石居 岳 2022/6/16 8:00
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少子高齢化などを踏まえEC事業者が注目しているのが越境ECだ。クラウドコマースプラットフォーム「ebisumart(エビスマート)」のインターファクトリーは越境支援サービス「WorldShopping BIZ(ワールドショッピングビズ)」のジグザグに出資。資本業務提携を通じてebisumartユーザーの“越境EC”を成功に導くサポート体制を整えた。越境ECに詳しいインターファクトリーの渡邉洋祐氏とジグザグの鈴木賢取締役が、越境ECの現状、成功のヒントなどを語り合った。写真:吉田浩章

インターファクトリーの渡邉洋祐氏とジグザグの鈴木賢取締役が、越境ECの現状、成功のヒントなどを語り合っ

2022年、再燃する越境ECへの進出需要

新型コロナウイルス感染症拡大に伴いインバウンド需要が減少したため、日本製品をネットで購入する越境ECニーズが拡大している。EC事業者へのサポートを通じて、現状のマーケット、国内EC事業者による越境ECへの取り組みなどを2人はどのように捉えているのか。

鈴木賢取締役(以下鈴木) 2020年に越境ECニーズが急拡大しました。多言語対応・海外決済・海外配送までを一気通貫で提供する越境EC対応サービス「WorldShopping BIZ」導入サイトでは、前年比4-5倍といった勢いで海外ユーザー数や流通額が伸びました。コロナの影響で実店舗の売り上げが減少するなか、EC事業拡大の1つとして越境ECを検討・実施する事業者が増えたことも要因の1つです。ただ、2021年はその動きが一服したという感覚です。

渡邉洋祐氏(以下渡邉) 2020年後半から2021年中盤は越境ECへの事業者ニーズが一段落したという印象ですよね。それは越境ECが落ち着いたのではなくて、OMOやDXをメインに国内対策を事業者が優先していた影響でしょう。2021年中盤から、越境ECを検討しようと動き出す事業者が増えてきたと感じています。インターファクトリーは良いタイミングでジグザグと資本提携することができました。

越境ECは、自前主義よりも「まずはやってみる」

越境ECを検討する事業者は増えている。ただ、「どうすればいいのか」「何から始めればいいのかわからない」といった事業者も少なくない。越境ECの検討・スタートにおける重要ポイント、気をつけておきたいこととは?

鈴木 自社で越境ECの仕組みを作ろうとする、いわゆる自前主義はまず検討フェーズでは考えない方がいいですね。検討からスタートまで相当な時間を要してしまうからです。

大幅なサイト改修を伴わずに専用タグを自社ECサイトに設置するだけで越境ECに対応できる「WorldShopping BIZ」のように、手軽に越境ECをスタートできる環境がありますので、「まずはやってみること」が重要です。「WorldShopping BIZ」は決済や物流、カスタマーサービスもジグザグが担うため、EC事業者には「まずは越境ECをやってみてください」と話しています。

渡邉 私も過去、海外バイヤーによる転売目的での大量購入や海外からの不正購入で大きな損害を被った経験があります。海外向けのリスクを減らしたいといった事業者は少なくありません。たとえば、海外向けに販売できる商品を選定できるなど、自社で簡単にコントロールできるとハードルは下がりますよね。

鈴木 積極的に越境ECを始める事業者はごく一部で、環境を用意してもなかなか動かないのが圧倒的に多いです。そうしたブランドに「なぜ箱があるのに越境ECをやらないのか?」と聞いたところ、「ある商品は海外展開したくない」「一部商品のみにとどめたい」といった声があがりました。

「WorldShopping BIZ」では除外システムを開発、「ある商品は世界に向けて販売しない」「特定の国には販売しない」といったことを担当者ベースで設定できるようにしました。

また、オペレーションコストについても触れておきたいところです。越境ECを行うと、海外からの問い合わせ対応が発生するので、外国語を話せるスタッフの採用を検討しなければなりません。ただ、新たな人件費を賄えるだけの利益を海外向けで生みだせるのか? と聞かれると、社内では誰も答えられません。だって、やってみないとわからないですから。

渡邉 越境ECも実店舗の爆買いのように実現できるというイメージを持ち、高い理想を掲げる経営者も多いですよね。経営層から下りてきた大きな難題をどうすれば実現できるのか――。知識や経験もあまりないなかで現場は混乱し失敗してしまう、もしくは何もできないといったパターンは少なくありません。ECは、顧客のニーズを知り、どのようなアプローチができるのかを考え、広告などもしっかりターゲティングしていくことが重要です。

