人工知能(AI)+ファッションECは買い物をどう変える?
マーケティング担当者の間で、2016年に話題を集めた人工知能(AI)。今後、AIはファッションECサイトにどのような影響を与えていくのでしょうか。ファッション人工知能「SENSY」の導入事例を紹介しながら、ECサイトにおける人工知能の有用性を考えます。
ファッションECがAIにいち早く着目する理由
AIを活用しているECサイトでは、ユーザーに対して適切なアイテムを紹介するといった商品提案が浸透しています。実店舗の店員による接客にも勝るとも劣らないほど顧客対応力は向上しているものの、レコメンデーションの精度は必ずしも「最適」とは言えません。
現時点でのAIの能力は限定的で、まだまだ改善の余地があるでしょう。しかしながら、ECにとって今後の可能性を見ると、AIは売り上げの拡大、顧客満足の向上などにとって有用なツールであることは疑う余地がありません。
ファッションECにおいては現在、人工知能の活用は返品率の低減に役立つと言われています。それはなぜでしょうか。現在、顕在化されているユーザーの課題解決法は、パーソナライズ化されたアイテム提案よりも、むしろ“的確なサイズ提案”にあると言えそうだからです。
ファッションECにおいて最も多い返品要因がサイズの問題。オンライン試着ソリューションの「Virtusize(バーチャサイズ)」(ユナイテッドアローズなどが導入しています)、最先端3D技術を用いた独自のフィッティングアルゴリズム開発によりネット上で靴の試着を可能にするサービス「Flickfit(フリックフィット)」などは、ファッションECにとって鬼門とも言えるサイズ問題を解決するべく生まれた画期的なサービスとして支持されています。
人工知能は、まだこうしたユーザーの課題を解決するところはまでは至っていないと言えるでしょう。ただ、AIは既存のオンライン試着サービスと親和性が高いのは事実です。人工知能単体よりも、人工知能+オンライン上の試着サービスによって、近い将来より簡単に適切なサイズ提案ができるようなサービスが生まれるはずです。
ファッションECで人工知能が活用されていけば、実店舗を持たないために生じる返品リスクは、どんどん軽減されることになるでしょう。
1. SENSYの利用価値は2つ
ファッションECで今、最も注目を集めているのが「SENSY(センシー)」です。カラフル・ボードが2014年にリリースしたファッション人工知能で、ユーザのファッションに対する好みや趣向を学習し、個々のユーザーに見合った商品やコーディネートを提案することができます。
ECサイトでの利用方法は大きく分けて2つ。1つ目は「EC接客」で、2つ目は「パーソナライズDM」と呼ばれるものです。それぞれ解説していきましょう。
EC接客
「EC接客」は、簡単に言うと実店舗で行われている接客をWebで行うこと。ユーザーの年齢や性別、好み、サイズ、肌の色などに応じた接客を可能にします。「SENSY」による説明は次の通り。
一律に応対する機械でしかなかったECサイトを、お客様の好みや状況を把握して、お客様ごとに接客を変える人工知能搭載型ECに変革
パーソナライズDM
「パーソナライズDM」は、集積した情報を基にユーザの好み・趣向を学習し、個々のユーザに合ったアイテムをピックアップし、オススメ商品を提案します。購入率の上昇が期待できます。
ファッションECで利用が広がる人工知能
「SENSY」の公式サイトでは、全世界で2500以上のブランドが参加していると発表されています。2016年には、日本でいくつかの大手ファッションECが「SENSY」を導入。日本での利用企業が増えています。
2016年3月 | クルーズ | アパレルECサイト「SHOPLIST.com by CROOZ」 |
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2016年6月 | はるやま商事 | 同社のブランド「P.S.FA」 |
2016年10月 | ベルーナ | レディースファッション通販サイト「RyuRyu」 |
2016年11月 | ワールド | ファッションライフスタイルストア「OPAQUE.CLIP(オペーク ドット クリップ)」(実店舗)の2店舗から順次導入と発表 |
2016年の7月には、ユーザーが購入したアイテムとEC上で販売されている商品をコーディネートできるサービス「SENSY CLOSET(センシー・クローゼット)」を開始しています。
自社サイトのほか、「SENSY」対応の他社サイトで購入したアイテムもコーディネートの対象として含めることができるのが特徴です。購入したアイテムやコーディネート情報を基にユーザーの好み・趣向を人工知能が学習し、個々のユーザーに対してパーソナライズしたコーディネートも提案します。大手ファッションECサイト「夢展望」がすでに導入を決めています。
AIでも最適な商品を提案できないケースもある
ECは自社商品を販売するのが役割であるため、人工知能の可能性を狭めてしまうことが考えられます。
たとえば、ユーザーが購入したアイテムとEC上で販売されている商品をコーディネートできるサービス「SENSY CLOSET(センシー・クローゼット)」は、他店で購入した洋服もクローゼットに追加できるという画期的な機能を備える一方、仮にユーザーにとって最適な商品を人工知能が他店で見つけたとしても、それを提案できないというジレンマを抱えます。
ファッションEC上では現在、ユーザーに対して商品提案を行うコンシェルジュサービスを提供する店舗も増えてきています。SENSYはチャットを通じて個々の感性を学習するパーソナルな人工知能を育成するプラットフォーム「sensy bot(センシー・ボット)」のβ版を11月にリリースしました。
現在は東京都内のレストランを案内する機能に特化していますが、こうしたサービスがファッションでも実用化されれば、そもそも「接客」という概念さえ不要になります。