メルマガ1通あたりの獲得売上が50倍に! cottaの事例で学ぶ離脱フォローメールの効果
商品を買わずに離脱してしまったユーザーの4人に1人が再訪問して購入してくれる。しかも細かい設定なく自動で行えるとしたら……そんな夢のようなマーケティング施策が近年のテクノロジーの進化により可能になっている。 今回は、お菓子やパン作りの材料販売サイト「cotta」を運営する株式会社TUKURUが2015年に新たに取り組み、目覚ましい成果を上げた離脱ユーザー向けのメールマーケティングの事例を紹介する。
法人客から個人客へ─ cottaの大きな方針転換
ターゲットとするユーザーが変われば販売戦略も変わる。これは、どの業界でも当たり前の話。
TUKURUの会社設立以前から「cotta」(コッタ)を運営していた親会社の株式会社タイセイは、2008年のサイトリニューアルを境にメインのターゲット顧客を「中小菓子店の職人」から「菓子を趣味で作る個人」へ変更した。
法人とは異なり、個人の顧客に継続的に購入してもらうには、“菓子・パンを作りたい欲求”の喚起が必要だ。
そこで「cotta」では購買ニーズを引き出すための「コンテンツマーケティング」と、ユーザーと密接なコミュニケーションを取る「個客マーケティング」の2つの施策に注力することになった。
「個客マーケティング」につきまとう壁
コンテンツマーケティングのひとつとして2014年にソーシャル・キュレーション・メディア「me likey」(ミーライキー)をオープンし、28万人の通販会員の“菓子・パンを作りたい欲求”を高める施策を開始した。
地道な取材やカリスマブロガーなどによる掲載レシピ数の増加、ユーザー同士の接点増加により、順調にアクセス数や売上は拡大した。
一方で、もうひとつの注力施策である「個客マーケティング」は多くの課題を残したままだった。
特に、会員との大切な接点のひとつであるメールマーケティングにおいては、菓子とパン、初級者と上級者など、それぞれ求められる商品や情報が異なるにも関わらず、同じ商品やコンテンツを一括配信しているのみで、「個客マーケティング」とは程遠い状態。
手作業でメールを出し分けるにしても「リソースの限界」がつきまとい、メール配信を自動化するマーケティングオートメーションシステムを構築するにしても「コストの限界」に直面し、有効な解決策を見出せないでいたという。
「カゴ落ちメール」と「ブラウザ落ちメール」とは?
「cotta」が取り組んだのは、以下の2つのみ。
① カゴ落ちメール:商品をカートに入れたが購入しなかったユーザーに、カートに入れた商品を配信
② ブラウザ落ちメール:商品を閲覧したが購入しなかったユーザーに、閲覧した商品を配信
それぞれ、離脱してから30分後に1通目、そのうちコンバージョンしなかったユーザーに絞り、さらに23時間後に2通目のメールを配信する。 必要なシステム連携を行えば管理画面でメール配信の設定が可能で、それ以降は完全に自動的にメールが配信される仕組みになっている。
さて、この取り組みがどれだけの成果を生んだのかが、今回の事例紹介のハイライトなのだが、メルマガを含む全メール配信数のうち、「カゴ落ちメール」の配信はわずか0.3%だったにも関わらず、売上はメール経由売上全体のなんと13.8%を占める結果となった。この事実は、今回の取り組みのインパクトを説明するに余りある数字だ。
これだけの成果数値を目の当たりにすると、「さぞかしリッチなメールを」と思われるかもしれないが、実際に配信したのは「カートに入れた商品」「閲覧した商品」「検討中商品と関連商品」のみで、メールタイトルや特典も以下の通り、通常のメルマガと大きく変わらない。
メールタイトル例 | コンテンツ | 特典 | |
---|---|---|---|
カゴ落ち (30分後) | 【ご確認ください】カートに入ったままのアイテムがあります | かご投入商品 | なし |
カゴ落ち (23時間後) | 【¥6,000以上で送料無料】カートに入ったままの商品があります | かご投入商品 | 送料無料 |
ブラウザ落ち (30分後) | 【cotta】〇〇様が最近cottaでご覧になった商品 | 直帰閲覧商品 | なし |
ブラウザ落ち (23時間後) | 【cotta】〇〇様へおすすめアイテムをご紹介します | 検討中商品と関連商品 | なし |
実施するにあたり、社内からは「購入しなかったユーザーに対し、サイト離脱30分後にメールを配信してユーザーに嫌がれないか?」と不安視する声もあったそうだが、配信停止率は通常のメルマガと比較しても変わらず、開封率45%、コンバージョン率25%と驚くべき成果を出した。
また、未購入のユーザーに2度もメールを配信することについても懐疑的な意見があったというが、1通目より効果は数ポイント下がるものの、実際には開封率、購入率ともに十分な効果を発揮するに至った。一連のメールマーケティングを通じて、メール1通あたりの売上は実に通常のメルマガの50倍にもなったという。
開封率 | クリック率 | コンバージョン率 | |
---|---|---|---|
カゴ落ち (30分後) | 43%〜 47% | 18%〜 22% | 24%〜 30% |
カゴ落ち (23時間後) | 38%〜 40% | 14%〜 18% | 18%〜 21% |
ブラウザ落ち (30分後) | 43%〜 44% | 6%〜 13% | 9%〜 13% |
ブラウザ落ち (23時間後) | 40%〜 41% | 9%〜 10% | 6%〜 7% |
通常のメルマガ | 10%〜 25% | 2%〜 10% | 2%〜 10% |
今回紹介した「cotta」の“カゴ落ちメール”の取り組みは、「離脱ユーザーを収益に転換する」マーケティング手法として海外のECではすでに一般的な施策になっている。
一方で、日本国内ではシステム的な制約や導入コストの観点でいくつかの課題があり、まだ一般的な普及には至っていない。果たして、”カゴ落ちメール”の施策は、日本国内のECにおいても有効なマーケティング手法となるのだろうか。
本連載では、国内外の普及状況や具体的な取り組み内容、導入にあたって障壁になるポイントなどを紹介しながら、ECサイトの「新しい“接客”のカタチ」に迫っていく。