渡辺 淳子[執筆] 8:00
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「Ron Herman(ロンハーマン)」「Afternoon Tea(アフタヌーンティー)」など、多くのライフスタイルブランドを展開するサザビーリーグは、社内のDX推進室が顧客データを活用し、各ブランドの個性を最大限に生かす仕組みを構築している。

そうした活用に至るまでの環境をどのように整備したのか? サザビーリーグの加藤瑛文氏と、データ活用支援を行ったUNCOVER TRUTHの小畑陽一氏が、CDP(カスタマーデータプラットフォーム)の環境整備を進めるためのプロセスなどを解説した。

UNCOVER TRUTH 取締役COO 小畑陽一氏と、サザビーリーグ DX推進室 CRM・EC支援課 課長 加藤瑛文氏

サザビーリーグは、衣・食・住それぞれのブランドの個性の集まり

1972年創業のサザビーリーグは、現在衣食住にまたがる40を超えるブランドを展開。売上構成比は衣料がほぼ半分、飲食が20%、服飾雑貨が15%、生活雑貨が15%。連結売上高は約1004億円(2024年3月期)。

サザビーリーグ公式サイト
サザビーリーグ公式サイト(https://www.sazaby-league.co.jp/

サザビーリーグには、加藤氏が所属するDX推進室の前身の組織としてWeb戦略部があり、かつてはモール型のオンラインストア「サザビーリーグオンラインストア」を運営していた。各ブランドでEC事業を行うためのノウハウがなかったため、1つのモールという形でECを運営し、そこで各ブランドを展開した。しかし、このモールは閉じることになる。ブランドごとにめざしているターゲットが異なり、ブランドを横断したシナジーを生み出すことが難しかったからだ。

ブランドをまたいだ買い物体験をしていただくことが、モールのなかでめざしていくべき方向だったが、各ブランドの世界観がかなり違うため、そのような体験が生まれにくかった。(加藤氏)

サザビーリーグ DX推進室 CRM・EC支援課 課長 加藤瑛文氏
サザビーリーグ DX推進室 CRM・EC支援課 課長 加藤瑛文氏

逆に言うと、1つの傘に入れないほど個性的なブランドの集まりであることが、サザビーリーグらしさになる。そこで、ブランドそれぞれの個性を最大化しつつ、共通化できる部分は最適化してDX化を進めることになった。

表側のお客さまに触れるところはブランドごとで行っていく。ただし、サザビーリーグのシナジーを生かしていくことを考えた際、データ活用などデジタルマーケティングのノウハウは共有して活用する方が、サザビーリーグ全体の利益に寄与すると思った。(加藤氏)

各ブランドの個性を最大化させる支援組織をゼロから作る

加藤氏が所属するDX推進室は、グループ横断でデジタルマーケティングを支援、共通化できるシステムをグループに提供する組織。CRM(顧客関係管理)分析領域、EC・広告運用の領域、SNSマーケの3領域に分かれて各ブランドを支援している。

そんなDX推進室に寄り添い、顧客データ活用の基盤作りを支援したのがUNCOVER TRUTHの小畑氏だ。以下は、小畑氏が各ブランドとDX推進室の立ち位置をイメージして描いた図になる。

サザビーリーグにおけるDX推進室の役割

DX推進室の役割は、各ブランドの個性を支える土台となること。加藤氏は「各ブランドが考えている戦略や戦術の支援が我々の役割」と語る。具体的にはCRM、EC、広告、SNSについて、各ブランドの活用を支援する。

やはり一番実施したかったのはCRMの分析。そのためのデータ基盤を作りたかった。それともう1つ欲しかったのはMA(マーケティングオートメーション)ツール。導入しているブランドが複数あるので、そこに対してデータを送ることができるようにしていきたかった。(加藤氏)

その実現のために、具体的にどのようなシステムを構築したのだろうか? 以下はUNCOVER TRUTHと構築したシステムの図だ。

DX推進室のシステム概略図

もともとCRMの基盤がまったくない状態だったため、まずは基盤の構築からスタートした。ブランドによって異なっていた顧客管理システムから情報システム部門がデータを取り出し、統合したデータベースを構築。DX推進室では、その統合データベースのデータを活用したCRMデータ基盤作りに取り組んだ。

現在は社内のいくつかのブランドのデータを集めて共通の基盤を作り、そのデータを抽出して、ブランドごとに個別に分析する。つまり、上図の左側のデータソースがブランドごとに構築されていることになり、サザビーリーグ社内の作業だけでデータ活用が運用されているのだ。

はじめにデータ収集と統合ができる基盤となるデータベースを作り、MAやBI(ビジネスインテリジェンス)ツールに書き出すところまでの開発を支援した。その後、2つのブランドでのCRM分析について、DX推進室の皆さんに手法をレクチャーさせていただいた。現在は基盤データの構築からCRM分析のレポート作成・分析まで、社内で運用できるようになっている。(小畑氏)

