瀧川 正実 2014/6/13 11:00

「ダイレクトマーケティングのシリコンバレー」とも呼ばれる九州地方。ジャパネットたかたを初め、九州地方には売上高100億円を超す通販・EC企業は数多く存在する。その九州・福岡で開かれた日本ダイレクトマーケティング学会主催の「第13回全国研究発表会」で、パネルディスカッションに、キューサイ、新日本製薬、やずやという九州地域を代表する通販企業のトップが集結。「日本の通販をリードする 九州通販の未来」をテーマに、今後の戦略などさまざまな内容について3社長が思いを語り合った。大手通販3社の社長が語るダイレクトマーケティングの可能性とは――。

 

キューサイ、新日本製薬、やずやのトップ3社長が対談した

写真左からモデレーターを務めた日本ダイレクトマーケティング学会理事の柿生正之氏、キューサイの藤野孝社長、新日本製薬の後藤孝洋社長、やずやの矢頭徹社長

対談したのは、キューサイの藤野孝社長、新日本製薬の後藤孝洋社長、やずやの矢頭徹社長の3人。モデレーターは日本ダイレクトマーケティング学会理事の柿生正之氏が務めた。対談内容を抜粋して紹介する。

九州地域には多くの有力通販・EC企業が存在する

九州地域には通販・EC売上高100億円以上の企業が多数存在する

お客様の支持、企業としての存在価値がなければ存続はできない

――自社の通販が成功したと思うポイントは何か。

矢頭:良かったと思うことは、知らなかったこと。通信販売においてテレビを(販促として)使わないという時代の時、ある勉強会でテレビを使うとこれくらいの費用がかかると教えてもらった。母親にテレビにはこの程度の費用がかかると伝えたところ、経常利益の3分2を使ってテレビを使った。たまたまそれが当たったのだが、オーナーに近い立場だったので、「やれ」といったら「Go」という経営判断が下された。また、香酢という商品があり、コールセンターもあった。いろんな要素が重なった結果だったと思う。また好奇心の高い社員の集まりということも要因。当社は50代以上のお客様が多く、ネットはダメと言われていた。そんなことはないと思い、ネットをゴリゴリ使った。ある時は日本で一番、ヤフーに(広告が)出ていた時期もあり、ネットの比率は高くなった。好奇心と知らなかったことが、プラスになったと思う。

後藤:CPO(1件の受注を獲得するために使用した広告宣伝費)が300円など、今では経験することのできないダイレクトマーケティングの時代を経験したことによって、思い切って一歩を踏み込むことができたのが1つの要因ではないかなと思う。定期購入という仕組みも18年やってきているのも要因の1つ。商品を作るのは社員。いろいろな発想から生まれた商品がお客様に受け入れられた結果だと思っている。

藤野:最初はネットワーク販売のような形式で冷凍の青汁をお届けし、徐々に高収益を上げていった。その時から通販を始めて20年弱。お客様に効果を実感できない商品を売らないという方針で、事業を進めてきた。取引企業との取り組みを大事にしているも成功要因の1つ。企業は自分たちで完結するものではなく、取引先にどのように協力してもらえるかが重要だと思っている

キューサイ・藤野社長

キューサイ・藤野孝社長

――3社とも三様のパターンで通販ビジネスを展開している。今後の目指す方向性と企業像を教えて欲しい。

矢頭:社員研修のときにも伝えているが、目指す方向性は「純粋に人生を楽しんで下さい」ということ。お金があって幸せなのか?その答えは難しい。お客様が喜んでくれることなどを、みんなでワーワーやることを目指している。ダイレクトマーケティングって面白いもので、努力すれば報われるビジネスモデル。考えれば、それが何なのかということを数字が表れしてくれる。ビジネスとして横展開したとき、考える人がそれを面白いと思えるかどうか。理想は一緒に議論できる楽しいメンバーを増やしていきたい。面白い社員を増やすことが次のステップになると思っている。

後藤売上高や新しいことに目が向きがちだが、当社は100年続く企業になるということを目指している。今働いている社員がおばあちゃんになり、孫が就活する時、おばあちゃんが「新日本製薬で働いてみれば」と言ってくれるような会社になりたい。「身内を働かせたくない」と思われるような会社にはしたくない。今後については、ダイレクトマーケティングと医療をつなげるような仕組み作りをやっていきたいと思っている。薬の飲み忘れなど、重症化を未然に防ぐことは可能なのではないか。そうした分野をダイレクトマーケティングでカヴァーすることによって、今問題となっている医療費の高騰も抑制できるような仕組みができるのではないか。それを夢見て取り組んでいる。

藤野:少しずつ成長し続けるということを目標にしている。100年続く会社になるということは、今の社員が定年になる時、「定年」という概念が消え、一生働かなければならない時代になっているかもしれない。会社が50年しか続かなければ、社員が失業してしまうこともある。そうならないためにも、しっかりやって欲しいという意味を込め、事業計画書の立案など、社員が自らの意思を持って事業に携わるようにしている。継続することは難しい。継続して利益を出し続けるためには、お客様の支持、つまり存在価値がなければ企業は存続できない。

