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花王はヘアケア商品「GUHL LABORATORY(グール ラボラトリー)」発売時に、楽天、Facebookと「購買データ」を活用した販売を展開、ターゲットやクリエイティブを絞り込んだマーケティング施策を行ったところ、対象グループの購入転換率が、それ以外のグループと比較して約2倍になった。責任者が明かす施策の概要と効果とは?

ブランドのステージによって異なるECチャネルで展開

3社が関わった販売戦略について話したのは、EC担当者を経て、現在はデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進する「DX戦略推進センター」で部長を務める生井秀一氏。

生井氏によると、花王は子供用のオムツからシニア向け商品まで、取り扱いカテゴリー・ブランドが多岐にわたることから、「ブランドのステージによって展開チャネルを変える」をモットーにEC事業を展開しているという。たとえばブランド認知が高い商品は大手モールで、新しく世に出していくブランドは自社サイトからの発信でといった方法だ。

リアル店舗とEC、マーケットシェアのギャップを埋める挑戦

2018年に新商品のヘアケア商品「GUHL LABORATORY(グール ラボラトリー)」を発売した際、「シャンプーEC市場の獲得」(生井氏)に向けて、楽天、Facebookと共同でマーケティング施策を展開した。

背景にあるのは、ECを起点とする新興D2Cブランドの台頭と、「マーケットシェア」に対する危機感だ。

伝統的なブランドとEC起点のブランドの間で、真逆なことが起きている。伝統的なブランドが堅実的に成長しているのに対し、EC起点のブランドは指数関数的な成長を遂げている。それぞれの成長速度が(まるで)違う。(生井氏)

花王の生井秀一氏(DX戦略推進センター 部長)
花王の生井秀一氏(DX戦略推進センター 部長)(画像:Comexposium Japan提供)

もう1つの課題、「マーケットシェア」について生井氏は次のように話す。

国内のシャンプーのEC化率は約20%と言われている。花王の場合、マス市場ではマーケットシェアで上位に奮闘しているが、ECではマス市場と比較してシェアギャップがある。シャンプーカテゴリーのEC市場をどうやって獲得するかチャレンジしたかった。(生井氏)

こうした状況下、「髪悩みで選べる5つの植物美容ヘアケア」をうたったノンシリコン処方のヘアケアブランド「GUHL LABORATORY(グール ラボラトリー)」を発売。「今後事業拡大のカギを握るのは“データ”」(生井氏)という考えから、外部のプラットフォームが所有する「購買データ」を販売戦略に生かすことにした。

「GUHL LABORATORY」のサイトトップページ
「GUHL LABORATORY」のサイトトップページ(画像:サイトよりキャプチャ)

ターゲットを定義。機械学習を活用し、広告配信ユーザーを特定

まず花王が楽天と行ったのは、「楽天市場」のユーザーに「潜在的な顧客層」がどの程度いるのか把握し、ピンポイントに広告配信すること。従来のように広告を一斉配信するのではなく、潜在層を特定することで、「集中的にコミュニケーションを図る」(生井氏)狙いだ。

そこで、楽天が保有する購買行動をベースにした会員のビッグデータから、購入ターゲット層を特定。その際、花王がターゲットとして定義したのは、「自然ライフ志向層」と「ナチュラルファッション層」の2パターンだ。

花王によるそれぞれの定義付けは、以下の通り。

自然ライフ志向層

  • 既婚・子持ちが多く、家族の健康のために「ナチュラル」を取り入れているなど

ナチュラルファッション層

  • 独身の割合が高めで、可処分所得が高く、自己投資にかける割合も多い など

そして、ターゲットを抽出するための定義(世帯年収、ヘアケアにいくら投資しているかなど)を重ね合わせた。

その結果、対象ユーザーとして特定されたのは「自然ライフ志向層」が約2,000人、「ナチュラルファッション層」が約1万4,000人。

さらにそこから、広告配信ターゲットを拡張するため「Rakuten AIris」(機械学習により消費行動を理解するAIエージェント)を活用。さらなる潜在層を抽出し、「自然ライフ志向層」に該当するであろう約70万人、「ナチュラルファッション層」対象となり得る約1,106万人を特定した。

