アジア新興国市場に立ちはだかる6つの矛盾
消費財メーカー・小売企業がアジアの新興国で利益を伴う成長を持続させるためには、一見矛盾する数々の要素をうまく両立させていかなければなりません。
長期的な利益「と同時に」、短期的な成長と利益にも注力する必要があります。
企業は長期的な利益と、短期的な成長と利益との間のバランスを保つ必要があります。DanoneのYves Pellegrino氏(Corporate Finance Director)から、次のような同社のアプローチを披露していただきました。
「初期段階では、市場から得られる利益を上回る投資を行う必要があります。しかし当社では早期に“pay-as-you-go”システムと呼んでいる段階に移行する必要があると考えています。ひとたびこの段階に達すると、収益を得るスピードに合わせて再投資することが可能になり、これは最も持続可能な方法だからです。
もし単に成長のための成長を追い求めるとなれば、それは他のどのような地域でも再現できることではないので、早晩大きなトラブルを抱えることになります。利用可能な資源には常に限界があり、注意深く配分する必要があります。“pay-as-you-go”システムは、現地が自律的に成長するためのエンジンと燃料を与えられるということを意味します」
現地の消費者ニーズに応える「と同時に」、グローバルな能力を活用する必要があります。
企業は現地において、しばしば都市毎にまで焦点を狭めて消費者ニーズを理解する必要があり、そのニーズに合わせた商品を提供する仕組みを構築しなくてはなりません。しかし、現地化にのみ焦点を絞ることは、コストがかさみ、スケールメリットを出すことができなくなるため、利益率を落とすことになります。
「地域性を考慮する必要があります。インドネシアでは島ごとに経済や文化が大きく異なります。当社のブランド・ポートフォリオ、都市や地域の経済比較、喫煙者の嗜好などをすべて考慮したうえで、どうすれば消費者ニーズに応えることができるかを決定します」とPT HM Sampoerna Tbk.のPaul Janelle氏(President Director)は述べています。
企業は起業家精神を発揮する「と同時に」、グローバルな企業文化を尊重する必要があります。
アジア新興国はダイナミックで変化が速い市場であり、リスクの取り方や意思決定の仕方に関して起業家的な発想が有効です。多国籍企業は、グローバルな企業文化と価値観を維持しつつ、いかに起業家精神が発揮される環境を整えるかを考える必要があります。
「成熟市場が停滞しているため、欧州市場での落ち込み分を埋め合わせるため、新興国市場を成長の推進力にしようとする圧力が高まっています。しっかりとしたコンプライアンス体制の構築は重要ですが、官僚主義は避けなければなりません」(David Steer, Managing Director, East.West.SBS, and former Presidentof Kraft Foods Russia.)
企業は多角化によってリスクを軽減する「と同時に」、規模の拡大を推進する必要があります。
アジアの新興国ではどこでも、国、地域、都市ごとに成長の段階や発展のペースが異なっています。したがって、セグメント、カテゴリー、製品ごとに多角化が必須です。同時に、企業は「規模の経済」と「範囲の経済」を追求し、複雑さを軽減して、収益を伸ばす必要があります。
「企業は短期的な観点と長期的な目標の双方を持たなくてはなりません。様々なトレード・オフの関係を見る必要があります。ピラミッドの頂点のいくつかの分野ではしかるべき利益目標を掲げ、ピラミッドの中位では利益率アップのための改革を模索する一方で、底辺では事業の拡大やトラディショナル・トレード(小規模個人商店やマーケットなど伝統的な小売業態)に対応するといった総合的な調整が必要になります」(Gregory Stemler, Consumer Products Transactions, EY.)
企業はマス・マーケット商品やトラディショナル・トレードに焦点を置く「と同時に」、ハイエンド商品、モダン・トレード(スーパー、コンビニなどの近代的小売形態)やe-コマースに注力する必要があります。
企業は異なる消費者のセグメントを狙って、上から下までの価格帯を網羅するプロダクトポートフォリオを持つ必要があります。また、十分に多様化した流通チャネルを通してあらゆる市場にアクセスすべきです。
「インドで利益を伴う成長を実現するための最大の課題は、地理的に分散し好みも多様な消費者に、どのように対応すれば利益に結び付けることができるか、という点にあります。これはどのようにして消費者に製品を届けることがビジネスの理に適っているのかということです」(Godfrey Nthunzi CFO, Colgate Palmolive India)
企業は機動的で適応力が高い「と同時に」効率的でなくてはなりません。
ダイナミックで、変化の速い市場においては、機動的で適応力が高いことはコア・コンピタンスとなります。企業は新たなビジネスチャンスに速やかに対応し、市場に適応して躊躇せず、柔軟な手法を採用すべきです。しかし、同時に不必要なコストを最小限に抑え、プロセスを最適化するためには効率性が鍵となります。
「各市場を個別に考える必要があります。例えばベトナムは南北に細長い国です。この国では複数の工場を持つ必要があり、さもなければ輸送コストが高くなりすぎてしまいます。一方でタイのような市場では巨大な工場を建設し、製造コストを劇的に引き下げることが可能です。地理的な要因は適切なバランスを取るという点で重要な要素です」とサントリー食品アジア社の朴洪植氏(CEO)は指摘しています。
利益を伴う成長を実現するために企業は何をすべきか?
多くの企業が、以上述べてきたような難題を抱えて利益を伴う成長を実現するために苦労していることは驚くに値しません。たとえば今回の調査では、消費財・小売セクターにおける253社の調査対象企業のうち、利益成長を実現し、かつ、同業他社よりも明らかに高い売上高成長率を維持していると認められたのは僅か2割に過ぎません。
これら業績の良い「ハイ・パフォーマー」にはその他大勢の企業と異なる、いくつかの共通点が見受けられます。これらのハイ・パフォーマーからの洞察と、私たちの経験と分析から、アジア新興国市場で利益を伴う成長を実現するためには、次のような8つの取り組みが必要となる、という結論を導き出しました。
「消消費財メーカーや小売企業にとって利益を伴う成長を続けることは大きな試練です。困難を乗り越えるために企業はここに示す8つの項目すべてに取り組む必要があります。このうちの幾つかだけでは不十分です」(Andrew Cosgrove, EY)
▶この記事は、新日本有限責任監査法人の記事を転載しているものです。
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