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20世紀後半の高度成長期には、「高価なものを所有すること」が1つのステータスだった。テレビ・冷蔵庫・洗濯機が「三種の神器」と呼ばれ、それらの電化製品を所有していることが、家族の幸福度を測る価値基準でもあった。その後も、自動車・マイホーム・別荘などを所有することで幸福度が満たされていることも多かった。

しかし今は、所有することだけではなかなか喜びを見出せない時代なのだ。むしろサブスクやレンタル、シェアなどで、所有することのリスクやコストを減らしたいという人が増えている。自動車や電化製品を所有していないからといって「恥ずかしい」という感覚を持つことも、あまりないのではないだろうか。

人々の所有の概念は、今まさに様変わりしようとしている。若者世代では、それがさらに顕著だ。その流れをつくっているのが、さまざまなアプリだ。

CtoCアプリのイメージ

個人間同士の売買を成立させるフリマアプリの定番「メルカリ」は、近年、急速に利用者数を伸ばしているアプリの筆頭格だ。ニールセンデジタルの調査によると、2019年4月時点のメルカリの利用者数は2216万人。これは前年同月比33%増という伸びようである。同調査で利用者数が5004万人のAmazonと比較すると半分弱だが、世界的ECサイトの代名詞ともいえるAmazonの半分弱というだけでも、相当な利用者数がいることがわかる

このメルカリの急成長によって、人々の買い物の概念・所有の概念も大きく変わりつつある。そこでは、「買っているのに所有しない」という不思議な現象まで起こっているのだ。

いったい、どういうことか?

所有することに価値を感じていない人の中には、メルカリで中古の洋服を買い、それを一度だけ着てすぐにメルカリに出品する、という使い方をする人もいる。これは、「短期的な売り買い」と見ることもできれば、「買ってから売るまでのレンタル」と考えることもできるのだ。買い値と売り値の差額がレンタル代というわけである。

中古の洋服は、いったんはその人の所有物となるが、当の本人は最初から売るつもりなので、「所有している」という認識はまったくない。これが「買っているのに所有していない」という状態だ。

一般的なレンタルサービスが、自動車やCDなど「特定のモノ」を貸し出しているのに対して、メルカリは規約で出品が禁止されているものを除いて、何でも「擬似的なレンタル」が可能だ。自転車・子ども服・パソコンなどのほか、食料品や使用済みの口紅まで出品されている。

私と同世代の人たちは、子どもの頃に「モノを大事に長く使うことがいいこと」と教えられてきた人が多いと思うが、今はそれが逆転している。「モノを長く持つことが非経済的」と考える人が多くなっているのだ。

アパレル業界へのメルカリの意外な影響

アパレル業界では今、「セールしても売れない」と悩むブランドが少なくない。実はこの現象も、メルカリの影響が大きいと考えられるのだ。

皆さんも、セール品を狙ってバーゲンの時期に服を買いに出かけたことがあるかもしれない。定価の2割引、3割引は当たり前。半額以下の商品の中に、掘り出し物が混ざっていることもある。

同じ商品、または類似商品であれば、割引されていたほうが消費者としてはありがたい。しかし、「割引されている商品を敬遠している層」もあるのだ。

その層の人たちは、決してお金持ちというわけではない。先ほどから触れている「所有しないこと」を選んだ人たちだ。

セール品は、メルカリなどのフリマサイトでも値崩れが激しい。安く買えても、中古品として売るときに、いい値段がつかないのだ。しかし、セール品にならず、定価で販売されているものは、比較的高値で取引が可能だ。フリマサイトを積極利用する人たちにとって、値崩れしにくいことは大きな価値である。

この現象は一見すると、フリマサイトの利用者だけに限られる局所的な出来事のように思える。しかし、それ以外の消費者にも影響は出ると考えられる。モノの流動化が進むことにより、店舗間の激しい値下げ競争は時代遅れになる。これまでよりも、セール品に商品が回りにくくなるのだ。

セールのイメージ

価格の最適化で比較サイトが消える!?

