瀧川 正実 2015/8/19 6:00

通販サイトのデザイナーは、自身が作った商品画像などのクリエイティブを通じ、どの程度商品が売れたのか把握することにはあまり関心がない。なぜなら、サイトに制作物をアップした段階で自身の“仕事”は終了で、販促や売れ行きなどのチェックは他のスタッフが行うことが多いためだ。

しかし、デザイナー自身が作ったクリエイティブ経由で、どの程度売れたのかわかればデザイナーの意識は大きく変わると思いませんか? “売れる”喜びを知ったデザイナー、換言すると商人魂を持ったデザイナーが社内にいるだけで、商品の売れ行きが変わる……そんな体制を作り上げたパジャマのECサイト「パジャマ屋」の事例を紹介。

デザイナーの“やる気”アップが売り上げ増につながる!

右肩上がりで売上高を伸ばしているというパジャマのECサイト「パジャマ屋」(運営はフレックス)。その主因は「デザイナーのやる気」と熊坂雅之社長は説明する。

一般的にWebの制作は、「芸術的要素が高い仕事で、クリエイティブ力が重視される。しかし、ECはちょっと違って、重要な指標は“売れるかどうか”。そんな軸で考えているデザイナーは少数派だと思う」(熊坂氏)。デザイナーは日々の制作業務に追われ、作ったクリエイティブ経由でどれだけ商品が売れたのか、チェックする時間的な余裕がないというのも、売り上げに関心が薄い原因の1つだろう。

フレックスは、「楽天市場」で販売している製品の商品画像を自動でA/Bテストし、効果が最も高い画像を自動選択してECサイトに掲載するツールを活用。デザイナーは、自身が作った複数の商品画像について、どの画像からどの程度売り上げにつながったのか、手間をかけることなく把握できるようにしている

「パジャマ屋」を運営するフレックスの成長の秘訣(ひけつ)①
「パジャマ屋」の通販サイト

どのクリエイティブが一番売れたのか、データとして客観的に見ることができるので、デザイナーは良い結果も悪い結果もすんなりと受け入れることができるようになった

そもそも、どんな要素が売り上げにつながったのかは結果論。いろいろ試してみることが重要だけれども、売り上げが悪かったらデザイナーは社長や責任者に文句を言われる。だから、デザイナーは文句を言われないようにチャレンジせず、無難なクリエイティブ作りに終始してしまう

専用のツールを使うことで、デザイナーが結果と売れ行きをチェックできるようにしたことで、思い切ったチャレンジができるようになったし、“売る”楽しさを実感できるようになった。モチベーションが高くなっていると感じる

“売る”ことを知ったデザイナーが社内にいることは大きな差別化要因

実際に、「パジャマ屋」らのデザイナーが作り、販促に使ったA/Bテストのクリエイティブ2パターンで、どっちの商品画像が“売り”につながったのか、見てみよう。

「パジャマ屋」を運営するフレックスの成長の秘訣(ひけつ)②
画像A(左)と画像B(右)。画像Aの勝ちで、売り上げはBと比べて175%増
「パジャマ屋」を運営するフレックスの成長の秘訣(ひけつ)③
画像C(左)と画像D(右)。画像Dの勝ちで、売り上げはCと比べて25%増
「パジャマ屋」を運営するフレックスの成長の秘訣(ひけつ)④
画像E(左)と画像F(右)。画像Eの勝ちで、売り上げはFと比べて47%増

利用しているツールは「ABテスタ for 楽天」(開発・販売はインフォマークス)。「商品画像の掲載」「売り上げなどの効果検証」「写真の差し替え」を自動化。「楽天市場」のRMSから商品画像を登録し、A/Bテストに用いる画像を選択するだけで、最も効果の高い商品を自動的に選択できるようにするものだ。

このツールを使って、“売れるクリエイティブ”を作る楽しさを覚えたフレックスのデザイナー・富樫克子さん。クリエイティブ作りなどについて次のように説明する。

パジャマだから、画像Dは足を露出し、床も見せるようにしました。コントラストを付けるために背景色は白色にしたところ、売れ行きは好調。その後も、パジャマ製品はこうした基準をもとに画像を作成しています

