2024年の小売事業者向けSEO対策は「体験に基づく」「役立つ」コンテンツがカギ! ローカルSEOにも商機あり
ECセミナーに登壇する際、依頼内容や講演中の質問で度々あがるのが「2024年のEC業界はどうなりますか?」ということです。予測を完璧に的中させるのは難しいですが、SEOを軸に今後のEC事業の展望について解説していきます。
2024年は大型連休の当たり年
2024年は暦上の3連休が10回、5月の4連休と3連休以上が11回という当たり年です。ゴールデンウィークは中3日をつなげば10連休、お盆は中4日をつなげば9連休、9月のシルバーウィークも中4日をつなぐと10連休となり、非常に大型連休が多い1年となります。
また、コロナ禍を経て年始から制限なしの元年でもあり、旅行や観光などレジャー需要の「コト消費」が活況となることは想像するに難くありません。
そのため、「年末年始や大型連休にアクセスが落ち込むのではないか」と考えているECの経営者や責任者、担当者も多いのではないでしょうか。
検索の人気動向を調査できる「Googleトレンド」を見ると、「旅行」「観光」「温泉」「ホテル」といったレジャー関連クエリの人気度は、軒並みコロナ前の2019年1月の水準まで回復しています。
この動きからも、アウトドアグッズ、レジャー用品、旅行携行品といったジャンルでは、関連商品への注目が高まる可能性があります。
結婚式や住宅購入などの大きな出費や、日用品・生鮮食品は慎重になる?
旅行や温泉など「ちょっとしたご褒美」が息を吹き返す一方、結婚式など高額な出費の伴う市場では、以前のような勢いを取り戻すには時間がかかるのではないかと感じています。
「結婚式」の検索クエリについて過去5年間を見ると、2019年1月には人気度が90を超え、9月の連休あたりで100に到達していますが、コロナ禍で大きく落ち込み、少しずつ回復傾向にはあるものの2024年1月半ばで50ほどに留まっています。
その他、大きな買い物と言える「新車」「中古車」「一戸建て」「中古マンション」なども5年前の同時期と比較して15~20ポイント低い状況が続いています。
車や住宅は、円安や資材調達費の高騰、「ウッドショック」と呼ばれる木材価格の高騰などが販売価格に大きく影響を与えるため、消費者も慎重になっているような動きが垣間見えます。
巣ごもり需要の影響を受けた日用品、「丁寧な顧客対応」「購買動機を沸かせる施策」がカギに
また、コロナ禍の巣ごもり需要の追い風を大いに受けた日用品や生鮮品では、鈍化・やや逆風という動きを想定していた方が良いかもしれません。
物流の「2024年問題」は即日出荷、翌日配送などに影響があるかもしれません。また、物流コストの高騰にも波及するでしょう。「楽天市場」は新年早々、セール期間中の配送を急がないユーザーにポイントを付与する「急がない便(仮称)」の導入を検討していると発表しました。
コロナ禍の巣ごもり需要によって食品、飲料、酒類は2020年から2021年で約14%増、2021年から2022年で約9%増とコロナ禍をきっかけに大きく伸長しました。(参考:経済産業省『令和4年度デジタル取引環境整備事業(電子商取引に関する市場調査)』)
それでも、食品類のEC化率は4.16%に留まっています。ここ数年のような巣ごもり需要が望めず、連休の過ごし方が「コト消費」傾向になりそうな2024年。「送料を加算してでも取り寄せたい」というユーザーの購買動機をどうやって沸かせるかが大きなカギになりそうです。
食品類の値上げがピークアウトしているというデータもありますが、バラエティ番組の倉庫型スーパーの活用術や節約レシピといったコンテンツの人気が高まるなか、ECでの低価格訴求や価格競争に挑むのは得策だとは思えません。
筆者のクライアント企業では、国産素材や国内縫製などの商品、オーガニック素材を用いた商品など、トレーサビリティに配慮した商品が支持されている印象を受けます。また、商品やサービスの満足度だけではなく、社会貢献や地域貢献などに取り組む姿勢を評価する声が増えてきています。
コロナ禍で人と人が一度は分断され、再び交流ができるようになったことで、ECの“C”であるコマース、商いのなかにある人の温もり、顧客対応に回帰しているように感じます。
「E-E-A-T」の「E=Experience(経験)」に活路あり
