キヨハラサトル 2021/9/14 7:00

「Eコマース先生」として個人の活動を行い、ビジョナリーホールディングス(メガネスーパーのグループを運営する親会社)取締役CDO兼CIOを務める川添隆氏Twitter:@tkzoeに、ECの知見をどのように積んでいったのかを聞いたインタビュー後編前編はこちら。大きな影響を受けることになる人物との出会い、人と人とのつながり、チャレンジ精神などを川添氏が振り返る。

「Eコマース先生」として個人の活動を行い、ビジョナリーホールディングス(メガネスーパーのグループを運営する親会社)取締役CDO兼CIOを務める川添隆氏

星﨑社長が来て、「ECを2倍にせよ」と

クレッジ時代の川添さんに大きな影響を与えた人物が現ビジョナリーホールディングス社長の星﨑尚彦氏。企業再生にむけて、クレッジの社長として川添さんの前に現れた星﨑社長は、大きな目標を課します。その目標達成に向けて、川添氏はさらにギアを上げてEC業務に邁進していきます。

――クレッジにいた2011年10月に、星﨑さんがクレッジの社長に就かれたのも大きな転機だったんじゃないでしょうか。

川添隆氏(以下川添):大きいですね。間違いなく私のキャリアのターニングポイントです。星﨑社長が来て、私がECの責任者に抜擢されるのですが、その際に「やり方は任せるから、今期中にECの売上を2倍にせよ!権限も必要な武器も全て渡す!」という指示がセットでした……。

その目標をどうやって達成するかを考えた時に、もちろん自社ECとモールECに分けて考えましたが、当時自社ECに足りないのは集客だと捉えていたんですよ。それで親和性のあるメディアから集客すると良いのではと考え、「デコログ」というブログサービスとタイアップして2つの企画をやりました。単純な広告という手もありましたが、広告だけでは親和性が高まらないので、1つはLIP SERVICEとインフルエンサーとのコラボ企画(商品開発とプロモーション)と、もう1つはLIP SERVICEの100人のスタッフランキングを企画から実施しました

――それは成功したんですか。

川添:いや、思っていたほどではなかったです。コラボ企画はインフルエンサー側の意向を強くしすぎて、ブランドそのもののお客さまに刺さるには至らなかったなと。スタッフランキングは社内ではある程度盛り上がったものの、売り上げに対するインパクトまでには至りませんでした。責任者になった出足での失敗であり、今でこそ笑い話ですが、当時は会社自体が崖っぷちだったので笑えなかったです(苦笑)

もちろん、これは1つのアプローチであり、常に売上・利益が上がり、UXを高めるための取り組みをどんどん考えては実行に移していました。チーム強化やモールECの強化を先行していたので売上自体は伸びていたのでよかったですが、自社ECに関してはより内部を見直して次の改善を進めました。具体的には、店舗とECで販売開始のタイミングに差があって、ECは1週間から2週間ぐらいタイムラグがあったんです。それで、販売時期を一緒にしたいと考えました。言うは易く行うは難しの取り組みでした

2011年12月-2012年1月頃でしたが、当時はまだフルアウトソースの状況。本来は、ささげ業務は業務委託の範囲内で販売手数料に含まれていたので、まずは運用代行先で撮影~画像加工~商品アップのスピードを早められないかを試行錯誤していました。売り上げの大半を占めるLIP SERVICEに絞ってです。ただし、一向に撮影スピードが上がらないため、販売手数料はそのまま負担しながら、社内のプレスルームに撮影ブースを作り、店舗スタッフをモデルとして、社内撮影を開始しました。さらに、「LIP SERVICEに限って、全品番の納前商品(店舗に納品される1週間ほど前にチェックするための商品)を手配してもらい、精算でチェックし終わったらEC部門に渡すようにできませんか」と生産部門の責任者に相談して、手配を進めてもらいました。そして、この時はなんとしても商品アップのスピードを担保するために、採寸情報や商品コメントは必ずしも間に合わなくてよいという意思決定をして、ブランドの了承を得ました。

結果、2012年2月の中旬くらいの新作商品からは、店舗と自社ECでの販売日は同じになったんです。その時点ぐらいからLIP SERVICEの自社EC売り上げが前年比100%前後から150%台になりだして、「マジやべー」みたいな(笑)。ECチーム全体で成功の手ごたえを感じました。それで、「この戦法をより研ぎ澄まそう」と。

