マーケティング効果を最大化する決済手段とは? 購買体験の向上と販売促進を両立する「Amazon Pay」のメリットと効果を大解説
ECビジネスにおいて、購買体験の向上や販売促進は常に重要な課題である。そのなかで、決済システムの選択は単なる取引の手段にとどまらず、マーケティング効果を高める施策としてEC事業者からの注目が集まっている。その代表サービスとしてあげられるのがAmazonのID決済「Amazon Pay」だ。
どのような強みがあり、決済を使う利用者とEC事業者の双方にどのようなメリットを与えるのか。アマゾンジャパンのAmazon Pay事業部でHead of Marketingを務める永田毅俊氏が、「Amazon Pay」がもたらす多面的なメリットと、ECサイトの成長にどう貢献するか、最新の事例を交えて解説する。
Amazonアカウントを使用して決済できるのが最大の特徴
「Amazon Pay」は2015年にサービスを開始し、2024年で10年目を迎えた。自社ECサイトに導入できるID決済サービスで、利用者が「Amazon.co.jp」でショッピングする際と同等の簡便さと安心感を提供する。
「Amazon Pay」の最大の特徴は、利用者がAmazonアカウントを使用して決済できる点にある。これにより、新規で利用するECサイトでの煩雑な会員登録や個人情報の入力を省略でき、スムーズな購入体験を実現する。
現在、日本国内では2万社以上の企業が導入、10万サイト以上が利用している。その適用範囲は幅広く、ファッション、食品、家電といった一般的な商材から、旅行サービス、フードデリバリー、デジタルコンテンツ、メディカル分野にまで及んでいる。
「赤十字」などの寄付、「ふるさとチョイス」「ふるなび」などふるさと納税、さらに、BtoCだけでなくBtoBの取引でも活用いただいている事例がたくさんある。「Amazon.co.jp」で提供していない旅行やデリバリーなど、さまざまな業態で活用いただいている。(永田氏)
「Amazon Pay」が利用者に提供する3つのメリット
「Amazon Pay」が利用者にもたらすメリットは、主に次の3点に集約される。
もたらすメリット①:安心感
「Amazon Pay」は、日常的に利用している「Amazon.co.jp」と同等のユーザーエクスペリエンスを利用者に提供する。初めて訪れた自社ECサイトであっても、「Amazon.co.jp」と同等の決済環境が用意されるため、利用者は安心して商品を購入できる。また、「Amazon.co.jp」のマーケットプレイス保証と同等の利用者保護が適用されるため、取引に対する不安を軽減できる。
利用者にもたらすメリット②:スピード感
「Amazon Pay」を利用すると、利用者の住所や決済情報が自動的に自社ECサイトに連携され、確認作業のみで購入を完了できる。欲しい商品をすぐに手に入れられるスピード感は、特にモバイル端末での購入において大きな利点となる。
利用者にもたらすメリット③:利便性
「Amazon.co.jp」にログインする際のIDとパスワードさえ覚えていれば、「Amazon Pay」を導入しているどのECサイトでも簡単に決済できる。これにより、ECサイトごとにIDやパスワードを管理する煩わしさから解放される。
その他のメリット
これらのメリットに加えて、「Amazon Pay」は多様な支払い方法を提供している。クレジットカード決済はもちろん、「Amazonギフトカード」の残高を利用することも可能だ。さらに、あと払いサービス「Paidy(ペイディ)」と連携し、3回払いや6回払いなどの分割払いにも対応している。
「Amazon Pay」が提供するEC事業者へのメリット
「Amazon Pay」の導入は、EC事業者にとっても多くのメリットをもたらす。それらは主に次の3点に集約される。
EC事業者にもたらすメリット①:利用者が安心して買い物できる環境の提供
「Amazon Pay」を導入することで、ECサイトは利用者に安心感を提供できる。これは特に新規顧客の獲得、高額商品の販売において効果を発揮する。「Amazon Pay」を導入しているGreenspoonとコメ兵ホールディングスは次のように説明している。
想像よりもはるかに多くのお客さまに「Amazon Pay」を利用いただいており、今では約半数が「Amazon Pay」を使った商品購入。クレジットカード番号や個人情報を入力するのは気が引けるお客さまは少なくない。そういったお客さまに対して、Amazonというブランドが持つ高い信頼感にバックアップしてもらっているという側面があると思う。(Greenspoon)
扱う商材がブランド品で、転売などの不正取引のターゲットにされやすく、安全かつスピーディなオンラインでの決済方法を探しているなか、検討したのが「Amazon Pay」だった。導入後、不正取引に関する確認作業が軽減された。また、Amazonマーケットプレイス保証の対象となり、実質的にチャージバックのリスクをゼロに近づけることが可能になった。(コメ兵ホールディングス)
これらの事例は、「Amazon Pay」が新興企業や高額商品を扱う企業に対して、安心感と信頼性を提供し、ビジネスの成長を後押ししていることを示している。
EC事業者にもたらすメリット②:新規顧客の獲得
「Amazon Pay」の導入は、新規顧客の獲得にも大きく貢献する。データによると、ゲスト購入者の40%〜50%が「Amazon Pay」を利用しており、「Amazon Pay」で購入した利用者は他の決済方法を選択した利用者と比較して、約3倍の割合で会員登録を行っている。
