新日本有限責任監査法人 消費財セクター 2015/7/23 7:00

経営者のためのチェックポイント

  • 消費者への価値を犠牲にすることなく、複雑さを適切に管理するにはどうすればよいでしょうか?
  • 生産拠点を考える際に、販売・物流コストを含め、全てのコストを考慮に入れていますか?
  • 現地化によって、スケールメリットが失われることはないでしょうか?

現地化は成長へのステップとみられていますが、コストも伴います。企業がその製品について、現地のニーズに対応しようとすればするほど、投資が嵩み、機能や経営資源の重複も増えて、スケールメリットを追求する足かせとなります。

しかし、確かに効率性を高めることは利益を伸ばす上で重要とされてきましたが、それ以上に消費者への価値の提供を優先すべきです。効率性の追求か、現地ニーズの充足かという選択は必ずしも二者択一の問題とはなりません。ハイ・パフォーマーも同様に考えています。なぜなら、利益率の改善に最も重要な要素であるコスト削減策について尋ねられたとき、彼らは一見、矛盾する施策をあげているからです。

すなわち、生産の現地化と、中央への集約やシェアード・サービス・センター(間接業務サービスに特化した組織)の新設です(図11参照)。

貴社が利益率を改善するために最も重要な手法と考えるコスト削減策は、次のうちのどれですか?
図11 質問と回答: 貴社が利益率を改善するために最も重要な手法と考えるコスト削減策は、次のうちのどれですか?(図は、上位3位に挙げられた施策の比率、%)

EYのMarkYeomans(International Supply Chain Strategy)は、「市場の近接地に生産拠点を立地することで、関税を回避し、価格競争力を高められるだけでなく、より現地ニーズに対応した製品を導入できるようになる」と述べています。「私たちが理解しなければならないことは、消費者、そして顧客にとっての価値は何かということです。これこそが最優先のテーマです。効率アップやコスト削減に向けた取り組みから着手すると、顧客にとっての価値に関して妥協することになってしまいます。スケールメリットは過大評価されているというのが私たちの考えです」José Lopez, Executive Vice President, Operations, Nestlé

企業は現地生産の立地条件に関して意思決定を行う際に、効率性だけでなく様々な要因を考慮する必要があります。DanoneのPellegrino氏は次のように述べています。「アジアのどこかに巨大な工場を建てれば、極めて大きな効率性を手に入れることができます。しかし、流通コストを計算に入れた場合には生産効率性のメリットは吹き飛んでしまうかもしれません。重要なのは、規模はすべてではない、ということです。もちろん、生産が最適化されるよう種々の要因を考慮する必要があり、コスト抑制や利益率管理の手を緩めるわけには行きません。しかし、それらを優先することで、成長機会を捉えることを犠牲にしてはなりません

言い換えれば、消費者や顧客にとっての価値より、効率性を優先させることは、結果的には、現地ニーズに合わせることよりも高くついてしまいかねないということです。「最も重要な点は消費者や顧客にとっての価値とは何かを理解することにあります。これが最優先事項です。もし、効率アップやコスト削減に向けた取り組みから着手すると、顧客にとっての価値に関して妥協することになってしまいます。この点で、スケールメリットは過大評価されていると考えています」とNestléのJosé Lopez氏(Executive Vice President, Operations GLOBE)は述べています。

企業は、複雑性、需要の変動、突然の変化といった、新興市場に共通する特徴を事前に想定して計画を立てなければなりません。そのためには、製品をカスタマイズし、かつ変化する需要に速やかに適応し得る柔軟性を備えたサプライチェーンを構築することが肝要です。「新しい消費トレンドや消費者ニーズの変化は、突然起きることがあり、私達はいつそれが起きるか常に注意している必要があります。世界的企業の一部門として機動的に反応できることが重要ですが、舵取りは必ずしも容易ではありません」とadidas GroupのEdgar Ho氏(CFO, GreaterChina)は述べています。