UNCOVER TRUTH 取締役COO 小畑陽一氏
UNCOVER TRUTH 取締役COO 小畑陽一氏

サザビーリーグにおける各種ツールの運用事例を紹介

ここからはサザビーリーグが各種ツールをどのように活用しているのか具体的に見ていく。

MAツール

MAツール導入後は、「施策数が伸ばせない」「どのような施策を実施していいのかわからない」という状態に陥りがちになる。そこでカスタマージャーニーマップを作成し、各段階で施策が行えているところ、行えていないところを整理。その空白地帯でどのような施策を行うかをブランド担当者と定例会議で話し合っている。こうすることで、MAツールの施策として何を実施していくかが明確になり、PDCAを早く回していけるようになったという。

KPIツリー

売り上げからブレイクダウンし、どういうKPIを追いかけていくべきかをブランドごとのKPIツリーで示す。CRM軸で細かく分解し、そのKPIごとに〇と×の印をつけていく。

当初、UNCOVER TRUTHも支援しながら作ったKPIのツリーマップを、サザビーリーグさんが社内でどんどん進化させていった。一番わかりやすいのは、KPIの結果によってどのような施策を行うかをひも付けている点。各ブランドの担当者との合意形成も取りやすいし、どこが課題で、どこが注力ポイントなのかといったことをプライオリティも含めて共有しやすい。(小畑氏)

たとえば、買上日数が減り転換率もマイナスになっていたら、買上回数を増やすための取り組みを進めるというように、次の打ち手がわかるようになっている。さらに、店舗ごとに重要度の高いKPIの評価一覧も作成。課題が見えてきたら、DX推進室から該当店舗に課題を伝えるといった支援も行う。

BIツールで分析結果を可視化

BIツールは、「Tableau(タブロー)」や「Power BI」を使用。「Tableau」で約25枚のレポートを作成しており、これらはブランド共通で見ることができる。たとえば、下の図の左側にあるCRM分析や年度間の継続利用を分析したレポートだ。

BIツールで可視化したレポート

図の右側が「Power BI」中心に作ったレポートで、ブランドごとにどのような分析をしたいのか、ニーズに合わせて作成している。

たとえば、長年続いているブランドなのか新規ブランドなのか、新規顧客が多いかどうかといった傾向によって、分析したいポイントは変わってくる。共通軸は持ちながらも、RFM(Recency:最終購入日、Frequency:購入頻度、Monetary:購入金額)の考え方そのものがブランドによって異なるので、ブランドごとのレポートが必要になるのだ。

CRM×月次・週次推移レポート

あるブランドでは、CRM軸を月次、週次実績で分析を行っている。客数や売り上げなど、いわゆるよくあるKPIの実績グラフはもちろん、それらに対してフィルタをかけ、CRM軸でブレイクダウンしたデータも見られるようにしている。たとえば、店舗ごとはもちろん、部署ごとやシーズンごと、または新規顧客なのか既存顧客なのかで絞って前年と比較することもできる

会員ランク別分析

会員プログラムを導入しているブランドには、会員ランクごとの行動を分析した会員ランク別分析を提供している。

各ランクのお客さまがどのくらいいて、そのお客さまが今年どれくらい戻ってきてくださったのかといった情報を見ている。これを月ごとに見ていって、最終的に年度末の3月までにどのくらい取れているのかを追いかけられるものを作っている。(加藤氏)

購入頻度別商品分析

購入頻度別商品分析は、セレクト業態の事業のために作成しているレポートだ。通常の商品分析に、ある顧客が何回目で購入に至っているのかを含めて分析している。初回で購入されている商品なのか、2回目で購入されている商品なのかを可視化することで、初回の顧客に強い商品、リピーターに強い商品をブレイクダウンしているのだ。

これは商品部のスタッフにも活用してもらえるように意識して作成している。自分たちが仕入れた商品がどういう動きだったのかを見て、次に生かせるよう使ってもらえたら良いと思っている。(加藤氏)

顧客カルテ

購入額が高い顧客を多数抱えるブランドのためのレポートが、個別の顧客を分析した「顧客カルテ」だ。たとえば、ある顧客はこのタイミングで店舗に来訪している、ということがわかれば、その手前でのアプローチを考えることができる。

◇◇◇

このように、サザビーリーグではUNCOVER TRUTHの支援を受けてCRMデータ活用の基盤を作り、DX推進室を中心に内製でPDCAを回せる体制を作ってきた。加藤氏は「今後、顧客カルテにWebのアクセスデータを加えたり、天候の情報や統計データを組み合わせたデータ分析を行ったりしていきたい」と展望を語った。

サザビーリーグによるUNCOVER TRUTHへの支援の要望から成果まで

サザビーリーグのDX推進室は2025年4月、事業会社として分社化される。新設される「株式会社サザビーリーグ アウルスケープ」では、今回紹介した取り組みをはじめ、現在グループ内で展開しているCRM、EC、SNSに係る支援業務の実績やノウハウを活かし、今後は外部の企業にも同様の業務支援の提供を予定しているという。

小売・ファッションの現場で培ったノウハウを活かしたデジタルマーケティング領域の支援を社内外に展開する、サザビーリーグ アウルスケープの今後の取り組みにも期待したい。

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