「値下げ競争がなくなることで、消費者は損をするのでは?」

そんな心配をする人もいるかもしれない。しかし、単純にそうとも言えないのだ。

先ほど、激しい値下げ競争は時代遅れになると述べたが、価格は高すぎず、安すぎず、店側と消費者の双方にとって適正価格へと収束していくものと思われる。それはAIの発達によるところが大きい。
これまで、価格は「人」が決めるものだった。店長やスタッフが他店の価格を見て、それに対抗する価格で安く売る。消費者も、少しでも安い店を探す。各店舗の値札を見て回り、人によっては「値切る」こともいとわない。

しかし、ネットの普及でそれも過去の風習となりつつある。ひと昔前なら、家電量販店で電化製品の価格交渉をする消費者も珍しくなかったが、最近はそういう人を見かけることが少なくなった。現物限りの処分品などは別として、一般の商品は、だいたいどこの店も価格が横並びで、しかもネット対抗価格となっているので最初から安い。これ以上価格が下がりにくい状況で、わざわざ値切るのが面倒になっているのである。

もしこのとき、「本当に安いのか」と心配な人は、その場でスマホを取り出して、ネットの最安値を確認するだろう。ネットのほうが安ければ、ネットで注文する。先ほども触れたショールーミングだ。

この際、ショールーミングするような人の多くは、Amazonや楽天を参考にするだろう。Amazonであれば、ほかのサイトと比べても最安値かそれに近いことがわかっている。そしてサイトも見やすい。

あるいは価格ドットコムのような価格比較サイトを見る人もいるだろうが、店舗によってポイントがついたりつかなかったり、配送料もまちまちだったりするので、検討するのに時間がかかってしまう。最安値の店が利用したことのない店舗だと、ユーザー登録も面倒だし、信用していいのかという不安もある。出品者サイトのリンクに飛んだりとプロセスが多いので、最近は選ばれにくくなっているのだ。

こうした価格比較サイトは、長らくネット利用者の間では重宝されてきたが、今はAIによる価格の最適化が進み、どこのサイトも価格はあまり変わらない。たとえば同じような値段なら、価格比較サイト経由でこれまで利用したことのない店舗で買うよりも、使い慣れたAmazonなどのサイトのほうが消費者も負担が少ないということだ。

ネットショッピングは、実店舗に買いに行くより便利だが、慣れてくると、いちいち見て比較するのが面倒になってくる。情報が多すぎるのも、消費者には正直しんどいのだ。そのため最近のECサイトは、「情報をたくさん見せる」のではなく、「すっきりとわかりやすく見せる」傾向にあるといえる。

ちなみにAmazonの商品は、彼らが直接売っている場合と、Amazon以外の業者が同社の場所を借りて売っている場合がある。つまり同じ商品でも、複数の出品者が存在することもあるが、最も安く販売している出品者だけがページ上に表示されるため、常に最安値のものが見えている形だ。

これからAIがより身近な時代になるが、実は価格の最適化こそ、AIが最も得意とするジャンルなのだ。人間が各店舗の価格を見て回るのは、それだけでも大変な仕事だが、AIなら自動でやってくれる。

すでに価格設定を自動化しているショッピングサイトや業者も少なくない。アメリカではもはや、価格の比較サイトが入り込む余地がないほど価格の最適化が進んでおり、ウォルマートがAmazonを価格追跡して最安値で販売しているのは有名だ。日本もそのような流れになることは間違いないだろう。

「楽しくない」のに選ばれるAmazon

先ほどから述べているように、消費者にとって、買い物の大半はもはや日常生活でも面倒くさい作業の1つだ。私たちの家事が、洗濯機や食器洗い機などの登場でどんどん楽になっていったように、買い物も「楽に済むならそっちのほうがいい」と考える人は増えているのである。

またAmazonは、ECサイトが顧客単価を上げるためには常識となっている「アップセル」や「クロスセル」にも積極的ではない。アップセルとは、より高額な上位商品を買ってもらったり、同じものを複数買ってもらったりするという販売手法。クロスセルとはその商品の関連商品を購入してもらう販売手法だ。商品の紹介ページや購入後のページなどで、レコメンド機能で関連商品をすすめられることなどがそれに該当する。一般的なECサイトでは、この手法が常套手段となっている。

しかしこのアップセルやクロスセルを買い物のプロセスの途中に挟まれると、消費者にとっては買い物のわずらわしさが増えるだけだ。ファミリーレストランで食事だけしたいのに、「ご一緒にドリンクやデザートはいかがですか?」とセールストークをされても、「いらないから聞かないでほしい」と思うのと同じ心理が働くのである。

