自社ECに「新規顧客の獲得」「コンバージョンレートの改善」「不正取引対策」のメリットが期待できる「Amazon Pay」とは
2015年のサービス開始以来、AmazonのID決済サービス「Amazon Pay」を導入するECサイトは拡大し、導入社数は1万数千社に達している(Amazon調べ10月現在)。
消費者はAmazonアカウントに登録している情報で簡単に決済できるため、手間を省いて安心して買い物をすることが可能。ECサイト側も新規顧客の獲得やコンバージョン率向上などのメリットが期待でき、月間注文件数が約8割強伸びたサイトやコンバージョン率が2.5倍以上伸びた事例もある。利用が広がる「Amazon Pay」を解説する。
「Amazon Pay」の導入事業者数は1万数千社以上・ECサイトは10万以上に
Amazonのビジネスモデルは、Amazonが販売主になっている直販と、Amazonのサイト上でネット販売事業者が出品するマーケットプレイスの2つの事業がある。ともに「Amazon.co.jp」内で展開するサービスだ。
一方、自社ECサイト向けのビジネスモデルとして、消費者がAmazonアカウントを使って簡単に決済ができるサービス「Amazon Pay」がある。
「Amazon Pay」スタート時点での導入店舗は出前館と劇団四季など。出前館が手がける食べ物のデリバリーや、劇団四季の公演チケットは「Amazon.co.jp」で販売しておらず、そうした商材も消費者が安心して簡単に購入できるサービスを提供しようという狙いから、「Amazon Pay」は始まっている。
こうして「Amazon Pay」は2015年にローンチした。提供開始から7年目となり、導入事業者数は1万数千社を超え、「Amazon Pay」が利用できるECサイトの数は10万サイト以上に達する(Amazon調べ10月現在)。
「Amazon Pay」の使い方だが、消費者がECサイトで決済に進むと「Amazon Pay」のボタンが表示される。それをクリックしてAmazonアカウントにログインすることで、登録されている住所や支払い情報などが表示され、それを確認して購入を完了する。
「Amazon Pay」導入企業は、ファッションや食品、ホーム&キッチン、家電だけでなく、寄付、デジタル商材、BtoB、旅行など多岐に及んでいる。
Amazonの成長モデルにおいて重要になるのが品ぞろえだ。「Amazon.co.jp」内での直販とマーケットプレイスによって商品ラインアップが拡充されるのはもちろんだが、そこに「Amazon Pay」のビジネスモデルが加わることで、「Amazon.co.jp」以外のサイトでも消費者が安心して購入できるという“品ぞろえの拡大”につながっている。
「Amazon Pay」事業本部 本部長の井野川拓也氏は、こうした戦略が自社EC事業者にとって良い循環を生み出すという。
便利な決済システムによってお客さまの満足度が上がり、「この前買った時にすごく便利だったからまたここで買ってみようかな」というようにリピーターになっていただける。(井野川氏)
消費者が「Amazon Pay」を使う4つのメリット
消費者が「Amazon Pay」を使うことにどのようなメリットがあるのだろうか。「Amazon Pay」が提供するメリットは、大きく分けて「利便性」「スピード」「安心感」「お得」の4つだ。それぞれ順に見ていこう。
利便性:「Amazonアカウント」1つでOK
複数のECサイトで買い物する場合、それぞれのサイトのIDとパスワードを覚えておくのは難しい。しかし、各サイトで同じパスワードを使っていると漏洩の際のリスクが大きくなる。Amazonをよく使っていたり、AmazonアカウントのIDやパスワードをブラウザに覚えさせていれば、ネット販売事業者のECサイトでも簡単に決済を完了することができる。
スピード:基本情報の入力不要、空き時間にオーダー完了
導入企業のECサイトでも、Amazonアカウントに登録している住所や支払い情報が自動的に表示されるため、わざわざ入力する必要がない。例えば電車の中でスマホを操作して買い物をする時に、その場で財布からクレジットカードを出すといった手間を省いて、素早く購入ができる。
安心感:マケプレ保証も対象、カード情報の入力不要
「Amazon Pay」を使って決済をすると、「Amazon.co.jp」以外であってもマーケットプレイス保証の対象となる。仮に購入商品に問題があっても、最終的にAmazonが返金する(返金の条件は諸条件あり)。
そのためECサイトに「Amazon Pay」のマークがあることで、消費者の不安感を解消し、購入を後押しする。カード情報もAmazonが管理し、事業者側が持つことはなく、ハッキング被害に遭う可能性を下げることが期待できる。
お得:顧客向けの還元プログラム
2021年8月から、商品購入時に「Amazon Pay」で支払うと、Amazonギフトカード利用分の0.5%を還元するという「還元プログラム」を開始した。事前登録は必要なく自動的にギフトカード残高に還元される。
なお、この還元プログラムはすべて「Amazon Pay」が費用負担しており、販売事業者の負担はゼロの施策だ。
「Amazon Pay」を導入するECサイトの3つのメリット
「Amazon Pay」を使う顧客のメリットを見てきたが、次は導入するEC事業者の利点について見ていく。それを解説する前に、日本におけるEC事業者の課題を整理しておきたい。
「Amazon Pay」主催のイベントでの調査結果によると、日本のEC事業者の課題1位は「新規顧客の獲得」で、2位は「EC部門の売り上げの向上」となっている。そのほかに「リピーターの醸成」や「AI・音声認識のテクノロジーへの対応」「カゴ落ち防止への対策」なども上位に入っている。
