公文 紫都, 藤田遥 2020/9/29 9:00

新型コロナウイルスの影響で、タワーレコードの実店舗では集客の要として機能していた新譜リリース時などのイベントが縮小傾向にある。さらに追い打ちをかけるのがリモートワークの継続だ。通勤エリアにある一部の店舗ではコロナ前と比較すると、客足が完全には戻らない厳しい状況が続いている。こうした状況を支えるのがECサイト「タワーレコード オンライン」。売り上げ、集客ともに堅調に推移しているというECサイトの取り組みを取材した。

EC強化でコロナ禍の実店舗を支える

新型コロナウイルス感染拡大防止による実店舗の営業自粛で、客足が落ち込んだというタワーレコード。

特に新型コロナの影響が大きかった4~6月は、アーティストやレコード会社の活動が停止し、新譜のリリース数が減少。合わせて集客に効果を発揮していた店頭イベントも行われなかったことから、実店舗を訪れるユーザーが減った。

2020年9月現在は、公共交通機関を使わなくても車で足を運べる地方のショッピングセンターなど、郊外店はほぼ来店客数が戻ってきているものの、首都圏の大型店舗や通勤の導線上にある店舗は、リモートワーク継続の影響を受けコロナ以前ほどは戻っていない。

実店舗が本調子ではない反面、ECサイト「タワーレコード オンライン」は堅調に売り上げを伸ばしている。「具体的な数値は明かせないが、新しい生活様式に合わせ『店舗に行けない分をオンラインで』というユーザーが増えていると感じる」と萩原正也氏(タワーレコード株式会社 リテール事業本部 オンライン事業統括部 統括部長)は言う。

こうした状況を受け、タワーレコードは急速なオンラインシフトを進めており、実店舗を利用していたユーザーをECサイトに送客する施策を行っている。

ライブやイベントをオンラインで展開

4~6月は実店舗から客足が遠のいた一方、オンラインの注文数は増加傾向にあった。こうした変化に対応できるよう、店舗の在庫をオンライン注文用にするなどの対策を講じたという。また、コロナ禍以前からの施策として店舗スタッフがECサイト上でアーティストごとの特集ページを作成。オンラインのコンテンツを充実させることで、実店舗が受けた影響をオンラインでカバーできるような取り組みを継続している。

タワーレコード TOWER RECORDS オンラインシフト アーティスト応援ページ 店舗スタッフが制作
「タワーレコード オンライン」のアーティスト応援ページは、各アーティストを応援するスタッフが独自に作成している。(画像は「タワーレコード オンライン」から編集部がキャプチャ)

実店舗で行っていたサイン会やミニライブなどのイベントは、売り上げや集客面を支える重要な施策。しかし、コロナ禍のため店舗に人を集めるイベントは行いにくくなっている。

イベントは現在、オンライン開催に力を入れている。たとえばイベント固有のパスワードを対象のCDを購入したユーザーにだけ配布し、オンライン上で行うサイン会やライブ配信に参加してもらう取り組みだ。動画配信ツールのVimeo(ビメオ)や電子チケット販売サポートなどが行えるteket(テケト)を主に使用しているという。

2020年9月10日には渋谷店地下のライブスペースを使用し、オンライン配信でチケット不要の無料インストアイベントを行った。配信はYouTubeを利用し、視聴回数は3,500回にものぼった。リアルで行った場合の、会場の収容可能人数は300人。単純計算で11倍以上の人数が参加できたことになる。これはオンライン配信ならではの新たな可能性といえそうだ。

また、ポスターなどの購入特典も今までは実店舗限定で付けていた場合を、オンラインで購入しても可能な限り同じ特典を付けるようにしている。

CDのリリース数も減っていたが、渋谷店など催事スペースがある店舗では、音楽アーティストのライブ写真パネル展やアニメの原画展示、グッズ販売などCD以外も取り扱うポップアップショップを行っている。電子チケットでの予約制にすることで、入場数を会場キャパシティの50%以下に制限。会場の換気を行い、「密」を避けながら集客につなげている。

