通販新聞 2016/6/22 7:00

「通販」が社会的認知を得て大手メーカーの参入が増える中、地方の発信力を武器に大手に挑む中小通販が増えている。地域に根差す通販企業にとって、“地方の旗”はブランド価値を醸成する上で強みになる。だしを中心とする「茅乃舎」ブランドの久原本家や、洋菓子中心の「ルタオ」ブランドを展開する寿スピリッツはその成功事例。これに追随する企業が増えている。通販市場の競争が激化する中、顧客からその実態が捉えにくい通販とリアルの融合に挑む企業は独自価値を築くことができるか。

「茅乃舎」「ルタオ」の成功に注目

20億円前後の売り上げだった当時、茅葺屋根の古民家を建てるのに数億円もの設備投資をした。誰があんなに田舎に来るのかという話だった。今思えば通販に持っていく一つのツールだったのではと感じる。

久原本家の「茅乃舎」ブランドをある通販関係者はこう評価する。

「茅乃舎」がだしの販売を始めたのは約10年前。福岡県糟屋郡に「レストラン茅乃舎」を展開。そこで扱うだしを全国の店舗と通販で売り、今では「売り上げの5割前後が通販では」(久原本家に近い関係者)と話すほどに成長している。

冬場の大根や、ニーズが下がる夏場にナスの煮びたしを使った広告のインパクトが強い。“茅乃舎だし2袋”など自社商品のリピートを意識した料理レシピ本など、CRMツールも工夫されている。「だしはリピート商材である点からももともと通販向き。けれどうまくいかない。地元に展開するレストランが生み出すブランドイメージで“通販だし市場”を築いた」と、注目する通販関係者が少なくない。

もう一つ、注目される企業が寿スピリッツグループのケイシイシイが展開する菓子ブランドの「ルタオ」だ。廃業寸前の道内の菓子工場を買収して98年に開業。小樽市を中心に道内にしか常設店を展開せず、通販や催事販売で全国に売る。「通販も焼菓子では面白くない。徹底した冷凍技術の研究でケーキを通販できるようにした点と優秀なパティシエの囲い込みがポイント」とみる通販関係者もいる。地方ならではの手法で通販とリアル店舗との融合に着目する企業が増えている。

なぜ、ルタオや茅乃舎は元気なのか? 地方の通販企業に学ぶ成長のヒント

通販企業の店舗展開相次ぐ

健康食品通販を手掛けるアイリンクスが目をつけたのは、JA糸島が運営する産直市場「伊都菜彩」で知名度が高まっている福岡県糸島市。久原本家が拠点を構える福岡県糟屋郡と市街を挟んでちょうど30、40分の距離にある。ここで展開する大正年間創業の福寿醤油を2014年末に買収。昨年4月、レストランやカフェ、無農薬野菜や調味料を販売する売店を併設する店舗「伊都安蔵里(いとあぐり)」をオープンした。

なぜ、ルタオや茅乃舎は元気なのか? 地方の通販企業に学ぶ成長のヒント アイリンクスは2014年末に地元の醤油屋を買収③
アイリンクスは2014年末に地元の醤油屋を買収

野菜の宅配・通販(8~14品、3000円~6500円のパック)も行うがまだ売り上げは年間数千万円規模。ただ、通販顧客への商品紹介を始めており、今後、アイリンクスが通販で培ったノウハウを活用していく。

なぜ、ルタオや茅乃舎は元気なのか? 地方の通販企業に学ぶ成長のヒント アイリンクスは2014年末に地元の醤油屋を買収④
店内では糸島産の野菜の販売も行う

同じく健食通販を行う愛しとーとも14年、岩本初恵社長の地元である佐賀県唐津市に約10億円をかけてバイキングレストランをオープン。7月5日に2周年を迎えるが、広告塔になる岩本社長のファンをはじめ、すでに来店者数はのべ20万人を突破している(今年5月末時点)。「社長抜きのオペレーションを予定していたが、会いにくる人が多く、テレビ出演や講演以外は土日もできる限りレストランに出ている。当初、想定していなかったが愛用者との交流の場になっている」(同社)という。