Amazonでもアップセルやクロスセルに該当する機能はあるが、買い物のプロセスに割り込んですすめてくることはない。ここがAmazonのすごいところで、購入を簡単に、スピーディーにすることを強く意識したサイトになっている。今は視界に入ることはまだあるが、いずれこの機能も省略されて「欲しいものをぴったり当てて勝手に送る」というところまで発展するだろうと考えられる。

買うプロセス省略でも残る楽しみは「開封の儀」

これから先、私たちのショッピング体験は、ますます便利になっていく。今はかろうじて残っている、比較する・判断する・決済するなどのプロセスが省略され、最終的には消費者の「モノを買っている」という感覚すら消失するのだ。

今はまだ自分で買い物をしない子どもたちは、大人になったときに、「モノを買う」「消費する」といった概念すらなくなるかもしれない。今の現役世代であれば、どこかに「買い物をしている」という感覚は残るだろうが、それでもショッピングの大半がエンターテインメントでなくなっていくことに変わりはない。先ほども述べた通り、Amazonはすでにその前提で進んでいる。

では、私たちの買い物の楽しみは、ゼロになってしまうのだろうか?

「そんな世界、味気ない」と思われる方もいるかもしれないので、それはあらためて否定しておこう。買い物のわずらわしさが減ることで、人々の生活は、もっと楽しくなる。それは間違いないが、買い物の楽しみが奪われるわけではないのだ。

皆さんが買い物のプロセスで一番楽しいと感じる瞬間は、どのタイミングだろうか?

商品を選ぶとき? レジに並ぶとき? 決済をするとき? 商品が家に届いたとき?

多くの人は、「封を開ける瞬間」ではないだろうか?

外で買い物をしてきたときも、ネット通販で商品を買ったときも、封を開ける瞬間はワクワクするはずだ。自分が欲しかった商品の実際の見た目はどうなのか。手に持った感じはどうなのか。中にはどんな付属品が入っているのか。動画サイトで「開封の儀」が人気なのも、その瞬間を共有する楽しさがあるからだと考えられる。

開封の儀のイメージ

実際、現在は多くのハイブランドも、「Unboxing(アンボクシング)」=「届く瞬間、箱を開ける瞬間のユーザー体験」を最も重要視している。そのため「イケてる箱をどうつくるか」ということが新しいテーマにもなっているのだ。私のもとにも、最近、大手ハイブランドから「オンラインショッピングでのユーザー体験を高める」ことを目的とした相談が増えている。

物質的に豊かな時代は、私たちに「買い物をする楽しさ」を教えてくれた。しかし店に行く途中に渋滞に巻き込まれたり、長いレジの行列に並ばされたり、せっかく行ったのに商品がなかったりと、面倒な思いもたくさんしてきた。そのせいで、「買い物は面倒だ」と感じるようにもなり、買い物の楽しさを忘れてしまっている人も増えてしまった。

先ほど、封を開ける瞬間が一番楽しいのではないかと述べたが、人によっては、店の雰囲気を楽しんでいるという人や、買い物中の家族との会話を楽しんでいる人だっているだろう。わずらわしい買い物のプロセスを省略していくことで、人々はもともとあった「買い物の本当の楽しさ」に再び気づくことになるのである。

この記事は『2025年、人は「買い物」をしなくなる 次の10年を変えるデジタルシェルフの衝撃』(望月智之 著/クロスメディア・パブリッシング 刊)の一部を特別に公開しているものです。

2025年、人は「買い物」をしなくなる

2025年、人は「買い物」をしなくなる
次の10年を変えるデジタルシェルフの衝撃

望月智之 著
クロスメディア・パブリッシング 刊
価格 1,480円+税

デジタル先進国である米国、中国を定期的に訪れ、最前線の情報を収集している筆者が、近い未来の消費行動や求められるECのあり方を予測する。

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望月 智之

株式会社いつも.

1977年生まれ。株式会社いつも.取締役副社長。

自らデジタル先進国である米国・中国を定期的に訪れ、最前線の情報を収集。デジタル消費トレンドの第一人者として、消費財・ファッション・食品・化粧品のライフスタイル領域を中心に、デジタルシフトやEコマース戦略などのコンサルティングを手掛ける。

ニッポン放送でナビゲーターをつとめる「望月智之 イノベーターズ・クロス」他、「J-WAVE」「東洋経済オンライン」等メディアへの出演・寄稿やセミナー登壇など多数。

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