当時は商品アップはエクセルやホワイトボードで管理していたので、煩雑な状況も理解していました。ある日、次の出来事が起きました。

担当:「川添さん報告です。商品画像のカラバリ(カラーバリエーションの略で、同じ商品の色違い)をアップし忘れました」

川添:「ミスした工程を特定して再発しないようにしてね」

担当:「わかりました。ちなみに、アップし忘れたカラバリの商品も複数受注がつきました」

川添:「画像なくて売れるってどういうこと?!」

「Eコマース先生」として個人の活動を行い、ビジョナリーホールディングス(メガネスーパーのグループを運営する親会社)取締役CDO兼CIOを務める川添隆氏
川添隆(かわぞえ・たかし)氏 1982年生まれ、佐賀県唐津市出身。全国のEコマース担当者を応援し、Eコマースビジネスの可能性を伝えるEコマース業界の先生。企業再生を2社経験し、独自のメソッドと実践を通じてEコマース売上2倍以上に携わったのは6社。販売、営業アシスタントとしてサンエー・インターナショナルに就職。その後、当時サイバーエージェントグループだったクラウンジュエル(現サービス名はZOZOUSED)へ転職。ささげ業務から企画、PR、営業などに従事。2010年にクレッジに転職。EC事業の責任者として自社サイトの売り上げを2倍以上、EC全体を2年で2倍に拡大。LINE@を活用した事例でも成功をおさめる。2013年7月よりメガネスーパーに入社。8年でEコマース関与売上は8倍、自社Eコマースの月間受注は13倍に拡大。現在は親会社のビジョナリーホールディングス 取締役 CDO 兼 CIO(現任)として、Eコマース事業・オムニチャネル推進などの領域、IT・情報システム、新規事業を統括。2017年より代表を務めるエバンでは小売企業、大手メディア、B2Bスタートアップ、D2CブランドへEC・DXのアドバイザーに従事。

――それは衝撃ですね。

川添:その理由の見立ては、お客さまの頭の中にサイズやシルエットも含めた商品のイメージがあるのだろうと捉えています。LIP SERVICEではメルマガを送らないとクレームがきたり、上位顧客の年間購買金額の多さやリピート率の高さから、お客さまのロイヤルティが高いというか粘着度が高いと感じていました。恐らく、そもそもブランドとしても定番のシルエットなどもありましたし、お客さまも店頭で商品を見ているとか、過去の商品を参考にしているんだろうと。

「カラバリ画像無しでも売れた」事件以降は、よりスピードを優先しなきゃいけないという感じで、採寸や商品コメントを躊躇なく後回しでいいから、とにかくサイトに商品をアップしようと決めました。最終的には、全て情報が整った状態で店舗と販売日を合わせることができましたし、さらに次の一手として店頭よりも早く商品を掲載してメールでの入荷連絡希望を取ることになりました。

これは一例ですが、そんな調子でやっていった結果、自社ECは2億円ほどだったのが、1年半から2年後には5.5億円と、2倍以上になっていました

――試行錯誤の末、星﨑社長に言われた「EC2倍」を実現できたわけですね。

川添:はい。厳密に言えば、「2倍にして」と言われた下半期は部門の売り上げは2倍以上にできて、1年半でEC事業全体の売上は7億強から15億円にすることができました。

その当時は自社ECだけでなく、モールでもいろいろやっていました。たとえば「SHIBUYA109」だと、責任者就任直後はブランドランキングで5~6位くらいでしたが、「1位になるにはどうしたらいいですか?」とモール側に尋ねて、「セールは店頭や自社ECのタイミングと併せて欲しい、再入荷リクエストが多いからもっと在庫を入れて欲しい」と言われたので、即答で「やりましょう!ただし、価格と在庫は担保するので、メルマガやバナーの露出は用意してください。必ず期待に答えます」と答えました。それ以外にも予約販売を1番最初に行ったり、商品撮影も店舗に協力してもらったり、こちらから企画を提案したり先方の要望に答えることで、約半年以内にブランドランキング1位を獲得できました

――クレッジにはだいたい3年在籍していたわけですが、その間に得たことは多かったんですね。

川添:恐らく、この記事を見ている人は「川添隆はメガネスーパーの人 or Eコマースの詳しい人」と思われているかもしれません(笑)。でも実際のところは、クレッジ時代に肌身で感じたことが今の私の根幹となっています。その後に抽象化してメソッド(型)にして、メガネスーパーやその他のアドバイザーでは応用して生かしながら、また新しいことを経験したら血肉にするという感じですね。しかも星崎社長が来られてからのスピード感はそれ以前の数倍の感覚です。だからその1年半にすべてが凝縮されていると思います。

