緊急事態発生! どうしようパートさんが集まらない! 運送業界が直面する現実
原油の高騰やドライバーの高齢化など、運輸業を取り巻く厳しい状況は、業界紙だけではなく、一般紙でも大きく取り上げられる機会が増えてきた。しかし実際は、ドライバーだけではなく、倉庫の庫内作業を担うスタッフの人員不足にも各社頭を悩ませている。今回は、庫内スタッフの人材不足について、各社に現状を聞いてみた。 イラスト◎つぼいひろき
うちは、千葉の湾岸エリアに倉庫を構えているよ。近年、この湾岸エリアは、大規模物流施設がどんどん建てられて、アマゾンや楽天などの有名企業のセンターも進出しているから、すごく注目されているんだよ。東京からのアクセスもいいから、この地域を指定して倉庫を探しているクライアントも多いくらい。営業の提案としては非常にいい立地だと思うよ。
ただ、最近は庫内作業のスタッフ募集をかけても、なかなか集まらないんだよ。同じ作業内容、同じ時給だったら、やっぱり有名な企業の求人を選ぶのかなあぁ。確かに、超有名アパレル通販サイトの物流現場は、現場も綺麗でおしゃれな感じになってるらしく、駅からの送迎バスも若者で一杯で、なんか遠足みたいに楽しそうだよ。
さらに追い打ちをかけるように、この地域は大規模ショッピングモールの新規オープンや増築なんかも続いているんだ。物流会社の間だけじゃなくて、流通業とも熾烈な人員の奪い合いだよ。パートに応募してくれるのは、やっぱり主婦層の方々が多いんだけど、
魅力のある職場環境や時給とか、なんか惹きつけるものを考えないとまずいネェ。庫内作業をしてくれるスタッフは限りある資源なんだってことをつくづく思い知らされているよ。 (物流会社社長)
中部地区に物流拠点があるんですが、スタッフの募集をかけてもホントに全然集まらないんですよ。地域的に元々、自動車などの製造業の拠点が多いんですけど、ほら、今景気がいいみたいで、人の募集をどんどんかけてるんですよね。今までの時給では全然集まらないから、50円、100円と時給を上げてはいるんですけど、それでも応募がゼロなんて時もあるんです。ここで悩ましいのが、どのぐらいの頻度で募集をかけるかってことですネ。もちろん人手が足らないから、頻繁に募集をかけたいところなんですが、あまりにいつも募集してると、定着率の低いブラックな現場だと思われそうでしょ。そもそも、“ブラックってなんだ”という疑問もあるんですが、少なくとも応募してくれる人たちからすると、気になるポイントでしょうね、きっと。それに、募集の時給を上げていけば、今働いてくれているスタッフだって、継続的に働いてもらうにはある程度時給を上げていかなきゃいけないですし…。今日来た新人スタッフより、ベテランスタッフの方が時給が安いなんて状況では、スタッフの信頼を失ってしまいますからね。
今回改めて思うんですけど、物流現場のコストって、一番は人件費なんですよね。よくやってしまいがちな“人海戦術”ってのが、一番儲からない。「極力、人手のかからない“仕組化された物流現場”を作ること」「優秀な人材に長く働いてもらうこと」。
この二つがすごく重要なんだと思います。 (メーカーの物流子会社担当者)
人手が足らない物流現場から派遣の依頼も多いから、仕事としては順調ですね。ただ、この労働者派遣の業界は、近年の法改正などにより特に法令遵守が求められています。
当社はもちろん業界大手として、法令順守を徹底してますが、中小の派遣会社では利益を優先して、社会保険等の未加入や偽装請負をやっているところもまだあるようです。ただ、2012年の労働者派遣法の改正によって、条件がさらに厳しくなると同時に、発注元の企業への責任も問われるようになってますので、派遣を受ける側も今まで以上に注意が必要かと思われます。
職業柄、いろいろな業種業態の会社の担当者とお話をするのですが、物流業界に限らず、どこも人手不足なんですよ。最近も、大手居酒屋チェーンが人材不足のために何十店舗も閉鎖するってニュースが話題になってましたよね。どの業界も、“時給を上げても人が集まらない”という悩みは同じなんです。だから、どの企業も人材の囲い込みに走ってる。メディアでも大きく取り上げられた、ユニクロの「パート・アルバイトの1万6000人を正社員化」や、スターバックスの「契約社員800人を正社員化」といったニュースもその一例です。
そして、もちろんその流れは物流業界にも来ているようです。不確定要素が多く、決して安くはない派遣を使うぐらいなら、自社できちんと雇用して教育し、福利厚生もきちんとした中で定着率を高めて作業効率を上げていく。そんな取り組みを始めようとしている流通・小売業も出てきました。
物流会社が、パートさんや派遣さんを安い使い捨ての駒だと考えているようなら、そのうち誰も見向きもしない業界になってしまうかもしれませんよ。 (作業員派遣の会社担当者)
現在の慢性的な人手不足は、一時的なものではない。日本の労働人口自体が減少していく中で、 今後は他業種を巻き込んださらなる人材の奪い合いが起こるだろう。
しかし皆さんご存知の通り、物流業界は職場としてはまったく人気が無い。長時間労働と低賃金のイメージが付きまとい、若者が夢を実現しようと飛び込んでいく環境もないからだ。
「物流業界は将来どうあるべきなのか」 今物流に関わる者すべてが、考え・行動する段階に来ているのかもしれない。
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