朝比美帆 2022/6/8 8:00
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“米”を軸に飲食店向け卸・通販・飲食店運営の3つの事業を手がける京都の八代目儀兵衛。通販では「京都らしさ」を前面に押し出したフォーマルギフトで、多くの利用者を魅了している。マナーやメッセージ同梱などの複雑さや、贈った人が商品を手にしないためリピート施策が難しいなど、難題の多い特殊な領域と言えるギフトECで、多くのファンを抱えている理由はどこにあるのか? マーケティングの陣頭指揮をとる取締役CMOの神徳昭裕氏に話を聞いた。写真:松鹿舎(奥田晃介)

寛政から京都で商売を続けてきた儀兵衛。8代目で“お米のプロデュース”に特化

江戸時代の寛政の頃から、京都で代々商売を営んできた八代目儀兵衛。事業の柱は、一般消費者向けの米の通販、飲食店向けの米の卸、そして飲食店「米料亭 八代目儀兵衛」の運営の、大きく3つだ。毎年自社で目利きした米を生産者から仕入れ、「中華料理に合うお米」や「お寿司に合うお米」といったように米をブレンドして、通販、卸、飲食店で展開。

お米をブレンドするメリットは、10月頃に新米が収穫されて、翌年9月にかけて古米となっていく1年のサイクルのなかで、前半に強い米や後半に向けて味が良くなっていく米など品種が豊富なため、年間を通しておいしい米を提供できる点も大きいという。

卸先飲食店、自社飲食店、通販の相乗効果でブランド力高まる

会社設立のタイミングで通販事業を開始。ただ、当時はまだ八代目儀兵衛の名が広く知れ渡っていなかった上、米自体は世の中に数多く出回っている競合の多い商材だ。米の写真はどこも同じように見えてしまうため、普通に販売するだけでは価格競争に陥る可能性が大きかった。

しかし、見方を変えると、お米は好き嫌いがあまりなく、誰にとっても貰って嬉しいものだ。八代目儀兵衛はそこに着目し、華やかな見た目で、なおかつ気持ちを乗せられるような付加価値を持ったギフト商品を開発して販売しようと考えた。

和食・洋食・中華など、各料理に合った12種類のブレンド米を、2合ずつ風呂敷で丁寧に包んだギフト商品「十二単『満開』」を最初に開発。「十二単『満開』」をはじめ、八代目儀兵衛のギフトは、結婚・出産の内祝いなどで人気の商品となっている。

「米料亭 八代目儀兵衛」や卸先の飲食店の評判と、通販のギフト商品がそれぞれに相乗効果を生み出し、法人化して以降、ブランド力と知名度は拡大の一途をたどることに。近年は、他社からの引き合いやコラボレーション企画の声が掛かる機会も多くなったという。

通販事業にも好影響を与え、幅広い顧客層で利用が促進。現在は通販売り上げの8割がギフトで、2割を自宅用が占めている。ギフト商品は、30代~40代を中心に結婚・出産の内祝いなど慶事ギフトでの利用が最も多く、次いで40代~50代を中心に法事向けの利用が多い傾向にある。また、自宅用の購入では、スーパーより高価でもこだわりのお米で食事を楽しみたいといったニーズの強い50代~60代が多いという。

八代目儀兵衛の実店舗
京都市にある八代目儀兵衛の実店舗

ギフト通販は課題が多いが、「ギフトに目を付けたことは大きかった」

多くの事業者が手がけている自宅用の米のECは、まさにレッドオーシャン状態と言えるが、一方のギフトはブルーオーシャン状態だ。ギフトという商材の特性上、いくつかの課題を乗り越えなければならないため、参入者が少ないものと思われる。

まず、店舗名や社名を覚えてもらいにくいことだ。ネットでギフトを探す際、「見た目が華やかで映える商品はないか?」と検索して購入するだけで終わってしまうと、注文者に「八代目儀兵衛」という名前が植え付けられたとは言い難い。そして、ギフトは注文者(贈る側)が自分では食べないこと。さらには、贈答品にはプロモーションのチラシなどを同梱できないため、実際に米を食べる側の贈られた人に会員登録の誘導がしにくいといった課題もある。

課題の多い領域にもかかわらず、神徳氏は「結果として、創業時に米のギフト通販に目を付けたことは大きかった」と話す。米のギフトでブランディングを確立した秘訣は何だったのか――。

お米のギフト化を実現したブランディング戦略とは?

