内山 美枝子 2016/8/1 8:00
この記事は『スマホ白書 2016』(インプレスR&D 刊)の一部を特別に公開しているものです

動画広告とネイティブ広告が主流化し、ターゲット層への絞り込みもシビアに。今後はIoT、位置情報、ビッグデータなども広告手法に取り入れられていく方向。

菅原 健一(Supership株式会社 CMO)

動画広告の本格化

 一人暮らしの若年層はすでにテレビを持たず、スマートフォンで情報を得るようになっている。テレビドラマなどは、テレビというデバイスでは見ないが、Netflixや民放公式テレビポータルTVer(ティーバー)などのアプリを通してスマートフォンで視聴している。ニュースであればFacebookやTwitterなどで流れてくる情報にアクセスすることも可能であるし、ニュースに特化したスマートニュースなどのニュースアプリを1日に数回閲覧することで十分な量の情報を取得できる。

 たとえば、スマートニュースであれば、月間利用者477万人、利用者の月間総利用時間は1980万時間にも及ぶ(2016年3月時点、Nielsenによる)。企業はこのスマートニュースが保有する多くのユーザー閲覧時間の中に動画広告を挟み込むことで、情報を欲している生活者へ広告経由で情報を届けることが可能になった。

 昔に比べて、テレビ広告は特定の年代に偏って到達するようになった。言い換えると10〜20代へ広告を届けようとテレビ出稿を行ってもほとんどがそれ以外の年代、多くは40代以降へ到達する。テレビへの広告出稿金額を上げれば上げるほど、本来届ける必要がない年代へも広告が届いてしまい、ターゲットではない層への過剰な広告到達によって同じCMが何度も出てくるといったクレームへとつながるケースも出てきている。

 今後ますます企業の商品はターゲットが明確になり、届けたい生活者のデモグラフィック情報(年代・性別・居住地など)や興味情報(スポーツ・車・金融・美容など)の幅が狭くなり、より到達コストにシビアになっていくが、テレビへの広告出稿は、現状ではそのニーズに応じることができていない。海外ではプログラマティックテレビといってテレビの広告枠もユーザーに応じて出し分けるなどが可能となってきている。

 このような「10〜20代のテレビ離れ」「テレビへの広告出稿の年代別の偏り」といった背景から若年層、特に10〜20代への広告出稿はデジタルの動画広告への出稿へ転換しており市場ができあがりつつある。2015年頃までの多くの広告主がデジタルコンテンツなどのインストールや獲得を目的としていた状況から、徐々にナショナルクライアントのテレビ広告出稿の併用や代替という活用方法が加わっており、動画広告市場の成長が牽引されている。

 2015年まではPC向けが多いと予想されていた動画広告市場も2016年以降からスマートフォン上での動画広告がPCを超えると予想され、今後もそのままスマートフォンをメインに動画市場が伸びていくと予想されている(資料2-4-3)。

資料2-4-3 動画広告市場 (デバイス別)
出典:サイバーエージェント

今後の展望と課題

 このように生活者の多くの可処分時間をスマートフォンが占めるようになり、コンテンツもスマートフォンで見られるようになったため、広告においても「ネイティブ広告」と「動画」の二大成長分野ができた。今後はこの成長分野がスマートフォン広告を牽引するが、新たな課題や展望も出てきている。

情報の高速表示

 より多くの時間をスマートフォンで費やすようになった生活者が感じているストレスが情報取得までの通信時間である。物を買う時の消費税のように情報取得のための通信税のようなものが重くのしかかると、本来10分の隙間時間に10ページの記事が読めるところ8ページしか読めなくなる。

 媒体社はページや時間で広告収益を得ているため、この通信の問題は深刻である。現在多くの媒体社のコンテンツはFacebook、Google、スマートニュースなどのプラットフォーム経由で読まれており、プラットフォームから各媒体社へリンクされページが読み込まれると、この分の通信時間が多くの無駄を生んでしまう。

 そのため、プラットフォーム各社は媒体社の情報をキャッシュ(事前読込)して情報をプラットフォーム上ですぐに読める取り組みをしている。フェイスブックはInstant Articles、グーグルはAMP、スマートニュースはSmart Viewという名称でこのキャッシュ技術を搭載し、ユーザーの有限の可処分時間をより有効に体験してもらい、多くの媒体社のコンテンツを閲覧してもらえるよう取り組んでいる。

媒体社のマネタイズ支援

 スマートフォンとプラットフォームの進化によって、ユーザーの情報取得経路は驚くほど変わってきた。4マス広告と呼ばれるTV・雑誌・新聞・ラジオ広告に加えてインターネット広告を入れた中で大きく成長しているのはインターネット広告のみで、ほかは横ばいか縮小している。

 このようにユーザーはインターネット上で情報体験をするようになっているが、媒体社はまだインターネットビジネスへ転換を計れていない。そのため広告ビジネスがプラットフォーム主導になりつつあり、プラットフォーム側がどうやって広告主のマネタイズを提供または支援するかが重要な局面になっている。

IoT、位置情報、ビッグデータ

 今までは「人と人」がつながるソーシャルネットワークやコミュニケーションサービスがインターネットサービスの主流となっていたが、今後はIoTの躍進によって「モノと人」、「モノとモノ」がつながることで新しいサービスが生まれようとしている。たとえば冷蔵庫というモノにIoTが加わると、冷蔵庫がその中にどんな野菜があって、いつもある牛乳がないとわかると自動でネットスーパーへオーダーするようになると予想されている。

 このようにモノにインターネットがつながるIoTは、あらゆるモノをコミュニケーションの対象にしていくことが可能である。このような時代にはデータ量が従来の「人」関連だけではなく、「モノ」も加わるため、今まで以上に膨大となり、うまく分析すれば広告技術への応用が可能と期待されている。

 位置情報も同様に「人」や「モノ」の移動ログが蓄積されるため、広告への応用が期待されている。たとえば、特定の店舗の近くを歩いている時だけ広告にその店舗の割引情報と地図を表示したり、高速道路上に頻繁にいる人を車での移動を頻繁に行う人とみなしてカー用品の広告を出したりできる。このように生活者の移動経路やパターンから生活者の生活を想像できるため、広告で最適な商品カテゴリーやオファーを出すことが可能になるのである。

(Supership株式会社 CMO 菅原 健一)

この続きは『スマホ白書2016』

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