勉強などをしていますが、私はしていません(笑)

――最後に「ネットショップ担当者フォーラム」へコメントをいただけますか。

森野氏:10周年おめでとうございます。10年間一緒にやってきて、お互いに成長してきたと言って良いかもしれません。記事を読んで、作って、ずっと編集部の皆さんと仕事をしてきたので、今さら「おめでとうございます」というのも不思議な感じです。同士に近い存在なので「もう10年か」という印象です。

これから先の10年「ネットショップ担当者フォーラム」がどうなっていくのか楽しみです。

――ありがとうございました!

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