傾向値ではありますが、画像にはモデルの顔を入れない方が、反応が高いです。しかし、「父の日」「母の日」は顔を入れた方がレスポンスは良いですね。利用者は顔を見ることで、贈る相手であるお父さんやお母さんをイメージするのでしょう。

視認性の問題にもなりますが、背景色は白がいいですね。こうした傾向値はありますが、結局、商品によってだいぶ変わるのが実際のところ。ただ、サムネイルに表示する画像の文字は、視認できる大きさにするのがベストだということがわかりました。

このように“売れるクリエイティブ”を量産していくことで、フレックスが出店している「楽天市場」店は好循環が生まれている。

商品が“売れる”ようになると、「楽天市場」の検索結果でフレックスの商品が上位で表示されるようになったのだ。

「楽天市場」の攻略方法の1つにあげられる検索結果対策。検索上位に表示されるためには、「売れた数」「レビュー評価」などが必要とされている。こうした対策にも「A/Bテスタ」を使用したクリエイティブが一役買っている。

検索結果に表示されるサムネイルは、商品登録時にアップした1枚目の画像。つまり、“売れるクリエイティブ”をサムネイルに表示されるようにするだけで、売り上げが伸びる好循環を作り出しているのだ。

「パジャマ」という商品名は多くの店舗が使用しているキーワード。そうなると、クリックしてもらうための大きな要素として、クリエイティブの質が重要になってきます。実際のところ、画像やキャッチコピーのクオリティは、差別化につなげやすいと思っています。

当社では“売れる”クリエイティブ作りに喜びを感じたデザイナーがいて、モチベーションを高く維持して業務にあたっています。デザイナーが商売人になっているようなもので、これは他社には真似できない強みなんです。(店舗統括マネージャーの熊坂泉さん

「パジャマ屋」を運営するフレックスの成長の秘訣(ひけつ)⑤
店舗統括マネージャーの熊坂泉さん

デザイナーの評価、教育にも貢献

経営者や責任者にとっても、売り上げ以外の大きな収穫がある。まずはデザイナーの評価だ。

「結局どれだけ売れたの?」ということを数値化することが大変なので、デザイナーの評価は難しかった。しかし、作成したクリエイティブがどれだけ売り上げを生み出しているのか把握できるようになったので、クリエイターの評価がしやすくなった。(熊坂社長

「パジャマ屋」を運営するフレックスの成長の秘訣(ひけつ)⑥
熊坂雅之社長

熊坂社長が次にあげたのが教育の観点。制作物の何が良かったのか、悪かったのかを数字をもとに把握できるので、デザイナーは“売れる制作物”のノウハウを蓄積することができるようになった。「通常は、1日数万円のセミナーに出席するといったことがクリエイターの教育には必要になるが、社内業務を通じてノウハウを得て、レベルアップできている」(熊坂社長

また、商品画像のクリエイティブテストで使ったものは、出稿する広告にも応用。広告効果を上げることに成功している。

スタッフの意識も大きく変わった。ネットショップの業務は「撮影する人」「制作する人」「商品を買い付ける人」など分業型がほとんど。それぞれの各スタッフが100%以上の力を発揮すれば大きな力となるが、その実現はなかなか難しい。

だが、フレックスでは“売る”喜びを知った各スタッフが100%以上の力を発揮するようになったという。

たとえば写真撮影。“売る”ためには何が必要かと考えたデザイナーは、写真の撮影方法に注文を付けることもある。「つまり、どのようにしたら“売れる”のかデザイナー自身が考えるようになった。『こんな写真があればもっと売れる』という考えを、はっきり示すようになった」(熊坂社長

いまフレックスでは、広告費をつぎ込んで売り上げを伸ばすより、転換率上げる方向にシフトしている。それがネットショップとしての健全な運営方法。そのためには、クリエイターのレベルアップがカギになると考えている。(熊坂社長

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