検索動向の振り返りで痛感「顧客ニーズへ最適に応える重要性」。2023年以降のポイントは“過去データに頼りすぎない”こと
2023年5月にインフルエンザなどと同様に第5類に移行される新型コロナウイルス感染症。「まだ3年」か「もう3年か」と捉えるかは人それぞれですが、この3年でデジタル化の加速など、消費行動を取り巻く環境は大きく変わりました。この3年間に起きた検索動向を振り返りながら、今後のSEO施策は何をすべきなのかを考えていきます。
金融危機、震災、コロナ禍で痛感「顧客のニーズに対して最適に応えること」の重要性
今ではECサイトを立ち上げてある程度のSEO対策をすれば、検索結果の上位を獲得できたのは昔の話です。筆者はEC業界に携わってから十数年で、金融危機、震災、世界規模の感染症を経験。経済、消費、そして検索ニーズは大きく変わり、検索結果の順位で安定的に上位を維持することは難しくなってきています。
「SEO」の「O」の持つ意味「Optimization=最適化」の通り、変化が激しい時代でも常に鮮度を高く保ち、顧客のニーズに対して最適に応えることが、これからのEC事業者にとって大切なこと――こう改めて痛感したのはコロナ禍を経験したことも影響しました。
筆者は2020年1月に起業し、その直後にやってきたのがコロナ禍でした。「買い物はネットで」と政府が働きかけたこともあり、EC業界にとって大きな追い風になりました。
食品、消耗品、感染リスクを特に避けたいであろう介護用品や育児用品がECで顕著に伸長。一方、例年であれば春休みや新年度、大型連休に向けて3月頃から動き出すビジネス、ブライダル、お出かけ・レジャー系商品の動きが鈍化していくのを、SEO動向をチェックしながら感じていました。
この状況を見て思い出したのが、2008年に起きた「リーマンショック」です。当時、筆者はアパレルEC企業で勤務。アパレルでは「アウトレット」が、グルメ・スイーツでは「訳あり」がECモールで大きく躍進していました。
「訳あり」のキーワード検索は2008年9月頃に急激に増加、その後しばらく小康状態が続いていました。しかし、2020年4月に発令された最初の緊急事態宣言で再び上昇、その後も継続的に検索指標が高くなっています。
この記事を執筆している2023年3月10日時点では、「楽天市場」でスーパーSALEが実施されていました。2022年3月13日からマスクの着用が個人の判断に委ねられるのを目前に控え、1万枚で1万円、1枚1円で販売している店舗も確認できました。
高級感や高機能を謳うモノでも1枚7円くらいで販売され、マスクが品薄になっていた2020年春頃では考えられない価格になっており、市場変化の典型例でしょう。
パジャマ・ルームウェアの検索が大きく伸びると予測。その理由とは?
話を2020年4月に戻します。先述の通り日用品や食品などが伸びる一方で鈍化する商材も多く、明暗を分けました。先行き不透明ななか、検索動向を知ることができる「Googleトレンド」の利用頻度が高くなっていきました。
下図はこれから売れる・売れないモノの予測を立てた2020年4月のセミナーで使用したスライド資料です。ホテルや旅館の予約関連が続落する一方、供給のメドが立ち始めたマスクは検索需要が減少すると予測。対してパジャマ・ルームウェアは2019年と比べて大きく上ブレすると予測しました。
ホテル、マスクの動き納得がいくものの、なぜパジャマ・ルームウェアが前年を上回ると予測したのでしょうか。
外出自粛、リモートワークの普及で外着の売れ行きが停滞する一方、筆者がサポートしていたレディースアパレルや子供服ECでは、パジャマ・ルームウェアが堅調な売れ行きに。それもファストファッションとは一線を画す、高級パジャマの売れ行きが特に目を引きました。
当時は理由がよくわからず、購入ユーザーのアンケートに目を向けてみました。すると、「なるほど」と思える回答があったのです。
- リモートワークで家にいるので、パジャマとしても兼用できる、1日中着ていられる楽な服がいい
- これからどうなるのか不安ななか、少しでも良質な睡眠を取りたいので良いパジャマがいい
- ルームウェアを着ていると外出のために着替えるのが面倒くさくなり、外出自粛につながる
こうしたアンケート結果などを踏まえると、以下のような流れが生まれたのではないでしょうか。
「○○が■■だから△△する」
→「だから□□が欲しい・買いたい」
→「そのために自分たちECサイトは▲▲しよう」
2020年春の短期間で得られた検索動向の変化、「Googleトレンド」「Google Search Console」のキーワードの動きは、その後を占う上で貴重な体験となりました。少なくとも、こうしたツールから得られる検索動向の変化は、先を占う上で重要なデータになるということを改めて痛感しました。
2023年以降は過去のデータに頼りすぎないことが重要
2022年9月頃から、お取り寄せグルメ系のECサイトを中心に「検索順位は落ちていないのにアクセスが減少し、売り上げが落ちている」という相談が相次いで寄せられました。それは「Googleトレンド」を見ても一目瞭然でした。
「お取り寄せ」の検索動向を見ると、2020年4月~5月の突出ぶりが目立ちますが、日数が経つにつれて緩やかに下降線を辿っているのがよくわかります。
お中元期である2021年7月以降に絞って見てみましょう。2021年9月初旬には90あった指数が、「売り上げが落ちている」と相談があった2022年9月には55まで下がっており、約40ポイント減少していました。
検索順位が下がっていなくても、そもそも検索ボリュームが減少しているわけですから、前年と同じような受注数を見込むのは難しいと言えるのではないでしょうか。
そして、グルメ系では「通販で買う」というDO(BUY)クエリから、「実際の店舗に買いに行く」というDO(BUY)クエリに変化しているように感じました。
コロナ禍で追い風を受けた商材ほど、2023年以降は過去のデータに頼らず、まっさらに挑む必要性があるのではないかと考えています。
2022年はバレンタイン関連の検索も減少傾向に
2020年2月はまだ感染拡大前のため、コロナ禍での初のバレンタインは実質2021年2月と言えると思いますが、2021年をピークに減少しています。
2022年1月に適用されたデータ収集システムの変更が影響している可能性もありますが、2023年のバレンタイン通販はコロナ禍以前の2019年、2020年よりも山が小さくなっていることが伺えます。
この2年間の売り上げを元にバレンタイン商材の仕入れを行っていた店舗では、予想外の苦戦を強いられたかも知れません。
今後も起こりうる、これまで経験したことがないような事象に備え、過去のデータを参考にし過ぎない運営を心がけていきたいところです。
2023年は「新たなEC元年」になるかもしれない
さまざまなEC関連企業の決算資料を見てみると、2022年の業績は成長が鈍化あるいは前年割れが散見されました。
「ChatGPT」「Bard(バード)」といった人工知能(AI)ツールの台頭など、WebやECを取り巻く環境にも大きな変化が起こりそう。
その他、未だ続く不安定な世界情勢からの物価高、コロナ関連による企業の倒産なども少なからず影響するのではないでしょうか。