リピーターが生まれるECサイトの条件とは? 「ozie」の柳田社長に聞く中小企業が勝つための顧客対応
配送コストの上昇、価格競争、少子高齢化などによってECビジネスにおける競争が年々激しさを増している。こうした環境下、中小のEC企業が成長を続けるにはどうすればいいのか? その1つにあげられるのが、ファン作りなどを通じた定期的な購入顧客の育成だ。ワイシャツの人気ECサイト「ozie(オジエ)」を運営する柳田織物・柳田敏正社長が中小のEC事業者に向けて、顧客対応を通じた競争力の向上策を提言する。 写真◎渡 徳博(wit)
接客はECサイトのブランディングにつながる
中小企業のECビジネスは、“やらないこと”は“やらない”を徹底しなければ競争力は向上できない。いろんなことに手を出してしまうと全体的にコストが増え、競争力が落ちてしまう。
受注業務など接客に関すること以外のバックヤード業務は、できるだけ自動化した方がいい。システムで処理できる業務はシステム化すること。そのためには、自社がやるべきこと、やらないことを見極めるが重要になる。そして、“やらないこと”は“やらない”を徹底し、売るための業務や顧客対応にリソースを集中していきたい。接客などの顧客対応は競合とも差別化できる業務であり、ECサイトのブランディングにもつながるからだ。
価格や商品で差別化しようと思っても今の時代はなかなか難しい。では、どうすればいいのか? 消費者に“このお店いいな”と思ってもらうために、コミュニケーションで差別化しなければならない。つまり、消費者の購入の選択肢に入らなければならない。だからこそ、コミュニケーションを通じた接客がより重要になるのだ。
中小企業こそ接客に注力すべし
昔は物流費が今よりも安かったので、型番商材でもお得感で消費者に訴求できた。しかし、昨今の配送コストの上昇でそのビジネスモデルは崩壊。低価格で勝負しているECサイトは薄利多売もしくは赤字に陥っている。
価格で勝つことが難しくなっている今、中小企業が今すぐに手をつけることができるのは接客などの顧客対応の業務だろう。僕は、中小のEC企業は今まで以上に、接客へ力を入れなければ厳しくなると思っている。接客を通じたコミュニケーションこそ、ECサイトの個性を表現することができるが、コスト削減のために接客などの顧客対応を簡素化したいと考えているEC企業も少なくない。僕は良質な顧客対応こそ、中小企業が大手に勝つための武器になると考えている。
ECは結局、さまざまな販売チャネルの中の1つのチャネル。リアルもネットも接客の根本は一緒で、「良いお店」と思われれば、消費者の購入選択肢に入ることができる。ただ、消費者がたらい回しにされるようなマニュアル的な対応になると、クレームになってしまう。臨機応変な対応ができないようであれば、チャットボットにした方がいい。
接客などの顧客対応は、店舗の個性を出すことができ、お客さまに覚えてもらうためのタッチポイントになる。中小企業であれば接客こそ、自社で力を入れてやるべきことだと考えている。
モノで差別化することは難しい。何で差別化する? 接客でしょ。
「ozie」はショールームを作り、リアルの場で接客できるタッチポイントを作っている。“リアルの場で買い物できる”といったことを売りにしているわけではないが、ショールームの利用客はLTV(顧客生涯価値)が高い。リピート率も購入回数も上がる傾向がある。モノで差別化するのが難しくなった今、顧客とのタッチポイントにこそ差別化できる要素があると思っている。
オリジナル商品であってもコモディティ化の進行スピードが速くなり、加えて日本はモノ余り状態。そして、メーカー直販が当たり前になり、大手メーカーは値下げを行う小売に対して卸販売を拒否するような動きもある。
こうしたことも含めて型版商材はもう限界に近いと思う。ポイントや価格という付加価値を付けてもリピート客は生まれにくく、一過性で終わる可能性が高い。セール待ちの顧客が発生したり、ポイントの還元率が高いときにしか購入しなかったり……。
だからこそ、中小企業の小売がこれから先も成長を続けるためには売価を上げていくしかないと考えている。しかし、単に値段を上げるだけではダメ。その分、ECサイトや商品のクオリティを上げていかなければならない。そこには接客などの顧客対応というタッチポイントも入る。
中小企業はまだまだ大手にも勝てる時代
「やること」「やらないこと」の取捨選択で、今後もECモール主体でいくのか、自社ECを強化していくのかも決めておきたい点。楽天は2020年春、「楽天市場」で3980円以上購入した消費者の送料を無料とする施策をスタートする。送料無料バーが大きく下がるため、普通に考えれば多くの出店者は販管費の大幅増加に直面するだろう。だからこそ、どの市場を主戦場としていくのか決断することは重要な経営判断になる。
もともと接客に力を入れているEC企業は、配送費の増加や、楽天の3980円以上送料無料施策が始まってもさほど影響はないのではないだろうか。それは、多くのリピーターに支えられているからだ。僕の知り合いにも強化軸を接客にシフトしたことで業績のV字回復をはたした水泳用品のEC企業もある。その企業は目先の売り上げではなく、「どんな店舗になりたいのか」という視点で改革を行った。
こんな時代だからこそ、目先の売り上げだけを見ていると大変なことになる。“売り売り”の販促は消費者に飽きられてきているし、企業にとっても体力的に継続することは難しい。また、1回でも低価格販売や大規模セールを実施すると、アイデアがそれ以外出てこなくなる恐れがある。物流費が高騰している今、セール自体の採算が合わなくなってきている。売れば売るほど体力的にきつくなる企業が増えてくるだろう。
ECビジネスを手がけている企業が見るべきことは、「世の中をどうしたいか」といった視点じゃないかな。先を見て何をするか? 何をすべきなのか? 経営者や責任者はこうした視点が重要になると思う。
日本は今、人口減少時代に突入した。ただでさえモノ余りの時代に、低価格でたくさん売って利益を出すのは中小企業には難しい。このビジネスモデルで勝てるのは大手だけ。
けれども、僕はまだまだ中小企業も大手に勝てる時代だと思っている。大手企業がガラリと変わるには少なくても1~2年はかかる。中小企業の武器はスピード。EC業界の変化のスピードは著しくなっている中で、中小企業はさまざまなことに対して臨機応変に対応することができるのが利点。接客やコミュニケーションの部分は意識を変えればいくらでも変えることができるので、今すぐにでも接客などの顧客対応を見直していくべきだろう。
「ozie」の顧客対応業務はどうなっている?
「ozie」の顧客対応業務の一部をお話しよう。「ozie」ではメール対応業務を日本と中国で行っている。メールの内容に応じて、簡単に処理できるものは中国へアウトソーシング(委託先は成都インハナ)、複雑な対応を要する案件は日本側で対応している。極力、日本のスタッフは“売る”業務や品質の高い接客にリソースを集中できるようにしている。
この仕組みを支えているツールがクラウド型のメール共有システム「メールディーラー」(ラクスが開発・販売)だ。顧客対応時における二重返信や返信漏れはもちろん、日本と中国の双方でメールの内容を確認できるのが魅力的だ。「感情の入れ方」など日本側の返信内容を中国スタッフが確認できるので、文章の書き方の勉強にもなる。中国側の顧客対応力向上に一役買っている。
また、中国と日本のスタッフの対応状況が一目でわかるので、ECサイトの顧客対応業務の改善につながっている。
また、「働き方改革」「人手不足」に対応した顧客対応方法を設計できるのもクラウド型の利点だろう。接客のことがわかれば在宅でも仕事ができるので、今の時代の働き方に適した環境を用意できるのも「メールディーラー」の魅力だろう。