「Eコマース先生」として個人の活動を行い、ビジョナリーホールディングス(メガネスーパーのグループを運営する親会社)取締役CDO兼CIOを務める川添隆氏

自分が知りたいことは人とつながっているとわかる

クレッジ時代に目標だったEC売上2倍を達成し、EC担当者として手ごたえをつかんでいった川添氏ですが、その頃に心がけていたことの1つが外に出て情報を収集すること。その取り組みが、自社ECのリプレイスの場面で生かされる場面もあったようです。

――川添さんはいろいろな人脈をお持ちですが、それもこれまでのキャリアで徐々に培われたのでしょうか。

川添:そうですね。人と交流することが大事だというのは、クレッジ時代に星崎社長が来る前から、漠然と感じていました。たまたまその時にFacebookにチェックイン機能ができて、それが競合会社には導入されていて、なぜクレッジではできないのか調べるように言われたんです。日本では数社のみに開放された機能だったのですが、Google先生も知らない情報でした。そこで、たまたまその機能を導入している企業のマーケティング担当者と知り合っていてその人に尋ねたら、「その案件はあの代理店が仕切っていますよ」と教えてもらいました。

その時は電気が走った感覚でした(その後に感じる「カラバリ画僧無しで受注する時と同じくらい」)。自分が知りたいことは「それがわかる人とつながっているとわかるんだ」と初めて肌身で感じたんです。それで覚醒したんじゃないかな。結局、検索すれば情報が出てくる時代でも大事な部分は隠されていたりするじゃないですか大事な部分は人から聞かないとダメなんだなって知りました。当時はムダな動きも多かったですが、極力外に出て、いろいろな人とつながるようになったキッカケですつながる際は相手が興味ありそうな情報を出すこともなるべく怠らないようにしてきました

他にもクレッジ時代に自社ECのシステムをecbeing社にしたのも、外に出たことによる成果の1つです。コマースリンク社のセミナーに出席したのがきっかけですよね。商品フィード管理ツールの話を聞きに行って、そこで自社ECサイトで規模が拡大している企業としてABCマートの名前が出ていて。ABCマートはecbeingを使っていると書いてあったんです。それを半年か1年後に、自社ECを内製化するためのEC構築システムの選定している最後の時点で(セミナーから半年~1年後)思い出したんですよね。

コマースリンクのセミナーに行かなかったら、つながらなかったです。たまたま資料整理していたら出てきた感じですが、「あっ!」という瞬間は今も覚えているんですよね、あの人がこう言ったイメージと一緒に。当時、雲の上のような存在のた奥谷孝司さんのセミナーを聞きに行って「スマホアプリが来る!」とかを勝手に学んでいましたね。

――川添さんは講演やセミナーなどでアウトプットされてるイメージが強いですが、インプットというか学びもやっぱり重要ですね。

川添:私、実は本が苦手なんですよ。自分で本を書いていてこんなこと言うのも変ですが、読むのが遅いんです。全部読みたくなってしまうタイプで。たまに体系的に学びつつ、多くは経験によって学ぶことのほうが多いですね。たとえばメルマガのタイトルも、ファーストビューで読めないと意味がないよね、だから10文字以内ですべてを完結させないとダメだ、みたいなことも業務をやりながら学んでいったんです。一方で、良いと聞いたものは取り入れて実践してみることもやってきました。隅付き括弧を使うといいとか、どんな言葉がいいとか。そういう他者からの学びと、自身の学びをを積み重ねていくことで、成功のポイントであったり、うまくいくための共通のルールだったりを導き出していくタイプですね。本や人から聞いたフレームワークも、自身の経験とハマった時には浸透率が高いんですよね

「Eコマース先生」として個人の活動を行い、ビジョナリーホールディングス(メガネスーパーのグループを運営する親会社)取締役CDO兼CIOを務める川添隆氏

とにかくやってみたほうがいい

学生時代にネットオークションでスニーカーを売買していた青年も、複数の会社で経験を積み、今では「Eコマース先生」を名乗るまでになりました。しかし、本人によると、キャリアアップを目的に仕事をしてきたわけではないようです。ECの仕事にどのような姿勢で臨むべきか、そして続けていくためのマインドセットなどについて、川添氏からのメッセージです。