ECにおいて、米や水のような重い物は「自宅まで届けてくれる」という利便性が着目されて拡大してきた。このため、ECでは数十kgの米を安く買えたり、産地・銘柄を指定したりできる点が評価されがちだ。

しかし、産地や銘柄が有名でなくてもおいしい米は全国にたくさんあり、八代目儀兵衛はそうした米を毎年発掘してブレンドすることにこだわっている。リアル販売の商圏を飛び出して八代目儀兵衛の米を広く販売していく上でECは不可欠だったが、レッドオーシャンの市場に乗り出して価格競争に陥る事態は避けたかった

八代目儀兵衛が通販を開始した2006年頃、一部には米をきれいに包装してギフトで販売するECがあったものの、風呂敷を用いたり京都の歴史になぞらえて商品化したりするような米のギフトは見当たらなかったという。そこで、まずは商品企画の段階から他社との差別化が図れるオリジナリティーを追求し、京都の平安時代を彷彿とさせる「十二単シリーズ」を開発。以降、新商品の開発では「京都らしさ」と「フォーマルギフト」を意識するようにしている。

「京のさくら」
炊きたてのごはんに混ぜるだけのギフト「京のさくら」

EC売り上げの6割を占める自社サイト。強化に向けてさらなる改革へ

ECは自社サイトとモール店を並行して運営。開始当初はモール店の売上比率が高かったが、現在はEC売り上げのうち6割を自社サイトが占め、3割が楽天市場、1割がYahoo!ショッピングとAmazonという構成になっている。

自社サイトの比率が伸長した理由はさまざまだが、ブランド力が備わったことや、最近ではInstagramの影響が大きいという。ギフトを贈られた人がInstagramに画像をアップし、ギフトを探している人がそれを見つけて自社サイトに訪れるケースが増えているようだ。

八代目儀兵衛としても、自社サイトを強化する取り組みに力を入れている。その背景には、内祝いのプレイヤーがモールのなかで増加しているという市場の変化があった。

ギフトを探すときにGoogleで検索したり、モールで検索したり、さまざまな行動パターンがあると思うが、それはお客さまの好みでいいと思う。当社の場合、モールが相対的に比率を落とした理由は、内祝い市場のプレイヤーがモール内で増えていることが大きい。出生数は減少傾向にもかかわらず、内祝いを販売するプレイヤーの数は5年前に比べて1.2倍~1.5倍ほど増加しているため、マーケットシェアが減少している

モールは送料無料ラインの設定や、ギフト通販としてシステム上難しいこともいろいろとあるので、自社サイトにより力を入れようと方針転換した。(神徳氏)

これまで、広告を打たなくとも通販売り上げが増加してきた要因には、八代目儀兵衛の高まるブランド力に加え、モデルの梨花さんが自身のブログで商品を紹介したことがきっかけで、メディア露出が続いたことも大きかったという。メディア露出が一巡し、これからは自力で通販事業を伸ばしていかなければならないとなった頃、通販マーケティングに精通する神徳氏に声が掛かったという。

八代目儀兵衛 取締役 CMO 神徳昭裕氏
八代目儀兵衛 取締役 CMO 神徳昭裕氏

ニッセン出身の神徳氏は、自社サイトに力を入れる意義や、自社サイトの強みを深く理解している。通販はリストビジネスだからこそ、一度購入して終わるのではなく、長期的に利用してもらえることに一番の強みがあるはずだ。その強みを最大化するため、神徳氏が入社した2019年から、八代目儀兵衛の自社サイトの改革が始まった。

通販はリストビジネスにもかかわらず、自社サイトは課題山積の状態だった

2019年当時、自社サイトの課題はたくさんあったが、一番はUIが悪かったこと」(神徳氏)と話す。あるオープンソースソフトウエアでECサイトを構築していたが、社内にエンジニアがいなかったため改修するにも外注しなければならない。なおかつ何年も前に作られたサイトだったためソースコードが混乱していた上、仕様書もなく、UIを変えようにも変えられない状態だった。

