元楽天幹部が始めたメディアECモール「kabukiペディア」。メディア型ECの新しい可能性を探る
元楽天の大城浩司氏が社長を務めるKABUKIは5月から、メディアECモール「kabukiペディア」の出店者募集を開始した(参考記事)。出店する店舗は、商品背景・ストーリーを伝える記事を執筆。SNSでその記事が拡散されたり、SEOからの流入が増えるといった集客促進が図れるサービスで、出店料は無料だ。とはいえ、コンテンツECはなかなか成功事例が少なく、ECサイトと連携したキュレーションサイトも中な成功事例は少ない。「kabukiペディア」は、どのように集客アップを図るのか、既存メディアとの違いは? 大城社長に話を聞いた。
商品の価値を記事で伝えることで、潜在的ニーズを取り込む
――メディアECモール「kabukiペディア」の特徴を教えてください。
2000年初頭はネット上で売っていない商品が多かったので、たくさんの商品をそろえれば売り上げを伸ばすことができていました。いまでは、多くのショップが生まれ、自社サイトも無料で開設できるようになり、ネット上ではたくさんの商品があふれています。その結果、消費者はほしい商品名を検索さえすれば、より安く買うことが可能になってしまいました。ほしい(顕在化した)商品を手にいれることは容易ですが、生活をもっと楽しく、そしてHappyにする商品、すなわち、潜在ニーズのある商品を手に入れるというところまでは至っていません。
「kabukiペディア」は関連情報の記事や製品に関する背景、作り手の思い、製品そのものの価値を、テキスト記事や動画、SNSなどのコンテンツでストーリーにして伝えます。消費者に楽しでもらいながら、最終的には集客につなげていく、ストーリーショッピングを標榜しています。
一般的なECサイトの場合、いかに買いやすくするかという利便性に力を入れているため、商品のストーリー性を際立たせる必要がありません。またイベント感を演出し、消費者を楽しませるためのページ構成にしていたとしても、売り手側の目線で作られているため、主観的な情報が並んでいるのが現状です。「kabukiペディア」は記事という形で消費者のニーズをふくらませたり、課題解決へ導くことを主眼に置いています。ストーリー性が高まり、消費者目線を取り入れながら客観的に商品を紹介しているため、多くの人に共感され、SNSなどでシェアしてもらえると考えています。
たとえば、これからの季節であれば「おすすめのキャンプ場」「おすすめの夏の遊び場」といった記事をUPし、「この記事を見ている人はこうした商品に興味があります」という形で商品を紹介していきます。顕在化していない潜在的ニーズを取り込むことができるサービスとなっています。これによりEC業界のさらなる活性化を図ることができればと考えています。
どんな効果が出ているかの成功事例を作る
――通販・EC企業でも、記事形式のコンテンツを増やすコンテンツマーケティングを始めるケースが増えていますが、まず記事を見てもらうという時点で苦労しています。どういった形で記事への集客を行っていくのでしょうか。
モール形式を採用し、多くのEC企業に参加してもらおうと考えています。1企業の情報だけだと、どんなに頑張っても記事量には限界があります。多くの店舗に集まってもらい、それぞれの企業が記事をUPすることで、多くの情報が集まる場となり、自然と記事を見るユーザーも増えてくると考えています。そのため、出店料を無料にして、今期中に1万店舗まで増やそうと思っています。
――ヤフーも2015年2月、店舗が作成したまとめ記事のキュレーションサービス「お買い物まとめ」を提供しています。ただ、成功事例はほとんど聞いたことがありません。「kabukiペディア」はどんなアクションを行い、成功に持っていきますか。
どんな効果が出るかわからないまま、ショップが運営側から「やってみて欲しい」と言われても、日々の業務で忙しいため、記事作成に本腰を入れられません。私が楽天で「あす楽」の担当になった時、まず、ショップと一緒になって「あす楽」に取り組み、「あす楽」をやるとコンバージョン率が上がるという数字を具体的に示すことができました。数字という成功事例が出ると、他のショップもやる気になります。運営側も自信を持って推奨することができます。
今回もクオリティショップとして数十社と現在成功事例を作る作業をしています。どんな記事を出せばどんな数字が出るのか、ということをしっかり伝えることで、ショップさんは記事を書くことに本腰になってくれると思っています。
――クオリティショップと成功事例を作るということですが、記事からECにつなげてくのはそれほど簡単なことではないのでは。
すでにICAという会社で「QuickMedia」というEC企業向けの自社メディア運営支援サービスを行っています。ローンチからわずか10か月で月間500万PVを稼ぐメディアを構築するノウハウを持っています。どんな内容の記事を書けばPVを稼ぐことができるか、どんな方法でメディアに集客させるかを理解しているため、クオリティショップでも成功事例を作れると確信しています。
将来的には越境ECやVRへの取り組みも
――「kabukiペディア」を閲覧するユーザー層はどんな人でしょうか。また、どんな記事を出していくのでしょうか。
ショッピングに興味のある全ユーザーです。記事はグルメ、ファッション、インテリア雑貨など。ストーリーを作りやすい商材なので、最初はこうしたジャンルに偏ると思いますが、店舗が増えれば全ジャンルに広がると思っています。
――出店料は無料ですが、「kabukiペディア」の収入源は。
PV数が増えれば、広告収入を得ることが可能です。加えて、「この記事を見たユーザーはこうした商品に興味を持っています」という形で商品ページに送客します。そこから実際に売れた場合に、それに応じた料金をいただくことになっています。
――将来的な展望は。
すでに、越境ECへの取り組みやVR(バーチャルリアリティ)を使ったショッピングなどのサービスも準備を進めています。しかしながら、海外の消費者に対し国内と同じサーチを活用した送客モデルには限界があります。まずは、国内でスペック検索に対応するのではなく、商品の作り手の思いと消費者のHappyを演出できるメディアECを大きな流れにできればと考えています。まずは、国内でストーリーショッピングを強みにする「kabukiペディア」を充実させていくことに、全精力を注ぎたいと思っています。