望月 智之 2020/9/16 8:00

店舗に足を運ぶ、商品を選ぶ、レジに並ぶ、お金を払う、商品を持ち帰る……。買い物にはさまざまなプロセスがある。しかしそれらのプロセスは、私たちが買い物をする上で、実は「面倒なことだ」ということに多くの人が気づき始めている。このような、ある意味での「買い物の無駄」を省くことで、私たちのショッピング体験は「(買い物をしているのに)買い物をしない」という、新たな段階へと進む。

買い物はこんなに面倒くさい

「買う」という行為は、思いのほか面倒くさい。

まず、店に行かないといけない。そのための身支度も整えないといけない。店に行くまでには電車に乗ったり、車を運転したり、自分の足で歩いたりする。

店に着いたら今度は売り場を探さないといけない。目的の売り場に着いても、類似商品がたくさん並んでいる。そこから自分が求めているものを選ぶのも、けっこう大変だ。品質や機能をチェックしたり、値段を見たりと、比較検討することはいろいろある。

買うものが決まったらレジの列に並び、ようやく支払いを済ませる。買った商品を家に持ち帰るまでも買い物だ。

モノを買うためのプロセスを分解すると、買い物とは、そうした面倒なことの積み重ねだということがわかる。

もちろん、反論も考えられるだろう。

週末に家族みんなで出かけるけれど、『面倒』というよりは楽しいイベントだ。

好きな服をたくさん見るのが好きだから、買い物はまったく苦じゃない。

電化製品は機能を見比べて検討したい。いいモノが買えるなら面倒だとは思わない。

こうした意見もきっとあるはずだ。しかしそれは、「買い物のプロセスの中の一部分」が好きだと言っているだけなのである。それも条件つきで。

週末に家族とドライブがてら出かけるショッピングは、確かに楽しいかもしれない。しかし、混雑している駐車場に入るまでに、どのくらいの時間がかかるだろう。帰り道は渋滞に巻き込まれるかもしれない。トイレットペーパーや洗剤、米や牛乳といった日用品・食料品などに至っては、正直「いつもと同じもの」でいいのだから、わざわざ出かけなくても、誰かに運んできてもらったほうがよっぽどいいのではないだろうか。

スーパーでの買い物イメージ

「服を選ぶのが楽しい」という人も、それ以外のプロセスは面倒なことが多いだろう。いい服が見つかっても、サイズがない。最近では「近隣の○○店なら在庫があるようです」といったことがわかる店も多いが、いずれにせよ、取り寄せに時間がかかるのであれば、また別の日に来店しないといけない。

電化製品の比較検討も、真剣に悩み出したら数日かかる。実は「信頼できる誰か」のひと言さえあれば、簡単に購入を決められることもあるのに、膨大な時間を費やす意味は本当にあるのだろうか。

人々は買い物のために店に行かなくなる

こうした買い物のわずらわしさを大幅に解消してくれたのが、ネットショッピングだ。皆さんの中には、もはや「ネットショッピングなしの生活は考えられない」というほど身近になっている人もいるだろう。新型コロナウイルス感染症の影響を受け、家から出ることなく消費をする“巣ごもり消費”によって、この傾向はますます強まっている。

ネットショッピングは、買い物の中で最も面倒な「店に行く」というプロセスを省略してくれた。ほかにも、決済が簡略化され、値段や機能の比較もしやすくなったなど、それまでのショッピングと比べると革新的な要素は多い。楽天、Amazon、ZOZO、メルカリ、アットコスメなどは、誰でも一度は使ったことがあるはずだ。

ただ、日本において、消費者向けEC(Eコマース=電子商取引)の市場規模は約18兆円だ。この数字は大きいようにも見えるが、実はすべての商取引のうちECが占める割合、つまり「EC化率」は、わずか6.22%しかないのだ(経済産業省「平成30年度 我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備(電子商取引に関する市場調査)」より)。ネットショッピングが当たり前の時代になったといっても、全部が全部、それで済むようになったわけではない。

※ 編集部注:令和元年の調査ではBtoC-EC市場規模は19.4兆円、EC化率6.76%(詳しくはこちら

とはいえ、EC市場規模・EC化率の数値は年々右肩上がりで、今後もこの流れがそのまま進むことは明白である。

その結果、どうなるか?

人々はわざわざ買い物には行かなくなり、実店舗は街から姿を消していくだろう。すでに地方の商店街では「シャッター通り」が珍しくなくなっているが、今は賑わっているショッピングモールや百貨店であっても安泰ではない。

ショッピングモールの閉店イメージ

アメリカでは、大型ショッピングセンターが次々に姿を消しており、UBSが2019年4月に発表したレポートでは、ECのさらなる普及の影響などで、2026年までに米国内で7万5000店もの小売店が閉店すると予測されているのだ。日本でも、大手アパレル会社のオンワードが、国内外で全体の約2割に相当する600店舗を閉鎖するというニュースは衝撃を与えた。人口減少や働き手の不足は、構造的にも経営にさらに影響していくことになるだろう。

同レポートによれば、閉店する店の種類で見てみると、特に影響が大きいのが衣料品店で、同期間で2万1000店が閉鎖の憂き目に遭うと見られている。「アメリカの今を見れば日本の10年後がわかる」と言われるが、日本でも現実世界の店舗が消えていく流れは避けられそうにない。

店舗離れを加速させたウェブルーミング

「店舗離れ」の動きも、さまざまな方向で見られる。たとえば「ウェブルーミング」だ。これは商品探しをまずネットで行い、実際の購入は実店舗でするという消費者行動を指す言葉だが、最近、そのようにして買い物をする人が増えているのだ。

すでに、ネットショッピング購入経験者のうち半分以上は「ウェブルーミング」をしていると言われている。

「いくつも店を歩き回りながら商品を探すのは、疲れるし、時間ももったいないけど、ネット上の写真だけで決めるのも不安だ」

そう考えている人の多くは、ネット上で買うものをほぼ決めておき、最終的に実店舗で現物を見てから購入する。こうしたウェブルーミングのメリットとしては、自分の目でちゃんと確認したものを入手できる、その場ですぐに手に入る、送料がかからない、といったことなどが挙げられる。

逆に、実店舗で商品を探し、ネットで購入する「ショールーミング」をする人も多いが、いずれにせよ、これらの消費行動が増えることで、従来の店舗の役割が奪われていることは確かなのだ。

このように、リアル店舗が存在する意義は薄まるばかりで、消費者の中には、単に「商品の受け取り場所」として店舗が存続してくれればいいという人も多いかもしれない。ただ、正直、店舗がその役割だけで生き残ることは難しいだろう。

この記事は『2025年、人は「買い物」をしなくなる 次の10年を変えるデジタルシェルフの衝撃』(望月智之 著/クロスメディア・パブリッシング 刊)の一部を特別に公開しているものです。

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デジタル先進国である米国、中国を定期的に訪れ、最前線の情報を収集している筆者が、近い未来の消費行動や求められるECのあり方を予測する。

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