フューチャーショップ、ecbeing、アイピーロジックの調査によると、「Amazon Pay」導入済みの店舗と未導入の店舗を比較すると、新規会員登録数の増加率に65ポイントもの差が見られる。これは、「Amazon Pay」が新規顧客獲得のハードルを下げ、利用者数の増加や購入回数の増加につながる可能性を示唆している。
ベースフードでは、自社の事例を次のように報告している。
お客さまの立場に立てば、新興企業のECサイトでクレジットカード情報を入れるのに抵抗があるのは当然のこと。「Amazon Pay」の導入で購入のハードルが下がることで、導入後1か月で新規のお客さまは2.14倍、コンバージョン率が導入前と比較して2.5倍以上になるという、非常に良い結果を得ることができた。(ベースフード)
EC事業者にもたらすメリット③:コンバージョンレートの改善
「Amazon Pay」の導入は、コンバージョンレートの改善にも寄与する。フューチャーショップの調査によれば、「Amazon Pay」導入済みの店舗は未導入の店舗と比較して、月間注文件数の増加率が28ポイント高い傾向にある。
この点について、家電・PC販売を行うディーライズは次のように説明している。
スマートフォンでのコンバージョン率向上が課題だったため、スマートフォンでもスムーズに決済できる「Amazon Pay」の導入を検討した。普段、「Amazon.co.jp」を利用しているお客さまとの親和性は高いと推測していたが、導入後コンバージョン率が40%以上となり、決済手段のなかで利用率が最も高く効果があった。(ディーライズ)
これらのメリットは、「Amazon Pay」が単なる決済機能にとどまらず、マーケティング的な効果をもたらすことを示している。「買いやすいECサイト」の実現を通じて、利用者数の増加、購入単価の向上、リピート率の上昇といった成果が期待できるというわけだ。
OMOやBtoBなど「Amazon Pay」の活用方法が広がっている
「Amazon Pay」の活用は、従来のオンラインショッピングの枠を超えて、さまざまな形で広がりを見せている。その一例が、オムニチャネル戦略「OMO」への適用である。
寝具販売を手がける西川の福岡ショールームでの取り組みは、この新しい活用方法を示す好例と言える。西川は、ショールームで利用者が試した商品に関する情報を記載したショップカードを配布。このカードには、「Amazon Pay」ボタンのイラストとともにQRコードを印刷している。
利用者が帰宅後、このQRコードをスマートフォンで読み取ると、試した商品がすでにカートに入った状態のECサイトのページに遷移する。そこで「Amazon Pay」ボタンを押すと、わずか2~3クリックで商品を購入できる。これにより、オフラインでの体験とオンラインでの購買をシームレスに結び付けることを可能としている。
約7割から8割のお客さまが西川のオンラインサイトでの会員登録に進んだ。売り上げ、そしてコンバージョンも大きく伸長した。西川のECサイトでは主に約6種類の決済を使用しているが、そのなかでも「Amazon Pay」は1、2番を争うようなシェアになっている。前年比で約2ケタ伸長している。(西川)
また、「Amazon Pay」の活用はBtoB取引にも広がっている。厨房機器を販売するテンポスドットコムでは、「Amazon Pay」導入後、全決済の約15%が「Amazon Pay」によるものとなっている。
さらに、Amazon出品サービスと「Amazon Pay」を併用する事業者も増加している。たとえば、島村楽器は「Amazon.co.jp」での売れ筋商品と自社ECサイトでの売れ筋商品を戦略的に使い分け、両ビジネスの成長を図っているという。
これらの事例は、「Amazon Pay」が単なる決済手段を超えて、オムニチャネル戦略の重要な要素となり、さらにはビジネスモデルの多様化や販路拡大のツールとしても機能していることを示している。
単なる決済サービスを超えてマーケティングツールとしての機能を果たす
「Amazon Pay」は、その簡便さと安全性により、利用者に大きな利便性をもたらすと同時に、EC事業者に対しても多面的なメリットを提供している。新規顧客の獲得、コンバージョン率の向上、さらにはオムニチャネル戦略の実現など、その効果は多岐にわたる。
特に注目すべきは、「Amazon Pay」が単なる決済システムを超えて、マーケティングツールとしての機能を果たしている点だろう。「買いやすいECサイト」の実現を通じて、利用者数の増加、購入単価の向上、リピート率の上昇といった具体的な成果につながっている。事実、多くのEC事業者からの「『Amazon Pay』は単なる決済サービスではない。マーケティングツールである」という声は少なくない。
さらに、「Amazon Pay」の活用範囲は従来のECの枠を超えて、オフラインとオンラインの融合、BtoB取引、Amazon出品サービスとの併用など、多様な形態に広がりを見せている。これは、デジタルコマースが今後、単一のチャネルや手法に限定されず、多様な要素が有機的に結合していく方向に進化していることを示唆している。
ECの競争が激化するなか、購買体験の向上と販売促進の両立は、すべての事業者にとって重要な課題である。「Amazon Pay」の導入は、こうした課題を前にして単なる決済システムの変更にとどまらず、ビジネス全体のデジタル戦略を再考する機会にもなるだろう。
今後、テクノロジーの進化とともに、利用者の購買行動はさらに多様化、複雑化していくことが予想される。そのなかで、「Amazon Pay」のような決済サービスが果たす役割は、ますます重要になっていくと考えられる。ECに携わる事業者は、こうしたツールを戦略的に活用し、常に変化する市場環境に適応していく必要があるだろう。