アーティストとファンをつなぐために「スタッフの熱量」をオンラインで伝える

タワーレコードはCDの販売だけでなく、「アーティストとファンをつなぐ役割」を果たしている。これまでは実店舗がその役割を担うことが多かったが、現在はSNSの活用などにより、オンラインでもその役割を築いている。

「聖地化」でアーティストとファンの結びつきが強い特色を生かす

アーティストとファンをつなぐ役割を果たすために最も大切にしているのは、ファンの「共感」と、スタッフによる「熱量」だ。

日本の音楽市場について、真井純也氏(リテール事業本部 第二店舗統括部 統括部長)は、「アーティストとファンの結びつきが強く、ファンがアーティストを応援する気持ちが非常に強い」と指摘する。

その特色を生かし、実店舗では「応援する人を応援する」というスローガンを掲げ運営している。アーティストを応援するファンをタワーレコードの店舗が応援するイメージで、「各店舗のスタッフが好きなアーティストをどんどん推す」という取り組みだ。その結果、名古屋の大高店など「ファンの聖地」とも呼ばれるようになった店舗も存在する。

「店舗やTwitterなどのSNSを通じて、いかに『スタッフの熱量』を伝え、『ファンからの共感』を得られるかが、店舗を支持してもらえるかのポイントになる」と真井氏は言う。

そのため、SNSに投稿するタイミングは社員や各店舗の店長が管理しているが、スタッフの発信内容は自由度を高くしており、厳しい制限などは設けていない。

その代わり、日本のマーケットの特色を踏まえ「コアなファンに共感してもらえる表現をする」ことをスタッフには伝えているという。

タワーレコード TOWER RECORDS オンラインシフト アーティスト応援ページ 店舗スタッフが制作
スタッフが作成した「GLAY」応援ページコンテンツの一部。スタッフによる曲紹介やコラムを掲載している。(画像は「タワーレコード オンライン」から編集部がキャプチャ)
タワーレコード TOWER RECORDS オンラインシフト 店舗の聖地化 大高店 Twitter
タワーレコード大高店のTwitter投稿内容。多くのリツイートや「いいね」がされている(画像はTwitterから編集部がキャプチャ)

好きなことに真摯に向き合っているスタッフが発信しているため、SNS上でのクレームなどはほとんど起きていないという。投稿内容に制限を設けていない理由は、この安心感からきている面もある。

Twitterアカウントはジャンル、店舗ごとに分かれており、全社で100を超えるアカウントを運用している。各アカウントの独自性を大切にし、自由に情報を発信しているため「店舗だけではなく、SNSを通じてお客さまとのつながりが生まれているのではないか」と谷河立朗氏(広報室 室長)は言う。

タワーレコード TOWER RECORDS オンラインシフト Twitterアカウント一覧
タワーレコードの店舗ごとのアカウント。店舗によっては複数のSNSを活用している。(画像は「タワーレコード オンライン」から編集部がキャプチャ)

店舗からオンラインに移行したユーザーを支える

オンラインでは店舗から移行したユーザーを受けとめられるよう、注文しやすいサイト構築や「フラゲ(販売日前日に商品を入手できること)」の継続、できる限り早く商品を届けられる環境作りなどの運営を進める。ユーザーとの接点を増やすために、以前行っていた店舗ごとのメールマガジン配信の復活も検討しているという。

以前、ある店舗が閉店する際に行ったアンケートで「お店の雰囲気が好きで利用していた。お店がなくなったらCD自体を買わなくなると思う」というお声をいただきました。

CDなどのレコメンドや新しい音楽との出会い、イベント実施など、実店舗の雰囲気をECサイトでどう表現するか日々取り組んでいます。それが「タワーレコード」のブランドを守ることになると考えています。(萩原氏)

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