事業者が抱えている課題に対して井野川氏は「『Amazon Pay』が支援できる」と話し、EC事業者が「Amazon Pay」を使うメリットを3つ挙げた。
それは「新規顧客の獲得」「コンバージョンレートの改善」「不正取引対策」だ。
新規顧客の獲得
カートシステム会社らの調査によると、ゲスト購入のうち決済手段に「Amazon Pay」が選ばれる割合は最大5割程度と非常に高い。そのうち最大8割程度が会員になるといい、他の決済に比べて3倍程度高い割合だ。
その理由は、購入完了と同時にAmazonアカウントに登録している情報を使って自動的に会員登録まで済むことが大きい。会員になるとメルマガなどを使ってリピート施策につなげることができるため、マーケティングの側面でも効果を発揮する。
実際、「Amazon Pay」を導入した100サイトと、導入していない100サイトで新規の会員登録数の増加率を比較すると、「Amazon Pay」を導入している事業者は前年比でおよそ2倍になっている。
一方、未導入の事業者は前年比で35%の伸びとなり会員獲得率で65ポイントの差が出ている(フューチャーショップ、ecbeing、アイピーロジック調べ)。
北海道日本ハムファイターズの事例では、「Amazon Pay」導入前の年と導入直後の商品購入件数を比較すると、購入件数が約4割程度増加した。購入件数の内訳は、前年同月比でファンクラブ会員が2割程度増、ゲスト購入者は約8割程度増加した(フューチャーショップ調べ)。
同社によると、「Amazon Pay」以外での決済が前年比で約3割程度増だったことを踏まえると、ゲスト購入者による購入件数の増加は「Amazon Pay」で決済手続きが簡便になったことが大きく影響していると分析している。
アパレル大手のユナイテッドアローズでは「Amazon Pay」がAmazonギフトカードでの支払いに対応したことで、クレジットカードの利用を控えたいお客さま層の利用が新たに伸びることを期待しているという。
コンバージョンレートの改善
「Amazon Pay」導入済みECサイトと未導入のECサイトを比較した結果、導入済みECサイトは前年比で月間の注文件数が約9割程度増加。未導入では約6割程度増のため、約2割程度のポイントの差が出ている。
家電販売のディーライズのケースでは、「Amazon Pay」導入によりコンバージョン率は約4割強、売り上げは約5割強伸びた。同社によると、「Amazon Pay」は決済手段の中でも利用率が最も高く、期待以上の効果があったとしている。
完全栄養食を販売するベースフードの場合、「Amazon Pay」の導入前後1か月間を比べると新規顧客は約2割程度増加。「Amazon Pay」の導入で購入へのハードルが下がり、コンバージョン率が導入前と比較して約2割増しになったようだ。
不正取引対策
Amazonでは、Amazonアカウントのログイン時に2段階認証にするなど厳格な管理を実施。また、グローバル化する不正に対していち早く情報を得て対応することで、不正注文を行いにくくしている。不正取引に対してサポートも実施しており、Amazonが一定の条件のもとで事業者の損害を補填する。
こうした不正取引対策に対する事業者の評価も高い。ブランド商品を扱うコメ兵は、「Amazon Pay」の導入で不正取引に関する確認作業が軽減したという。Amazonマーケットプレイス保証の対象であることから、実質的にチャージバックのリスクをゼロに近づけることが可能だとしている。
アイロボットジャパンは、「Amazon Pay」の導入の決め手として、国内での利用率の高さや導入済みのECサイトからの良い評判に加え、不正取引対策ができることを挙げた。高額商品を多く扱う同社だが、当初の想定を上回って「Amazon Pay」が利用されているようだ。
高額商品は詐欺被害に遭いやすい傾向があるため、「Amazon Pay」の不正取引対策にメリットを感じて導入するケースもある。
サブスクリプションモデルでも月商3倍以上の成果が
「Amazon Pay」導入企業のなかには、サブスクリプションで成果が出ているところもある。
化粧品を販売するバルクオムでは、「Amazon Pay」を導入した結果、すぐにコンバージョンレートが約5割程度向上した。定期購入の顧客数も伸び続け、1年半前と比べて月商が約3割強の増加になったという。なお、同社の場合は「Amazon Pay」を使った購入のうち約9割強がスマートフォン経由だという(バルクオム調べ)。
メール型サービスやテレビショッピングの対応も
最後に、「Amazon Pay」の直近のトピックスのなかで重要なものを確認しておこう。
決済手数料
Amazonは2021年10月1日から、「Amazon Pay」の決済手数料を従来までの4.0%から3.9%に手数料を値下げした(デジタルコンテンツ4.5%は据え置き)。
越境EC
越境ECへの取り組みとして、ジグザグと協業し同社の「Wordshopping BIZ(ワールドショッピングビズ)」という越境ECサービスと連携。海外のAmazonアカウントを持つ消費者が日本のECサイトで商品を購入する際に「Amazon Pay」が利用できる。
メール型サービス
最近開始したサービスとして「メール型 Amazon Pay」がある。例えばカゴ落ちメールを送る場合に、メールの中に「Amazon Pay」を組み込むことによって、お客さまがメールからダイレクトに商品の購入画面に遷移して購入できるというもの。この「メール型 Amazon Pay」の導入を検討する事業者が増えているようだ。
音声ショッピング
Amazon Alexaを活用して「Amazon Pay」による音声ショッピング(ボイスコマース)が可能になる。
音声ショッピングは今後どんどん増えていくと思っている。こういったものも、皆さまに使っていただける。(井野川氏)