東 弘樹 2014/7/25 11:39

読者の皆さんも顧客向けの会員規約や利用規約は用意していると思います。私はさまざまなネットショップで規約を読んできましたが、なぜこのような内容になるのか分からないものが多々ありました。果ては、別のネットショップの規約をそのままコピーしているのではないかと思われるものも散見され、とても残念な状況です。いざというとき、身を守るための楯になるのが規約です。もう一度、自分のショップの規約を見直してみましょう。

ネットショップの規約に必要な要素とは

そもそも規約とは何でしょうか。現時点での規約は、顧客との間で任意に交わすルールです。法的拘束力は今のところありません(今後債権法が改正されれば効力を持つとも言われています)。

ルールを書くべき項目は数多くありますが、記載しておいた方が良い主な項目を表にまとめました。

規約への記載を検討するべき項目
  検討すべきリスク書き方のポイント
会員登録重複登録、虚偽申請など登録内容や注文内容に不審点が発覚した場合に、登録や注文を断れるようにしておく。
受注誤注文、在庫切れ、価格表記の間違いなど顧客が後で「聞いていない。知らなかった」とならないように注意。特に顧客が間違えそうな項目がある場合は特に注意。
配送出荷遅延、延着、配送先(海外を含む)など自社の責任によらない部分ではあるが、比較的トラブルが多いので、しっかりと対応できるようにしておく。
決済代引き、クレジットカード、後払い決済など、各支払い方法に付随するリスク代引きの場合は受取拒否や手数料の負担について、クレジットカードの場合はチャージバックについて、後払い決済の場合は未払いについてなど、それぞれに固有のリスクが存在する。代引き手数料などを顧客負担にする場合などは、特に明確にして置く必要がある。決済の多様化は必要だが、お金に関する項目なので、締めすぎると売上が減り、緩すぎると詐欺まがいが横行する。どこにリスクがあるのか十分に知っておく。
返品・交換・返金商品、パッケージ、イメージ違い、肌トラブルなどもっとも苦情・クレームが多いところ。返品制度は顧客への安心感をアピールするためにあるが、緩いルールは悪用するモンスターを助長させるだけ。優良顧客に安心感を持ってもらいながら、モンスターが付け入る隙が発生しないように、他社動向や自社の収益などを鑑みながら検討する。

リピート
(定期購入・頒布会)

単回購入と定期購入の思い違い、定期回数、発送間隔、途中解約などLTVから考えると、3回は購入してもらいたいところだが、トラブルが起こりやすい部分でもあり、顧客に誤解を招かないよう、明確なルールを作成しておく。

この他に、特定商取引法の表記やプライバシーポリシーについての記述も必要です。また、キャンペーンや値引きなど、個別にルールを考えなければならない項目も多々あります、抜けや漏れのないように確認しましょう。

また、HP、LP、ショップカートだけではなく、モールでの販売や紙媒体を使ったDM、チラシなどにより、ルールが変わることもあります。また、販売するチャネルが増えたら、その都度随時見直しが必要になります。ルール自体の優先順位を付けることで、しっかりした規約にしていきましょう。

「配送」「配達」「到着」「宅配」など、同じことを言っているのに、言葉の統一がされていないケースもよくあります。まず、文言を統一するルールブックを作ると比較的分かりやすくなりますが、一番重要なのは、コールセンター、物流、配送など、自社の社員や委託している会社の社員と、ルールが共有されていることです。連携が取れていない事でお客さまの信頼をなくしたり、苦情・クレームの原因が生まれたりすることもあります。他社のコピペではなく、自社の販売シーンに合わせたリスクの洗い出しと、ルール化(文章化)を行ってください。

規約で「万が一」に備える

公益社団法人日本通信販売協会の会報誌「JADMA NEWS」2014年2月号に、事業者側の価格表示ミスへの対処法について、次のような事例が出ていました。

ネットショップで高級紳士靴を販売しているが、ある商品に10分の1の価格が表示されていた。申込みと問い合わせがあった顧客に対して謝罪し、ほぼ理解を得られたが「確認メールが届いているから契約は成立している」と主張している顧客がいる。
参考:http://saas.startialab.com/acti_books/1045176281/19724/(14ページ)

