酒匂 雄二[執筆] 2022/10/17 8:00

2020年、新型コロナウイルス感染症の影響からステイホーム、リモートワークなど大きな変化を遂げてきました。外出自粛要請のなか、ECサイトには追い風だったと見る人も少なくないでしょう。しかし、外出需要やブライダル業界など完全に逆風となったケースもありました。

私の経歴などを簡単にお話すると、ECの店長を務め、イーコマース事業協会(EBS)主催の「第9回全国ネットショップグランプリ」で準グランプリを受賞。こうした経験を生かし、セミナー講師、他社ECサイトの構築、企画・運営代行などを行っています。

そんな私がこれまでに伴走してきたECサイト、コロナ禍でも活気があったECサイトには共通点がありました。それはいったいなんでしょうか? コンテンツSEOを中心にECサイトに寄り添ってきた経験とV字回復を果たした事例を交えながら、取り組んできた施策、これからのコンテンツSEOについてお話していきます。

コンテンツ中心に発信する「コンテンツSEO」とは?

SEOと一言で表現しても、アプローチは十人十色。私が手がける主なSEOは、Webサイトのデータや内部構造の改善、最適化を行う「テクニカルSEO」ではなく、コンテンツを中心に発信しながら検索順位向上、アクセス数増加、コンバージョン獲得を育てていく「コンテンツSEO」です。

コンテンツの直訳としては「特に電子的な手段で提供する情報の中身」となり、捉える範囲は幅広くなりますが、わかりやすく「ページを作る」という意味合いでコンテンツと表現していきます。

Web制作の専門知識、高度な技術を必要とするテクニカルSEOと違い、商品への愛情、知識、情熱があれば誰でもできるのがコンテンツSEOではないかと考えています。これは私自身がモール、自社ECサイトで店長を経験したなかでの体験談でもあります。

Googleの通常アップデートでアクセスが急増した例も

コンテンツSEOは成果を体感できるまでに時間がかかります。商材やコンテンツの本数にもより、その時間はさまざまです。

「2週間で問い合わせが増えた」というケースもあれば、1年半ほどして検索順位が上昇、アクセス・売り上げ増となったお店もありました。

SEO コンテンツSEO 自社ECサイトのアクセス推移 ユウキノイン
とある自社ECサイトのアクセス数推移

上の図の店舗は2017年夏に自社サイトをオープン、ブログを中心としたコンテンツマーケティングに取り組んでいましたが、日の目を見たのは2019年の1月下旬。サイトオープンから1年半後です。アクセスが急増し、2019年のピークとなった7月2日には、前年同日の約10倍にアクセスが増えています。

Googleは年に数回、全体的なランキングプロセスを大幅に改善するための「コアアップデート」を実施しており、2019年の1回目は3月でした。

このサイトはメディア出演や「コアアップデート」の影響ではなく、Googleが日常的に行う通常のアップデート範囲で評価を受け、アクセスが急増したと思われます。

もちろん、アクセスが10倍に増えたからといって売り上げも10倍になるとは限りません。それでも2019年の月商は前年比3~4倍に、2020年にはさらに約2倍となり、2018年の平均月商からは約6倍強へと成長を遂げました。

継続こそ力なり。挫折期を突破できるかどうかがカギ

多くのECサイトではコンテンツSEOの効果を感じられるようになるまでに一定の期間が必要です。これまで見聞きしてきたなかで、継続できなかったお店の多くが挫折期を突破できないまま止めてしまったように感じます。

SEO コンテンツSEO 効果を実感できるまでのコンテンツ量と時間の関係のイメージ ユウキノイン
効果を実感できるまでのコンテンツ量と時間の関係のイメージ

上の図で、黒く塗られた部分が効果を実感できていない期間。前述したお店では2017年7月~2019年1月までがその期間にあたります。

商材、トレンド、検索ニーズ、この挫折期を突破できるタイミングはいつになるかわかりません。コンテンツSEOは、ECサイトの構築やデザイン改修のように見た目に現れにくいので、なかなか社内で評価されないというケースも多いです。これも自分自身が経験したことでもあります。

そのため、これまでも「何をしているかわからない」と言われることもしばしばで、最近では「ECサイトは生活必需品。でも、SEOは贅沢嗜好品かもしれません」と説明するようにもなりました。

ですが、自分自身の経験上、コンテンツSEOは確実に成果に結びついたケースがほとんどです。

歯磨きや着替えのようにECサイト運営を日常生活のなかに落とし込み、取り組むことができれば、必ず成果を感じることができると確信しています。

潜在顧客との接点創出、顧客の困りごと、悩み事、商品ニーズの汲み取り、そしてアクセス向上と売り上げアップへとつながるものだと信じてコンテンツSEOに取り組んでいます。

