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アダストリアやユナイテッドアローズといったアパレル大手企業が自社通販サイトのリニューアルに際して不具合を起こした。通販サイトの刷新は巨額の費用がかかるだけでなく、EC責任者や関連部署の人的リソースを割く必要もあり、ミスがあればその代償は大きいものになる。リニューアルを成功させるために企業が気をつけるべき点は何か。メガネスーパーのECを統括し、アドバイザーとして他社のEC支援も手がける川添隆氏にポイントを聞いた。通販サイトのリニューアルを円滑に進める上で欠かせない「6カ条」を紹介する。

通販サイトのリニューアルを円滑に進める上で欠かせない「6カ条」
通販サイトのリニューアルを円滑に進める上で欠かせない「6カ条」

リニューアル時に成功するポイントの1つ目は「失敗するポイントを知っておく」ということ。

リニューアルはリスクとの戦いとも言える。リニューアルによって改善されることに目が行きがちだが、いかにリスクを減らしていくかが成功の秘訣となる。

そうなると、経験が多いほうが有利となり、それほど経験のない企業は失敗する確率がおのずと上がる。仮に経験がない場合は外部からEC運営を理解するプロを入れるのもお薦めだという。

もし自力でやるという企業は、成功するポイント2つ目が参考になるだろう。それは「規模が小さい時から内製化しておく」という戦略だ。

例えばECの規模が年商で数億円という段階で、徐々に内製に切り替える。いきなりすべてを自社で手がけずに、ささげ業務だけなど部分的に外注するという手もある。システム系を自社で理解し、実現したい顧客体験を構築するという運営方針に徐々に移行するのだ。

これが数十億円規模のECサイトになると、運営に必要な人員や関わる人員が増え、それぞれのチームが動くことになる。結果、チーム同士で遠慮して意見交換されなくなる可能性も出てくる。つまり絡む人数が増えるほどマネジメントが大変になる。その意味でも早めに内製化してシンプルな形でリリースするというわけだ。

とはいえ、サイトの規模が大きくなってから内製に切り替えるというケースもあるだろう。そこで大事になるのが3つ目のポイントだ。それは「システムの連携先を減らす」という方法

川添氏によると、アパレルの案件の場合、ECのみの運営でリニューアルするのであればほぼ事故は起こらないという。しかし、WMS(倉庫管理システム)などの物流に加え、基幹システム、さらにそこにPOSが連携し、加えて在庫連携も絡んでくるとなると、難易度が一気に高くなってしまう。連携先が増えれば増えるほど不具合が生じる確率も上がるのだ。

不具合の内容も、サイトのフロント的な部分、つまりレコメンドエンジンや決済、サイトパフォーマンス向上ツールなどに関しては、それほど深刻な問題にならないが、やっかいなのが在庫連携の仕組みや基幹システムの不具合。実店舗など他のチャネルにも影響を及ぼすため、場合によってはEC側を切り捨てて基幹システムを守るという選択が必要になってくるようだ。

こうした事態に陥らないためにも、連携先が多い場合はリニューアル時にこれまでやっていないことをあまり盛り込みすぎず、安定稼働させることを優先することも大事になる。

4つ目の成功のポイントは「コミュニケーション」。これは関わる人が増えるほど重要になってくるという。リニューアルに関わる社内外の人員は遠慮しあってはっきりと言わないのではなく、積極的に意見を交換することが求められる。

プロジェクトの統括者はリニューアルを成功させるために、おかしいと感じたら相手に伝えなければいけないという方針を徹底させるのが肝心だ。

先述したようにリニューアルはリスクとの戦い。リスクチェックをどんどんやる必要があるため、プロジェクトの早い段階でコミュニケーションを活性化させることが求められる。

また、社内のEC担当者と店舗担当者との間で、同じ言葉を用いていても違う解釈をしている場合もある。このように連携する部署が増えるほど、「イメージのずれ」も生じやすくなるため具体的な言葉で話を進めたい。

これは社内だけの話ではなく、業務を請け負うベンダーとの間でも同様で、パートナーのマネジメントも手を抜かず、互いに連携を密にしておく必要があるようだ。

このように積極的に意見を言う姿勢は、上層部に対しても重要と言える。そこで5つ目のポイントが「経営層に判断させてはならない」だ。

川添氏は「短期的に見るとリニューアルでは売り上げは伸びない」と指摘する。もちろん複数のサイトを統合すれば集客が増えるので購入者が増加するということはある。ただ、一般的には検索の順位が落ちるなどネガティブな要素もあり、従来のサイトから使い勝手が変わるのはリスクになりえる。

リピーターが多ければリニューアルによる売り上げの落ちこみは少ないとみられるが、新規に依存するサイト、言い換えると検索依存度が高いサイトは気をつけるべきだろう。

そうした事情も踏まえずに経営層や上層部から「売り上げを伸ばしたいのでとりあえずリニューアルをしよう」というような提案があっても、EC担当者は「サイトのリニューアルは短期的に売り上げが下がる可能性もある」ということをはっきりと伝えなければいけない

