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本連載の読者は、既存事業を持っていて、ECやオムニチャネルの取り組む会社のEC担当者を想定しています。「会社がECをどのように考えているか」で、組織、担当者の所属、役割は変わってきます。ECに関する会社の考え方を理解のうえ、それに合わせたサイト・サービスを作るべきですし、その他の業務を遂行していくことが大切です。また、社内を啓蒙したり、他部門との話を空回りさせずに、協力を得ていくためにも必要です。

「オムニチャネルは小売そのもの」と考える会社はまだ多くはありませんので、「会社がECに何を期待しているか」「ECは新規事業なのか、新規ビジネスなのか」などが、ここでいう位置づけにあたります。それどころか多くの会社で、ECを1つの店舗と考えていたり、その一方で期待していることはマーケティングの一部だったりと実情はあいまいなのです。

本連載では「新規事業」と「新規ビジネス」をあえて別の意味で使っています。新規事業はP/L責任を持つもの、新規ビジネスは、他の事業にも大きくオーバーラップする一連のオペレーションの塊を事業のように見なしています。

自社におけるECの位置付け

まずは一般的にあまり明確でないことも踏まえながら、あまり突き詰めすぎず、自社が仮に置いている考え方を確認します。

以下の図は、新規事業の方向性について、既存市場、新規市場、既存商品、新規商品を2×2のマトリクスにしたものです。ECに限らず、新規のビジネスを考える際によく使います。

縦軸は新規市場(顧客・チャネル)か既存市場かを表し、横軸は既存商品か新規商品かを表す。通常はグレーの矢印で事業の拡大を図る
縦軸は新規市場(顧客・チャネル)か既存市場かを表し、横軸は既存商品か新規商品かを表す。通常はグレーの矢印で事業の拡大を図る

通常の新規事業や事業拡大は、「既存商品の新規市場投入」、もしくは「新規商品の既存市場投入」です。「新規商品の新規市場への投入(図中青矢印)」は、今までの顧客・経験を利用できず、リスクが高く、資金を投入しての解決を伴う「力業」です。

たとえば、ECを「新規チャネルや新規市場」ととらえると、まず、「既存事業で扱ってきた商品をECで販売する」という選択があります。「ECのターゲットを誰とするか」「ECで売る商品を何にするか」などは、MDの考え方や集客の仕方、サイトの作りに大きく影響します。

皆さんの会社はどうでしょう。どんな方針でも、いったんはそれを「正しいこと」として進めてください。そうでないと、得られた結果が方針によるものなのか、方針に従わない行動のせいなのか、マネジメントが判断できず、方向の修正に至りません。

ここに書いたことと少し矛盾しますが、筆者はECを新規チャネルや事業ではなく、「顧客との新しいタッチポイント(コンタクトポイント)」だと考えています。ECやオムニチャネルだけの収益を考えるのではなく、既存事業を含めた全体での成果を見るべきだということです。今後、必要に応じて説明していきます。

全社の中のEC組織の位置付け

それでは、全社の中でEC部門がどのような位置付けにあるのかを確認しましょう。「立ち上がり期」と「成長期」に分けて見ていきます。

立ち上がり期

既存事業を持ち、ECを始めた会社のEC組織は、フェーズにより下記のようなパターンが考えられます。

ブロックの長さは組織の人数や規模を表す。既存の組織にEC事業部を付け足す「準備室」型、新しくEC事業部を作る「いきなり事業部型」などがある
ブロックの長さは組織の人数だけでなく大きさを表している

既存の組織にEC部門を付け足す「準備室型」、新しくEC事業部を作る「いきなり事業部型」などがあります。

立ち上がり期は、不確定要素の多さからまだ腰が引けていたり、トップの意向と現場に大きなギャップがあったりすることもあります。その場合、図左の上の部分だけの「準備室型」をトップ直属として始めることがあります。(図、上のオレンジ部分)、特徴は少人数。長所は売上予算にかかわらず推進することが可能なこと、トップの意向を知りやすいことなどです。一方で短所は、現場のリソースを持っていないことです。

スタッフ型」は、ECチームは既存事業部門内にありますが、ラインではなく、企画や推進担当のようなスタッフの位置づけです。長所は部門長にその気があれば、部門内のリソースを使い推進が可能なこと。短所は部門のPL(損益)や業績により、活動が制限される可能性があることです。

「準備室型」と「スタッフ型」を両方設置し、ECの推進を図っている会社もあります。

図中央の「いきなり事業部型」は、規模は小さくても、EC事業部を既存事業部門と同格に置き推進していくタイプです。長所は判断が速くできることと、リソースさえあれば推進力があること。短所は既存部門の協力や会社の強みを利用しにくいところです。

図右の「分散設置型」は、全社で取り組み、フルラインアップで行うために全部門内にEC担当を置き、上部に全体の調整スタッフを置く形です。長所は既存部門の協力を得やすく、会社の強みを利用しやすいこと。短所はリソースが分散しているため効率が悪く、ノウハウの蓄積が難しいことなどです。

成長期

成長期の組織は、初期の「準備室型」はないとして、「いきなり事業部型」が育ち、「リソース集中型」や先ほど解説した「分散設置型」になっていきます。

「いきなり事業部型」が育つと「リソース集中型」となる。「マトリクス型」はあまりうまく機能しないことが多い
「いきなり事業部型」が育つと「リソース集中型」となる

図左の「リソース集中型」は、EC部門が大きく育った形です。長所はやはり判断を速くでき、リソースを使った推進力があることです。短所は「いきなり事業部型」のときと同様に既存部門の協力や会社の強みを利用しにくいところではないでしょうか。

