Googleの「Search Central Live Tokyo 2023」から考えるEC事業者がAI活用で意識すべきポイント
Googleの検索チームは、Webサイト運用担当者やデジタルマーケターなどSEO担当者向けカンファレンス「Search Central Live Tokyo 2023」を6月16日に開催しました。過去にも「Webmaster Conference」「Google Dance」の名称で行われており、筆者も幾度も参加。2018年の「Google Dance Osaka」ではライトニングトーク(LT)と呼ばれるトークセッションに登壇した経験があります。今回は「Search Central Live」の注目ポイント「AI(人工知能)」について、ECビジネス視点での活用方法を解説します。
予想通り、多く登場したキーワード「AI」
セッションや質問で幾度となく「AI」という言葉が飛び交いました。ここでは細かく触れませんが、関係者・参加者がハッシュタグ「#SearchCentralLive」でツイートしていますので、Twitterで確認してみて下さい。登壇内容、会場のようすを垣間見ることができます。
「Search Central Live」でGoogleに寄せられたAIに関する質問には、次のようなものがありました。
- AIを使った高品質なコンテンツを作るにはどうしたら良いか?
- SEO専門家はAIをどう活用すべきか?
SEO担当者には気になる内容ばかり。こうした質問内容については、これまでGoogleセントラルブログでも言及されています。会場ででも繰り返し回答していましたが、Googleの検索チームは改めて、
- AIはハルシネーション(幻覚)を起こす
- AIでコンテンツを作成することが悪というわけではない
- AIはそれが事実かどうかをチェックしているわけではない
- 最終的には人の目でチェックすることが大事
という見解を述べていました。
生成AIが登場しても、SEOはなくならないのではないか
最近は「ChatGPT」がニュース番組やワイドショーでも取り上げられるようになりました。
また、2023年5月10日(米時間)に行われたGoogleの年次開発者イベント「Google I/O」でGoogleは、「AIが生成する回答を検索結果の上部に掲載する機能」である「SGE(Search Generative Experience)」を発表。こうしたことを受け、筆者には日頃の質問や登壇依頼で「このことについて言及してほしい」という要望が寄せられるようになりました。
「SEOに使えるの?」「コンテンツマーケは楽になる?」などが多く、特に「SGE」のデモ映像が出回ってからは「SEOは時代遅れなのか?」という質問も増えました。
その度に、自分なりの生成AIとの付き合い方について「現時点ではこう思う」という話をしてきました。
ここ数年の世情・市況の変化は目まぐるしく、1か月でAIが生成する答えも激変していくため、どうしても“現時点では”という表現が多くなりがちです。
野村総合研究所の調査結果では、世界の「ChatGPT」のトラフィックで日本は3位というデータがあり、他国と比較しても多くの人が関心を寄せていることがわかります。
では、やはりAIによってSEOも駆逐されていくのでしょうか? 多くのEC事業者・企業の支援をするなかで、筆者は「決してそんなことはない」と感じることの方が増えてきました。
EC事業者が押さえておくべきAIのポイント
それでは、こうしたGoogleの見解や、AIを取り巻く環境の変化などを踏まえ、EC・通販事業者のAI活用に触れていきます。
まず押さえておきたいポイントは、「ChatGPT」や「Bard」を使ってコンテンツを生成する、SEOに使うという上で質を左右するのがプロンプトと呼ばれる指示文だということ。
単に「◯◯を販売しているECサイトの検索順位を上げたいので、タイトルタグを提案して」と入力しても、ありきたりの文章しか提案してもらえません。
しかし、「当店は20代から30代の女性ユーザーが多く、ビジネスシーンでも使えるスマホケースの品揃えに自信がある」というような一文を入力するだけで、より表現が豊かな結果を出力してくれます。
一見すると良さそうなものが抽出されるので、そのままECサイトに反映したいところです。しかし、当社のクライアントで「人の目でチェック」してみると、ある問題に行き着きました。
出力された結果をクライアント企業内でヒアリングしたところ、「これはうちのお店っぽくない」「うちのお客さんには違和感を持たれるかも」「ブランドの良さが打ち消されている気がする」と、違和感を覚える人が続出したのです。
この傾向は、実店舗があり接客経験が豊富な人がいるお店ほど顕著でした。「AIはうちのお店のことをわかってない」と言うのです。
当然ですが、AIはそのお店に来店したり、サイトにアクセスして買い物をしようとしたり、店頭でスタッフに接客してもらったりしたわけではないからです。
AIに足りない「経験」の部分を人の手で補う
前回の記事で触れた、Googleの「検索品質評価ガイドライン」に追加された新しい概念「E-E-A-T」の1つ、「Experience=経験」がAIにはありません。
そして、検索順位の上位に来ても、魅力的なタイトルでなければクリック率は上がりません。仮に上位に表示されてクリックされても、ページ内容とユーザーの意図にズレが生じ、コンバージョンにつながらないという課題も起きてくるのです。
こうした状況を改善していく際に、「E-E-A-T」の重要性が実感できるのではないでしょうか。
「E-E-A-T」とは
- Expertise(専門性)=その商品やサービスの専門家の専門知識
- Experience(経験)=商品やサービスの利用経験、接客の経験数