これは海外向けでも同じです。国別のニーズを1つひとつすくい上げ、対象マーケットを広げていくといった地道な取り組みも必要です。事業計画や予算計画なども一緒で、越境ECの課題となる言語・物流・決済、不正購入対策、カスタマーサポートなどをどのような規模感で、どのように体制を組むのかまずはイメージすることが重要です。

インターファクトリーの渡邉洋祐氏
インターファクトリーの渡邉洋祐氏(ビジネスディベロップメント部カスタマーサクセスチーム)

翻訳は完璧じゃなくていい、完璧主義からの脱却を

数多くのEC事業者の成功事例を見てきたインターファクトリーとジグザグ。クライアント事例を踏まえ、越境ECを成功に導くためのポイントに言及した。

鈴木 「WorldShopping BIZ」は既存サイトが日本語のままでも、海外ユーザーが買い物できる仕組み(海外IPアドレスとブラウザ言語を識別し、海外ユーザーに最適化した「多言語ナビゲーション」「かな入力が不要なフォーム」などを表示する)を提供していますが、導入企業の8割以上がまだ日本語のECサイトのみ

しかし、日本語のサイトでも海外ユーザーは商品を購入します。ただ、もう少しフレンドリーな翻訳対応が日本企業側でできていると、確実にコンバージョン数は増えるだろうと感じています。

渡邉 “フレンドリーな対応”は重要ですよね。日本人の特性なのか、完璧主義が多く、何でも完璧にしなければいけないという考えを持っている方が多い。でも、固有名詞が含まれたりもするので完璧な翻訳って難しいですよね。商品名、新着情報、トピックスが追加されるごとに、それを全て多言語対応するのは非現実的。海外ユーザーはそこまでの対応は求めておらず、もっと違うことに注力する方が“フレンドリーな対応”となるかもしれません。

鈴木 “フレンドリーな対応”というのは、気持ちよく買ってもらうために、少しずつECサイトの内容を良くしていきましょうということです。ただ、どうしても完璧主義的なところが出てしまうことはありますよね。

ではどうすればいいか? たとえば、カテゴリーを日本語と英語で表記する方法は効果的です。ズボンのカテゴリーの場合、ズボン(pants)と併記するような方法です。カテゴリーを英語と併記すると、トップページからカテゴリーページ、商品ページといった誘導ができるようになります。これは結構重要なことで、日本語のわからない海外ユーザーにとってとても親切に映るので、コンバージョンも変わってくると思います。

渡邉 動線作りの工夫は重要ですよね。「WorldShopping BIZ」の除外システム機能を使い、まず5商品だけ海外向けに販売するカテゴリーを用意。そのカテゴリーだけを海外ユーザーが閲覧できるようにする、といった方法もできますよね。

鈴木 手始めに1か月ほど越境ECに対応し、どのような反応が出るのか、どういった影響が出るのかを見るということが「WorldShopping BIZ」なら可能です。問題がなければ、本格展開、専用サイトの開設、マーケットの拡大などいろんな選択肢に着手できるようになります。

ジグザグの鈴木賢取締役
ジグザグの鈴木賢取締役

海外マーケットに目を向けることの意義、重要性とは

日本だけに目を向けていると、商機を逸失する可能性があると鈴木氏、渡邉氏は言及する。海外には独自の買い物イベントがあり、トレンドも異なる。日本と海外を組み合わせることで、通年で販促イベントに参加するといったことも可能になる。

鈴木 海外では、ブラックフライデーのような世界的な買い物イベントが多い。たとえば、買い物イベントの時期に円安が重なれば、財布のひもが緩む海外ユーザーにとって日本製品はとても魅力的に映ります。思考を変えるだけで、販路、商機は一気に増えるんです。

越境ECを始める上で重要なことの1つに、思考のグローバル化もあげられるでしょう。特にアパレルECは世界トレンドで動いています。海外の買い物イベントに合わせて日本企業も動いていけば、商機は増えるのではないでしょうか。

渡邉 EC事業の年間計画では、販促スケジュールを立てますよね。たとえばアパレル業界では、イベントが何もなかったり、2月・8月に売り上げが落ち込むといったことがあります。しかし、海外に目を向けていればどうでしょうか? 国内向けでは買い物イベントはなくても、海外で行われていればそこで販促活動を行うこともできるかもしれません。

また、越境EC=外国人とイメージしてしまいますが、海外に住んでいる日本人もターゲットになります。その人たちにもきちんとアプローチをする手段にもなり得るわけですから。こうしたことを含めて、多くの事業者に、改めて可能なところから越境ECへ目を向けていただき、より安心安全な環境で海外マーケットのファン獲得にもつなげていただきたいと思います。

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