「隠れ機会損失」を解消して、売上アップを実現。CVRが変わる決済とEC・実店舗連携を事例とともに紹介
ECサイトには人が訪れているのに売り上げが向上しない──。そんな時には、「隠れ機会損失」が発生している可能性があるという。CVR、売上向上を妨げる要因になる「隠れ機会損失」を改善するにはどうすればいいのか?
後払い決済サービスを手がけるネットプロテクションズで国内EC向け決済領域の責任者を務める光安紀臣氏と、各種ECの立ち上げに携わり、「Shopify」アプリを提供する企業アライアンス「App Unity」を主催するフィードフォースの水野正和氏が対談。
それぞれの立場で得た経験や事例を紹介しながら、「決済時」およびECと実店舗の間における「隠れ機会損失」の改善を図り、ECの売り上げをアップさせるための秘訣について解説する。
見落としがちな決済機能の不備がカゴ落ちの原因に?
機会損失の原因を探る上で、ネットプロテクションズの光安氏が掲げるのは2つの「75%」という数字だ。これは「希望する決済手段がない場合、カゴ落ちする」「ECサイトでクレジットカードを使わなかった経験がある」というユーザーの割合だという。
ECサイトの改善が施されるのは、入店ページからカートに入れるまでがほとんど。昨今は「商品を探す検索精度を高める」「困ったことをチャットボットでサポートする」というような、接客を快適にすることを目的としたものがトレンドとなっている。しかし、スポットライトの当たりにくい決済部分に問題があり、それがカゴ落ちの原因になっていることは多い。(光安氏)
水野氏はかつてレシピ動画「クラシル」のコマース事業を立ち上げた際、決済方法を追加する度にコンバージョン率が改善していった経験を紹介。「クレジットカードだけで十分と思っていたが、商品到着と同時に支払う代引き、到着後に支払う後払いなど、支払い方法を加えると売り上げも伸びていった。その積み重ねで想像以上に売り上げは向上する」と語る。
多くの決済手段を取りそろえ、多様なユーザーの多様なニーズに応えることが、売上アップに直結する確率はかなり高い。ただ、当然ながら、それぞれの決済手段でメリットやデメリットも異なり、配慮すべき点もある。光安氏は、代表的な決済手段である「クレジットカード」「前払い」「代引き」のデメリットについて次のように整理した。
- クレジットカード……ほとんどの人がクレジットカードを使っているが、最初の取引でカード番号などの情報を入力することにハードルを感じる人は少なくない。引き落とし日までに口座への入金が必要なことに煩わしさを感じる人もいる
- 代引き……コロナ禍で急速に利用者が増えたが、現金の受け渡しには接触が必要。ユーザーにとっては現金を用意しておく手間が生じ、EC事業者にとっては受け取り拒否のリスクも大きい
- 前払い……商品購入後2、3日以内に支払う必要があり、支払い忘れなどにより自動的にキャンセルとなる可能性がある
こうした課題を解決するために有効な決済方法が後払いだ。その名の通り、商品を受け取ってから後で払うため、購入者は安心して決済できるのが大きなメリット。つまり、後払い決済を決済方法に追加することで、前述した3つの決済方法のデメリットをすべて解消できるというわけだ。
後払い決済の安心感と手軽さで、決済時の「隠れ機会損失」を解消する
ネットプロテクションズでは後払いサービス「NP後払い」を長年にわたって提供し、翌月まとめて支払いができる後払い決済サービス「atone(アトネ)」をローンチしている。「atone」は後払い決済サービスでは唯一、購入金額の0.5%分のポイント「NPポイント」を付与しており、商品交換や懸賞応募、「atone」での買い物時の値引きに使用することが可能。また、これまで後払い決済サービスの導入が難しかった電子コミックなどの商品にも対応している。
この「atone」の導入事例として、光安氏は台湾のコスメ系ECのカゴ落ち改善を紹介。購入手続きの決済のタイミングで離脱していた割合を60%とすると、後払い決済を導入したことで20ポイントが改善され、売り上げも2.1倍に向上したという。
クレジットカードを使いたくないという層のニーズに合わせて後払い決済を導入したことで、売り上げが大きく改善した。ユーザー層の購入手段を意識し、決済手段を広げることでインパクトを生み出せる可能性がある。(光安氏)
水野氏も、「以前、ある化粧品の購入者にヒアリングしたところ、夫と同じクレジットカードは、自分が何を買ったか見られるのが嫌で使わないということだった。家族カードも同様であり、自分だけの決済手段で買い物をしたいというニーズは結構多いのではないか」と補足する。
「atone」の使い方は至ってシンプルだ。ECサイトの決済方法で「atone」を選択し、商品を受け取ってからはがき、電子バーコードで送られてくる請求書を確認してコンビニのレジや口座振替で支払いを済ませるというものだ。
決済額に応じて付与されるポイントは加盟店のどこでも使えるため、加盟店で買い物をして得たポイントを別の店舗で使うという買い回りが積極的に行なわれ、ポイントを使うことが買い物のきっかけになっていることも多いという。
「atone」ユーザーの75%が女性
店舗側にとって気になるのは「与信」だ。特に高額商品については気になるところだろう。「atone」は、基本的に電話番号とパスワードだけで瞬時にリアルタイム与信を行う。「NP後払い」で蓄積した信用情報などを活用して独自に与信審査、店舗にとって安心なだけでなく、ユーザーを待たせることもない。
「atone」ユーザーは75%が女性で、特に20代〜30代が多い。7割がクレジットカードを持っているにも関わらず、後払いを選択している。先にクレジットカードの心理的なハードルについて触れたが、それがデータに表れていると言えるだろう。
