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興行がメインのプロ野球球団において、ネット通販は関連グッズを販売する主要販路の1つ。収益への貢献のほか、野球に興味を持つ人の裾野拡大という役割も担う。

ただ、興行が中心のため、チケットを頻繁に購入するオフィシャルファンクラブ会員向けにECサイトが設計されている傾向があり、記念品など関連グッズを気軽に購入したい一般購入者、いわゆる“ライトユーザー”をいかにネット通販で開拓していくかが課題となっているようだ。

今回、オフィシャルファンクラブ会員も“ライトユーザー”も商品が購入しやすいECサイトを実現した北海道日本ハムファイターズを取材した。写真◎初瀬士朗(R-4photograph

“ライトユーザー”を開拓するために重要なネット通販

「Sports Community」を企業理念に掲げ、北海道地域の一員として地域社会との共生を図っているプロ野球チーム「北海道日本ハムファイターズ」。

チケット販売、試合運営、場内演出といった興行事業のほか、グッズ販売なども手がける。特にネット通販は、北海道以外の消費者へ商品を届ける大きなコミュニケーション手段として活用されている。

北海道日本ハムファイターズの柳下堅志氏(事業統轄本部コンシューマビジネス部マーチャンダイジンググループ グループ長)はこう言う。

ネット通販などWebサービスにも力を入れていかなければならないという認識があり、他のスポーツチームに比べても新しい取り組みを実施していると思う。

北海道は面積が広大で、道民であっても球場がある札幌市に足を運べない人も多い。そのため、ネット通販によるグッズ販売はファンとの貴重なコミュニケーション手段となっている。現在のネット通販売上の半分は北海道で、残りは道外。過去に東京に本拠地があった経緯もあり、本州では関東圏が多い。(柳下氏)

ファン育成と新規ユーザー開拓の両立を実現した北海道日本ハムファイターズのEC戦略 柳下堅志氏
柳下堅志氏(事業統轄本部コンシューマビジネス部マーチャンダイジンググループ グループ長)

北海道日本ハムファイターズがネット通販に力を入れているのには理由がある。

球団にとって球場でのグッズ物販は収益を伸ばす大きな販路。だが、札幌ドームは札幌市や道内企業が出資する第三セクターである「株式会社札幌ドーム」が運営・管理を担っている。そのため、北海道日本ハムファイターズは、札幌ドーム内で消費者に直接販売することができないジレンマを抱える。

ドーム内でのグッズ販売は、札幌ドームに商品を卸販売する流通形態。加えて、札幌ドームはサッカーJ1の北海道コンサドーレ札幌の本拠地ということもあり、すべての棚を野球グッズで埋めることは難しい。マーチャンダイジング(MD)の側面で一定の制限があるのだ。

そのため、北海道日本ハムファイターズが自社で自由に商品を販売できるオフィシャルショップ(札幌市内に2店舗)、そして、ネット通販は貴重な販路として位置付けられている。

ファン育成と新規ユーザー開拓の両立を実現した北海道日本ハムファイターズのEC戦略
ECサイトは会員および一般購入者を含めたファンとのコミュニケーションを図る重要なWebサービスと位置付けている

課題はファンクラブ会員以外が簡単に利用できる環境作り

北海道日本ハムファイターズといえば、中田翔選手、大谷翔平選手などの人気選手を抱え、過去14年で5度のリーグ優勝、日本シリーズで2度の優勝を誇る地元密着型の人気球団。だが、野球界全体が抱える構造的な問題に危機感を抱いている。柳下氏はこう話す。

チケットを購入して球場に足を運ぶようなファンは高齢者層が多くなっているのが実情。プロ野球界としても、北海道日本ハムファイターズとしても若いファンを増やしていかなければならないという課題を抱えている。

しかし、いきなり球場に足を運んで試合を観戦したり、ファンクラブに入会してもらうのはなかなか難しい。グッズ販売をきっかけに、北海道日本ハムファイターズに興味を持ってもらい、ファンの裾野を広げていかなければならないと考えている。(柳下氏)

野球人口は10年ほど前から減少傾向をたどっているとされており、女性ファン向けの催しなど、北海道日本ハムファイターズは興行面で策を講じている。

ネット通販などの物販もしかり。

過去を振り返るとユニフォームやロケット風船などの販売がメインだったが、時代は変わり、日用品として利用できるグッズの企画・開発などを進めている。若い人でも気軽に北海道日本ハムファイターズに接触できる機会を増やしていこうと考えている。(柳下氏)

