北の達人・木下社長が明かすWebマーケティング成功の秘訣「ファンダメンタルズ×テクニカル マーケティング」を解説
売れるネット広告社主宰の「D2Cの会」が2022年9月に開催したD2Cイベント「D2Cの会 フォーラム2022」。D2C業界のトップを走る大物経営者が多数登壇し、「商品開発」「ブランディング」「CRM」など、さまざまなテーマに沿ってリアルな成功事例を共有した。
キーノートセッションには、北の達人コーポレーションの木下勝寿社長が登壇。一代で東証プライム上場を実現した木下氏が実践する「ファンダメンタルズ × テクニカル マーケティング」の秘訣を明かした。今までにない成果を生み出す北の達人コーポレーションの「ファンダメンタルズ × テクニカル マーケティング」について、前後編に分けて紹介する。
従来のWebマーケティングから卒業しよう
Webマーケティングのクリエイティブ制作には、他社の当たっているクリエイティブから「勝ちパターン」を分析し、そのフォーマットに当てはめることで必勝クリエイティブを作るというアプローチがある。
ヒートマップやA/Bテストを通して、感覚ではなくデータを基にクリエイティブのチューニングをしていくことも一般的になっている。
また、広告運用においては、採算の合わないキャンペーンを止めることで全体採算を合わせたり、入札金額、予算上限などを調整したりするやり方もある。
もちろんこうしたアプローチも重要だが、他社クリエイティブを参考にして「勝ちクリエイティブ」を導き出すアプローチは、他社のヒットクリエイティブありきで、“モノマネ”の域を出ない。他社のモノマネをしている限り、本家を超える大ヒットを産み出すことは難しいのである。
また、ヒートマップやA/Bテストによるチューニングは元クリエイティブの1.2倍~1.5倍程度にとどまってしまうため、元クリエイティブのクオリティにヒットが左右されてしまう。
さらに、採算が合わないキャンペーンを止めると採算性は高まるものの、売り上げがシュリンクしてしまうという問題がある。
こうしたWebマーケティングの現状に対し、木下氏は次のように話している。
こんなチマチマしたことに一喜一憂するステージのマーケティングは卒業しましょう。データを駆使したWebマーケティングをやっていると最先端を走っている気になるかもしれませんが、こういった仕事はすぐにAI(人工知能)に取って替わられます。これからは、世の中に価値を生み出す“本物の”Webマーケティングをやっていきましょう。
「ファンダメンタルズマーケティング」とは?
では、“本物の”Webマーケティングとは何なのだろうか?
それが、「ファンダメンタルズマーケティング」と「テクニカルマーケティング」と掛け合わせたマーケティングだという。
他社クリエイティブ分析による勝ちパターンの構築、ヒートマップやA/BテストはWebマーケティングの下流工程の一部である「テクニカルマーケティング」にあたる。
テクニカルマーケティングは、うまくいっているものの効率化であって、うまくいっているものを生み出すプロセスではない。(木下氏)
一方、「うまくいっているもの」を生み出せるのが、上流工程を担う「ファンダメンタルズマーケティング」である。この「テクニカルマーケティング」と「ファンダメンタルズマーケティング」を掛け合わせることによって、今までにない成果を生み出すことができるという。
「ファンダメンタルズマーケティング」と「テクニカルマーケティング」には、次のような違いがある。
- ファンダメンタルズマーケティング:商品そのものやユーザーのペルソナ、インサイトを分析してコミュニケーションを設計する
- テクニカルマーケティング:クリック率、遷移率、購入率、キーワードなどの数値分析できるフィードバックデータから顧客とのコミュニケーションを設計する
「テクニカルマーケティング」を極めればそれなりの成果は出るが、爆発力には欠けてしまう。大ヒットを生み出すためには「ファンダメンタルズマーケティング」が不可欠なのである。
ポイントは「ファンダメンタルズ」と「テクニカル」を行き来すること
Webマーケティングの全体像から見ると、「ファンダメンタルズマーケティング」の領域は、商品、競合、ユーザーから仮説、戦略を立てる工程にあたる。
Webマーケティングの全体像を細分化すると、次のようなプロセスとなる。
- 情報収集(3C分析)から仮説を立てる
- コンセプトワーク(誰に何を伝えるか、どんなターゲットユーザーに対してどんなUSPを伝えるかを設計する)
- Web用のクリエイティブ制作
- 広告運用
- フィードバックに基づいたクリエイティブのチューニング・再出稿