ほかにも、SEO対策の不十分さや、リストビジネスに必要なレベルまでデータベースが整理できていないなど、課題は山積していたという。

受注から出荷までのオペレーションを最適化するため、まずは基幹システムのリニューアルを行い、次いでカートシステムのリニューアルを実施。基幹システムもエンジニアではない人材がスクラッチ開発で何とか構築したものだったため、以前はシステムが落ちて注文が受けられないといった不具合が起きることもあったという。こうした事態を防ぐため、クラウドシステムを採用した。

ギフトという特殊な商材ゆえに、カートの選定でも何百もの要件があがった。機能の○×表を作っていくつものカートを比較。要件を満たすカート自体が少ない上、機能が充実するほど高額になってしまうため、選定には苦労したという。

ギフトのカート選びは、複数配送先のオプションがしっかりしていることが大前提となる。一般的なカートはカゴの中に入っている商品を合計した送料の計算をするが、内祝いは1人が数か所に送ることが多いため、購入金額の送料無料ラインも考慮して1か所ごとに送料計算ができないといけない

加えて、熨斗やメッセージカードも配送先ごとに対応する必要がある。熨斗に対応している店舗でも「何の熨斗を付けるか、備考欄に書いてください」といった対応がよく見られるが、UIで熨斗やメッセージなどを選べるようにしている店舗はまだ少ないように思う。(神徳氏)

複数の配送先指定のイメージ
ギフトECは、カート内で複数の配送先指定ができる機能の搭載が前提条件となる

内祝いや香典返しなどのフォーマルギフトはマナーを伴うものだが、熨斗の種類などを十分知らずに注文する人は多くいるという。このため、八代目儀兵衛ではギフト注文の1件1件をすべて人の目でチェックし、誤りがあった際はお客さまに連絡するようにしている。「マナーの面でお客さまが恥ずかしい思いをすることなく、贈った人にも贈られた人にも良い体験をしていただきたい」。こうした思いから、省人化が進められる時代でも必ず人の手を掛けるようにしているようだ。

しかし、システムである程度のチェックロジックを作ることができれば、これまでより手間を削減することは可能だ。たとえば、法事目的では使えない文字などを受注後に1つ1つチェックするのではなく、注文段階からミスを極力防げるようになればお客さまとやり取りをしなくて済む上、リードタイムも延びずに配送できる

複雑な要件を抱えながら数社のカートを比較するなか、最後に目に留まったのがロックウェーブの提供するギフトEC特化型ASPカートシステム「aishipGIFT」だった。

aishipGIFT
ギフトEC特化型ASPカートシステム「aishipGIFT」

ギフトEC特化型カートを導入。八代目儀兵衛の行ったカスタマイズが標準機能に

「aishipGIFT」はギフトECに特化しているため、ギフトに必要な特有の機能が標準搭載されているほか、ASPでありながらコストを抑えてカスタマイズができる点が八代目儀兵衛にとって魅力だった。「aishipGIFT」を導入している他のECサイトを見ても、実現したいことがこれまで以上にできそうだと感じ、導入を決めたという。

社内にエンジニアがいないため、以前のシステムでは構築と改修に難しさがあったが、それでもギフトECとしてやりたいことはいろいろとできていた。それがリニューアルによってできなくなってしまってはいけない。以前までの機能を維持することは最低限の条件だった。

「aishipGIFT」はカスタマイズが可能なため、ロックウェーブと一緒にじっくりと要件定義をし、細かなところまで機能を充実させてきた。未来が見えているからこそ、時間をかけてでも質の高い要件定義をすることが重要だと思う。(神徳氏)

クラウドシステムは多くの利用者の声によって日々機能が向上し、システム自体が洗練されていくものであり、これは導入企業にとっても大きなメリットとなる。八代目儀兵衛で実施したカスタマイズは、ほかの食品ECのギフト商材でも有効な機能ばかりだったため、ロックウェーブは順次「aishipGIFT」の標準機能として搭載していくという。

リニューアル後、ギフト特有の問い合わせが大幅に減少

2021年3月9日、八代目儀兵衛は「aishipGIFT」による自社サイトへとリニューアルした。結婚内祝いや香典返しなどの目的を選んだ瞬間に、その目的に合った箱色やオプションを表示するなど、ギフトの注文で不安にならないようなインターフェースを実現した。

その結果、以前は多かった注文方法やギフトマナーについての問い合わせがほぼなくなったほか、購入客への折り返しの連絡も大幅に減少し、業務改善の効果は大きく表れているという。4月の売上高は前年同月比140%に向上し、今後の売り上げ拡大にも期待が高まっているようだ。

