井口 隆智 2016/3/3 8:00

前回、製菓・製パンの材料販売サイト「cotta」がサイト離脱者に対して行った「カゴ落ちメール」の事例を紹介した。カゴ落ちメール1通あたりの獲得売上が、通常のメルマガの50倍にもなったという効果に、驚いた方は多かったのではないだろうか。

何かしらの理由で離脱した、“購入意欲が高かったかもしれない”ユーザーにタイムリーにアプローチできる「カゴ落ちメール」の有効性は、すでに証明されていると言っても過言ではないが、一般的な手法として日本国内のEC事業者が取り組んでいるかというと、まだまだそういう段階ではない。

そこで今回は、日本国内における「カゴ落ちメール」の普及状況や取組み内容、「カゴ落ちメール」が日本よりも先行して普及している欧米の状況について、ナビプラスが独自に行った調査を紹介する。

日本国内での導入は「これから」

ナビプラスが国内EC売上トップ500サイトを独自に調査した結果、カゴ落ちメールを配信していたECサイトは、2016年1月で50サイト(10%)だった。普及率としてはまだ少ないものの、この半年間で約1.5倍に伸びている

かご落ちメールの例
国内EC売上トップ500サイトのカゴ落ちメール導入状況(N=500/ナビプラス2016年調べ)

また50サイトを業種別にすると、普及率が高い順にアパレルが12サイトと24%を占め、続いて総合通販(8サイト/16%)、化粧品・健康食品(7サイト/14%)、家電・PC(6サイト/12%)、スポーツ用品(5サイト/10%)となった。

かご落ちメールの例
業種別・カゴ落ちメール配信状況(N=500/ナビプラス2016年調べ)

まだまだ導入は始まったばかりではあるが、確実に導入率は増えており、数年以内には一般的な取組みとして普及していくことが予想される。

調査方法

  • 調査対象:2015年夏通販EC売上上位500サイト(参照:日本ネット経済新聞社公表)
  • 調査期間:①2015年8月1日〜8月31日、②2015年12月24日~2016年1月20日
  • 調査手法:該当500サイトにてメール会員登録を行った上でサイトに訪問。買い物カゴに商品を投入後にサイトを離脱後、届いたメールの「件名」「内容」「配信タイミング」などから、どのような目的のメールをどのような意図を持って配信しているかを独自調査。

配信タイミングの理想と現実

昨今のスマートフォンの普及やインターネットサービスの利便性向上などにより、ユーザーの購入体験は劇的に変化している。

その結果、移動中にスマートフォンで商品をピックアップしてから帰宅後PCで購入したり、購入する際は複数のサイトを短時間で横断し、情報収集と検討を重ねて最安値商品を購入したりといった流れが一般的になっている。

そのため、サイトを訪れるユーザーはちょっとしたことで離脱してしまう上に、早急にフォローしないと別のサイトで購入してしまう可能性が高くなる。EC事業者はうかうかしていられないのだ。離脱する訪問者の袖をつかむくらいのことをしないと売上を逃してしまう

実際に、カゴ落ちメールの配信タイミングとコンバージョン率については、カート離脱後1時間以内に配信した場合の購入率が14%と最も高く、1日以内が6%、1日後が5%というデータがある(SeeWhy社2013年調べ)。購入意欲が高いうちに自社サイトで購入させないと、コンバージョン率が下がるのは一目瞭然だ。

では、国内でカゴ落ちメールを導入しているECサイトは、離脱後どれくらいの時間が経過してからメールを配信しているのだろうか。

1通目のリターゲティングメールの配信タイミング
配信タイミングシェア
1時間以内16.1%
1日以内9.7%
1日後50.0%
1週間以内19.4%
1週間後3.2%
2週間後1.6%

現状では、最も開封率が高まるとされる1時間以内が16.1%にとどまるのに対して、1日経ってからの配信が50%、1日以上経過してからの配信の合計は75.8%と、タイムリーに送られていないケースが多い状況だ。

カゴ落ちから1週間経過したタイミングでは、もう別のサイトで購入してしまっているかもしれない。まだだとしても、そのサイトの記憶や魅力が薄れ、せっかくのメールは未読のまま終わることも十分に考えられる。

ではなぜ、1日以上経過してから配信するサイトが多いのだろうか。そこには、マーケティング担当者をいつも悩ませる“システム”という現実の壁が存在する。

リターゲティングメールを実装するには、

  1. 配信対象となるカゴ落ちユーザーの抽出
  2. メールの配信

という大きく2つの工程があり、多くの場合は両者のシステムがバラバラで連携されていないため、タイムリーに配信するにはハードルが高いのだ。

現在はカゴ落ちメールの普及が始まった段階。効果の高い配信タイミングやコンテンツについてはこれから各社が試行錯誤を重ねるだろう。今回ご紹介した調査レポートの詳しい内容はこちらでも紹介しているの、でぜひチェックしていただきたい。

欧米では、すでに複数のサービスが普及している

欧米では、すでに10社を超える「カゴ落ちメール」の専門業者が登場し、積極的にECシステムやメールシステム向けのプラグイン開発を進めている。2014年には、ERP世界最大手のSAPが「カゴ落ちメール」最大手のSeewhyを傘下に収めるなど、メガプレイヤーも動きをみせており、「カゴ落ちメール」マーケットに対する期待も高まりつつある。

また、北米トップ1,000サイトのうち35.2%が導入しているといった調査レポート※1や、主要小売業者100社における導入サイト数が2013年から2015年の2年で3倍、全体の41%が導入しているというレポートも出ている※2

グローバルブランドでは、Ralph LaurenやPaul Smith、OAKLEY、Forever21、SONYといったサイトがカゴ落ちメールを配信しており、欧米のECサイトにおいてカゴ落ちメールはなくてはならない機能のひとつになりつつあると言える。

※1 マーケティングオートメーションのベンダーLISTRAK社、2015年調べ
※2 Bronto社とDemandware社、2015年調べ

◇◇◇

今回はカゴ落ちメールの国内外の普及状況についてお話ししたが、次回は、そもそもカゴ落ちメールが期待されるようになった背景にどんなものがあったのか、現在における「メールマーケティングの取組みと課題」について迫ってみたい。

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