つまるところ、リニューアルの是非を経営層のみに判断させてはいけないということになる。

そして成功のポイント最後の6つ目は「優先順位を明確にする」ということ

リニューアルを行うに当たって、「100億円規模まで耐えられるサイト」「スマホファーストで」「実店舗のような顧客体験」などさまざまな構想を持って進めるが、使える予算は決まっている。そこで構想がいくら大きくても、リニューアル時はある程度絞るという発想も大事になる。

それは決められた予算にコミットするという意味合いが強いが、それだけではなく3つ目のポイントで挙げた「(新規の)連携先を減らす」という観点とも関連する。最初にすべてを実現できず、例えば顧客連携を見送ったとしても後から徐々に連携先を増やしていくという方法も可能ということだ。

壮大な構想が先行してしまい、やり直しを繰り返したり、予算との折り合いがつかずリニューアルができないということは避けるべきだろう。実現性の高いものやその時点での自社の戦略を踏まえ、何から優先的に進めればいいかを明確にすることが大事だ。

既存のシステムから新しいものに入れ替える際に、一気にいろいろな機能を足すのではなく、まずはシステムの移行をするだけと割り切ることも必要になる。不具合を起こさず、安定稼動することを最優先に考えて、追加でやりたいことは次のフェーズでプラスしていくというくらいのマインドで臨むのがいいのではないか。

いきなり100%の達成を目指すのではなく、冒頭に記したように何よりもリスクを減らすことがリニューアル成功の秘訣だろう。

<リニューアルで大事な点は?>小さく作り大きくする、「リリース後に部分的な改修を」

リニューアルで注意すべきはどのような点か。川添隆氏に聞いた。

リニューアルの進め方について説明する川添隆氏
リニューアルの進め方について説明する川添隆氏

――リニューアルで大事な点は。

リニューアルはリスクとの戦い。いかにリスクを減らすかが成功の秘訣。リスクを減らすには外部から経験豊富なプロを入れるか、規模が小さいうちに内製化するのがお薦め。リニューアルはそもそも失敗するものと思っておいたほうがいい。成功するなんて安易に考えてはいけない

――大成功を望んではいけないということか。

「多くのケースで、リニューアルして完全に納得できるものにはならない。60%や70%くらいの出来になる。無理に100%を目指すとリスクがどんどん膨らんでしまう。むしろリニューアルしてから機能や連携先を追加したほうがリスクは少ない。よく『小さく作って大きくしましょう』と言うのだが、リリース後に部分的な改修をしながら売上拡大に向けて動くのがいいと考えている」

――リニューアルすればすぐに売り上げが伸びると思いがちだ。

「そうではないということがなかなか理解されない。それ以外でよくある勘違いは『ECだからすぐに更新できるんでしょう』というもの。通販サイトのリニューアルというのは、HTMLを更新するような話ではなく、データベースやサーバなども絡み、事前に要件定義を行って設計している。注文が入るとデータとしてどのように蓄積されるかなどすべてを事前に細かく決めなければいけない。いわば建築のようなもので、外側で生じたものを入れる箱を作っている。建築も外装は変えることができるが、柱の位置や骨組みを変えるのは大変。リニューアルも一緒で後戻りはできない。だからこそ慎重に行うべき

――その意味では、システムの連携も最小限に抑えるべきか。

「連携先が増えれば増えるほど不具合が起こる可能性は高くなる。特に基幹システムとの連携は大事故にもつながる。相当慎重にやるべきだろう。連携先が多くなるほどリスクは高くなるので、まずは無事にオープンさせることを優先するのも戦略の1つだろう。安定稼動を最初のフェーズで実行し、第2フェーズではやりたいことを追加で増やしていくのがいいのではないか」

――不具合はリニューアルで連携してみないと分からないのか。

「やってみないと分からないことが多い。例えばECと店舗でポイント制度を連携するとして、ポイントの計算方法がそれぞれで微妙に違っていたりする。それがテスト直前などで明らかになる。そうしたことはよく起こる。EC単独であればあまり失敗が少ないのは、チーム内の共通認識ができていることが大きい。ここに別のシステムやチームが加わると、認識のずれが生まれ、失敗の要因になる」

――計画をまとめる責任者も重要だ。

プロジェクトリーダーは上司や経営層の指示に捉われると失敗する。経験がある責任者であれば、過去の失敗を踏まえて『こういうベンダーと組みたい』といったビジョンを持てるが、上司の判断をあおぐだけだと、見積もりを見て『安いところにしよう』『他社もやっているのであそこを使おう』という選択の仕方になる。リニューアルはリスクが大きいため、事業責任者は成長のために必要な措置を自分の判断で行うべきだろう」

※記事内容は紙面掲載時の情報です。
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