では、鈍化・逆風とも言える状況下で、EC事業者が心がけること、取り組むことは何でしょうか。
1つは「経験、体験に基づくコンテンツ」でしょう。
2022年12月、Googleが検索ガイドラインに「E-E-A-T」を追加しました。「E-E-A-T」の詳細はこちらの記事をご覧ください。
従来の「E-A-T」に追加された“E”は「Experience:経験、体験」です。「ChatGPT」などのAI生成が注目を集めたタイミングでのことでしたが、そこから1年経ち、多くのプロンプトやSEOコンテンツツールも多数リリースされました。
Googleが検索結果にAI生成による回答「SGE(Search Generative Experience)」を発表した2023年春には、「SEOがオワコンになる」といった意見も見聞きしましたが、筆者の周囲でそうした声を聞くことはほとんどありません。むしろ「これからこそ、重要なのはコンテンツ」という声の方が大きくなっているとさえ感じています。
Googleは2023年、検索エンジンのコアアップデートを3月、8月、10月、11月に実施。特に年の後半に集中し、11月のアップデートは展開完了まで過去最長の25日21時間を要しています。アップデート後はクリスマス商戦、歳末商戦に入り、年明けに落ち着いて見てみると、評価されたコンテンツの多くが実体験に基づくものでした。
平均掲載順位が3か月で約16ランクアップした企業も
下図は「Google Search Status Dashboard」、Googleの検索に関するアップデートのダッシュボードです。4回のコアアップデートと、9月に展開された「ヘルプフルコンテンツアップデート(HCU)」に注目してみましょう。
下図は、筆者のクライアントであるキッチンやリビング雑貨を扱うECサイトの「Search Console」のグラフです。
8月22日~9月7日(米国太平洋標準時)に行われたコアアップデートと、ほぼ同時期に展開された「ヘルプフルコンテンツアップデート」の好影響が顕著に出ていることが伺えます。
「ヘルプフルコンテンツ」とは、その名の通りユーザーに役立つコンテンツを指し、Googleの公式ヘルプでは「訪問者に満足されるコンテンツを高く評価し、訪問者の期待に応えていないコンテンツとの差別化を図ることを目的としている」と記載しています。
当該サイトでは8月までと9月以降で比較すると、表示回数は約10倍、クリック数は約9倍に増加。サイト全体の平均掲載順位は7月が30位、8月は21位、9月は16位、10月には14位と、3か月で平均を16ランクほど上げています。
このサイトのSEOで意識したのは「体験に基づくコンテンツ」と「役に立つコンテンツ」です。
【実施した施策】
- サイト内検索でタイトルや内容が似ている記事を統廃合
- ライターさんに「E-E-A-T」や「YMYL」について理解してもらう
- 健康効能系のグッズに関しては、外部リンクなどを用いてエビデンスを明示する
- スタッフによる体験動画や画像を追加。エクスペリエンスを意識した内容に深掘り
AIによる生成コンテンツと明確に差別化できる「人による人のためのコト・モノ」という箇所に注力していることがわかると思います。
特に「ヘルプフルコンテンツアップデート」以降、海外のフォーラムを確認しても「商品AとBを比べてみた」「自分でやってみた」「行ってみた」「食べてみた」など、実体験による記事が好影響を受けたという報告を多く見かけました。
生成AIによるコンテンツが増え、制作も効率的になっていくなかで、「E-E-A-T」や「ヘルプフルコンテンツ」が重みを増していることを体験した事例です。
AIに依存するのではなく「活用する」
とはいえ、生成AIの利用に否定的なわけではありません。筆者も「ChatGPT」や「Gemini(旧Bard)」を活用しています。
ただ、“生成”の名の通りAIは事実や既存の情報を元にした内容は得意かもしれませんが、世に無い未知の物事にはまだ弱いと感じます。「食べる」「着る」「行く」という体験ができるまでにはどれほど時間がかかるかわかりません。
人によってゼロから生み出された新しさを体験できるという点は、AIに圧倒的に勝る点ではないでしょうか。
スタッフが自社の商品・サービスを実際に使った経験・体験を発信していくことが、自社の強力なフォロワーになり得る顧客との出会いを創出すると考えています。