「ファンダメンタルズマーケティング」はこのプロセス全体を貫く概念だが、広告出稿して得られたフィードバックデータをもとにクリエイティブをチューニングして再出稿するプロセスは「テクニカルマーケティング」の領域となる。
チューニングを繰り返していくと、ある段階でクリエイティブが疲弊(ひへい)するが、その段階になると「ファンダメンタルズマーケティング」領域に戻る必要がある。
競合環境が変わっていたり、ユーザーのトレンドが変わっていたりする場合もあるため、再度競合やユーザーを再度見直し、コンセプトワークをやり直すべきだという。
広告表現を考える前に「誰に」「何を」を明確にする
「誰に」「何を」「どのように」伝えるかが、すべてのマーケティングにおけるコミュニケーション設計の基礎となる。
「誰に」⇒「何を」⇒「どのように」と順番に段階を踏んでいくのが大切で、いきなり広告の表現方法を考えてはいけない。まずは、「誰(どんな人)」に伝えるのかを考える必要がある。
自動車の広告を例に考えてみよう。
自動車を買うときは「ビジュアル面を重視する人」「加速力を重視する人」「値段を重視する人」「居住性を重視する人」「燃費を重視する人」などさまざまだ。人によって重視するポイントが異なるため、どんな人をターゲットにするのかが大事になってくる。
フェラーリを売るときに、「値段を重視する人」をターゲットに設定することは恐らくないだろう。
「自動車の広告表現の当たりパターンはこれですよ」と言う人もいるが、メーカーや車種によって特徴は大きく異なる。だからこそ、まずは「誰(どんな人)」をターゲットにするのかを設定する必要があるのだ。
ターゲットが違えば、当然訴求する内容も変わる。たとえば、ビジュアルを重視する人に向けた広告は、ビジュアルの良さが伝わる写真とコピーにする必要がある。
ターゲットごとに適した表現方法が大きく変わってくるため、ターゲットと訴求がちぐはぐだと、まったく刺さらない広告になってしまう。(木下氏)
ターゲットに刺さる広告を作るためには、いきなり表現方法を考えるのではなく、先に「誰に」「何を」を確定させることが重要だ。それがないままA/Bテストをやってしまうと、どの要素が良かったのかわからなくなり、収拾がつかなくなってしまう。
体系的に自社商品のUSPを見つける手順は?
「誰に」「何を」を設定する際は、どのようなことを意識すればいいのだろうか。「ファンダメンタルズマーケディング」では、次のような流れで体系的にUSP(商品やサービスが持っている独自の強み)を見つけていく。
「商品」×「ユーザー」
「誰に」「何を」を設定する際のポイントが、「商品」と「ユーザー」を掛け合わせたところで設定することである。「どんなユーザーに、その商品のどのような便益をアピールするか」を決定する。
商品の便益はターゲット層によって変わってくる。先ほどの自動車の例でいえば、ビジュアル面を重視する人には「色が美しい」こと、加速性を重視する人には「加速力がある」ことが便益になる。
「ユーザー」×「競合」
「商品」×「ユーザー」で終わるのではなく、ユーザーを取り巻く競合状態、つまりは「ユーザー」×「競合」の状況を意識することが大切だ。ユーザータイプの数だけ、別々の競合が存在する。
競合をピックアップする際は「プロダクト競合」と「メソッド競合」に分類する。自動車の場合、「プロダクト競合」は他社の自動車、「メソッド競合」やタクシーやレンタカーとなる。「競合」というとプロダクト競合をイメージしがちだが、実際にはメソッド競合も多いことに注意が必要だ。
競合を考える際は、メインの競合がプロダクト競合とメソッド競合のどちらなのか、あるいは両方なのか、それとも存在しないのかを考え、それぞれの競合をピックアップしていこう。
「商品」×「競合」
最後に、自社商品と競合商品の特徴を比較し、競合商品にはなくて自社商品にあるもの、もしくは自社商品のほうが優れている点を判断し、独自性を見つけていく。例えば、値段を気にする人に「今ならローンでお安く買えますよ」と訴求しても、他社の方が安ければUSPにはならない。
この「商品」×「競合」分析で、自社商品に独自性があると判断したものがUSPとなる。USPが複数ある場合は、ユーザーの数が多い方、つまり市場が大きい方を選べばいい。
後編ではファンダメンタルズマーケティングを可能にする「4段階セールスコピー」、正しいA/Bテストのあり方、「売上最小化、利益最大化の法則」など、具体的な「ファンダメンタルズ×テクニカル マーケティング」のノウハウを紹介する。
次回の「D2Cの会 フォーラム」は、2024年6月13日の開催を予定している。