- Authoritativeness(権威性)=そのブランドのオーナー、店長、カリスマ店員
- Trust(信頼性)=品質、接客、梱包などのレビューや口コミなどによる安心感
上記に当てはまるスタッフ、専門家にチェックや監修依頼をして、タイトルやディスクリプションを改善してみると、順位の変化が小さくても「Googleアナリティクス」のデータではエンゲージメント率、クリック、スクロールでカウントされるイベント数が上がったサイトもありました。
支援しているECサイトで特に顕著だったのはアパレルショップです。スタッフにファンがついており、「Aさんと体型が近いから」「Bさんの着こなしが好き」「Cさんのような女性に憧れる」といった理由も大きな購買動機となっているのです。
こうして見ると、「E-E-A-T」という概念はよくできていると感じます。「Search Central Live」で行われたGoogleのGary Illyes(ゲイリー・イリェーシュ)氏のキーセッションでも、
「Write for your users, not Search.」=検索のためでなく、ユーザーのためにコンテンツを作成します。
という話がありました。ECサイトで買い物をするのはGoogleでも検索エンジンでもなく人ですので、とても納得のいく内容です。
AIを使ってアイデア出し、表現のブラッシュアップする
そこで、今取り組んでいるコンテンツ生成でのAIの使い方としては「壁打ち相手」「アイデア出し」「棚卸し」です。
ゼロからAIに委ねるのではなく、自分で考えた草案などを打ち込みます。そこから、
「◯◯、■■、△△というワードを盛り込んで5つ提案してください」
↓
「✕✕というワードは使用しない」
↓
「“!”を使用せず、落ち着いたトーンでさらに5つ」
↓
「(生成された)候補の1と3が良いので、それを元にもう5つ」
というようにブレストしながら、お店のブランドイメージやユーザー層に合わせてタイトルタグ、メタディスクリプションに磨きをかけていく方法です。
この方法を行うことで「こんな言い回しは思いつかなかった」「うちには似合わないけど、こういう言い方をしているお店もあるかも」といった気付きが生まれ、コンテンツを作成していく際の言葉の引き出しも増えていくのではないでしょうか。
ハルシネーション(幻覚・嘘)には気を付けよう
AIツールを使う上で注意しなければならないのは、「ハルシネーション(幻覚・嘘)」です。
「ChatGPT」が話題になり始めた頃、自分の名前を入れて「漫画家と表示された」「作曲家になった」というSNSでの投稿を多く目撃しましたが、そうしたことがハルシネーションの一種です。
筆者のクライアントでも、「ChatGPT」を使ったところ、本来は3店舗にもかかわらず7店舗の住所を示す回答もありました。
誤った生成回答を真に受けて店舗数調査を回答しては、事故につながりかねません。「ChatGPT」の普及を受けて「リサーチャーの仕事がなくなる」という声も見受けられましたが、人の目でチェックする重要性を感じています。
クライアントには製薬企業もいますが、医薬品やサプリメントなどは薬機法に抵触する表現も数多く確認されており、現時点では専門家のチェックなしで公開するには危うすぎる内容を生成していました。
実際、サプリメント系のECサイトでは「ChatGPT」によってコンテンツを量産し、検索順位が著しく悪化したという相談も寄せられ始めています。
下図のサイトは検索順位の下落具合が非常にわかりやすいです。主力商品の検索で20位あたりから上がり下がりを繰り返し、一時は89位まで下落しました。
その後、人力でページ修正を加えたことで以前よりも順位は回復、14位まで上昇しました。現在もこの近辺で安定しています。
Google検索品質評価ガイドラインでは、「YMYL(Your Money or Your Life)」ジャンルとして、お金と健康に関わるコンテンツの評価も厳格化しており、ハルシネーションによる検索評価の低下などには一層の注意を払う必要があります。
以上のことからも、誰もがAI生成で楽ができるのではなく、「取り扱い商材・サービスに正しい知識を持っている人が便利に使えるもの」と考えて付き合っていくことが重要ではないでしょうか。
こんなお店にこそAI生成ツールを活用してほしい
筆者は行政機関の相談員を務めていますが、そこでよく相談を受けるのが「長い年月家族でECを運営しているが、サイトは開店時に作成してもらったまま手つかず。誰もタグを触れない」というもの。
ある面談でふと思い立ち、「ChatGPT」で「リンク付きの画像を挿入したいので、HTMLを書いて」と実演してみせたところ、その結果に相談者が目を丸くしたことがありました。
コードの生成は「ChatGPT」の得意分野と言えます。回遊性を高めるための画像付きリンク、ちょっとした商品の説明画像の挿入はもちろん、構造化データの書き出しなど、ECサイトによくある小さな穴を防ぐためのことは簡単にできます。
こうしたタグはプロンプトが成熟してなくても十分に書き出せます。実際、非エンジニアの新卒入社の人が、プルダウンメニューや構造化データを生成し、自社ECサイトの利便性向上に勤しんでいるクライアント企業もいます。
「GPT-4(OpenAIが提供する大規模言語モデル。テキストだけでなく写真、音声を入力情報として利用できる)」の利用料は月額20ドル、2023年6月時点のレートで約2800円。ツールとしては少額な部類ですし、これで幾らかでも売り上げが変わっていくのなら利用してみる価値はあるかもしれません。
AIツールは、導入したら何もかもが夢のように叶う「四次元ポケット」のようなものではありません。長所と短所の特徴を把握し、任せられる分野を見つけていくことが、人とAIが共存・共栄するより良い未来につながるのではないでしょうか。