もちろんそのようなケアレスミスは犯さないのが原則ですが、間違えてしまったときには、法的に「錯誤による無効」と判断し、販売しないとことも可能だとのことです。一部の通販会社は、「出荷した時点の通知をもって契約成立」という規約を作成することで、リスクを回避できているとのことでした。1つのアイデアだと思います。例えば、下記のように規約に明記し、関係者全員が同じ認識を持てば有効に機能します。

会員が当サイトにて商品をご注文いただくと、注文の受領確認と注文内容を記載した確認のメールが当サイトから送信されます。
会員からのご注文は、商品購入についての契約の仮申込となります。会員が選択された商品の支払い方法および配送方法にかかわらず、当社の倉庫から商品が出荷されたときに正式に申し込みは承諾され、契約が成立するものとします。
また、インターネット以外での注文に関しても、当社が受注後、商品の出荷が完了した時点で成立するものとします。

Amazonに見る規約の重要性

Amazonの利用規約を見ると、サービスに関して実に事細かく規定されていることがわかります。他のサイトに比べて圧倒的に情報量が多いのではないでしょうか。取扱商品の数やサービスの数が多いのは間違いないのですが、逆に言えば、これほどの規約を作る能力があるからこそ、多くのサービスを展開できるのだと思います。

Amazonは即日配送、価格、1クリック受注、レコメンデーションなど、Amazonから買わない理由を見つける方が難しいほどのサービスを備えていますが、その基本にあるのは、CRM(Customer Relationship Management)です。CRMとは、情報システムを応用して企業が顧客と長期的な関係を築く手法のことです。もちろん顧客ならどんな相手でも良いというわけではなく、本当に長期的な関係を築きたいのは優良顧客だと、運営側なら誰でも思うのではないでしょうか?

Amazonほど顧客の利便性に長けた仕組みを構築することには、実は非常にリスクが高いのです。利便性の高い1クリック注文は間違えてクリックする可能性も高く、「1つしか注文した覚えがないのに、何個も届いた。どうしてくれるのだ」とクレームが寄せられる可能性も高いからです。

会員規約や利用規約にしっかりとポリシーが貫き通されていて、リスクマネジメントや債権管理に長けているから、優良顧客への利便性を徹底的に追求できるのではないでしょうか。そしてそれによって良い顧客が集まり、より一層の収益が生み出される仕組みになっているのです。

「性弱説」で顧客対応に取り組もう

顧客を選別する事は、売上を下げる要因だと思われがちですが、実は、顧客を選別する事と売上を上げる事はとても関係のあることだと思います。販売をお断りすると「私に販売しないなんて差別だ!」というクレームが入ることがありますが、人権侵害と取引の選定は別物です。支払いに重大な懸念がある人に販売しなければならない法律はありません。契約の自由が日本では認められています。

本当はルールもマニュアルもなく、平和の内に取引ができれば良いのですが、そこに到達するにはあまりにも長い道のりがあります。「性善説」と「性悪説」は聞いたことがあると思いますが、どちらも一長一短あります。「善」だと思えば裏切られることがありますし、「悪」だと思えば関係が築けません。

そこで情報セキュリティ構築の時には、「性弱説」という概念を伝えます。「人はもともと善くも悪くもなく、弱いもの。環境によって善くも悪くもなります。だから環境を整えませんか? 情報を漏えいしにくい環境、情報を盗みにくい環境を作りましょう」というものです。顧客対応もこれと同じ考え方で、顧客の利便性を第一に考えながらも、商品を搾取しにくい環境、モンスターが不正な要求をしにくい環境を整えるのが、売り手にとっても買い手にとっても一番だと考えています。

◇◇◇

もっともっと、ネットショップの世界を安心して買いやすいものにしていきたいというのが私の夢です。企業の規模や存在する場所や商品に関係なく、成功のチャンスがあるのがネットショップです。優良顧客に対して安心・安全な市場を提供するのは事業者側の責任です。その責任を果たすために頑張っていきましょう。

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