「Rakuten AIris」のイメージ図
「Rakuten AIris」のイメージ図

イノベーター理論の掛け合わせで、精度向上

花王と楽天の挑戦はそこでは終わらず、さらに「イノベーター理論」を掛け合わせることで、より精度を高めようと試みた。

ターゲットとして抽出された「楽天市場」ユーザーの過去3年間の購買行動を分析。花王以外の製品も含め、発売日に近い時期に新商品を購入したユーザーを、「新しいモノが好きなイノベーター層」と定義した

その結果、「GUHL LABORATORY」の発売後(導入期)は、「イノベーター層」(2.5%)を優先度の高いターゲットとして広告配信することを決定。「アーリーアダプター層」(13.5%)はその次のフェースである拡大期に配信し、その下の「アーリーマジョリティー層」(34%)が増えてきた段階で、一般消費者向けのコミュニケーションを強化するなど、ターゲットを細分化することで効率的なアプローチを展開した。

ターゲット別にクリエイティブを作成し配信

Facebookと共同で行ったのは、ターゲット別に異なるクリエイティブを用いた配信検証。「SNSでクリックされやすい広告クリエイティブとは?」「一番訴求したい“商品の機能価値”を、"機能重視のユーザー"に届けるためには、どんなクリエイティブが良いのか?」「動画広告の尺は?」などだ。

機能性を重視した「GUHL LABORATORY」のコンセプト
機能性を重視した「GUHL LABORATORY」のコンセプト(画像:サイトよりキャプチャ)

これらの検証を行うため異なるクリエイティブを用意し、一斉配信とターゲットセグメント(機能重視のユーザー、香りを楽しみたいユーザーなど)による広告配信を展開。すると、ターゲットセグメントの売り上げは一斉配信と比べて、倍近くになるという結果が出た

クリエイティブは、ターゲット別に静止画と動画を数パターン用意。それぞれ「GUHL LABORATORY」には髪質別に5種類選べることを訴求した内容だったが、静止画は「ほとんどクリックされなかった」(生井氏)。一方、動画は総体的に反応が良く、「全体の平均CTRが0.62%となった」(同)

「GUHL LABORATORY」の動画広告(動画:花王提供)

「楽天市場」内でも同様に、複数のクリエイティブを用いてターゲット別に配信。検証を行ったところ、「自然ライフ層」の購入転換率が9.6%だったのに対し、「イノベーター層」の購入転換率は17.5%と2倍近い差が出た。分析の結果、「イノベーター層」など広告配信の優先順位が高いと判断した層は、それ以外の層と比較すると概ね購入転換率が高かったことから、「ターゲット設定はあながち間違っていない、という検証結果が得られた」(生井氏)と言う。

「自前主義の限界」に、花王が出した答え

生井氏は、今後も他社と協業しながらさまざまな展開を進めていく考えだ。

自前主義は限界に来ている。共創パートナーと力を合わせ、いかに今までできなかったことに取り組んでいくか。異業種と組むことで、新しい価値を提供する。それが、今花王のDX推進においてできることだと考えている(生井氏)

「COMMERCE SUMMIT 2020」の会場
「COMMERCE SUMMIT 2020」の会場。すべての参加者がマスク着用、登壇者はフェイスシールドを着用するなど、しっかり感染対策が取られた中でのリアルイベントとなった

※本稿は、2020年11月18~19日に実施された小売・流通事業者向けカンファレンス「COMMERCE SUMMIT 2020(主催:Comexposium Japan)」内の講演、「コロナで生じた変化と取り組み」の一部を記事化したものです。

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公文 紫都

ネットショップ担当者フォーラム編集部

公文 紫都(Shizu Kumon)

通販・EC業界専門紙記者、ITベンチャー勤務を経て2012年に独立。8年間フリーでライターをした後、2020年4月からネットショップ担当者フォーラム編集部に在籍。4年間NYで暮らしていた経験を生かし、海外の展示会取材なども積極的に行っている。猫派。@shidu

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