AIによるフェイクニュースには注意が必要
また、AIを使ったフェイクニュースにも注意が必要です。2024年は世界の選挙イヤーでもあります。前回のアメリカ大統領戦でも、両陣営の支持者によるフェイクニュースが問題になりましたが、現在はAIツールもかなり普及しており、より巧妙なフェイクニュースが生成されてしまう可能性があります。
既に結果が出た台湾の総統選挙では、ディープフェイクの動画も拡散され、市民の8割が何らかの形でフェイクニュースに触れているというニュースもありました。
こうした状況などもあり、「ChatGPT」を開発したOpenAIは、米大統領選挙でAI利用禁止という初の措置を打ち出しています。
SEOに変わる流入確保も重要
先述のようなAIによる情報戦も、検索エンジンを取り巻く環境に影響を及ぼす可能性があります。そうした混乱に自社サイトが巻き込まれないよう、検索流入以外の導線確保も重要です。
EC事業者が着手しやすいのは、SNSではないでしょうか。X(旧Twitter)、Instagram、TikTok、YouTubeなど、手軽に動画を配信できるプラットフォームも増えています。
現在はインスタ映えのような「盛る」から一転し、1日1回不定期なタイミングでアプリから届いた通知に対し、2分以内に自身を撮影し投稿する「BeReal」のように「盛る」ことができないSNSも、Z世代中心に人気が高まっています。こうしたことからも、ありのまま、リアルにエンゲージメントする動きもありそうです。
OMOとローカルSEOに商機あり
ここまでお話したことを踏まえて、2024年は「新たなEC元年」になるのではないかと予想しています。
連休の多さから、人出の多くなる商業地域や観光地に実店舗がある人にとって、「Googleビジネスプロフィール」におけるローカルSEOや、実店舗とECをつなぐOMO戦略も重要になってくるでしょう。
クライアントの「Search Console」や「Googleビジネスプロフィール」のパフォーマンスを見ると、
- 「○○ tokyo store」:○○の東京のお店
- 「Where to buy △△ in Tokyo」:東京のどこで△△が買えるか
- 「●● where to buy」:●●はどこで買えるのか
- 「□□ near me」:近くの□□店
といった英語での検索が多数確認されるようになってきています。
インバウンド需要が本格的に回復してきているなか、SNS→実店舗来客→ECでのリピート(越境EC)の動きも出始めていますが、サイトを多言語対応しても、自社ECサイト単独でのSEOはハードルが高いと感じます。
海外に発信できるSNSを活用する
実際に体験したことですが、「ソーダ味の飴」と聞くと多くの日本人はラムネのような味を想起するかもしれませんが、そのまま「soda flavor」と訳しても、海外の人は「炭酸水」としか想起しないなど、認識の違いなどをチューニングしなければならない、という課題があります。
しかし、訪日して手に取った商品のパッケージにInstagramやYouTubeのQRコードを印字していると、そこからリピートしてもらえるという動きがありました。
また、ショート動画のレコメンド機能による受動的なコンテンツ接触機会も増えているなか、海外に発信できるSNSを活用することは有効ではないでしょうか。
実店舗がないEC事業者は、催事やイベントへの出展、ライブコマースに挑戦することも、新規顧客との接点創出になります。
ECサイトの転換率が1.7%であるのに対し、ライブコマースでは8~10%を記録、リアルタイムの視聴者数が少数でも受注額は堅調に推移したクライアントもあります。そこでは、アーカイブ動画の視聴から「ECの中の人の人柄に触れて購入した」というレビューが入ることも。
応援してもらえるお店作りをめざそう!
これからはユーザーから応援してもらえる会社・お店だけが生き残れるのではないかと思っています。個性を確立して、ユーザーに「頑張れ!」と言ってもらえるようなお店こそが「本当に強いお店」ではないでしょうか。
重要なことは、まずはみなさんが自身の会社・お店・商品のファンになること。本当に大切なことは実はシンプルなのかもしれません。
見通しの効かない不安定な状況が続きますが、本記事が少しでも皆さんのヒントになったなら幸いです。