たとえば、全選手をそろえたグッズの販売はネット通販の強みを生かした販売施策の1つ。「すぐにほしい」という商品特性ではないため、受注発注の形式を採用し、全選手のグッズを販売。ある特定の日に活躍した選手、記録を残した選手、特定選手のグッズがほしいといったニーズにはネット通販の強みを生かして対応する。

また、「ファイターズ北海道クラフトシリーズ」という、北海道でモノ作りをしている企業や職人とコラボレーションし、オリジナル製品を販売する取り組みも始めている。

関連グッズのほか、“北海道ならでは”といった製品作りなどのMD施策を進める理由を、斉藤純哉氏(事業統轄本部コンシューマビジネス部マーチャンダイジンググループ)はこう説明する。

北海道日本ハムファイターズに興味を持ったライトユーザーは、チケットかグッズのどちらかを購入する。入り口として入りやすいのはやっぱりグッズ。北海道日本ハムファイターズと触れ合うきっかけをECサイトで作っていきたい。(斉藤氏)

ファン育成と新規ユーザー開拓の両立を実現した北海道日本ハムファイターズのEC戦略 斉藤純哉氏
ネット通販を担当する斉藤純哉氏(事業統轄本部コンシューマビジネス部マーチャンダイジンググループ)

一般購入者のネット購入を「Amazon Pay」で促進する

ECサイトの運営を担当する斉藤氏は、オフィシャルショップの店頭スタッフから、Webデザイナーに転身した経歴の持ち主。「実店舗でもやっていることをECサイトにも応用できれば、ライトユーザーがもっと商品を購入してくれるのではないか」。斉藤氏はこう考え続けてきた。

北海道日本ハムファイターズのECサイトは、オフィシャルファンクラブ会員の買いやすさを優先した設計になっている。オフィシャルファンクラブ会員のデータベースと連携し、ファンクラブ会員番号、パスワードを入力すると、個人情報を入力せずに商品を購入することができる仕組みを採用している。

一方、オフィシャルファンクラブ会員以外の一般購入者は都度、個人情報を入力しなければならない。そのため、「ストレスがたまる設計になっていた」(斉藤氏)。商品購入率、いわゆる転換率アップのためには、一般購入者の買い物でも購入プロセスを簡素化することが重要だと考えた斉藤氏。そこで目を付けたのが、Amazonが提供するオンライン決済サービス「Amazon Payだった。

スポーツ球団がネット通販をやる意味は、感動を商品化してお届けすること。たとえば2000本安打を達成した打者の記念品や初勝利をあげた投手の記念品などがそれにあたる。その感動を一般購入者も簡単に共有できる仕組みが必要だと思っていた。(斉藤氏)

ファン育成と新規ユーザー開拓の両立を実現した北海道日本ハムファイターズのEC戦略 「Amazon Pay」などを使った買い物フロー
買い物カゴに進むと、オフィシャルファンクラブ会員の情報、もしくはAmazon IDを使った買い物方法を提案(なお、ファンクラブ会員でなくAmazon IDも持っていない人による一般購入の場合は画面右下で買い物手続きを進めるようにしている)

「Amazon Pay」の特徴は、総合オンラインストア「Amazon.co.jp」のアカウントでログインすることができ、そのアカウントに登録している配送先住所やクレジットカード情報などを利用することで入力の手間を減らし、手軽に購入が完了できること。

「Amazon Pay」を導入したECサイトでは、「Amazon.co.jp」のアカウントを使って最短2ステップで商品を購入できるようになるため、カート離脱率の改善、コンバージョン率の向上、新規会員登録の促進につなげることができると期待されている。

北海道日本ハムファイターズは2017年3月、ECサイトを刷新し、「Amazon Pay」も導入した。

まだ導入から数か月だが、ライトユーザーの買い物の利便性をあげる1つの策として効果が出てきている。現在、ファンクラブ会員以外の一般購入者による商品購入のうち、3~4割が「Amazon Pay」経由で購入。これまで商品を購入していなかった新規ユーザーが増えている。(斉藤氏)

2016年4月度と2017年4月度の購入件数を比較すると、全体では前年同月比37%増。そのうち、オフィシャルファンクラブ会員による商品購入は前年同月比20%増で、会員以外の一般購入者は82%増。一般購入者の商品購入では、「Amazon Pay」以外での決済が前年同月比32%増だったため、「Amazon Pay」による決済が購入件数の増加に大きく寄与していると考えられる。