世界的なスポーツ用品メーカーであるadidas Groupは、中国に7,500の自社ブランド・ショップを展開しており、ほとんどがフランチャイズ方式を採っています。一部の省・都市などである特定の製品に対して予想外の需要が生じた場合、同社は素早く在庫を他店から必要な店に移して、商機を逃さないようにする必要があります。こうした需要に備えるため、同社は小売販売店とのデータ接続を行うシステムに投資しました。

同社のHo氏は次のように述べています。「わが社では各店舗から日次で売上データが送られてきます。ここから今、起きているトレンドを知ることができます。もしある商品がある市場で売れ筋となっていることが判ったら、他店から商品を移せるよう、フランチャイズ店と協力します。これによって、トレンドを把握し、先々に向けて準備し、在庫が不足気味ならばグローバルの生産チームに追加発注することが可能になります

ハーゲンダッツでは品質を最優先

アイスクリームメーカーのHäagen-Dazsは中国に進出する際、自らを高級ブランドと位置付けし、欧米の高級品店が林立する一等地におしゃれなカフェを開き、顧客に限られた人のための高級店舗といった印象を与えることを狙いました。高品質の確保を優先することと、サプライチェーンを通して常に摂氏マイナス26度を維持する難しさから、同社は現地生産を行わず、すべて欧米の工場から輸入し、サプライチェーンのすべての過程を社内で取扱い、管理することを決定しました。

海外から出荷された製品は、上海と北京にある倉庫に持ち込まれ、特装冷凍トラックで中国各地の店舗へと配送されます。このため、莫大な輸送コストと93%もの輸入関税を負担しなくてはなりませんが、同社は製品の高品質を確保しています。その結果、同社は中国において2008 年10 から2012年の間に平均年率24.7%の成長を遂げました。

アジアにおける統制された流通チャネルの構築

Mark Yeomans International Supply Chain Strategy, EY

消費財メーカーの多くは、アジアにおいて売上高を伸ばそうと躍起になっている間は、流通チャネルの管理に対して十分な配慮と注意を払っていませんでした。しかし今日では、利益を伴う成長を実現するため、企業はそれぞれの流通チャネルに対して的を絞ったアプローチを採る必要があり、そうでなければチャネルごとに利益率が低下するリスクがあります。このことは、各チャネルの基本的な違いを理解し、多くの場合、小売店、代理店、卸売業者などとの契約改訂交渉という困難な課題に取り組まなければならないことを意味しています。

企業は、地域ごとの販売方法の特徴を明確に把握する必要があります。このため、モダン・トレードとトラディショナル・トレードに二分するという、従来からのチャネル区分に拘泥しない市場セグメンテーションを行い、消費者の購買パターンを、農村型トラディショナル・トレード、都市型トラディショナル・トレード、都市型モダン・トレード、およびハイエンドブティックなどと区分するほか、急速な発展を遂げているネットショッピングにおける商機も考慮すべきです。

統制された流通チャネルの構築は、最優先事項の一つです。企業は適切な製品を、適切に包装し、適切な価格で、かつ適切な流通チャネルを通して提供しなくてはなりません。

たとえば、高級化粧品はブティック型の販売網で、1回使い切りのシャンプーは、トラディショナル・トレードで供給すべきです。多くの消費財メーカーがアジアにおいて直面している重大なリスクの一つとして、異なったルートでの販売の混在が放置されていることが挙げられます。たとえば、トラディショナル・トレードのチャネルで販売される商品は、モダン・トレードのチャネルで販売されるべきではなく、その逆もまたしかりです。

企業は、商品ごとにターゲットとする消費者に合わせて市場への供給ルートを選び、包装を設計する必要があります。かつてアジアでは時にはコストを顧みずに、成長を期待した企業が殺到したため、当時の放漫なライセンス供与や販売契約が負の遺産となっています。

今、企業はこの問題に取り組む必要に迫られています。1年ないしは短期の契約の方が、5年や10年の契約に優ります。そして、すべての契約は、監査を経た年次の業績に基づいて更新が可能でなければなりません。

▶この記事は、新日本有限責任監査法人の記事を転載しているものです。
オリジナルの記事(PDF)はこちらから閲覧できます

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