ローソンとSGホールディングスがタッグを組む理由。事業会社を共同設立するその狙いとは
業務提携を発表したローソンと佐川急便を傘下に持つSGホールディングス。6月中旬に新会社「SGローソン」を設立し、ローソン店舗を拠点にコンビニの商品と佐川の宅配便を一緒に配送したり、御用聞きサービスを提供したりする(参照記事)。ただ、新会社では配達スタッフを十分に確保することの難しさがあるなど、大きな問題を抱えていることも確か。コンビニ受け取りのほか、コンビニ店舗からの配達までを手がけるというローソンの狙いは? SGホールディングスは今回の提携でどんなメリットが得られるか――。
「いいお客さま」が集まり、再配達率を下げられるコンビニ受け取り
提携第1段階として2015年7月から開始する、ローソン店頭での佐川急便荷物の受け取りサービスは、両社のメリットがはっきりしている。
近年、夫婦共働き家庭や単身者の増加で、平日昼間に荷物を受け取ることが難しい家庭が増えている。そのため、再配達となる荷物が増加し、通販市場拡大による荷物の増加と合わせ、現場では配達員の供給が間に合わないほど荷物が増えている状況となっている。
そのため、配送各社ではコンビニや営業所受け取りのサービスを拡充し、再配達の件数を減らす取り組みを進めている。佐川急便は全国のローソンで荷物を受け取れるサービスを開始し、再配達率の低下を期待する。
ローソンは、消費者の来店回数の増加というメリットがある。記者会見でローソンの玉塚元一社長は、次のように店頭への送客メリットを強調している。
(2008年から店頭受け取りサービスを展開している)アマゾンで注文した商品を受け取るお客さまの5~6割は、受け取りと同時に何か商品を買っている。大変いいお客さまだ。
「スマートキッチン」の失敗から自社配送を模索
今回のローソンとSGホールディングスの提携は、コンビニ受け取りにとどまらず、共同事業会社「SGローソン」の設立という一歩踏み込んだ協業策だ。共同事業会社では、半径500メートル圏内へのコンビニ店頭からの宅配サービスも実施する。このように一歩踏み込んだ協業策を採用した理由は何なのか。
ローソンでは、2013年1月にヤフーと合弁会社を設立し、定期宅配サービス「スマートキッチン」を開始した。「スマートキッチン」は10分で本格的な料理ができる「10分本格手料理キット」を販売するほか、2万3000点という大型スーパー並みの品ぞろえを用意し、必要な商品を毎週、指定の時間帯に届けるというサービスを展開。夕食食材宅配サービスを展開するヨシケイのサービスと、毎週必要な食材を届ける日生協の宅配サービスをハイブリットとしたようなサービスとしていた。
ヤフーと提携し、「Yahoo! JAPAN」のトップページから集客を行う計画を掲げ、開始2年で黒字化。3年後に売上高1000億円をめざすとしていた。
しかし、開始から1年となる2014年2月期の業績は、売上高が7億2600万円、営業損失は14億8900万円、経常損失は14億9900万円を計上。目標達成はほぼ難しい状況となっていた。こうした状況を受け、2014年7月1日付でスマートキッチンの食材宅配サービス事業を会社分割でローソンが承継。2014年7月から「ローソンフレッシュ」としてサービス提供している。
この大失敗について、ローソン内でも原因究明が行われた。そこで浮かび上がってきたのが自社便の存在だった。
「スマートキッチン」の競合となる日生協、らでぃっしゅぼーや、大地を守る会などでは、自社便を展開しており、自社のドライバーが商品を届けるだけでなく、御用聞きのようにコミュニケーションを通じて、お薦め商品を提案したり、必要な商品を届けることで、ユーザーの継続購入につなげるとともに、ユーザー1人あたりの売上高を増やし、事業を拡大させている。
一方、「スマートキッチン」では、配送はすべて配送会社に委託しているため、顧客との密度の濃いコミュニケーションをとることはできなかった。そのため、毎週継続的に商品を購入するようなユーザーを獲得することができず、思うような売り上げ拡大のカーブを描くことができなかった。
こうした経験を受け、ローソンは自社で配送できる仕組みを構築することを検討してきた。とはいえ、配送サービスのノウハウがない中、独自で新たに配送サービスを始めることは難しく、配送会社との提携を模索してきた。記者会見でSGホールディングスの町田公志社長は、「2014年11月ころにローソンから話があり、一緒にやってみたらもう少し何かできると思った」と説明し、ローソン側から打診だったことを明らかにしている。
2015年6月からサービス提供を始める「SGローソン」では、宅配サービスのほか、御用聞きサービスも行う。商品を届けた際に、足りないものがないか聞いたり、夕食食材を提案していくという。
また、クリーニングの受け渡しなどライフサポートサービスも手がけることで、ユーザーとの密接な関係作りを進める。つまり、「スマートキッチン」で不足していたコミュニケーションを全面的に打ち出す考えだ。
もちろん、「ラストワンマイル」を握る効果はこれだけではないため、将来的にはさまざまなことが考えられるが、まずは「ローソンフレッシュ」を拡大し、「スマートキッチン」で達成できなかった売上高1000億円をめざすことが念頭にあると考えられる。
配送を委託することで、人員確保とともにコストカットに
一方、佐川急便の狙いはコストダウンにある。佐川急便では小型荷物の宅配送は、外部の配送会社や個人ドライバーに委託しているケースが多い。ただ、通販荷物や不在率の増加により、委託コストが上昇。配達ドライバーの確保も困難になっており、こうした課題の解消が必要となっている。
新たに設立するSGローソンに、佐川急便の宅配荷物の一部を委託することで、配送ドライバーの確保の問題はクリアできる。また、SGローソンは半径500メートルにエリアを限ることで、荷物の配送に台車を使用。配送スタッフはシニア層や主婦を採用していくとしている。ドライバーに比べ安価に雇える配送スタッフを使うことで、委託コスト面でも大きなメリットがあると試算している。