ファン育成と新規ユーザー開拓の両立を実現した北海道日本ハムファイターズのEC戦略 柳下氏と斉藤氏
柳下氏と斉藤氏。会議室には北海道移転後の監督として活躍したトレイ・ヒルマン氏のユニフォームが飾られていた

セキュリティリスクの軽減、安心・安全も「Amazon Pay」導入の決め手

「Amazon Pay」の決済手数料は4%(物販の場合)。3%台の決済サービスなどと比べて、手数料だけを見た一部の人からは「割高」という声もある。手数料を含めて、「Amazon Pay」の導入の決め手となった理由を改めて斉藤氏に尋ねてみたところ、次のような回答が返ってきた。

導入を決めた大きな理由は3つ。1つ目は会員以外の一般購入者の利便性向上だ。

2つ目は明瞭な価格体系。初期や月額などの管理費用、トランザクション処理費用などが発生するケースと比較すると、「Amazon Pay」は一律4%なのでわかりやすい。

3つ目はセキュリティリスクの軽減と安心・安全の訴求。ネット通販は顧客情報の漏えいリスクがつきまとう。Amazonはグローバルで事業を展開しているネット通販企業。事業者としては安心して、決済をお任せできる。

消費者から見た場合、北海道日本ハムファイターズのECサイトに「Amazon」のボタンがあっても「え? なんだこれ?」とはならないと思う。逆に、「Amazonのアカウントを利用して買い物できるんだ」と、安心して使ってもらえるはず。事実、“ライトユーザー”の利用が増えているのはこうした効果の現れだろう。(柳下氏)

ちなみに、「Amazon Pay」で購入しているユーザーの内訳を見ると、北海道在住のユーザーは2割。購入金額などの購入ステータスに応じてチケット割引といった会員優遇策があるファンクラブの会員が「Amazon Pay」で購入している割合は低いとみている。

斉藤氏によると、2016年までの客単価は7000円台。2017年は6000円台に下がった。だが、悲観的ではない。「新規ユーザーの購入が増えたことによる影響であり、注文件数全体は伸びている。客単価はファンクラブ会員などのコアユーザーが増えれば上がっていく。まずは、一般購入者による商品購入を確実に増やしていくことが重要だと思っている」と斉藤氏は説明する。

「Amazon Pay」の導入で、北海道日本ハムファイターズに興味を持つ一般購入者による商品購入が大きく増加していることについて、柳下氏はこうまとめた。「Amazon Payを使って買い物をする人は、Amazonのアカウントでログインすれば文字を入力する必要がない。クリックだけで買い物ができる。これは便利

北海道日本ハムファイターズがネット通販を通じてめざすこと

北海道日本ハムファイターズが所属するパシフィック・リーグはWebを使ったマーケティング活動に積極的。たとえば、各球団のWebサイトはデザインテンプレートなどが統一されるなど、共通のCMSで運用されている。

これは、パシフィックリーグマーケティングというパシフィック・リーグの各球団がお金を出し合って設立した共同出資会社が運営やマーケティングなどを取りまとめているためだという。

パシフィックリーグマーケティングによるパ・リーグ全試合ライブ動画配信サービス「パ・リーグTV」など、「まとまるところはまとまり、競争するところは互いに切磋琢磨する。パ・リーグ自体にも挑戦しやすい雰囲気がある。」と柳下氏は言う。

ネット通販では現在、道内購入者の85%がファンクラブ会員。一方、ネット通販を利用する人全体の5割は道外ユーザー。柳下氏・斉藤氏は次のようにインタビューを締めくくった。

ファンクラブに加入はしていないものの、ファイターズは好きという方も多い。購入ハードルを下げ、道外ユーザーも買い物がしやすい環境を作っていきたい。そのためにも、常に新しいことに挑戦していきたいと思っている。

ファン育成と新規ユーザー開拓の両立を実現した北海道日本ハムファイターズのEC戦略
取材に応じてくださった柳下氏(写真右)と斉藤氏 事務所のエントランスで写真撮影
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瀧川 正実

ネットショップ担当者フォーラム編集部 編集長

通販・ECに関する業界新聞の編集記者、EC支援会社で新規事業の立ち上げなどに携わり、現在に至る。EC業界に関わること約13年。日々勉強中。

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