II-1. 「やるべきこと」と「やったほうがよいこと」

具体的なEC業務の考え方、説明を始める前に、もう一度、この連載の構成を説明します。IIのパートでは、ECを行うにあたって「やらなくてはならないこと」を説明していきます。

  • a. はじめに。全体について
  • b. ECを行うにあたって「やらなくてはならないこと」
  • c. ECを行うにあたって「やったほうがよいこと」
  • d. ECを行うにあたってその先
  • e. その他(分析など)

まずは「やるべきこと」を徹底する

「ECを行うにあたってやらなくてはならないこと」は、これをやらなくては「そもそもECサイトを開けられない」あるいは「お客様をお迎えできない」レベルのことです。ECビジネスの構成をレイヤー(階層)分けすると一番下の基本レイヤーに相当する部分です。

「そんなことがあるのか」と思うかもしれませんが、実際できていないところが本当に多いのです。たとえば、ある商品の特集を計画して、バナーや特集ページ、Web広告などを準備したとします。しかし特集の開始当日、バナーや広告のリンクをクリックすると「商品が見つかりません」「ページが見つかりません」と表示が……。

調達の遅れか、商品説明が未完成なのか、登録が間に合わなかったのか、登録方法が間違っていたのか。人気商品の場合、連絡がうまくいっていないと、システムキャパシティ準備不足で表示に時間がかかったり、物流要員不足で通常出荷ができなかったりすることもあります。基本レイヤーができていない、運用ができない、ECサイトが多いのです。アクセスして商品やページが見つからなければ、それは「事故」であり、「人災」です。

一般の小売の広告費に比べると非常にコスト高でもあるWeb広告は無駄になるし、こうした経験をしたお客様は、二度とサイトに来なくなるかもしれません。また、検索エンジンからの評価が下がり、自然流入に影響を与える可能性もあります。「よそでやっていること」や「新しいこと」の前に、まず「やるべきこと」の徹底が重要です。一時的な強化施策以外で、売り上げ、訪問数、認知などを伸ばすのに最も貢献するのはベースの部分を確実に回し、改善していくことです。1つひとつの特集やキャンペーンはプロジェクト的に進めますが、複数の施策を回すことは運用です。運用は基本レイヤーの根幹の1つです。

一番下の基本レイヤーである「やるべきこと」がおろそかなまま「やったほうがいいこと」に手を出してもうまくいかない
一番下の基本レイヤーである「やるべきこと」がおろそかなまま「やったほうがいいこと」に手を出してもうまくいかない

基本レイヤーは他部署の協力も必要でとにかく時間がかかる

「やるべきこと」レイヤーで最重要なことの1つが商品です。単純に品数が多ければよいというわけではありません。基本的な集客やその先のマーケティング施策をしても、集客した顧客に提示する基本となる「商品」などのコンテンツの準備が、サイト上でしっかりできていなければ意味がありません。ECでの最も重要なコンテンツは、「商品」と「商品情報」です。

この基本部分は、登録オペレーションだけでなく、社内の関係性・意識、他部署の協力、既存業務の変更を伴うものなどに起因することが多く、とにかく時間がかかります。

一方で「やった方がよい」機能は、担当者のWebスキルと外部リソース、お金で解決できるものが多いので一見取り組みやすく、基本のECの体制の未整備が起因で伸び悩んでいるにもかかわらず、自分たちでコントロールしやすい「やった方がよい」案件につい力を入れてしまうのです。

既存事業では、やるべきことがすでにできているからこそ、いろいろな新しい手法を取り入れて、さらなる売り上げの増加を図っていますが、ECはまだやるべきことができていない新規ビジネスです。同じような感覚で、優先順位を間違えてはいけません。

MD、品ぞろえ、制作、システム、物流、(有料Web広告を除く)マーケティング、SEOや集客、CSなどで「やるべきこと」をこのあとの連載で説明していきます。

「やったほうがよいこと」は「やるべきこと」を徹底した後で

「ECを行うにあたってやったほうがよいこと」は、かなり乱暴に仕分けすると、Web広告やリコメン(おすすめ商品の提示)などの売り上げをさらに上げる要素や、本当に顧客が求めているかわからないこと、既存ビジネスでの特徴をWebで実現することなどです。もちろん、これらも一度始めてしまえば、「ECを行うにあたってやらなくてはならないこと」になります。

大きな区別は、「やらないとECサイトが開けられない/売り上げなどがマイナスになること」と「やれば売り上げなどがプラスになること」です。

Web広告やリコメンをやらないECサイトは考えられないかもしれません。ここでは時間軸ではなく、やらなければ基本的な運用ができないという視点、もしくは優先順位で便宜的に分けています。たとえば、商品登録ができていなければ、リコメンで商品は出せませんよね。

ECビジネスのコンセプトに順守しないならそれは「やるべきではないこと」

自社のECサイトは、どんなサイトですか? 何のため、誰のためのもので、既存事業との関係性はどうですか?