コンテンツSEOの心構えは「量と質」

とはいえ「コンテンツづくりを始めましょう」という話をすると、十中八九「何をしていいのかわからない」「何から始めればいいのかわからない」というご質問をいただきます。「そもそもコンテンツって何?」という質問が寄せられることも。

ページ作り、コンテンツ作り、SNSと言っても、細分化していくと非常に多くの選択肢が出てきます。

ページ1つとっても、ECサイトにはトップページ、特集ページ、カテゴリページ、商品ページ、会社概要、特商法表記など実に多種多様ですし、SNSも然りです。そんななかで最も手っ取り早く始められるコンテンツSEOは「ブログ」ではないかと考えています。

このブログは私信をつづる日記ではなく、マーケティングに活かせるデータを集めるためのブログです。

ECサイトのオーナーや名物店長がテレビに取り上げられるなどでファンがついた後なら別ですが、立ち上げ当初は自社の商品・サービスについて掘り下げていくことが第一歩になるでしょう。

一定の検索回数がある検索語で、可能であれば検索結果の上位に掲載され、かつある程度クリックされる記事を書いていくことが大切です。

ブログはECサイトと同じドメイン内に置く

そしてどこで書くかという「場所」も重要です。セミナーでも毎回のようにいただくご質問でもあるのですが、「ブログはどこで書くべきか?」というところが最初に行き着く問題です。

サイトを持っていない方でも手軽に始められるのは無料ブログですが、自社ECサイトであれば「WordPress」などで書き、ドメイン直下に置くのがオススメです。

ECサイトとブログが同じドメインの方がアクセス解析にかかる負担も少なく、特に少人数で運営していて、これから本格的に始動するECサイトにはこの方法をオススメしています。

国内のASPカートには「WordPress」を導入できるCMS連携オプションを用意しているところが多数ありますので、これからECサイトを構築する方はそのあたりも視野に入れて選ぶと良いでしょう。

ECサイトと同じドメイン内でブログを書いた後は、どのトピックにアクセスがあって、どのようにECサイト側(カテゴリや商品ページ)への流入を獲得できたかを一元管理しておきましょう。

SEO コンテンツSEO ECサイトのカテゴリや商品ページへの動線イメージ ユウキノイン
ECサイトのカテゴリや商品ページへの導線のイメージ

まずは「Knowクエリ」の獲得をめざす

ECサイトでは、最終的にコンバージョンを得るために「Doクエリ」と呼ばれる「買いたい・購入したい」という意図を含む検索語を獲得することが重要になってきます。しかし、「スニーカー 通販」「ビール お歳暮」など取り扱い店舗や出品数の多い商材で「Doクエリ」を獲得するのは至難の業です。

そこで、まず獲得していきたいのが、商品の情報収集や特徴、違いなどを調べたり比較したりするために検索される「Knowクエリ」です。

先述の「スニーカー 通販」「ビール お歳暮」が「Doクエリ」なら、「スニーカー 選び方」「ビール お歳暮 相場」などが、購買の前段にある「Knowクエリ」と言えるでしょう。

立ち上げから3年目になる、とある自社ECサイトの直近1年間の検索流入を見ると「商品」「商品 品番」などの「Doクエリ」の流入数に対し、「商品 特徴」「商品 違い」などの「Knowクエリ」による流入は32倍もありました。

このサイトのサーチコンソール上では全体のCTR(Googleの検索結果ページにおけるクリック率)が5.6%、平均掲載順位が10.8位ながら、「Knowクエリ」ではCTRが11.9% 平均掲載順位が3.9位と非常にパフォーマンスが高い数値になっていました。

「Web担当者Forum」の「グーグル検索結果CTR調査【2021年最新版】日本の検索1位クリック率は13.9%」によると、11位のCTRが1.03%、4位が3.91%ですので、このサイトは全体でも「Knowクエリ」でも非常に高いCTRを獲得していることがわかります。

「質を高める」こともコンテンツマーケティングでは重要

アクセス数を上げることはもちろん大切です。しかし、こうしたデータにとらわれ過ぎず、自社商品に関心の高いクエリでの流入がどれだけ獲得できているかという「質を高める」ことも、コンテンツマーケティングの重要な指標になるのではないかと考えています。

最初から1ワード、2ワードのビッグワードやミドルワードを狙わず、3ワード、4ワードのロングテールワードで、何位であろうと自社のコンテンツが検索結果にしっかりと掲載されることをめざしていくことが第一歩です。