新日本製薬の後藤孝洋社長

新日本製薬・後藤孝洋社長

――ネットの影響が大きくなり情報の取り方を変えた。その対応策は。

藤野:ネットに関しては遅れている。売り上げに占めるネットの割合は5%程度で、子会社の日本サプリメントは同15%程度。従前に言われていた「これからネット社会になる」という時代と比べ、今はスピードが圧倒的に違う。早くネットでの販売形態を確立していかなければならない。今心配していることは、ネットモールなどを含め価格の安定感がスーパーマーケットと変わらなくなってきていること。通販のようなクローズマーケットの良さは、価格決定権が販売側にあるということが最大のメリットだ。そのことを一番懸念している。

後藤:ネットは遅れを取っている。売り上げ構成比率で約7%。ネット化が進み、価格や商品をお届けする時期について、消費者有利の仕組みが日本社会を取り巻いていることに懸念を抱いている。必要なものはどこまでなのだろうか。現時点で利用できるものは、使える環境にあることが望ましいが、それ以上のことはあまり必要ないのではないか。また、お客様は「どこで買うか」よりも「どういう風に買うか」という意識になり、店舗とネットでの購入についてはシームレスな時代がやって来ている。私たちは店舗も構えているので、利用しやすいサービスを提供していかなければならない。

矢頭:僕らの世代がパソコンで商品を買うと考えると、今後、電話対応の割合は否応なく下がる。そのとき「電話対応がいいよね」ということがネットでどう生きていくんだろうか? CSRの考え方の概念が変わってしまうことが懸念される。そのため、数年前に意識を変えた。やずやがお酢の専門メーカーであることが、お客様にとってどれだけ嬉しいことなのか、「人生において何が必要とされ、何を求められているのか」ということを考えている。通信販売だけで購入できることは大事なのかもしれないが、ある一定程度、実際に手に商品を取ってみたいという人もいる。それをどのように想定するのかが経営陣の役割だ。きっかけは通販、店舗と購入チャネルがぐちゃぐちゃになっている。お客様が商品を購入し、それを通じてどのように変化し、どんな風になりたいのかという欲求は不変。企業はそれにどう対応していくのかということが大事だろう。

やずやの矢頭徹社長

やずや・矢頭徹社長

生き残るためにはこれまで以上に専門領域を極めていくことが重要

――九州は化粧品、健康食品を中心として通販が盛んな地域。九州で通販を展開していることのメリット、デメリットは。

矢頭:協力するところ、競争するところという意識が強い。通販システムはみんな一緒であってもお客様には関係ないので、みんなで同じシステムを使った方がお客様に還元できる。そうした情報交換はもっとやったほうがいいし、共有すべき。九州は元々そうした文化気質が強く、オーナー系の力が強い企業が多い。後藤さん、藤野さんはオーナーではないが、全権を持たせてもらい経営に携わっているのでオーナー系に近い。トップが「やる」といったらやる会社が多いのが九州通販で、東京の優秀なサラリーマンが集まった企業との考え方の違いがあるのではないか。

後藤:通信販売は本社を東京に置く必要がない。家賃や人件費、固定費や変動費でメリットがある。九州から商品を届けるコストなどは、今まで基礎を作ってきた歴史ある先輩たちの会社があるので十分活用できる。

藤野:九州は経営者同士の助け合いがあり、創業者の地域に対する貢献が強い。地の利としては優秀な人が多い、特に女性。気質として自立した方が多いので、お客さまのことを真剣に考える。人材に恵まれている地域だと思う。

――大手メーカーの参入など、競争が激化している。成熟化と踊り場、厳しさが増す中、どなんな戦略を立てていくのか。

後藤:最近の通販は、業種・業態を問わず様々なメディアを通じて日々ビジネスが展開されている。大手のあるメーカーでは、通販子会社の社長は左遷人事と言われたりし、通販にはこれまであまり力を入れてこなかった。しかし、最近では通販を1つの事業として確立することによって、本体の上層部に入った人もいる。信用力、技術力、資金力などを持つ大手と合間見えた時、何が私たちの強みとなるのだろうか。お金だけではなく、より専門的に、よりお客様のために何ができるかということを具体的に実現できるかどうかがポイントとなるだろう。取り扱っている商品が専門性を求められる分野であるため、そうした発想になるのだが、大手だから、大手ではないからということではない。私たちがこれから生き残っていくためには、今まで以上に専門的領域を極めていくこと。それに尽きるのではないか。

藤野:新規参入で成功できているのは、通販業界が成長期のとき。成長した企業は一気に売り上げを伸ばしてきた。しかし、これから10年は成熟期に入る。新規参入はこれからもあるだろうが、厳しい時代になる。成長・成熟期に入れば、淘汰が始まる。そこでどのようなポジションを取っていくかがこれからの課題だ。

矢頭:絶対負けてならないのは、お客様に対して幸せになってもらいたいということ。これが一番強い。その思いや考え方をどのように伝えていけばいいのか。それを伝えていく手法が変わった時、つまり変化に対応することが大事だ。九州の人はアレンジすることに長けている。例えば、お茶やラーメン。九州版にアレンジして販売している。そうした事例を見ても、いち早く変化に対応していくことが、生き残っていくためには大事だ。九州の人口は関東に比べて10分の1。しかし、通販の売上規模は近い数値で並んでいる。通販ビジネスはアイデア、先見性、戦略、想いで、都心の企業と戦える領域だ。「10年経っても九州の通販は変わっていていいよね」と言われたい。そのためにも、他の企業から「できない」と言われる領域まで持っていかなければならない。

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