おそらく、ECサイトを開設する際に、ある程度定義されているはずです。その後変わってきている部分もあるかもしれませんが、まずは次のことを常に意識して活動しなければなりません。

  • ECサイトのコンセプト
    ー 何が売りなのか
    ー 立ち位置・ポジショニング
    ー 誰が顧客なのか(ターゲット)
  • 既存事業のある会社がEC、オムニチャネルをやる意味/既存事業との関係性

大きく言えば、「コンセプト」ですが、要はビジネスのターゲット、ポジショニングなどマーケティング戦略の基本の考えです。簡単に言えば、「何のための」「誰のための」ECサイトかということです。実店舗でも、媒体でも必ずコンセプトからぶれないようにしているはずです。コンセプトからぶれたものは、やはり顧客から見透かされてしまいますし、品ぞろえや特徴、強みがあいまいになります。

コンセプト・方向性に沿っているかは上長が確認するはずですが、「最初の段階からかかわる担当者がコンセプトを理解し、意識しているか」が、アウトプットの質に大きくかかわります。

  • コンセプト・ターゲット顧客に合ったコンテンツ(商品)をサイト上に掲載する。
  • コンセプト・ターゲット顧客に合わせた店づくり(サイトづくり)をする。
  • コンセプト・ターゲット顧客に向けた告知を行い、集客をする。
  • コンセプト・ターゲット顧客に合った価格設定をする、もしくは合った価格の商品をそろえる。

たとえば、シニア向けのサイトなのに、細身のシャツばかりそろえたり、文字や図が小さかったり、アイドル情報のサイトに広告を出したりしても、目的は達成できませんよね。要は、マーケティングの基本4P(Place、Product、Promotion、Price)そのものです。「4Pは古い、Webに合わない」という方もいますが、ベースの考え方は同じです。理解したうえで、応用していきましょう。

マーケティングの基本4Pの図
マーケティングの基本4Pの図

実務をやっていると、いろいろな関係性やリソース、スケジュールの影響で、コンセプトに合わせることがおざなりになっていきます。本来はEC部長が方向性を正すべきですが、担当者も、コンセプトを簡単にまとめたものがあれば机の前に貼っておくくらいのことをおすすめします。事業計画の最初の方やECサイトのビジネス定義書などがあれば、それを使うのもいいでしょう。

「やるべきこと」や「やったほうがよいこと」に見えても、このコンセプトに合わないならばそれは「やるべきでないこと」です。

ネットビジネスにおける3つの基本要素

筆者は、ネットビジネスには、大きく3つの要素があると考えています。それは次の要素です。

  • ネット上のコンテンツの量・質
  • サイトのつくり
  • コンタクトポイント(集客)

これは、ECでいうと、それぞれ次のことに対応します。

  • ⇒ 商品、商品情報、ブランド情報、(トピックス、豆知識、ノウハウ、オウンドメディア)など
  • ⇒ ECサイトの作り
  • ⇒ サイトそのもの、SEO、実広告、WEB広告、メルマガ、SNSなど

さらに、実店舗では、次のことに相当します。

  • ⇒ 商品、ポップ、VMD(ビジュアルマーチャンダイジング)
  • ⇒ 店のつくり
  • ⇒ 店そのもの、チラシ、DM、交通広告、看板など

要は、基本の基本は、実店舗と同じで、実店舗での知識、経験が使えますよということです。もちろん、違うところはちゃんと理解しなければならないのですが。3つの要素をECと実店舗で対比しながらまとめたのが次の表です。

ネットビジネスの要素ECの場合実店舗の場合
ネット上のコンテンツの量・質商品、商品情報、ブランド情報(トピックス、豆知識、ノウハウ、オウンドメディア)などなど商品、ポップ、VMD
サイトのつくりECサイトの作り店のつくり
コンタクトポイント(集客)サイトそのもの、SEO、実広告、WEB広告、メルマガ、SNSなど店そのもの、チラシ、DM、交通広告、看板など
ネットビジネスの3要素をEC・実店舗に当てはめた対応表

ほとんどのECの基本要素は、オーバーラップしながらも3つの要素のどれかに当たります。

次回以降は「やるべきこと」を個別のファンクションごとに説明していきます。その中で、それぞれが3つのどれにあたるのかも記載していければと考えています。

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中島 郁

ネクトラス株式会社 代表取締役

中島 郁(なかしま かおる)

ネクトラス株式会社 代表取締役

新規事業立ち上げ、急成長事業マネジメントのプロフェッショナル。

ベンチャー、外資、老舗にて、事業立上げ、急成長ビジネスの責任者を歴任。関与分野は、小売、EC、インターネット、メディア、アウトソーシングを含むサービス業等。

トイザらスではマーケティング部門立上げ、EC専業法人設立。ジュピターショップチャンネル執行役員(EC、テレビ編成及びマーケティング)本部長を経て、世界最大のECサービス企業GSI Commerce(eBay Enterprise)アジア太平洋担当副社長兼日本法人社長。三越伊勢丹では役員兼WEB事業部長として、EC・情報メディア等の構築、オムニチャンネル導入を担当。米国Babson College MBA。

おそらく大規模EC・オムニチャンネル3社で事業責任者に携わった国内唯一の経験者。
ベンチャーから大企業までのコンサルティング、アドバイス、顧問、業務支援に携わっている。

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