――最後にこれからECの知見・ノウハウなどを習得しようと思っている人にメッセージをお願いします。

川添:私が今着ているTシャツは、自分メッセージを考えて友人にデザインしてもらったんです。「Do it right away」は訳すと「さっさとやろう!」っていう意味です

「Eコマース先生」として個人の活動を行い、ビジョナリーホールディングス(メガネスーパーのグループを運営する親会社)取締役CDO兼CIOを務める川添隆氏
「Do it right away」は、「さっさとやろう!」という意味

あれこれ人に聞いたり、Webを見て情報収集しても構わない。それはもちろん大事ですが、そこから得られる学びって実は本当に少ないやはり自分でやってみて肌身で感じる方が自分の血肉になると思っています。これ自体も先人が言っていることではありますが、だからこそ自身でやってみた方がいい、とにかく。「会社でSNSうまく使えてないんですよ」っていうんだったら、個人でやればいいじゃんって思うわけです。もちろん、企業と個人とでは振る舞いを変えることが大前提ですが、仕組みやその中でのルールは個人でやってもある程度理解できます。

会社って、どうしても承認プロセスを経る必要があるんですけど、自分たちで決められる領域や周辺だけ巻き込めば決められる領域もあるんですよね。もっと言うと、勝手にやるんですよ。勝手にやって結果が出てから「ほら結果出ましたよ」って言ったほうが、説得力もあるし話も早いんです。そのためには、社内のルール内で誰にでもわかる結果を先に出す。そしてお客さまにも仕事にも真剣に向き合いながら、頭の中で高速で様々なシミュレーションをしておくと良いと思います、妄想と紙一重ですが。

――事前に上司に対して「これをやろうと思っているんですが?」と相談しても、「どれだけ結果が出るんですか」などと言われちゃいますもんね。

川添:鶏と卵の関係っぽいですが、ビジネスは先に何かしらの結果が必要ではないでしょうか。施策としての信頼、個人としての信頼どちらでも良いですが、ある程度の確率がないと、新たなチャレンジに賭けられないですよね。だから小さくても失敗が許容できる範囲で実験しておくんですよ小さく実験したら大きくする方法を少しずつ試す(承認をもらうこともちろんベター)。あるいは、やっちゃダメなことを先に聞いておくのもポイントですかね。

私も最初からECに興味があったわけじゃなく、むしろファッションビジネスのほうに興味があったわけで。ただ、自分がお客さまを想定して送ったメルマガがどれだけ売り上げに貢献しているか、反応があるか、やっぱり気になるわけですよ。「そっか、さっきのこの1個のリンクが、何十万円の売り上げになるんだ。すげえな!だったらもっと工夫できないかな」みたいな発見と興味の連続が面白かった。そうやって面白がっていくことが結果的に自分のキャリアやノウハウの蓄積になっていったんですね

――興味を持って、面白がった結果、今のキャリアがたまたま付いてきたと?

川添:キャリアを積み上げていくためにこうしようというのは、あんまり考えてないんです。というか、まったく考えてないに近いですね。それよりも「どうすればこれは面白くなるかな」「結果出るかな」みたいなアプローチですね。もちろん、振り返るとしんどい時期やきつい出来事はたくさんありましたが、それでもビジネスは結果が出ないと面白くないですから。

「ECは楽しい仕事だ」って言いますけど、それは変える要素がたくさんあるから楽しいんだと捉えています。どこでサイトを構えるか、チームやサイトのデザイン・サービス、販売施策や商品価格、集客のやり方や文言、ささげ業務のやり方や画像加工、梱包のやり方などとにかくいろいろな工程がある。それら全てに変化を加えることができるんです。より良くするための組み合わせがたくさんあるって考えれば、いろいろな発見や学びもあるし仕事も面白くなるんじゃないかなと思います

たとえば私は発送業務をやっていても、どうすれば早く終わらせられるかとか、「なんでこの人めっちゃ買っているんだろう?」とか考えちゃうんですよ。発送に限らずどの業務であっても、売り上げや利益を最大化したい、お客様の期待に応えたいと考えて行動した中に失敗も成功も出てきます。

そうやってコツコツ取り組んでいけば、少しずつ結果も出て、ますます楽しくなっていくと思います。

「Eコマース先生」として個人の活動を行い、ビジョナリーホールディングス(メガネスーパーのグループを運営する親会社)取締役CDO兼CIOを務める川添隆氏
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