加えて、ネットプロテクションズでは集客フェーズの支援も行う。「atone」を利用する600万人以上の会員基盤を活用し、「atone」ユーザー向けのショッピング情報を集めたポータルサイト「atone shops」に導入ショップを掲載し、ショップへの送客を図るというもの。「atone」加盟店は無料で掲載でき、「atone」会員に対してプッシュで情報提供を行う。今後はセグメント配信やレコメンドなどの機能も充実させていく予定だ。
ECと実店舗で分断された「会員登録」「ポイント付与」がネックに
多くの人がコロナ禍で、オンラインでの購入習慣が根付いたと言われている一方で、5類認定以降は消費者が実店舗に戻ってきていると実感する事業者も多いだろう。消費者はECと実店舗を自由に選択しているが、水野氏によれば企業側は必ずしも対応できていないという。
実店舗とECの連携ができていないことで顧客体験の低下につながっている。たとえば会員情報が共有されていないために、再登録やID・パスワードの複数管理が必要になり、ユーザーの手間を増やしている。当然ポイントも共通ではないため、実店舗のポイントがECで使えないということも少なくない。ユーザーはどのチャネルでも自由に自分のアカウントで自分のポイントを使いたいはず。シームレスな顧客体験はもはや不可欠になっている。(水野氏)
解決策として最も重要なのが店頭とECの顧客情報の統合だ。つまり、実店舗とECがそれぞれ持っている顧客情報を1つの共通データベースに統合することが必要となる。
図の通り、データベースの統合が実現すれば、「①ポイントの共通化」によってECと実店舗のどちらでもポイントを使うことができるため、買い回りによるリピート購入が上がり、LTVの向上も期待できる。また「②カスタマイズされたCRM施策」が行えるようになることで、顧客により良い購買体験を提供できるようになる。
水野氏は自身の体験として、あるサイトから子どもの成長に合わせて「サイズアップ」を促す通知が来たことを紹介。「身長120cm向けの洋服がそろそろ合わなくなることを想定して130cmのラインアップを知らせてきた。思わず買ってしまいそうになるほど感動した」と語る。そうした細やかなCRMもECとオフラインの両方で情報を共有するからこそ実施できるというわけだ。
そして、水野氏は「③ファーストパーティデータの蓄積・活用」について触れ、「これまでGoogleやMetaへの広告出稿に使用していたサードパーティクッキーが2024年から使えなくなる。広告はもちろん、マーケティングや商品開発にも、自分たちで取得したデータ、いわゆるファーストパーティデータを蓄積して活用することが求められる。これを怠ればマーケティングコストも膨大になるため、そのためにもデータの統合が必須」と語る。
Shopifyアプリの活用でコストを掛けずにEC&実店舗のデータを統合
しかし、データ統合を行うことがゴールではない。その上でCX(顧客体験)を向上させることが何より重要だと水野氏は語る。それでは具体的に、ECと実店舗のデータを統合することで、どのようなCX向上がかなうのか。水野氏は自身が手掛けた事例について紹介した。
チョコレートショップ「Minimal - Bean to Bar Chocolate -(ミニマル)」では、レシートに印字されたQRコードで、会計後に会員登録やポイントの付与、購買データのひも付けなどができるようになっている。ユーザーは会計時に慌てて会員証を探さなくても良いのだ。
チーズタルトなどのスイーツ事業を展開する「BAKE」でも、店頭のQRコードから簡単に会員登録できる。もともと実店舗を中心に展開していたが、コロナ禍でECを開始し、会員情報が分断されてしまった。そこで、店頭でQRコードを読み込むと自動的にLINEにログインし、簡単に会員登録ができる仕組みを導入。購入履歴データやポイント付与などもシームレスにできるようになった。
両社ともECを「Shopify」で運営しており、クラウドポスレジである「スマレジ」とフィードフォースが開発したShopifyアプリ「Omni Hub(オムニハブ)」で実店舗とECの顧客基盤の連携を実現している。また、フィードフォースのグループ会社であるソーシャルPLUSが開発した「CRM PLUS on LINE」を活用し、「Shopify」の顧客IDとLINE IDの連携も実現させている。
こうした仕組みをアプリのインストールのみで実現できるのが「Shopify」の魅力。アプリケーション側の開発が不要なので、大きなコストをかけずにスピーディに実現できる。(水野氏)
さらなるEC支援事業を推進
また水野氏は「実店舗とECだけでなく、複数のブランドECを持つ事業者から、ID基盤について相談されることが多い」という。その課題解決のためにフィードフォースが開発したのが、シングルサインオンソリューション「App Unity Xross ID」だ。
ブランド共通IDにすることで、複数のECでシングルサインオンができるようになり、ブランドをまたいだマーケティング活動が可能になる。これも「Shopify」のカスタムアプリとしてインストールするだけで搭載できるため、コストも時間も最小限にできるのが強みだ。
会員基盤の統合は大きな課題であり、ソリューションはあっても高価であることが多い。そこで、もっと簡便に、安価にライトに使えるものを開発中だと水野氏は語る。「Shopify」上にCDP(カスタマーデータプラットフォーム)を構築し、IDP(IDプラットフォーム)およびDCR(データクリーンルーム)と連携させたソリューションとして提供されるという。
あらゆるチャネルのデータを統合することが重要であり、そうした世界観を「Shopify」で実現するためのソリューション開発を進めていく。(水野氏)