ギフトは出荷までの手間が特に掛かるため、スタッフの労力が通常のEC以上に増してしまうもの。今回のリニューアルでは受注対応をしているCS部門も含めた全現場からの声を吸い上げてシステムに反映したため、現場からも業務改善に役立っているという評価が得られている。(神徳氏)

ギフトオプション機能
たとえば、「ギフトオプション機能」では、ギフトEC特有の熨斗やラッピングなどのオプションをショップ共通で設定でき、目的にあわせて最適に表示できる

「京都らしさ」を押し出すデザインに。ギフト注文で陥る煩雑さも解消

リニューアルするにあたり、サイトのビジュアルにもこだわったという。トップページには京都・嵐山の旅館「星のや京都」で撮影した「十二単『満開』」の画像を使用。香典返しのページの画像では京都・東山のお寺「圓徳院」に撮影協力を得るなど、「京都らしさ」を前面に押し出した。

また、買い物をするときの“ワクワク感”にもビジュアルやUIが重要なため、デザインをすべて刷新。「これを贈ったら喜んでもらえるだろう」と想起されるよう、体験価値を向上するデザインを心掛けたという。

八代目儀兵衛のECサイト
リニューアルした八代目儀兵衛のECサイト

このほか、メッセージカードの同梱機能も改善した。以前はメッセージカードサービス会社のASPを使用しており、顧客はそのサービス上でメッセージカードを作成し、八代目儀兵衛での注文時、備考欄にメッセージカードのIDを入力するという煩雑な仕組みになっていた。

リニューアルに合わせてメッセージカードサービスとのAPI連携を実施したことで、メッセージカードサービスでIDを作成したり備考欄にIDを入力したりすることなく、シームレスにカードの作成・同梱ができるようになった

さまざまな機能改善を行い、ギフト特有の課題を解消している八代目儀兵衛だが、「今回のリニューアルはまだ第一フェーズ」(神徳氏)とし、第二フェーズではさらに多くの機能を実現したいと考えている。その1つが途中保存機能だ。

ギフトの注文はすぐに完結できないケースが多々あると思う。ただ、途中でやめてしまうとまた最初から入力しなければならず、それが手間になるので妥協して最後まで進めている人もいるかもしれない。それはきっと注文者の本意ではないはずなので、途中までの作業を保存できて後で再開できるようにしたい。今のところあまり見かけない機能のため、実現に向けて動いていきたい。(神徳氏)

「aishipGIFT」が2022年5月に追加した「ソーシャルギフト(eギフト)機能」の活用も、卸先の飲食店との取り組みに有効と考えている。「ソーシャルギフト(eギフト)機能」はECで購入したギフトのURLをSNSで送り、受け取った人はそのURLから配送場所や日時を指定できる仕組みで、住所を知らなくてもギフトが贈れる利便性がある。

「商品の特性上、フォーマルギフトでの利用は難しいかもしれないが、卸先の飲食店の食事券などをプレゼントする目的には良い機能」(神徳氏)とし、新たなギフト形態にチャレンジする意欲も見せている。

ギフトECで押さえておくポイントとは?

ギフトの領域に参入しようと考えるEC事業者は少なくないだろう。そのときに、UIや便利な機能などを先に検討しがちだが、やはり「これを贈りたい」と思ってもらえることが重要だ。神徳氏はギフトECを展開する上で、次のポイントを押さえておくべきだと話す。

●商品企画が重要

単に「おいしいものを作る」だけでなく、見た目やストーリーが伴ってなければいけない。「十二単シリーズ」のように、和食に合うお米や洋食に合うお米などを12回食べるうちに、「私も誰かにこれを贈ろう」と思われるようなストーリー作りが必要となる。

●“省人化”より“商品・サービス”が一番大事

八代目儀兵衛には、WebからFAX用紙を印刷してFAXで注文するお客さまも多くいる。Webが使える人でも、FAXで注文したいニーズはあるということだ。そのため、手間が掛かってもFAXやメールからの注文にも手厚く対応しているという。

また、スタッフへのギフトマナー教育を行き届かせたり、熟練の技を持つ職人が1つひとつ風呂敷を包んだりと、通常のECよりはるかに人材育成が必要になるが、人の手でなければできないことがギフトの価値をより高めていると言える。

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