30位や40位の中段でも順位がつきさえすれば、自社のコンテンツと上位のコンテンツにどのような差があるのかという「アタリ」をつけられるようになります。

私がこれまでに見て触れてきたECサイトを支援してきた経験上、「Knowクエリ」はサイトの規模や、いわゆる「ドメインオーソリティ(Webサイトが、検索エンジンにおいてどの程度良く評価されているのかを示す指標の1つ)」と呼ばれるものに関係なく、検索上位を獲得できた傾向にあります。

そのため、特に立ち上げ当初のECサイトにおけるコンテンツマーケティングの軸足は、「Knowクエリ」の束を作ることに重きを置いています

「Knowクエリ」の一例としては、「○○とは」「○○と△△の違い」「〇〇 選び方」「○○ コーディネート」「○○ アレンジレシピ」といった調べ物、知りたい系です。

まずは皆さんのECサイトの商品から、このハウ・ツー、ノウハウに該当するキーワードを組み立ててみてください。

コンテンツSEOの第一歩は「自社の棚卸し」

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コンテンツSEOを始める心得

上の図は、コンテンツSEOを始める心得として、私がセミナーで必ずと言っていいほど使用するスライドです。

サイトのアクセスが増えてくれば、Googleアナリティクスにユーザーの年齢、性別を知ることができる「ユーザー属性」や、ユーザーの趣味趣向、ライフスタイルを知ることができる「インタレスト」というデータが上がってきます。しかし最初はデータの量も少なく、どのような人たちがサイトにアクセスしているかもわからない状態です。

どんなお店、企業も最初は無名からのスタート。有名ブランドやメーカーのように屋号、商品名で指名検索を獲得できていることはないでしょう。オリジナルのTシャツ、プリン、スニーカー、炭酸水を製造販売していても、一般名称では星の数ほどの商品がインターネット上にあふれている今、そうした言葉で上位表示を狙うことも不可能に近いと思います。

コンテンツSEOの第一歩は「自社の棚卸し」です。開店したばかり、創業したばかりのお店の名前は誰も知らないことを受け入れましょう。

そしてサイトに5W1Hをしっかり明記することから始めましょう。

自己紹介するようにわかりやすく「5W1H」を伝える

あなたのお店はどこで何をしているお店ですか? 初めて会った人に自己紹介をするようにわかりやすい言葉で丁寧に自社のことを説明してください。その際に気をつけることは専門用語や自社用語は噛み砕いて書くことをお忘れなく。

そして主たる商品は

  • いつ使うものか?(When)=クリスマス? 誕生日? 普段?
  • どこで使うものか?(Where)=家? レジャー? 趣味?
  • 誰が使うものか?(Who)=買う人? 贈られる人?
  • 何をするどんなものか?(What)=商材? サービスの特徴は?
  • なぜお客さんはそれを買うのか?(Why)=購入動機、利用動機
  • そしてそれをどのように使うのか?(How)=使う? 食べる? 着る?

「なかなか売れない」と嘆いているECサイトを見ると、ここが欠落しているお店が多いのです。なぜか商品名や商品説明が「その商品やメーカーを知っていて、使い方もわかっている前提」で作られたページになっています。

商品名、商品説明文、ブログでも網羅する

たとえば「キャンプでテントを張るロープを地面に固定するためのもの」と聞いて「ペグ」と答えられる人は、何かしらキャンプの知識がある人です。

ですが、初めてキャンプ用品を買う人のなかには「ペグ」という言葉に行き着いていない人もいるはず。そういった人は「テント ロープ 固定する道具」「テントで使う杭」のような検索をするのではないでしょうか。

これは「ペグを買いたいが、その名前もわからない」というDoとKnowが混在しているクエリと言えるでしょう。

商品名には「テント・タープ用ペグ スチール製 20cm」のように記載し、商品説明に「テントやタープを張る際にロープを固定するために地中に打ち込む金属製の杭です」と書いておけば、検索窓に「ペグ」と打ち込めないユーザーにもたどり着きやすくなるでしょう。

そして、その商品ページにリンクを貼っているブログコンテンツでは、「キャンプ・アウトドア初心者も必見! 素材・長さ別おすすめのペグ10選」というタイトルから始まり、本文に「ペグとは、テントやタープを張る際にロープを固定するために使用する地中に打ち込む杭です。最近では素材も鉄やステンレス、プラスチック製までさまざまな――。」とあれば、先程の「テント ロープ 固定する道具」「テントで使う杭」などを網羅できるのではないでしょうか。

まずは自社、そして販売商品の5W1Hをしっかりサイトに掲載していくことからコンテンツSEOは始まるのです。

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