図右の「マトリクス型」は、各部門にECに必要な各機能や担当、またはチームを置き、事業の部門長と各EC機能の横串のリーダーの両方にリポートする体制です。長所は事業・機能の両方の意思がちゃんと反映され、リソースの効率化も図れること。この型は本来なら短所がないはずですが、ECに限らずマトリクス型の組織がうまく機能している例はあまり見たことがありません。上司が2人いて評価指標が2つあるのは、運用が難しいようです。

会社によって、ブランディングや既存ビジネス(店舗等)への集客のためにデジタルマーケティングチームを持つ場合もあります。マーケティング部門内の場合や独立したチームの場合もあります。ECビジネスにもマーケティング、Webマーケティングが必要です。

本来はリソースをまとめて全体を管理すべきですが、ECを新規ビジネスと考える場合やスピードを優先したい場合は、EC部門にマーケティング機能を独自に持たせて、全社のマーケティングと連携させることもあります。さらに、EC部門に全社のデジタルマーケティングを集約し、うまく機能している会社もあります。

ECビジネスの業務の特徴

実店舗ではビジネスの中心に店舗があり、同様にECビジネスの中心にはインフラ・システムがあります。ECビジネスは、おそらく思う以上にすべての役割でインフラ・システムへの依存が高いといえます。

初期のサイト構築やインフラ整備だけでなく、日々の活動・運用の中でも、コンテンツ制作担当がシステム担当とページの仕様を確認して表現できることとを議論したり、MD担当がシステム担当と商品登録の仕方や表示の工夫を話したり、独自のツールを組み込んでもらったりなどが行われています。マーケティング担当もプロモーション実施のための仕組みをシステムや制作の担当と話しますし、もちろん、CSや物流担当者も他担当と頻繁に話をしています。

ECは歴史の浅いビジネスであるからこそ、既存の小売や通販ビジネスと比べると部門内での各役割が明確に分離されていない場合もあります。

ECビジネスでは何をするにも中心にインフラ・システムがある
ECビジネスでは何をするにも中心にインフラ・システムがある

これらの特徴を意識しながら、部門内の各役割を理解していくことが大事です。

EC部門内の組織・役割

下記の図は、EC部門内のざっくりとした役割、チーム分けをイメージしたものです。皆さんの部門と比べてみてください。誰が、何をどのように分担・担当していますか?

EC部門内の役割の例
EC部門内の役割の例

主にマーケティング、MD、ささげ、商品登録、制作、カスタマーサービス、システム、物流などですが、会社によりチーム分けはさまざまです。

初期の段階は役割ごとに1人ずつ担当がいるわけでも、すべて内部で行う必要もありません。まずは兼務でも構わないので、ファンクションごとに部外・外注のリソースをコントロールするリーダーや担当がいて、外部や社内の他部署に対しアウトソーシングするような形から始めます。ノウハウを取り込みながら、状況に合わせて必要な部分を少しずつ内製化していきます。

この組織イメージとは別のパターンとして、システム、CS、物流等以外は、EC部門内の商品カテゴリーチームごとにMD、マーケティング、制作、登録を持つ場合もあります。これは商品を増やすことや特定の集客・表現には向いていて、MD担当からの運用がフレキシブルになるという長所があります。しかし、全体の効率化やサイトの統一観、全体としてのノウハウ蓄積には向いていません。少し規模が大きくなると、いったんは上の図のようなファンクション別の編成になり、さらに大きくなると、再度、商品カテゴリーやブランド別の組織に変化する場合もあります。

ECの立ち上がり期、成長期ともに、社内組織や他部門との役割分担、EC部門内構成ともにどの形がベストかはまだどの会社でも明確でなく、正解はありません。いろいろな会社が組織の改編を繰り返し、行ったり来たりしています。取り組みのステージやトップのコミット、担当部門長の本気度、EC部長の経験とスキル、スタッフのスキルや人数、社風などにより、体制を個別に設計するしかありません。

担当者は、組織や役割に日常的に不満を言うのではなく、いったん決められた枠組みでベストを尽くし、その結果を評価して上司とともに次に反映させていくことが新しいビジネスに取り組んでいくためのあるべき姿勢です。

◇◇◇

ここで説明したことと皆さんのEC部門の状況を比べて、会社がECをどのように考えているか、その結果、どうして現在の組織・所属・役割となっているのかはイメージできましたか?

今まで意識していなかったこれらのことがわかると、位置付けがわからなかったEC業務やはっきりしなかったサイト・サービスの目的が整理され、ちぐはぐだった他部署とやりとりを改善できるのはないでしょうか。

次回は「ECでまずやるべきこと」について解説していきます。

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中島 郁

ネクトラス株式会社 代表取締役

中島 郁(なかしま かおる)

ネクトラス株式会社 代表取締役

新規事業立ち上げ、急成長事業マネジメントのプロフェッショナル。

ベンチャー、外資、老舗にて、事業立上げ、急成長ビジネスの責任者を歴任。関与分野は、小売、EC、インターネット、メディア、アウトソーシングを含むサービス業等。

トイザらスではマーケティング部門立上げ、EC専業法人設立。ジュピターショップチャンネル執行役員(EC、テレビ編成及びマーケティング)本部長を経て、世界最大のECサービス企業GSI Commerce(eBay Enterprise)アジア太平洋担当副社長兼日本法人社長。三越伊勢丹では役員兼WEB事業部長として、EC・情報メディア等の構築、オムニチャンネル導入を担当。米国Babson College MBA。

おそらく大規模EC・オムニチャンネル3社で事業責任者に携わった国内唯一の経験者。
ベンチャーから大企業までのコンサルティング、アドバイス、顧問、業務支援に携わっている。

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