なぜ、ルタオや茅乃舎は元気なのか? 地方の通販企業に学ぶ成長のヒント 愛しとーとは佐賀県唐津市に約10億円をかけてバイキングレストランをオープン⑤
佐賀県唐津市にオープンしたバイキングレストラン

通販展開も進める。「レストランの食」シリーズとしてだしや万能つゆ、ドレッシングなどを展開。2月には人気の「もちもちパン」の専用通販サイトも立ち上げている。これら商品で百貨店での催事販売も行う。

なぜ、ルタオや茅乃舎は元気なのか? 地方の通販企業に学ぶ成長のヒント 愛しとーとは佐賀県唐津市に約10億円をかけてバイキングレストランをオープン②
バイキングレストラン「愛しとーと」は7月の2周年を前に、すでに来店者数がのべ20万人を突破した(2016年5月末時点)

都内に拠点を置く企業ではあるが、世田谷自然食品は14年末に立ち上げた新会社、吉祥寺スイーツで菓子販売を始めた。東京・武蔵野市の吉祥寺を拠点にバウムクーヘンの専門店「バウム吉祥寺」を出店。以降、昨年10月にはケーキなど生菓子、焼菓子の販売、カフェも併設する「パティスリー吉祥寺」も出店。通販も行っている。

「こだわり店舗」でブランディング

これら企業の狙いの一つは、通販のブランディングだろう。通販にマッチした“単品モデル”は鋭い切り口を生む。一方で単品依存は脆さもある。多くの企業が直面する課題が単品への集中で形成された「商品ブランド」から企業ブランドへの転換。その中で、「ブランディングの一つの手法として、通販とリアル店舗との融合が大事だと考えた」(アイリンクス)という。

ここ数年、健食市場は競争が激化。接点を持った顧客のLTVを意識する中、医薬品や食品など新たな領域に活路を見出す企業が増えた。

世田谷自然食品は、グルコサミン以降も青汁など複数の商材を育てるが、一方で食品通販も前期(15年6月期)に約15億円と拡大している。愛しとーとも食品通販を強化。14年8月に豆腐製造の五ヵ山豆腐(佐賀県神埼郡)の事業を継承したほか、水の販売事業を始めている。アイリンクスも今回の食品事業参入に「健食の表示規制があって機能が表現しづらい中、機能性表示食品やトクホ、医薬品など“機能”に寄せるのも一つの手法。一方で食もある。ただ、店舗がない中で“良い会社”をアピールしても伝わりづらい」と出店の理由を話す。

地域との連携事業を後押し

地域密着型の展開も事業展開を後押しする。愛しとーとは、岩本社長が地元である唐津市への貢献を目的に立地を検討。レストランは物流センター、健食の製造設備も併設し、すでに約100人の地元雇用を生んでいる。将来的に300人の雇用を目指す考え。開店時は佐賀県知事、唐津市長が駆けつけ、来店客の増加が地元活性化につながっていることから、旅行社も積極的にバスツアーを組むなどバックアップする。アイリンクスも「伊都安蔵里」で行うイベントに糸島市長が参加するなど、人口減に悩む糸島市との連携を強化していく。

先行する「茅乃舎」「ルタオ」モデルの好例のように、単品で成功をおさめた通販企業が店舗を持つこと自体それほど難しくはない。ただ、これら先行モデルの成功も商品や接客へのこだわりなど複合的な要素があってのもの。「ブランドイメージ」の醸成のみを目的にした店舗展開では厳しい競争を勝ち抜けない。通販とリアル店舗の融合に挑む企業の今後の行方が注目される。

「通販新聞」掲載のオリジナル版はこちら:
"地方"の発信力で大手に挑む、通販とリアル店舗の融合へ(2016/06/16)

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