公文 紫都 2020/8/24 8:00

無人店舗への初期投資は200万円以下(※一部設備をのぞく)――。AIカメラやセンサーなどを搭載した次世代無人店舗を低コストで構築したのは企業向けセキュリティソリューション「SECURE」を提供するセキュア。2020年7月、アイスタイルグループのコスメ商品「@cosme nippon(アットコスメニッポン)」とコラボし、次世代型無人店舗「AI STORE LAB」の実証実験を開始した。

「AI STORE LAB」は、セキュアが開発・提供する最新技術を導入した最新型の無人店舗。店内に計50台設置したAIカメラやセンサーなどで多角的なデータを取得し「店舗KPIの見える化」を実現。什器、セキュリティゲートなどは除くものの、低コストで「AI STORE LAB」の運営を実現できた理由は? サービス概要と合わせて、同事業の責任者である平本洋輔氏(取締役・事業開発部長)に話を聞いた。

顔認証で入店。キャッシャー不要の無人店舗

「AI STORE LAB」は、キャッシャーを不要とする無人店舗。入店や決済は顔認証で行う。

利用イメージとしては「Amazon GO」に近いが、Amazon GOが入店時にスマホアプリを利用するのに対し、「AI STORE LAB」は事前に登録した顔情報により認証が行われるため、スマートフォンを携帯していなくても買い物できるところに違いがある。

AI STORE LAB利用の流れ
「AI STORE LAB」利用の流れ

初回来店時に、店頭の外に設置された端末を利用し、登録サイト(セキュアが開発した専用アプリと連携)から、顔やクレジットカードなどの「個人情報」を登録すれば、次回以降は顔認証でセキュリティゲートを通過できる。

客は商品を棚から取るだけで、商品棚に搭載されたセンサーが自動で商品を識別。店内のAIカメラで撮影した顧客情報とひも付け、専用アプリ内の「カート」に入れる。退店時にゲートモニターに決済画面が表示され、内容に問題がなければ、あとは顔認証で決済が終了するという流れだ。

AI STORE LAB
退店時。顧客情報と商品情報が自動でひも付けられている。問題がなければ「お支払い」を押せば、顔認証により決済が完了しゲートが開く

「店舗KPIを見える化」する最新技術を導入

店内には、入店・退店時に使用する顔認証システムのほか、従来難しいとされてきた「店舗KPIを見える化」するための最新技術がいくつも導入されている。

1. AIカメラ

天井と商品棚にAIカメラを設置。来店客の導線、顧客情報(手に取った商品情報とのひも付け、1歳単位の年齢、性別、感情など)を把握。店内の混雑状況を把握し、「密」と判断した場合には、セキュリティゲートを開かないようにするなどの連携も。

天井に設置されたAIカメラ

2. AI商品棚(ヒートマップ搭載)

リアルタイムに在庫数を把握し、棚に置かれた商品数が一定数を下回った場合、店内スタッフの携帯端末に商品補充のアラートが行く。

店内入って左側に2つの商品棚を設置。写真にはないが、右側には美容部員が接客にあたれるスペースを用意。商品補充などの業務を効率化することで、「接客」にさらに時間を割けるという

また来店客が手に取ったが購入されなかった商品、商品配置の変化によって生じた売り上げへの影響などは、顧客情報とともにリアルタイムに分析され、専用のダッシュボードから確認できる。大量持ち去りがあった場合の万引き検知も行う。

AI STORE LAB
ダッシュボード。商品配置の変化によって生じた売り上げへの影響など、さまざまな分析に役立てられる

3. 商品連動サイネージ

各商品棚にはカメラ付きモニターが設置されており、来店客が棚から商品を手にすると、モニターに関連する情報、口コミが表示される。

AI STORE LAB
手にした商品の情報が表示されているようす

第一弾でコラボしている「@cosme nippon」との取り組みでは、実際に「@cosme」上に投稿された口コミを表示させることで、購入の後押しをする。

AI STORE LAB
手にした商品に関連する「@cosme」上の口コミ情報

精度は8-9割。残り1-2割の課題は?

無人店舗を展開する場合、利用企業が一番気になるポイントは「精度」だろう。棚から取っていない商品がカートに入っていた、購入したはずの商品がカートに入っていない。これらのミスが多発するようでは、無人店舗としての価値が軽減するからだ。

「AI STORE LAB」の事業責任者・平本洋輔氏(取締役・事業開発部長)は、「精度は、8~9割程度」という。

1~2割程度のミスが起きるのは、「1つの商品に対し複数人の手が重なるなどのシチュエーション」(平本氏)だという。

こうした課題解決策として、店頭スタッフもしくは来店客自らが棚のタッチモニターで商品の追加(+)や削除(-)ができるほか、退店時にJANコードでの追加、セキュリティーゲートに設置されたタッチモニターから商品の追加(+)や削除(-)などを行い、「修正」できるようにしている。

また、来店客が商品を手に持っているかどうかも、リアルタイムに管理モニターに表示されるので、不具合を検知した場合には、その場で修正できる運用にしているという。

セキュアの平本洋輔氏
セキュアの平本洋輔氏(取締役・事業開発部長)

初期費用200万円以下はなぜ実現?

「AI STORE LAB」は、ショールームという位置づけで、セキュアが提供する複数のソリューションを体験してもらう場としている。そのため企業は、店内のすべてのソリューションをトータルで導入することも、「顔認証システム」「AI商品棚」「スマホアプリ」など部分的に導入することもできる。

トータルで導入した場合でも、今回の実験店舗と同様の内容、規模感であれば、初期費用は200万円以下で収まるという(※什器、セキュリティゲートなどを除く)。低価格化の理由について、平本氏は次のように説明する。

商品棚に使用しているセンサーは既製品だったり、スペックの低いPCでもパフォーマンスが落ちないような開発設計をしたりと「モノ」にかけているコストが低いのが一つ。また、システムの構築をローカル(処理が軽いもの)、クラウド(処理が重いもの)で分けることで最適化を図っている。今後は軽量化に向けてさらに改善していく予定だ。(平本氏)

小売業界が抱える「IT化への遅れ」と「デジタル人材不足」という2つの課題

コスト重視の姿勢を貫く理由として、平本氏は「小売り出身」という自身のバックグラウンドと、そこで感じた「デジタル人材不足」の2つの課題をあげる。

小売業界にはIT化への遅れと、対応できるデジタル人材不足という課題がある。人がいなければ新しい取り組みはできないし、最新技術を導入してもどう効果測定していいか分からず、結局有効活用されない。加えて現在のコロナ禍では、万引きやロス率が増えるなどの問題も生じており、そうしたトラブルにも、当社が提供しているような最新テクノロジーが一役買う可能性があるが、前述した理由により導入ハードルは高い。(平本氏)

そこで、「実際に体験してもらうことで、『これは使える』。しかも低コストならうちでも導入できる」と、まずは体験できる場を用意することで、敷居を下げようと試みた。データの可視化により、業務効率の改善、売上向上、人件費の削減、ロス率の低減などさまざまなメリットも感じてもらいやすい。

「AI STORE LAB」
オンラインでリアルタイムに購入情報を確認できる

半年単位で企業と実証実験を行う予定

「AI STORE LAB」は、東京・西新宿の新宿住友ビル地下1階にある。セキュアでは同スペースを2年間契約しており、契約期間内に半年単位で複数の企業と実証実験を行う予定だ。その間に、AI活用のカギとなるさまざまなデータを収集しながら、さらなる改善を続けていく。

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